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Death such as in nightmare  作者: C.コード
Episode.3:Wonderer's load
53/73

Have a chat and...

サブタイトル『Have a chat and... / 雑談と…』

C¹²(シートゥエルヴ)の動作は大体理解しました。後は相手待ちですねぇ。」

硲にはやや余裕が戻りつつあるようだ。

硲も人間らしい行動や仕草があることがわかっただけでも、

俺たちにはかなり珍しい事なのだが……今回は異例すぎる事態なんだろうな。

ゾンビと人間相手では気の持ちようも相応になってくるし、

今の状況ではどう考えても……敵は多い。

「そんなことより、大丈夫なのか?」

「何がですか? 幽君。どこか作戦に沿った行動がありましたかね?」

「いや、作戦も何も俺たち何も聞かされてないぞ。

何がって、そりゃもちろん――――」

俺たちは、なぜこんな行動に出たんだろうか。

死期を早めるのを御所望(ごしょもう)なのか、硲は。それともスリルを楽しみたいとか

狂人が述べるような理解しがたい論でも今後俺たちは聞かされる羽目になるのだろうか?

ま、考えるより先に言ってしまった方がいい。その方が気も楽になれる。


「――――なんでよりにもよって怪物と隣り合わせにならなきゃいけないのかってことなんだ。」

敢えてボリュームも気の高ぶりも抑えた。

ここで押さえなくてはならなかった。何しろ相手に何かを気付かせるわけにはいかない。


『C¹²と俺たちが隣り合わせ、しかしその事には気づかれていない。』


この状況がほしかった。

必須というわけではない。だが、これは圧倒的なメリットになる。

相手は多勢。こちらは少数。見たままでは少数側の勝ち目は薄い。

しかし、それは何者にも干渉されない環境のみで成立する考え方だ。

何が言いたいのかというと、『相手の心境(メンタル)を攻撃できる作戦』が

今の俺たちの取っている行動に繋がっているわけだ。


ただの人間の集団を俺たちは相手にしようとしているわけではない。

立派な能力者たちを核としたバリバリの超人集団だ。

そして、戦況をいち早く察知できる『視察系(インスペクト)』に属する

構成員が今の俺たちをどう思うのかが勝敗を握っている。

俺たちは11人。たった11人。しかし、となりには誰もが恐れるであろう怪物。

実際、人を一人殺すのにどれだけ静かに行えるだろうか。

脳を破壊、機能を停止させるには相応の行動が必要であり、

それには周囲にそれを察知させる証拠が散らばる。

もちろん俺たちは一筋縄では殺すことはおろか、撃退すら遠く及ばないような

屈強な人間までもが揃っている(俺たちが同じ側につくのは不本意ではあるが……)。


だからこそこれは有益なのだ。勝利の女神は見方につくかどうかすらも危ういが、

少なくともここには女神ではなくとも味方につく神はいる。

今も現役の立派でまごうことなき『疫病神』が……!!

作戦を提供してくれたのも疫病神のおかげ。今もこうして頭の中で

すぐに思いだせるぐらいにインパクトの強いアイディアだ。

だが、もう一度聞かないとおかしいぐらいの状況だってことぐらいは

病みかけの俺にだってわかる事さ。


「先ほども話した通りじゃないですか。大丈夫ですよ。必ず旨く行きますから。」

硲だけが言うならまだしも……

「それに、いざとなれば美鈴の力でも十分だからね。安心してよ。」

弥栄(やさか) (るい)もこういうのだ。

なんでも夜霧(やぎり) 美鈴(みれい)の力は底なしという。

俺たちが目にしたものほんの断片であったらしい。

彼女の力を派手に使えばこの争いもごり押しで圧倒できると語る弥栄が

俺にはどうにも不安要素でしかなかった。


……どうして、この状況にまで至ったのか。

争いでしか解決できないのか? 戦わなくては終わらないのか?

今しなくてはいけない事なのか? それはそこまで優先するべき事なのか?


……それは、殺すことでしか開けない道なのか?


わかっていたことだ。ここまで派手な能力がぶつかれば死人は必ず出る。

そうでなくても怪物を利用するわけだ。

もし、もし怪物を起用しなくてはならない時が来たならば

どちらかの完全勝利でしか収まらない事になる。

アジトの勝利か、俺たちの勝利か、怪物ことC¹²(シートゥエルブ)が一人勝ちをなすのか……。



「皆さん、C¹²が歩行速度を落としました。ここからは慎重に行きますよ。聖奈ちゃん?」

「えっと、向こうも遅くなったよ。気づいたのかな? あ、先頭が止まったみたい。」

「フフ、いい具合に牽制(けんせい)がきいてますね。」

思惑通りのようだった。相手をよく理解しようとする硲だからこそなせる戦術(スタイル)だ。

相手には優秀な視察能力を持つ人材がいることが、逆に歯止めをきかせる(かせ)となる。

「そのうち、背後に回って穏便(おんびん)に近づこうとするでしょう。

その時が……コレの使い時です。いいですね?」

そう言って硲が手に持っていたのはどこから入手したの疑問である。

『爆竹』だ。手軽な品だが音で気づかせるには十分なものだ。

あれで、怪物の気を引き、慎重である相手には二択を迫る事が出来る。

『退却させる』、『一気に勝負を決める』かのどちらかだ。

相手が取りえる行動とは、この2パターンしかない。それしかありえない。

第三者を使った奇策は多勢に大きな打撃を与えるだろう。

退却は後列が動かなければ前列は後退に支障が出きて、最前線には少なからず先手を打つ事が出来る。

一気に勝負を決める場合にも逆の発想だが、

先手を決められるのは基本的に最前列が最前列に対してのみである。

つまり、何があっても『後列が攻撃してくる』事はかなり時間のかかる事だ。

ここでは美鈴に全てがかかっていて、頼るところが美鈴しかないが、

爆竹を使った場合には怪物の行動も加わってくる。

俺たちは少数精鋭に対して、多勢である相手には酷な状況になってくるだろう。


とにかく、『狩猟隊』が到着する前に撃退か壊滅のどちらかを遂行しなくてはならない。

しなければ、必ず達成しなければ! 聖奈が、かかっているんだ……!!


「できれば、使いたくはないです。ですから、温存しながらも全力で戦ってください。

狩猟隊と、怪物も狩ることになるのですから……。」

酷く恐ろしい静寂が少しだけ俺たちを包んだ。

その間だけ 誰も語らず、誰の目も輝いておらず、誰の足も進まなかった。

「弥栄氏、全てはあなたがたにかかっています。いざというときには、お願いしますよ?」

「任せてくれよ。君たちは捨てるには惜しい人材だからね!」

……本当に、硲と同じくらい最終目的(ゴールライン)が分からない人だ。


ついでだけど、俺たちは2,3人で組みを作って行動することになっていたが、

今はどういうわけか全員がそろっている。急に命がけの作戦を思いつかれたため

やむなく集っているというわけだ。

「……浮かない顔ですね。幽君?」

硲が俺にだけしか聞こえないような小声で言ってきた。

「そ、そうか?」

「ええ。あまりにも似合わないです。状況を打破するためなら

何事も惜しまないような、そんな人間だと思っていましたが……。」

「その勝手な想像とかは当てにはならない世の中だ。分かりきってることだろ?」

「まさか、戦わずに済む案を考えているわけではないでしょうね?」

俺は少しだけ考えたが、口を開いた。

「……馬鹿な。戦わないで収まる争いじゃないだろう。」

「深く考えないほうがいいです。今なら……許されるんですよ?」

「許されるだと?」

何を言い出すんだ。硲は?

「常識的に考えて殺人を犯しても裁きを下す人間はいない。だいぶ前にも話しましたよね?」

「……許す許されるの問題じゃないだろ。」

「幽君、よく聞いてください。あなたは未だに幼稚さが抜けていないようなので率直に言います。

幽君は行動の全てが甘いんですよ。そんな考えを抱いてどうします? 聖人君主にでも成りたいのですか?」

「俺はまじめに皆の事を――――」

「幽君。あまり私を失望させないでくださいよ。いくら死線を潜ってきたとはいえ……ねぇ。」

……。

「いずれ、必ずその考えを変える出来事が起こるでしょう。それをしっかりと刻みつける事です。」

「……そっか。」

俺を変える出来事か。それは成長なのか。それともただの変化でしかないのか。わからない。

「どうしてそこまで話してくれたんだ。」

これだけは今すぐに聞きたかった。硲がどんな心境で語っていたのか。

「……それは、あなたが『未知の狂人(イレギュラー)』だからですよ。」

「え、……イレギュラー?」

「詳しい事は啓君から聞いてください。 そういう約束ですので。」

約束? 啓が、俺の何を知っているんだ?


「そろそろ開幕の時が来ましたね。」

硲が口にすると、後方に群がる何かが見えた。

「あ、あれって……。」

「ええ。作戦通りです。彼らは筋書き通りの道をたどった。たったそれだけです。」

やや自信ありげに答えた硲の目はまっすぐに後ろへと向き直っていた。

こちらを狩りとらんとする、獰猛(どうもう)な野獣の群れへと……


「皆さん、覚悟はできてますね? 爆竹を使うかもしれませんので

逃げる準備だけは怠らないようにお願いします。」

重い言葉が、すんなりと入ってきた。覚悟があればある程度までは耐えられるという事なのだろうか?


俺たちは動きを鈍くした怪物の隣で静かに待った。伺うように忍ぶ連中を。

そして、会話が通じる程度までに最前列との距離は縮まった。

その先頭には加川が立っていた。


「よくも逃げ出してくれたな。だが、それもここまでだ。」

「フフ、その余裕。なかなか地震があると見えますね。」

「ああ、確実に仕留めてやるさ。一人残らずな。」

「その態度、素晴らしい意気込みです。ファインプレーです。

しかし、これを見てもそんなことは言えますかね?」

硲はチラつかせるように爆竹を見せつけた。

それを見て加川の表情はやや目つきの鋭い面持ちになる。

「貴様……!」

「あなた方が引くのなら、御隣さんにも迷惑はかかりませんが、どうしましょうか?」

「よ、よせ! お前たちは怪物を避けるために行動してきたんだろう!?」

「馬鹿な事を。避けるため? 笑わせないでください。我々は利用するためにここまで迫ったのです。

敵の思惑も知らずにここまで踏み入るとは、愚の骨頂ですね。」

加川が黙っている。……ここだ。俺の意思を伝える場面は今しかない!!

「……なぜ、争いにこだわるんだ。」

「なんだと?」

「どうして戦わなくちゃいけないんだ。どこまでしなきゃならない理由って、なんだ?」

「お前には理解できん。多勢を率いるその重みが、……その責任が!」

「責任って、何? 協力するために徒党を組んだのに、

その頂点の位置に立つだけで何か代償を払わなきゃならないってこと?」

「……二度目を言わせるな。」

理解できないってか? 一体何が、理解できないって言うんだ!

「でも、争う理由にはなってない。」

それを聞くなり、加川は話すのを放棄したかのように、争いに傾倒していくかのように

不敵な笑みを浮かべた。

「新堂の小僧、よくきけ。今のご時世生きていくには色々と必要なものがある。

お前はそれらを全員分賄えるというのか? できないだろう?

誰かには腹いっぱいの飯を。しかし誰かにはたった一口の食事しか与えられないような事は

不平等だとは思わないか? 全員が同様の生き方をしていけるような代償を払わなければ

徒党は組めない。それが責任だ。それだけじゃない。

もめ事の処理も、寝床も上が率先してやらなきゃならない。……違うか?

考えろ。戦う事だけが全てじゃないんだ!」

……そんなこと、とっくの前にやってきたさ!

藤島、大門さん、良成、聖奈、華憐……それから(いちじく)、影山さんも全部!

今まで協力してやってこれた! そうやっていけばいいのに、なんで、なんで……

「どうしてリーダーが全ての責任を背負うんですか!」

「貴様には永遠に理解できない! 理解できないまま死んでいけ!」

ついに緊張の糸がきれた!

俺も臨戦態勢に入り、構えた!

すると……


パン! パパンッパン!


「フ、フフ、ついに、やってしまいましたね。覚悟してくださいよ、加川氏?」

爆、竹……?

ま、まさか!

ここから先は……個々人で逃げるしかないだろうな! 味方にすらかまっている暇はない!

「聖奈、逃げるぞ!」

「う、うん!」

俺は聖奈の手を握る。ってどこに向かって走れば……!?

その次の瞬間……


「ヴォォォォオォッ!」


雄叫(おたけ)びが響いた!

「怪物主演の殺戮(さつりく)ショーの始まりです!」

硲がそう言った。

悔しい事に、こういう台詞は硲にはよく似合っている。


皆が冷や汗をかいている。恐らく次には怪物が……

俺も直感でわかる。次の咆哮(ほうこう)が攻撃の合図。

だとすると、もうすぐ来る!


「ヴォォォォォォォォォオオオォァッ!」


来る、どうする、どっちに逃げればいいんだ!?

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