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Death such as in nightmare  作者: C.コード
Episode.3:Wonderer's load
59/73

They wait upon for the Queen Ⅳ

サブタイトル『They wait upon for the Queen / 女王のために彼らは(かしず)く Ⅳ』


※三鷹 道介視点です。


テラスで朝日を拝んでいる時間でいくつか気がついた点がある。

それは、『宮ノ小路』の名を獲得した少女……『高嶺(たかね)』についてだ。

昨日のように、大人しくて静かな様子はどことなく無くなっている。

代わりに、活発にしゃべるようになった。

宮ノ小路様が女性としてのノウハウを教えていた間に、

すでにいくつか……というかかなりの日本語を習得したのではないかと思う。

稚拙な言葉も多々あるが、それでも上達は凄いスピードだ。

日本語は色々と難しい表現や、漢字もあるのでまだまだ教える事は山積みだが

一晩でここまで習得できたのだから漢字の習得も時間の問題だろう。

戦闘訓練が始まるのも近いだろう。


空がやや照らされる頃に、ようやくテラスを離れた。

冬は朝、日が昇る時刻も遅いため、これでも恐らく7時前。

宮ノ小路様も起床している頃合いだ。

「ミッケ、どこ行くのー?」

「……え、ええっと。」

言葉に詰まった。宮ノ小路様の事を俺はどう呼べばよいものか。

宮ノ小路様の名前……は素直には口に出せるはずがない。

もっとも、宮ノ小路様はそれ自体は許されているのだが、俺には口にする勇気すらない。


柚姫(ゆき)のところなの? ねーねー。」

「そ、そういうことになるか……。」

宮ノ小路様の本名は『宮ノ小路 柚姫(ゆき)』。


本来は日本でもお偉い家系に使える家柄で、補佐などが(もっぱ)らの家だったとのことらしい。

しかし、ゾンビの騒ぎで有名な家系の血筋を引く者の消息が途絶(とだ)えてからは

自分の家柄に所属する人間や、そのさらに下に使える者が集った。


さらに、宮ノ小路様の御意向(ごいこう)により一般の人も共に行動できるようになり、

今に至っては知能あるゾンビまでもが配下にある。

宮ノ小路様の御心(おこころ)はとても慈悲(じひ)深く、誰よりも人々を導こうとするために

毎日、計画的に役目を分担させて今の宮ノ小路様を筆頭とする集団がある。


「それじゃ、部屋に入るぞ。」

念のためだが、高嶺には色々と教えてやるべきことも多い。

日本語だけが全てじゃない。今の世の中はそれだけじゃ生き抜けない。

そして、弱者ができる事は、『協力』すること程度しかないのだ。

『強者に尽くす』というと聞こえが悪い。が、宮ノ小路様は信頼も厚いお方。

皆も協力は惜しまないし、戦闘においても一応、事欠かないほどの能力者がいるので

外敵からも身を守る事はできている。


コンコン  扉をノックする。高嶺はその間、じっと大人しく様子をうかがっていた。

マナーは教わっている……らしい。理解力も大したものだと思う。


「誰?」

「三鷹 道介と高嶺です。」

「いいわ、お入りなさい。」

許可が出たので、扉をあける。

扉の奥には宮ノ小路様と、もう一人……

「おはよう、三鷹君。」

三條(さんじょう) 神海(こうみ)……様?」

三條 神海は家柄的に、過去高い地位を得ている。

宮ノ小路様の側近にはこういう貴族のような位置づけの者が多い。

三條は宮ノ小路様の側近。つまり、

戦闘能力が極めて高い者で単身で周囲の警備を任される程の実力者。

他にもごく少数側近が存在する。全員で5人いるそうだが、俺はまだ3人しか見た事がない。

彼もその3人のうちの一人だ。残念ながらどんな能力を有するのかまでは知る由もない。

「相変わらず堅いねー、三鷹君。」

「高位の方を呼び捨てにするのはちょっと……気がひけます。」

「気にしなくていいんだよ? 少なくとも僕にはね。」

「いえ、そういうわけにはいきません。」

「北山君には普通に接してるのに僕にはダメなの?」

「そ、それは……。」

言葉が詰まる。高嶺の任務を共にした北山。

彼も側近の一角を担う能力者だ。『爆熱余波(メルトボマー)』なる爆撃は

恐るべき突破力で5人の側近の中でも序列(じょれつ)2位という他を圧倒する格付けがされている。

その側近の中でも北山は唯一、皇族、貴族の血筋がない一般の側近でもあり、

周囲からの信頼はそこそこ得られている。俺も彼には何度も世話になったし、

お互いに林と(はげ)ましあった。

「彼は……その……。」

高位だが、それ以前に励ましあった仲間だ とは素直に言えない。

上にはそれなりの態度を示し続けてきたのだ。今更変える事は……。

それに、彼とは呼び捨てにするほど今後進展するとも思えない。

側近は単身任務が多いので接点もないだろう。

「信頼し合ってるってことなのかなー。僕にはまだ心は開いてくれないってわけね?」

「いえ、決してそういうわけでは……!」

「いいよ、大丈夫。僕はそろそろ巡回があるから、

次は話相手になってもらいたいね。それじゃ。また今度ね!」

巡回を急に思い出して扉からすぐに出て行ってしまった。

温厚そうな人物、としか今は言えないが、彼の言う事は的を得ている……。

俺は信用しきっていない。高位の人間は尽くす一方で、

逆に高位の方からの誘いを受ける事には抵抗がある。宮ノ小路様には尽くしているが、

彼からの頼みとなると素直に引き受けがたい……。

そもそも、側近は側近同士で仲良くなるものだと解釈していたものだから、

非戦闘員の俺が対象になるなんて思いもしなかった。


「えっと、それで、宮ノ小路様?」

「……あ、三鷹。話は済んだようね?」

何か考え事でもしていたのだろうか。朝からだと疲れもたまるのではないだろうか?

それなのに事務担当がこの部屋にはいない事を考えると頼める人がいないのだろうか。

いや、人望の厚い宮ノ小路様に限って頼む人に困る事はない。

側近が5人もいる。必ずフリーになる者もいるだろう。開いたものに頼めば良い。

……とにかく、宮ノ小路様が朝から疲労している事は、俺の杞憂(きゆう)であると考えたい。

「今日は、早速日本語をマスターできるようにしてほしいの。

授業の仕方は好きにしていいわ。作法は改めてまた午後に私が付き添いで教えるから、

午前はそっちに集中していいわ。朝食と昼食は欠かさないようにね。」

「分かりました。」

「はい、頑張ります。お母様!」

「良い返事ね。頑張って覚えてくるのよ?」

母と子のような対話が終わって、俺は高嶺と広めの個室で授業をすることとなった。

宮ノ小路様からスケジュール(授業の目安)が書かれたメモを受け取っていたので、

折りたたんでいたメモを開く。

「……ふむ、初歩的な漢字の読み書きか。」

これは書かせるのが一番早い。早速白紙とシャープペンを用意して、

机に向かわせる。

「まずは簡単な漢字からだ。『(こう)』って感じから音読みと訓読みを覚えるんだ。

そのあとは書く練習。使い方もしっかり教科書に書いてあるから、よく見るように。」

どこから用意されたものなのか不明の国語の漢字専用の問題集(ワーク)

覚える漢字の順序はバランスがとれていて覚えやすいように見える。

書くことに慣れていないようで、おぼつかないペン捌きだが、なんとなく読める。


コンコン 不意に個室の扉がノックされる。


「どちら様ですか?」

「北山だ。三鷹だろ? 入ってもいいか?」

「ああ。」

ガチャ 扉が開かれ、北山が姿を見せる。

「おお、本当に養育係じゃないか。」

「宮ノ小路様から聞いたのか?」

「ああ。気になって仕方なかったから来ちまったよ。」

「側近の名が泣くぞ? いいのか、ここに立ち寄って。」

「側近なんて(かんむり)さ。それに、養育係がお前だってことに

不満を持ってる側近もいるからさ。護衛みたいな感じなのかな?」

「宮ノ小路様の命じゃないのか。俺には『透明細工(クリアサイト)』がある。

扉の奥に誰かがいるならわかるさ。」

「さっきノックした時は使ってなかっただろ? 反対を行動に移しそうなやつはいるし、

悪い話じゃないだろ。」

「そ、そうか……。高嶺、覚えたか?」

「ページの半分くらいできたよー。」

「な、なんだって……?」

机をのぞいてみる。確かに、問題集(ワーク)はページの約半分ほどの漢字は攻略されている。

「へー、凄いじゃないか。」

「知能は凄いぞ。この分じゃ、書くことにさえ慣れればもっと速いと思う。」

「なるほど……。そういえば、さっき三條に会ったか?」

「え、あ、宮ノ小路様の部屋で会ったよ。それが?」

「やっぱりな……。さっき話していたらお前の事を三條が言ってたよ。」

「ハ、ハハ。側近は側近同士で仲良くなるものじゃないのか?」

「そりゃまぁ側近同士で三條は親しみやすいけど、『広幡(ひろはた)』とかは話しづらい。

あいつは側近ってだけで何かとでしゃばるからな……。」

「へ、へぇ~……なるほど。」

「あ、そうそう。聞いてくれよ。あいつこの間能力で勝負ふっかけてきたんだ。

倒壊したビルに向かって見せつけるだけなんだけど、あいつ俺の能力見たら

途端に言いがかり付けてきたんだぜ?」

「酷い話だ……。で、勝負の結果は?」

「勿論、俺の圧勝だ。広幡の能力って『充力発動(パワートリガー)』って言って、

ため込んだ分だけ怪力になれるって能力なんだけどな。動きは素早いし、パンチも強いんだけど

まるで防御がなってないんだよ。攻めることばっかりで隙だらけだ。

能力に頼り過ぎてるよアレ。側近には向いてない性格だよな。」

「アハハ……色々あるんだな。 あ、高嶺。次のページ進んでていいぞ。

確かにそれは側近には向いてない、かも?」

「結局あいつは序列5位。当然の結果だろ。」

「ところで序列って誰が決めてるの?」

「宮ノ小路様さ。基準は知らないけど、序列は的中してるみたいだ。だから、

俺よりも序列1位の『九条(くじょう)』は強いってことだ。

確かに九条の能力には一瞬身震いしたぜ……。」

「そ、それってどんな能力なんだ?」

「『百式地雷(サイジマイン)』。あいつが序列1位を掴んだ能力だ。

コンクリートを軽く吹き飛ばす衝撃を持った爆弾を作れるんだ。」

「ば、爆弾!?」

「ああ。地面にしか設置できないけど、色々爆破の方法が違う。

手動、条件式、時限式、重量式……どれがどこにしかけてあるのかわからん。」

「……化け物だな。」

「全くだ。俺よりも数段強そうだ。」

勉強も進ませつつ、北山と話が弾み授業も一緒に行った。

やがて、午後になり、昼食を済ませ、高嶺を宮ノ小路様に預けた。その後はフリーになり、

テラスに再び足を運んでいた。


「序列、か……。」

ふと、北山の話を思い出す。

外を眺めていると、屋根のほうから声が聞こえてきた。

「おい、北山!」

「ん、ああ、広幡か。」

「今度こそ俺が勝つ。勝負だ!」

「やめとけ。お前じゃ絶対に無理だから。」

「さぁて、どうかなぁ!?」


タンタンタンタン!


素早く屋根を駆ける足音が聞こえてきた。

テラスで屋根を見ると、ギリギリ広幡と北山の姿が見えた。

迫る広幡に――――


シュボッ 北山の掌が瞬時、彼の顔面に向けられ、寸止めをする。


そしてその掌には熱球が収まっており、勝負が決した瞬間だった。

「クソッ! どうしてだ! スピードじゃ確実に勝っているのに!」

「……その理由は、自分で考えな。」

北山は屋根を歩き、とある場所で飛び降りる。その場所とは――――


スタッ


「どうだった? 俺の華麗な勝利!」

「お、お前な……。」

テラスの間上だった。

「ま、待て、北山ぁ!」

「勝負はまた今度な。次は序列4位様にでも頼むわ。じゃぁな!」

北山は俺の手を引っ張り、室内へと走る。

「うわわ、ちょっと!」

「そんなに焦んなって。俺がついてる。」

「だ、だけど!」

「そんなことより、大事な話があるんだ。」

「大事な話?」

「ああ。すっごく大事なんだ。宮ノ小路様に見言えない事だ。」

宮ノ小路様にも言えない事?

北山にもそんな事があるのか?


彼が口を開く。俺は、その言葉の重みを知らずに彼の真剣な面持ちから発せられた、

彼の紡いだ言葉を平然と聞いていたのだ。


「側近よりも高位の、本当の序列1位がいる。」


彼ら二人以外には聞く者はいなかった。半信半疑で聞いていた彼には、

重みどころか、どこが大事な事なのかも、疑問の対象だった。

その言葉は、宮ノ小路の宮殿に新たな謎を生みだしたのだった。

謎な締め方で済みません……。

三鷹視点はまだ続く予定です。

ぜひとも、感想の方をよろしくお願いします!

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