Splash
サブタイトル『Splash / 飛沫』
「こいつ……!」
「どうする、幽!?」
「いや、そこは硲に聞けよ。」
啓が冷静に言うも、硲の支持が少ないので気にかける者は出なかった。
「もう、やろう。」
「やる? 殺るってことか?」
「ああ。狩猟隊はもうここには帰ってこない。
あいつらも悟ったんだろ。『俺たちじゃあいつらには勝てない』って。
だから、化け物で俺たちを足止めさせようとした。……ってところか?」
「よーし、殺していいんだな?」
「クク、私もこいつのデータが取れればノーポロブレムです!」
「同じゾンビだけど、仕方ねぇよな。」
面倒なのは慣れてる。ここで始末しとけば、あいつらへのいい見せしめになるかもしれないし。
「ヴォオオオオオオオオオ!」
「突進来たぞぉぉぉ!」
愉快そうに喋っているのは九。
いままでの鬱憤が張らされるがごとく高揚しているかのようにも見える。
化け物は俺たちによけられ、途中で停止する。
「おおおおああああ!」
シュボッ
そういえば、藤島……炎が使える能力だったな。
ただ、あの時はそこまで炎の規模がおおきくなかった。
単に本気を出してなかっただけなのか。
「届いてくれよ!」
手をなぐようにして球を投げつける。
その球は見た目に反し、恐るべき速度で進む。
「速ッ!」
「へへ、上出来!」
ボンッ
「ヴヴ……!」
ダメージは薄いか……。
「嘘だろ……ほとんどダメージがねぇ!」
確か全員が完全に能力に目覚めてるわけじゃなかったはずだ。
俺もあの力はいつでも出せるわけじゃない……。
「藤島、炎で足止め頼む!」
「え? あ、ああ!」
藤島はそれを聞いたとたん、両手からも炎を出し、さらに自信の周りにも
小さな球体を作り出す!
「弾幕張れる程度にはやってやるぜ!」
「……あの能力、ちょっとほしいかも。」
「啓君、後になさい。あなたも良い能力は持っているはずでしょう?」
「……まぁな。後にするか! 『悪徳信者の創生律』!」
「では、私も。 ……代入!」
「うぉぉぉ!」
矛を片手に化け物へと突っ込む。
大きな怪物の瞳がこちらを向くが……
シュボッ ボボボボボボ
目をそらした隙に藤島が見計らってくれたのか。サンキュー!
人外相手じゃどこが急所かわからんな。
ま、とりあえずは顔だ!
矛を地面とは垂直に振り上げ、勢いよく叩きつけた!!
グジュッ 「ヴヴヴォ!」
グラッと化け物がバランスを崩す。顔を狙ったが、そこまで効果的だったのか?
「ひゃっほぅ! ボコ殴りできるのって気持ちいいな!」
……なるほど。九が好き勝手に足を攻撃していたからか。
おかげで、楽に崩せそうだ。
「幽にぃだけにいいとこ取らせるかよッ!」
「啓君、その力は?」
「えーっと、『具現技師』だよ、確か。
武器を自由に作って出し入れできる能力。」
「へぇ、便利ですねぇ。」
「一つしか使えねぇってのが面倒だけどな!」
啓も喋り終わると走り出した!
「……! ぶっ倒れねぇな。」
炎の球を連続的に放ち、弾幕を作っている藤島にもそろそろ疲労感が彼を襲った!
「ねぇ、満。大丈夫?」
「え、あ、大丈夫さ。まだ……まだ行ける!」
とは言ったものの、自分でもわかる。炎の精度が徐々に落ちてる。
射程距離、速度だけは未だに持続できているが、
命中精度はかなり落ちてる。幽たちにあたらないようにするのが精いっぱいだ……。
手数も減ってる。このままじゃ弾幕を突破され兼ねない!
頼む、幽! 全部お前にかかってるんだ!
「弥栄様。どういたしますか。」
「僕らも参戦するよ。美鈴、いいね?」
「はい。」
美鈴も化け物の元へと駆け出す!
「ハッ!」
足による連打。弾幕が続く限りで相手の行動を不能にし、後にとどめをさす。
これが一番安全な方法だ!
「うらぁぁ!」
スパッと切り裂くような音がした後、着地する。
「ヴォオオオオオオ!」
「へへ、効果覿面!」
啓もいれば心強い。短時間で終われそうだ。
「ま、幽にぃの出番もここまで。もう出る幕はないよ。」
「え、どうしてだ?」
「……俺たちも化け物引き連れてるからな。」
グショォォォ!
「ほれみろ!」
「な、あいつ、弥栄の!」
弥栄の連れ……なんて攻撃力だ。化け物の胴体を一瞬で……
皮膚を破裂させたかのような傷口が見て取れる。血がドボドボと垂れ落ち、
戦意喪失を促すであろう光景だ。
それでも彼女は血飛沫一つ受ける事はなかった。
攻撃の次にはすでに次の部位を狙い定めて、突きのモーションに移っている。
人間の業じゃ、不可能なことばかりだ。
「外破空掌だと?」
「フフ、美鈴にだけ許された能力だ。」
大門は弥栄と話をしている。
「君は参戦してなかったようだが……いいのかい?」
「俺の役目はすでに託してある。それに、美鈴がいるのだろう?」
「ま、いいか。とにかく、美鈴が使うソレは生身で受け切れるほど軽いものじゃないんだよ。
美鈴は能力の使い方がうまいからね。今に化け物がぶっ飛ぶさ。」
ドゴォ
「ほら、ね?」
「化け物が……吹っ飛んだ!?」
「すげぇ!」
「流石って感じかな。」
化け物が、建物に叩きつけられ、横たわっている。
「まだ、生きてますね。」
「殺した方がいい。」
「そうですね、しかし、任務はここで終了ですので、失礼。」
美鈴は主の元へと去って行った。
彼女にとって主とは何なのだろうな。
まぁ、いい。
「……?」
足元がふらつく。なんだ、この感覚は?
「う、おお、マジか……?」
「ん、幽にィ、どうした?」
「おい、幽……フラフラしてんぞ。お前何か食らったのか!?」
……口を動かすも、声が出ねぇ。
一体何が、どうしたってんだ!?
「ハァ、ハァ、ハァ」
「おい、幽! どうした!?」
「……治癒の能力は持ってないし! やべ、硲に連絡入れるか何かしねぇと!」
啓は硲に駆け寄り、手だてを打ちにいった。
「幽、しっかりしろ。とりあえず、何食らったのか言ってみ?」
「……何も、ない。」
「へ?」
「何も、喰らってねぇよ……。」
「無傷か、なら、疲労か? 肩貸すか?」
「…………」
「おいおい、こんなところで寝るな! 化け物ブッ倒したばっかだろ!
さっさと起き―――――」
その瞬間、幽の瞼は開かれた。しかし、内に宿されているものは先程とは違う。
「ゆ、幽?」
スッと立ち上がり、化け物の元へと歩み寄る。
矛を置いて化け物を見据える。
「ああ、辛いなら俺が殺っとくぞ?」
次の瞬間、
ブジャァァァァ!!
幽から突きが繰り出された。その拳は――――
「ゆ、幽? なにしたんだ!?」
常人には見えなかった。
次に、幽は顔に移動し、蹴りを入れた。
華麗に宙を舞う何か。
ゴト
「こ、これって……首!?」
幽は首をおもちゃのように見つめ続ける。ただし、通常のおもちゃとは違い、
まるで興味が削がれたような冷かな視線。
少しの間見つめると、元いた場所へと歩いて行った。
「硲、幽がなんかおかしい!」
「と、言いますと?」
「フラフラしてて危なっかしいんだよ。疲労に利く薬とかねぇの?」
「持参していませんよ。長旅とは思ってませんでしたし。」
「それでも! こんな夜中だからこそだろうが!」
「大丈夫ですよ、危機は去ったのですから。疲労なら休めば取れるでしょう?」
目立った傷がない以上、疲労としか見て考えられる点がない。
硲が化け物討伐の安全性を主張した以上、これより先の論は無意味だと
考えた啓は、興奮を抑えて口を閉ざした。
「任務完了です。弥栄様。」
「御苦労! じっくり休みなさい。」
「はい。」
「君には驚かされる。その若さでな……。」
「……言っておきますけど、僕は下っ端の位置づけでしたからね。
あなたも、そろそろあちらに戻られた方が都合がいいのでは?」
「そうだったな、じゃあな。」
大門は戻って行った。
「ハァ、ハァ、ぶっ飛ばすなんてな……。」
おかげで集中力が途切れて弾幕が一気に止まっちまった。
「凄い汗よ、ホントに大丈夫?」
「アハハ、さすがに疲れた。今日は休むことにするよ。」
「すぐに寝た方がいいわ。」
「ああ、そうするよ。」
「ゆ、幽……どうしちまったんだ?」
「…………。」
「お、おい! ちょっと!」
無言のまま歩く。
「ん、幽か? おーい、幽!」
「幽にィ!」
「フフ、幽君元気そう……じゃありませんか。なんですか、あの敵意満々の覇気は?」
「危険……。」
硲、美鈴ですらも気にかけさせるほどの敵意を幽は持ち合わせていた。
しかし、目的を失った幽は――――
「…………。」
ただ、黙っていた。うっすらと仲間だという事を自覚している。
「バカな、どうしてあの状態に?」
「し、しらねぇ。 聖奈には何もなかったのに……。」
「何かが幽君の力を誘発させたのかもしれません。」
「ま、敵意があっても行動に移らなきゃ問題ないか?」
「ですね、今日はもう休んでも良いでしょう。」
「んじゃ、俺はそうさせたもらう……か。」
結局のところ、幽は無言のままだった。夜中でも眠ることなく眼光を光らせていた。
「あなた、一体どういうつもりですか。」
寝静まった空気で、美鈴が幽に聞いてきた。
「……何がだ。」
「敵意に満ちているのでは、私も眠れません。」
「……そうか。それなら起きていればいい。」
「先程のあなたとはまるで違います。一体何が?」
「悪い、いま鬱憤晴らしたい気分なんだ。落ち着いた時にしてくれ。」
「今でないと困ります。」
「……そういや、お前そうとう腕に自信があったな。」
「それが何か?」
「今殺れば今夜は静かになりそうだな……。」
それを聞くや、彼女はすぐさま立ち上がり、構える。
幽も立ち上がる。
「正気ですか?」
「……いや、やっぱやめとく。」
幽はそういうと、その場を離れた。だいぶ距離が開いた所で、一人で地に横になった。
夜空を眺める。街灯がないと、星空が綺麗に写る。
こんな夜は、開放的になってもいいかもしれん。気分がいいからな。
次に徐につぶやいた言葉は幽を驚かせた。
「ティルフィング……。」
フッ ガシャ
「ん、なんだ?」
音の方向を観ると、一本の剣があった。
剣は装飾がされている……というより模様に近い。また、剣の形も独特であった。
刀身は割と細い(レイピアのような、突きを重視した剣ではないが)。
そして、柄はやや刺々しい模様がある。だが、刀身を収める鞘はなかった。
「……。」
なんとなくという理由以外にない。
幽はその剣を手に取り、ひと振り薙いで見た。
剣が風を切る。これ、ホントにただの剣か?
そんなことを、夜中寝る間も惜しんで起きた出来事である。
そして、朝が来た。いつの間にか、俺は剣を失っており……夜中の記憶も鮮明だが、
あの感覚は以前と同じようなものだった。あれが、俺の能力……!
一人身で朝を迎え、俺は朝日をぼんやりと眺めた後、皆の元へと向かうのだった。
次は、狩猟隊の……!
本当の戦いは、まだ残っているようだ。 しかし、昨晩の間には手だては何もなかったが、
とある偶然により、回路は一気に開こうとしていた!!




