Talk time
サブタイトル『Talk time / 語り時』
硲が3日もの日数を開けて目を覚ました時、並々の疲労で済んだ啓が
アジト内での出来事を任されていた。
啓も硲の世話は怠ることはなかった。
3日というのは大げさすぎるが、日で起きる時間は30分となかった硲の疲労は
並大抵ではなかったことは皆にも伝わっていた。
そして、時は流れ……聖奈は奇跡的な回復力で元気を取り戻した。
影山 日向は幸いにも物理的な軽傷で済み、今までと差し障りのない程度のものだった。
幽一行は他のメンバーと合流し、目を覚ました硲の元に集っていた。
「硲、いったいどういうつもりか説明してもらおうか。」
幽の重々しい一言が発せられた。
この場には硲、啓と幽一行の面々のみ。厳選された場所での密会のような状態である。
「……さて、どう答えたらいいんでしょうかね。」
「おい、あんまりふざけた理由なら今すぐにでも戦うからな。」
硲の解答に異論を述べたのは藤島だ。
「……なぁ、硲。一言だけでいいじゃねぇか。用件だけでいいんだ。」
啓が硲に助言するが、硲はそれでも口にするのを躊躇している様子だった。
「何を躊躇しているのかはしらねぇけど、ロクでもねぇことなのは前科もあるし。」
藤島の率直な意見は紛れもない藤島の見解からは妥当なもの。
しかし、硲はここでついに言葉を許した。
「少しばかり、時間が必要なんです。」
「時間だと?」
大門さんの疑問が皆の代表のように放たれた。
そしてそれに答えたのは啓だった。
「俺たち、困ってるんだよ。この一帯に凶悪なゾンビがいるって情報があるんだ。」
「それって、どう見てもお前の事じゃないのか?」
九が聞いた。
「ゾンビってのは、たぶん……人間の言葉も何も反応しない連中のことだろ。
俺は硲につきっきりだし。そもそも人の事見た目で判断するのはやめろ! これは俺の力なんだよ!」
「もうどうでもいいだろ。バレてるのは明らかだ。」
全く、何をやってるんだか。
本題に戻さないと。
「時間が必要ってのはどういう結びつきがあるんだ?」
「凶悪なゾンビ……詳細は不明ですが、高い野生的感覚を有していましてね。
誰の研究かは知りませんが、強者である事には間違いありません。
故に必要なのです。奴を倒すか、深手を与える決定打が。」
「それには時間がかかるってのか?」
「ええ。まだ足りてません。策はあるのですが、時間の問題にはどうにも時間で対処するしか、
解決できないんです。」
「どうしてだ?」
「狩猟隊です。元々誰かの手柄だったわけですが、それを私たちが狙っていたってわけです。
しかし……このままだと元の方の手柄に戻ってしまうわけです。その誰かが
自分では手に負えない研究対象を資料にするために、別の策を持ってしてなんとか自分の手中に
おさめようとしている。今のご時世、敵が増えるのは私にとってもおいしい話ではないわけです。」
「結局お前の手柄になったら何をされるかわからん。真っ当な理由には程遠い。」
「本題はここからですよ。確かに……ゾンビを私が手に入れて資料にしても、
それだけでは誰かが同じことをもう一度繰り返すはずです。再度施行されれば二の舞。
そこで、狩猟隊をもこちらで一網打尽にしておく、というのが本音なわけです。」
こいつ、手柄よりも狩猟隊の撃破を目標に?
だとするともうゾンビの資料は手に入れているのか?
いや、それだと荷物があるはず。しかし、その痕跡は啓にも見当たらない。
信憑性はまだ半信半疑といったところだ。
「それに、ここでの暮らしには何か引っかかるところがあります。」
「どういうところだ?」
「まず、最近になって遠征が行われていないという点です。今までの事を聞いた時には
通常通りの遠征はあったはずです。しかし、まだ数日ですが……連続的に中断。
ゾンビってのはここでは野放しにできてしまうことなんですか?」
「そりゃ、アジトの事情もあるだろう。」
「高位能力者が上で指揮をとり、その下の能力者が先陣を切るんですか?
それはどう考えても平等ではありません。リーダーの意思を聞くにはなかなかの魅力がありましたが、
行動には出せていないというのは問題ですよ。」
「ま、それもそうだな。で、それだけか?」
「遠征先にも興味があります。ゾンビで町単位が完全制圧というのが少々。」
「そうか、だいたいわかった。」
幽が言った。
「そ、それでどうなんだ。幽。こいつらは白なのか、黒なのか?」
「今はまだ断定できないよ。根拠がないからね。」
藤島と幽の会話は啓を誘発させた。
「そこでなんだ、幽にぃ。あの時の事、黙っててもらえないか?」
「あの時?」
「そ、あの時。アレはばらさないでもらいてェンだ。ここにいる面子だけの秘密ってわけさ。」
「……いいだろう。」
「サンキューッ!」
「ただ、条件がある。硲、啓。ここでお前たちの力を見せてくれ。」
「…………。」
「硲?」
「持ってはいますが、見せられません。発現が弱いので不安定なんです。」
……こいつ、能力を保持していたのか。人間だってことは間違いではなかったみたいだ。
「なるほど。啓は?」
「俺は……『視察系』だったよ。敵の位置とかを把握するフツーの能力。」
「……わかった。」
「用件はこれくらいでいいですよね? 続きは別の機会にお願いします。私もここに居座る身ですので。」
「じゃーねー!」
硲は立ち去って行った。
啓も同じくして出ていった。
俺たちは負わなかった。追うと事実にますます遠ざかり、
警戒心を解くことができなくなってしまうからだ。
今はただ、黙って行く先をみるしかない。この目で。
しばらくして幽一行もその場所を後にし、皆の集うビルへと戻って行った。
「硲め……。」
何を考えているのかは知らないが、必ず暴いてやる。
そういえば、最近……その、加川たちを見ない。何かあったのだろうか……?
見守るしかない状況は穏やかであるが、不安要素は後を絶たなかった。
そして、ビル内で再び硲の元へと訪れた――――
「……熱弁でも振るってほしいのですか? あなた方は。」
「こっちだって本当ならお断りさ。」
再びあった時の硲は異様に疲れていた。疲労がまだ抜けていなかったようだ。
「そうですね、少し話でもしましょうか。」
硲が珍しく自主的に話題を出してきた。
「……。」
勇は黙り込む。ここでの判断は先を見ないとわからない。
「神についてでも語りましょうか。」
硲の突拍子な話題も後を絶たなかった。