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Death such as in nightmare  作者: C.コード
Episode.3:Wonderer's load
54/73

Intersection

サブタイトル『Intersection / 交差』

俺は、焦りに()られた。


体は、硬直に(とら)われた。


本能は、咆哮に(ふる)えた。


嫌な予感が、脳裏を(よぎ)った。




それが、見も知らない秘めたる『もう一人』を呼び覚まさせた。















「ここは……?」

暗がりの空。街灯のない街。荒れた道路。重厚な音がやや距離を置いたかのような響きを

今も尚、伝え続けている。

「あれ、俺って確か……。」

思い出せ。咆哮を聞いたんだ。怪物がうなりをあげたんだ。

そこからだ。その先が……わからない。

ここに至るまでの経緯、どうして思い出せない?

辺りを見回すと、聖奈だけが同じ場所にいる。へたり込んでいた。

腰が抜けたかのように座っていて、夜闇の具合が伺えるこの場所は

どこかの建物の屋上のようだ。

だが、まず優先すべきは聖奈だろう。

俺自身何も痛みはないし違和感もない。聖奈は何か知っているかもしれないし。

「聖奈、大丈夫か?」

「え、うん。大丈夫……。」

「何かあったのか?」

「何かあったのは、幽にぃの方だよ。」

!! 薄々考えてはいたが、俺がこの不可解な現状を生みだしたのか?

「俺、何かしたのか?」

「何にも覚えてないの!? で、でも幽にぃは……!」

「セ、聖奈! 落ち着いて! ゆっくりでいいから!」

あせっていても仕方がない。ここがどこだかわからない以上うかつには動けない。

俺たちしかこの場にいないことと、怪物の唸り声はなかなかの距離を介して

俺たちにまで届く声をあげていること。

……まさか、皆が? 怪物にあっさり……?


いや、そんなはずはない! 何があろうともあいつらが死ぬはずは……

違う? だとしたら……まさか、裏切り?


弥栄……硲……美鈴……!!


思えばおかしな話だった。急に美鈴が来訪したかと思いきや、

硲が絡み、行動に至り、弥栄が易々と承諾……


ふざけるな! どこに、そこまで都合のよい話がッ!

やられた……完全に! クソ、俺たちは荷物もない。

無一文どころじゃない。食いつなぐ食料も水も、

寝床も道具も……!


……冷静になれ。

放浪の旅に戻れば、まだ生きる術は……。

「聖奈、ダガーはまだ持ってるか?」

「う、うん。」

「よし、分かった。 聖奈、行こう。あの怪物のところに。」

「うん! 皆もきっと心配してるよ!」

皆、だと?

「そういえば、俺っていったい何をしていたんだ?」

「……」

聖奈は答えにくそうな面持ちをしながらも答えた。

「幽にぃは聖奈を引っ張ってここに来たの。でも、凄い速さだった。

建物も全部飛び越えちゃったんだよ?」

「え……?」

聖奈は……嘘などつくはずがない。この言葉は、正しいのだろう。

しかし、思い当たる形跡が……。


建物なんて飛び越えられる脚力は持ち得ようがない。

……俺は何を?

待て、考えるより先に怪物の元へ行かないと!

仲間の安否を確認してからでも考えるのは遅くない!


屋上にはなぜか俺の木製の矛が転がっていた。

無意識の中でもこれだけは手放さなかったようだ。

無意識の中で俺は一体何をして何を思ったのかはまだ知る由もないけどな。


「聖奈、行くぞ!」

「うん!」


















「フフフ、ハハハ! さぁ、どうしますか。諸君ら!」

硲がビルの屋上から見下ろしていた。

怪物をも見下ろせるほどの高さから見物する硲と啓。そして弥栄と美鈴。

「それにしても意外だねぇ。怪物はビルには突撃してこないのかい。」

弥栄が呟いた。

怪物はビルの上を見上げるだけで攻撃はしてこなかった。

その理由は分からないが、ここまで派手に刺激をして何も感じていないという事は

ないだろう。元々戦闘には向いていないのか、それとも別の理由で?


「皆、撤退だ! さがれ! 大至急だ!」

アジトの群は徐々に引いて行った。怪物はビルには攻撃をしないが、

下々の者なら容易く目を傾けるに違いない。

その予感が彼らをこうも強く動かしたのだ。


「フフ、とりあえずは作戦成功といったところですか。」

「殺す労力が減ってよかったな。硲?」

「ええ。本番はここからですからね。まだまだ疲れている場合ではありません。」

「それにしても幽にぃはどこに行ったんだ?」

「……死にはしないはずです。あの覇気、間違いなく幽君から発せられたもの。

いよいよ本領発揮ですかね。『覇 命 剣(ティルフィング)』。」

「……やっぱり、それって話した方がいいのか?」

「その方がいいです。使えば使うほど取り返しができませんし、

何より……暴走すると手が出せません。」

「このタイミングで……なぁ。幽にぃってどこまで強いんだ?」

「『覇 命 剣(ティルフィング)』は上手く使えないとしたら

実力は勿論我々と同等ってところですかね。

……ただ、アレが自由に扱えるなら勝算は極めて薄いです。」

「ふーん、俺より強い……ねぇ?」

「今、それを掘り返しますか。……本当は忘れたかったのでしょう?

捨て去りたかったのでしょう!?」

「……さぁね。」

「素直じゃありませんね。ま、いずれそれは晴れるでしょう……。」

硲が妥協して啓に告げた。


バタン と屋上の扉が開かれた。


「こ、ここにいたか!」

「ハァ、ハァ 疲れましたよ……。」

「ったくもー、お前らだけだぞ、ジャンプで飛び越えられるのは!」

「怪物よりも怪物らしいや。」

「同感だ。敵も味方も怪物だな。」

「み、(藤島)(みつる)君速いって……ハァ、ハァ」

違和感がふと硲を過った。

「……さては、そういうことですか。クフフフ」

硲はふと思った。 幽君なら、これをどう思うのか と。

口にするほどシンプルな変化はない。

硲が貫く詐欺師に必要なスキルだと確信しているもの。それは……『変化を読み取る力』だ。


死しかないような世界で、芽生えようとしているのかもしれない。

こんな世界とは無関係に喜ばしいと感じる事が出来る何かが。





















「セ、聖奈。まだ走れるか?」

「だ、大丈夫……大丈夫!」

もう少しで騒動の中心にたどり着けそうだが、聖奈は……疲労しきっている。

俺は走る脚を歩く程度に速度を変え、聖奈を止めた。

「そんなに頑張らなくても大丈夫だって。俺がついてる。

疲れてるのが顔に出てるぞ?」

「へ、えへへ。そ、そんな幽にぃも……ハァ、顔に出てるよ。『心配だ』って。」

「こんな時まで気を使う事はないんだ。聖奈は守るって言っただろ?」

「でも幽にぃ。もうちょっとだよ。歩いてもいいから、行こう!」

「ああ。 皆、無事でいてくれよ……。」

歩く、歩く、街を歩く。暗がりだからこそわかる事がある。

明らかに音に敏感になっている。

視界が封じられて耳を使うようになったからだろうか?

人間の五感が飛びすまされるような不思議な感覚だ。

「幽にぃ、あそこ……。」

聖奈が指差す先には……ビルの屋上があった。

暗くてよく見えないが、指をさすってことは何かがあるのだろう。

そんな疑問を持った時、聞こえてきた。それは上からだった。

「幽にぃ! さっさとビルの中は入れ! 食われるぞ!」

啓の声だ! 食われるって、怪物はまだ……怪物? どこだ?

歩いた時からやけに静かだとは思っていたんだ。

まだ付近にいたのか!? 討伐したわけじゃなかったのか!?


「ヴヴゥゥゥ……」


「ヒッ!」

聖奈が脅えた。


……マジかよ! いる、確実に!

ノシッと歩く音が聞こえてくる。五感がフルに活用されている。

「幽にぃ! 何ぼさっとしてんだ! 後ろだ!」


ガバッと振りかえると、暗がりしか……いや、待て!

何か、何かいるぞ!!


「……ッ!」

声が出ない。聖奈も声はあげなかった。あげることができなかった!


……1階建ての建物と同じ大きさ。角、むき出しの歯。(まみ)れた血。

俺は聖奈の腹に腕を当て、抱えあげた!

そして、肩に乗せて走った!


後ろからは何も聞こえない! とにかくビルへ!

扉が壊れた入口に突入し、階段を見てからはすぐに全力で登った。

……しかし、途中から記憶が飛んでいた。気がつくと……屋上に立っていた。


「幽にぃ、ホントに暴走しちまったのか……。」

と言っている啓がいた。

「何の話だ?」

「な、戻った!?」

「暴走が解けたようですね。」

「怪物は……!?」

「大丈夫です。怪物はビルには攻撃しませんし登ってもきません。安全確保です。」

硲の言葉を聞いて俺は屋上に腰をついた。

「やっと、ここまで……。」

疲れがどっとあふれる。


「幽にぃ。話があるんだ。」

「どうしたんだよ、啓。今更話すことでもあるのか?」

「……大事な話なんだ。」

啓の深刻な目線は、暗がりの中でもはっきりと見えた。

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