Brutal night,Dangerous morning
※藤本視点
サブタイトル『Brutal night,Dangerous morning / 残酷な夜、危険な朝』
すまない、皆、俺はもう……ここでリタイアだ。皆だけは絶対に助かれよ。
藤島、大門さん、吉成。いままでありがとう。ここで、さようならだ。もっと皆と一緒でいたかった…。
視界だけじゃなく、意識まで暗闇に飲まれていく気分だ。 俺の意識は闇の中へと消えていった……。
「おい、……新堂? 新堂ッ!? 起きろよ!」
「ま、まさかこの瘴気にやられちまったっていうのか……?」
「新堂さん! しっかりしてください!」
「息はまだある……。だが、すごい熱だぞ!」
「グッ……こういう時に物が揃っていれば……。俺、何か役に立ちそうなものを取ってくる!」
「いや、無理に行動するのは得策ではない!」
リーダー格の男が言った。
「モタモタしてたら新堂が!」
「新堂、彼は瘴気で病に伏したわけではない。確かに汗もかいていて、
熱もあるが……今までの活躍から見て病気の線は確率が低いだろう。
それこそ赤の他人を救う余裕などなかったはずだ。」
「なら、なんで……!」
「これは憶測だが、お前達の中では一番…というか、新堂君が群を抜いて行動していなかったか?」
「え、ああ、そうだ。確かに新堂は群を抜いてずば抜けた感性と行動力で俺達を率いてくれた。」
「だったら話は簡単だ。新堂君は過度な疲労を一気に蓄積させたために今こうして倒れてしまったのだろう。
たかが1日とはいえ冬に外で過度な疲労をため込んでいれば流石に彼でも倒れるだろう。
最も、常人では彼よりもはるか前に倒れていただろうがな……。」
「な、なんだ、ただの疲労かよ……。」
「そ、それじゃ、新堂君は……!」
「命は助かるだろう。休養を取ればいずれ体力も復活するさ。
そういえば自己紹介がまだだったな。俺は高杉 光一というものだ。
ショッピングモールを拠点にして活動……しようと計画している。よろしく頼む。」
「俺は藤島。藤島満って名前だ。こちらこそ。」
「俺は大門将という名前だ。よろしく。高杉さん。」
「僕は岸田吉成という者です。よろしくお願いします。」
「新堂君についてだが、休養を極力優先させたい。中途半端な事でゾンビの餌食にはできない。
完全回復を待つようにと、目覚めたら伝えておいてくれ。」
「分かりました。」
「では、俺はもう一仕事をしなくてはな……。」
「ま、またゾンビの場所に行くんですか!?」
「我々には、まだ持久戦に持ち込む余裕などない。食糧はバリケートの向こう側だ……。
『腹が減っては戦は出来ぬ』。実際に食べている者、食べていない者との差は歴然だ。
だからこそ、食料は何としてでも手に入れる。それほどの価値はあるんだ……。」
「今確保できているのはどれくらいですか?」
「まだ確保には至っていないんだ。ゾンビを押しのけてバリケートを作る作業で手いっぱいだった。
それに食糧目的で挑んだ者もいたが、そいつの末路は……もう分かっているだろ?」
「…………」
「せめてと思って2階とバリケート内のゾンビは殲滅したが、
1階は広い。バリケートの3倍はある。2階に上るゾンビはごく少数だったが、1階となるとな……。」
「ど、どうするんです? そのゾンビは……。」
「早期討伐が目標だが、戦力差がありすぎる。恐らく一撃離脱の形は取らざるを得ない。」
「新堂が、元気になってくれれば……。」
「彼は相当の実力者と見た。来訪して短時間だがすでに3人も救出し、おまけにここまで来る体力、
精神力……どれをとっても申し分ない。彼は一体どれほどの強さなんだ?」
「ゾンビ7体をものともしない木刀捌きであっという間に倒せる強さ……です。」
「7体も相手に……ッ!?」
「常に戦況を把握できる冷静さもあると思います。だから、実質1体1の勝負では、
負けなしと考えてもいいと思います。」
「むぅ、有力な人材だ。なら、やはり彼の命のためにも食料は必要だろうな。」
「できれば……そうしてあげたいです。」
「電気が使えない今、冷凍食品や冷蔵庫にあるものが前提の食糧はナシだ。集める食糧は
必ず常温でも長持ちするものがいい。」
「なら、スナック系のお菓子とかですね。」
「問題はどうやってあのゾンビを突破するかだな……。」
突破の作戦を練っていると、突如バリケートの外から声が聞こえてきた。
「うぉ、ここがショッピングモールか……ここまでひどい事になっているとは。」
「ウグ、ここにはいないみたいだが……! 距離はあるが向こうに蠢くなにかが……。」
「大量のゾンビか!?」
「多分、食品売り場の方だ。あれをどうにかしないと食べ物にはありつけそうにないぞ。」
「ヘヘ、心配無用! 俺、警察のゾンビを倒した時に拳銃を奪っておいたんだ!」
「銃弾は何発あるんだ?」
「この銃にはもう2発入ってる。リロードを含めると8発分だ。」
「おお、凄いなお前!」
「それと、警察が結構やられていた場所があるだろ? ほら、街の大通りのあそこ。」
「ああ、あそこか。」
「あそこから1つ、良いもん盗んできたんだよ……。これだ!」
「そ、それは……ッ!」
「そうさ、手榴弾だよ!」
「な、なんで警察が……。」
「自衛隊も挙って前線で戦ってただろ? あの通りはかなり危険だけど、
報酬は優秀すぎるぜ? とりあえず、これぶっ放してやろうぜ!」
「ああ! やっちまえ、伸介ぇぇッ!」
ガチッとピンを引きぬく音がした。
「そらよっと!」
「おおおお、ゾンビ共の距離まで軽々と……。」
「これでも円盤投げじゃあ良い記録だしてたんだぜ?」
「というか、ゾンビの群れの奥まで行っちまったぞ……。」
「え、まさか、飛ばしすぎたか……?」
その後に派手な爆発音が響いた! 爆風の音も聞こえてくる。バリケート越しだとホント安全だな。
「ッヒャッハー! 流石に凄い威力だな!」
「見ろよ伸介! 蠢いてたやつがほとんどなくなったぞ!」
「これで食糧に関しても安泰だな!」
おお、食料がいとも簡単に手に入りそうだぞ。これはチャンス到来か!? 見知らぬ来訪者に感謝だ!
「いよぅし! 持ってこれるだけもっていくぞ!」
「おう!」
店内を走る音が静かなバリケート内に響く。
「これはチャンスかも知れんぞ。」
「うわわ、高杉さん!? いつからここに!?」
「手榴弾云々の話ぐらいから聞いていた。絶好のチャンスだが、ここはもう少し様子を……。
銃が使えるあいつらなら、残党ゾンビも始末してくれそうだしな。」
「なるほど。」
これで、大分危険が減った。新堂、待っててくれよ。もう少しで旨い菓子でも取ってきてやるからな!
すると、バリケートの外から男の話声が聞こえてきた。
「おおお、ゾンビが壊滅状態! やったな、伸介!」
「何言ってんだよ。あの大通りの時に武器を回収して行こうって言ったのはお前じゃねぇか。
お前も少しは役に立ったような態度とってもいいんだぜ?」
「ハハ、でも使う度胸が俺にはないからな……。なんだかんだで役に立つようにしてくれてるのは、
伸介、お前なんだよ。俺にはこれぐらいしか……。」
「実際はそうかもしれないけど、俺らはここまで生き抜いてきた仲間じゃねぇか。
謙遜は無用! そうだろ?」
「……ああ、そうだな。スナック系の菓子でも取っていこう。腐るのは御免だからな。」
「おうよ!」
歩く音が遠のいていく。ああ、待ってくれ! そろそろ聞こえなくなってくる!
「く、距離が遠い……!」
「俺にも聞き取れん……。」
すると後ろから吉成が言った。
「僕に任せてください。」
「よ、吉成……」
「こう見えて僕、耳が結構良いんです。多少遠くても聞きとれます。」
「すまない、俺の代わりに聴いてくれないか。」
「はい。」
吉成が答えた途端、遠くからでも聞こえるほどの大きい声の悲鳴が聞こえてきた!
「うわあああああ! な、なんだこのゾンビ!」
「こいつ、普通じゃねぇ!」
「うて、撃ってくれ! 伸介ッ!」
「クソ、くたばれぇぇぇ!」
銃声が響く。
「当たったぞ!」
「でもこいつ、こっちに寄ってくるぞ!」
「クソ、クソォ、なんでだよ!」
2発目、3発目の銃声。
「駄目だ! こいつに銃は聞かない! 逃げるぞ!」
「うああああああああああ!」
絶叫と走る音、一体バリケートの外では何が……。な、なんかバリケートも安心できなくね!?
「ここのバリケートはホントに安全なんですか!?」
「ああ、見ての通りどこも何重にも重ねてある。銃器でも通しはせんさ!」
「ところで、さっきの声って……」
「……未知のゾンビがここにいるという事だろう。ますます油断はできない状況になってきた。
今日は俺を含めた護衛が交代で、バリケート内に限るが見張る事にする。
その代り、俺たちは朝交代で行う。護衛の半数ずつでやれば、効率的だろう。」
「食料の調達はどうします?」
「……今夜は断念したほうがよさそうだ。未知のゾンビを夜目が利かない我々では、
勝算は薄い。それに、銃弾を3発も受けたんだ。深手は免れないはずだ。」
「そう、ですね。」
「今夜は我々が見張る。君達はもう寝てもいいぞ。」
「わ、分かりました。それじゃ、お先に……」
「僕も寝かせてもらいます。お先に失礼します。」
「ああ、しっかり寝とけよ。」
高杉さん……仲間には最良の計画で考えてくれる良い人じゃないか。俺、勘違いしかけてたよ。
うう、急に眠気が……。新堂、早く回復してくれよ……。
俺も不覚なことに睡魔に黒の世界へと引きずり込まれていった。
その後の夜については、当然知る由もなかった。
そして、朝が来た。太陽の光が店内を照らす。
「う、ふああ……ああ。」
大きな欠伸をして、体を起こす。今、何時だろ。腕時計……はない。家だ……。
なんで持ってこなかったんだ俺は!
俺が見渡すと護衛がしっかりと見張りをして……いないだと!?
一体何があったんだ!
女子供も大半が姿を消している。というか、俺を含めてバリケート内に6人しかいない!!
ど、どういうことだ……!?
朝の陽ざしを喜ぶ状況ではなさそうだ。6人のうち4人は俺達だ。
新堂、吉成、大門さん、そして、俺だ。ほかは、高校生と思える女性が2人。
「大門さん、吉成!今すぐに起きてくれ!」
「う、う、一体どうしたんですかぁ? 藤島さぁん…」
「寝ぼけてる場合じゃない! 緊急事態なんだ!」
「う~、…………って、それホントですか!?」
「バリケート内のやつらを全員起こすんだ! あ、新堂は寝かせてやってくれ。」
「OK!」
俺と吉成の二人でなんとか新堂を除いた全員を起こして集めた。
「一応確認するけど、護衛がいない理由を知ってる人はいるか?」
「…………」
全員が知らないみたいだ。これはマジだ。新堂が寝込んている今、俺が何とかしないと……。
「護衛、それから女子供の大半。…というか、俺たち以外が全員バリケートにいない。
見て分かると思うけど、異常事態だとは思わないか?」
「そ、そりゃそうだが、朝で明るいんだ。食糧を取りに行っただけかもしれないだろ?」
「足音が一つもない。ゾンビのうめき声すら聞こえてこない。静かすぎるとは思いませんか?」
「……確かに、な。」
「俺が思うに、いよいよバリケートの中も安全とは言えない状況じゃないかと思う。
いざという時の為に、破れないバリケートを登って降りれるように、逃げ道を確保しておいた方が
良いと思うんだ。朝で腹もすいていると思うが、安全第一だ。
逃げ道確保が出来次第、バリケートに上れたら、そこから外を見てみよう思うんだ。
それからだ。食糧にありつくのは。」
まともな感じにまとめてみた。新堂のマネだけど、こ、これでよかった……のかな?
「あの~……」
女子陣から始めて声が。
「ん、どうした? 気軽に言ってくれ。」
「バリケートを登るなら、あそこにある脚立があるのでそれを使うってのはどうでしょう?」
「おお、バッチリだ。逃げ道だから、入口側にセットしておくか。」
俺は脚立を真っ先に持ち、入口に近く、バリケートが一番手薄そうなところに立てた。
(どこも手厚いのだが、見た感じでの判断で)
「それじゃ、外を見てみる。」
「頼むぞ、藤島君。」
大門さんが言う。
「藤島でいいですよ。大門さん。」
「分かった。」
どれどれ、外は一体……。
朝日が差していて、ゾンビの死体だらけだ。どこにも動くものなんか見当たらな……!!
今、遠くで動く何かが! 結構大きいぞ!
「あの、皆さんよく聞いてください。」
皆が俺に集まる。
「大きい何かが動いていたのをちらっとだけですが確認できました。
昨日偶然にも来訪した人がいたんだけど、その人たち、手榴弾を使ったんだ。
それでもなお生きているゾンビがいる。そいつと出会ったら、俺たちでは勝ち目は薄い。
生存者は、理由は分からないけど俺達だけだ。食べる対象がいなかったら、
やばそうなあのゾンビもどこかへ行ってくれるかもしれない。それまで待とう。」
「……そうだな。確たる勝算無くして勝てる相手ではなさそうだ。」
「やだ、怖!」
女子が言う。この人かなりキャバい女性だなぁ……。金髪だし、肌の色が黒っぽい……。
もう一人は控えめそうで綺麗で長い黒髪で、お淑やかなのに……、この差はでかいぞ。
すると、突如、低いうなり声のような声が聞こえてきた。
「ウォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォォォォ……」
「な、何だこれは!」
「店内の奥から聴こえてくるぞ。」
「わ、私、なんだか怖い……。」
「み、皆さん、遠くから走ってくる音が……」
「へ? そんな音は聴こえてこな……いや、聞こえる!」
ドッドッドッドッドッドッ
重みがある音がどんどん近くなってくる。そして、決定的な唸り声が聴こえてきた!
「ヴォ"ォ"ォ"ォ"ォォォ!!!」
ドシャァァァァッ
バリケートの内側から聞こえてきて……って、バリケートが破壊されている!!
「逃げるぞ! 女性から先に逃げてください!」
「に、逃げるわよ!」
「きゃああああ! い、急ぎましょう!」
急いでいる割には手際よく全員がバリケートを越えて、入口に出た。
もちろん俺達は木刀もナイフも包丁も持参してる。
「よし、これで完璧だ! 逃げるぞ! 全員いるよな?」
「いるに決まってんじゃん!」
「私も無事です!」
「よし! 外に出るんだ!」
「ま、待て!」
大門さんが遮るように言う。
「大門さん? どうかいましたか? 急ぎますよ!」
「新堂が置き去りだ!」
大門さんの力強い一言が辺りに響いた。
「あッ! しまっ……!」
バリケートの中から更にドシャァァァァァっと崩れる音。
「し、新堂! 新堂ォォォォォォォォ!」
クソォ! 俺は馬鹿か!! 命の恩人の事を気にもかけずに安全にノコノコ脱出……俺は、人間失格だ!
命を救ってもらった仲間を気にかける事も出来ずに何が仲間だ……ッ!
目から涙が溢れ出てくる。
「ウッ、ウッ、新堂……! 新堂ォォォォォォォォォ!!」
俺は走り出そうとしたが、大門さんが腕を掴んできた。
「は、離してくれ!」
「危険すぎる! た、確かに新堂は俺達の恩人で仲間だ! だが、二の舞になってもいいのか!?
良いはずがない! 少なくとも新堂は、そんなことは望んではいない!!」
「だけど、新堂が! あいつは自分の神経を限界まですり減らして俺達の事を……!」
「俺だって! 俺だってできるならバリケートの中に戻りたいぞ!
だが、こらえるんだ! ここで耐えずしていつ耐える!?」
「だ、だけど!」
「いいから逃げるぞ! ここはもうダメだ! 危険すぎる!」
腕を引っ張られて走らされた。俺は、新堂を……新堂を助けなきゃ……ならないんだ!!
だけど、大門さんの力が強くて引っ張られ続けた。
大分走ったところで皆が止まった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ここまでくれば……ハァ、ハァ、」
「もう嫌! こんなところはウンザリよ!」
一人の女性が泣き崩れる。
俺は、自分の無力さを嘆いた。大切な仲間を見捨ててしまった。
流されるがままにされて、今俺たちは生き延びているが、あいつは、新堂は……!
自分が生きながらえた喜びよりも、仲間を失い、見殺しにした自分を嘆く感情の方がはるかに強かった。
『なぜ俺達が生き延びた?』 『どうして力も信頼もある新堂が死んだ?』と自問するが、
答えは見つからない。この世の理不尽さを恨まずにはいられなかった。
「新堂……! 新堂ォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
俺が叫ぶように悲しみの感情をこめて、泣きながら張り上げた声は、かなりの距離がある
あの地獄と化したであろうショッピングモールにも届いているだろうか?
新堂、新堂…………俺達は、お前がいないとダメだ……。お前がいないなんて信じたくない!
これは夢だと誰か言ってくれよ!!!
強く思っても誰も口を開かなかった。俺達5人が命の代償と引き換えにしたものは、
もう…………この世には……。
周りがよく聞こえる。風の吹く音が耳に伝わってくる。地獄耳……岸田の耳のようになったような気分だ。
ショッピングモールを見ると、何かが中から外へとふっ飛ばされてゆくところが見えた。
相当な距離なはずなのにどうして見えるんだ……。確かに直線にしか逃げてないけどさ……。
すると、ショッピングモールから人影が走って外に出てきた瞬間を見た。
まさか、ゾンビか……!? 走るなんて聞いてない!
「皆、走ってくる何かが!」
「何!?」
「ど、どこぉ!?」
「ショッピングモールの方です!」
「あ、あれか! 一体何なんだ!?」
「あ、もうひとつ後ろから人影みたいな何かが……。」
「なんだよ!! 一体どうなってんだぁぁぁ!!」
大門さんが声を上げる。
「お、落ち着いてください! あ、あれは……」
目を凝らしてみる。正体がつかめるまでは油断大敵!
見えるやつなら、視覚が機能するタイプだ。走るゾンビは前代未聞だが、一応な……。
生存者だといいな。できれば、高杉さんが一番望みのある線だと思う。
それでも望みは薄いけど……さ。気休みにしかならないか。
「視力がいいのは藤島だったな。何か見えたか!?」
「えっとあれは…………ッ!!!!」
「ど、どうした?」
「あれは!!」
また、ドッと涙が溢れてくる。あいつは、あの姿は!!
「し、新堂幽…………!!!!」
「新堂が!?」
「ェエ! 新堂さんが!? やっぱりあの人は凄い!」
「だといたら、その後ろは一体……見えますか?」
お淑やかそうな女性が聞いてきた。えっと、後ろは……。
「あれは……ゾンビだ!」
「ええええ! それ、チョーヤバイジャン!」
キャバぃ女性が言う。新堂! 頑張って逃げ切れ!
「どんどんこっちに来るぞ!」
「あのゾンビ、相当でかい! バリケートを壊したやつじゃないか!?」
「嘘でしょ……!? に、逃げましょう!」
「ダメだ! 新堂をおいてはいけない!」
「あんなデカブツに勝てると思ってるわけ!? 馬鹿ジャン!?」
「俺はあいつの事を1度見捨てちまった。今度はもう見捨てるわけにはいかない!
逃げたいやつだけで逃げてくれ! 俺は新堂と同じ道を進むッ!!」
そうしている間に新堂と俺達の距離は100m弱となった。
「もう無理! 逃げるし! あんたらで勝手に死ねばいいジャン!」
キャバい女性が逃亡。関係ないな! そして、新堂は俺達もところで止まった。
後ろのゾンビは走れると言っても、相当遅いな。新堂の半分ぐらいしかスピードがない。
距離もまだ500mは余裕であるだろう。
「新堂、無事だったのか!」
「ああ、ハァ、ハァ、バリケートは壊れた瞬間にバケモノとご対面さ。木刀持って逃げてきたよ。」
「で、でもどうやって……!?」
「ああ、上手い具合にバケモノの脳天に一打入れたんだが、全く効果なしさ。だから、後退した。
そしたら、偶然バリケートを上から昇って外に出れそうな脚立があってさ。
降りてみたらすぐに入口でさ。走って外に出てきたよ。あのゾンビは何もかもブッ壊して、
俺を追っかけてきてるみたいだけどな。 それより、あのデカブツを撒くぞ!」
「おっけい!」
「了解です。」
「頼りにしてるぜ!」
「ところで、女性が増えてるみたいだけど、君の名前は?」
「あ、えっと、私は藍沢 香憐です。よろしくお願いします!」
「俺は新堂 幽って名前だ。よろし…やば、まずは逃げるぞ!
全速量で走れぇぇぇぇ!」
皆が一斉に走った。
「そこを右に曲がるぞ!」
全員右に曲がった。
「あそこのウッドデッキがある家の角でもっかい右に曲がれ!」
「ああああああああ!」
全員必死で走っているようだ。やっぱり新堂は凄いやつだよ!
ウッドデッキの家の角で曲がった。
「向こうに見えるコンビニまで突っ切るぞ!」
「うしゃあああああ!」
俺はつい叫んじまった。
「あ、あれ、藤島、お前、目が少し赤いぞ?」
「う……!」
ああ、俺、泣いていたんだ。自分でも気付かなかった! やば、恥ずかしい!
「こ、これは、さっき欠伸しててだな!!」
「アハハ、欠伸で目が赤くなるかよ?」
「ア゛……!」
「何かあったのか?」
「う、うるせぇ! なんでもねぇよ、これは!」
そんなことをしているうちにコンビニについた。ゾンビは追ってはこない。いや!!
遥か向こうの家を体当たりだけで穴をあけて突き進むデカいゾンビの姿が!
あ、でも、俺たちに気づかずにさらに前の家にまで体当たりで突き進んでいった。
「俺たちは、生き残ったぞ!!」
新堂の一言で俺達に元気がわいてきた!
「コンビニで食料にありつこう。」
自動ドアが動かないので木刀で割って中には言った。
「おっと、店員は黙ってな!」
中に1体だけいたゾンビの脳天に一撃! ゴスッと重そうな音が響く。
新堂は動かないゾンビの服を掴んでガラスの割れ目からゾンビを投げた!
凄い腕力だな……。見た感じ中学生のような体格のゾンビだけどさぁ……。
「ご飯中にゾンビを見て食うのは気が引けるだろ? さぁ、何か食べよう!」
すました顔で新堂が言った。
俺は鮭のおにぎりを手に取った。包をあけて、ご飯にかぶりつく。
ああ、美味しい。ここまで美味しく感じたおにぎりは初めてた。
俺はこうして生というモノを噛みしめて皆と共にご飯を食べた。
自分でも今気付いたが、おにぎりを食べている俺は同時に目から一筋の涙を流していた。