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Death such as in nightmare  作者: C.コード
Episode.2:Daily of a new base
44/73

Mental undulation

サブタイトル『Mental undulation / 心の波動』

※硲視点です。

黒い雲が覆っていて、ポツポツと雨が降り始めていた。

戦いの終わりは訪れていたにもかかわらず、聖奈は苦しみ続けている。

今回の一連の事件はまだ終わりを告げてはいなかった……!












「ぅう……くぅッ!」

聖奈が何かを必死でこらえているように、片手で頭を押さえながらうめいている。

「ど、どうするんだ!?」

「対処するしかありません。この場で!」

「……どうすれば止められるんだ。」

「原因を把握しなければ何とも言えませんね。単なる能力の暴走なら……極度の疲労で止まるはずです。」

「俺の出番だな? 『悪徳信者の創生律(バッドスキル)』。」

「よくわかっているじゃないですか。……ただ、劣化版で務まるのかどうか。」

「流石に複数の能力同時に使うのは無理だぜ? 今の聖奈、モロ攻撃能力だ。

それに全方位の展開までできるとは……死角なしか。」

「術者は流石に安全圏内(けんない)みたいですね。能力の切り替えにはどれくらいかかりますか?」

「そうだな。切り替え程度なら一瞬でできる。」

「能力の……劣化(れっか)具合は?」

「まだ本物の半分くらいってところだ。」

「……聖奈はまだ相当な余力を残しています。どうあがいても長期戦は覚悟してください。」

「んなの、承知の上だ!」

啓が聖奈の元へと駆け出した!

「……『余力転移(ドレイン)』!」

聖奈はその場を動けずに今だ能力の()れであたりを衝動に包んでいる!


「お、おい、あんたの連れ行っちまったぞ! いいのか!?」

「いいんです。彼が、唯一これを抑えられる能力者。彼で収拾がつかなければ……。」

「収拾がつかなかったら、どうするんだ?」

「その時は……。」

「と、とにかく今はあいつを止めなきゃ!」

「待ちなさい! 聖奈の衝動に対抗できなければ今度はただでは済みませんよ!?」

「仲間のためだ! 覚悟はできている!」

いくら能力者の集団といっても一個人で対抗できるはずが……。

「全く、仕方ありませんね! 『領域網羅の幻想系譜(ボーダーリズミック)』!」

「能力者だったか……。策があるのなら、協力してくれるな?」

「今回は身内の危機ですのでね。サ-ビスですよ?」

あまり人前で公開はしたくなかった。しかし、収拾をつけるにはこれしかありません。

――――概存(がいぞん)能力『護壁付加α(オンリーシールド)』の起動を実行. 対象『新堂 啓』.――――


「聖奈ぁ!」

「うあああああ!」


バシュッ!

大きくはじける音があたりに伝わる。


「う……って痛みがない?」

よし、旨く行きましたね!

「啓君、今です!」

「え、あ、ああ! 喰らえぇぇぇぇ!」

聖奈の頭に手を当てた。

「うっしゃ、成功!」

「サポートします! 絶対に離れないでください!」

「ああ!」

く、代入が面倒ですね。

――――概存能力『護壁付加α(オンリーシールド)』の起動を実行. 対象『新堂 啓』.――――

「う、うう……。」

聖奈を取り巻く能力の漏れが少しだけ弱まった。

「お、おお、いける、いけるぞ!」

「これで、万事解決(ばんじかいけつ)と行けばいいのだが……。」

「おい、座光寺(ざこうじ)。あの少年の能力は不明だが、勝算はあるのかも知れんのだぞ?」

「素直には喜べないよ。そういうの、全部が終わってからにしてくれないかな。」

「そ、そりゃそうかもしれないが……。」

「確かに、座光寺の言うことは正しいかもしれないわ。だって、ほら……。」

夜久(やく)が指を差した先は、硲だった。

硲は目を(つむ)って集中している。

「何かの能力なのか?」

「今は邪魔しないで準備することね。」

「突撃のか?」

「……殺す準備よ。」

「夜久。流石にそれはまずいんじゃ……。」

座光寺の言葉を夜久は(さえぎ)った。

「あのね、能力者を止める一番手っ取り早い方法って何かわかる? 殺すことなのよ。」

「……フ、団員が団員を殺すなんてね。このアジトも落ちるところまで落ちてしまったのか。」

「団員ですって?」

「頭に血が上ってるんじゃない? 入団したのはさっきだけど、幹部の座、不信任な気もするね。」

座光寺の言葉を聞き、言葉に詰まる夜久。


――――概存能力『反射付加α(スキルミラー)』の軌道を実行. 対象『新堂 啓』.――――

「こ、これで少しは……。」

聖奈のほうを見やる。

「うぐぐ……!」

啓は確実に吸引して疲労させているが、聖奈の能力弱化(パワーダウン)は目覚ましいほどの速度にはならなかった。

「ったく、どんだけ吸いとりゃいんだよ……うちの妹は!」

「う、ぐぁぁぁぁぁ!」

キィィン!

金きり音に近い音程が周囲の耳に届く。

「な、なんだ!?」

ドゴォォ!

やや距離があるビルの上から瓦礫(がれき)が落ちてきた!

「危ねぇッ! いくらなんでもそんなのありかよッ!」


……反射がなければやられちましたね。それにしてもなんて破壊力ですか。

反射能力が一発で消し飛んでしまうとは!

幸いにも反射は正常でしたが……吸引がなければ貫いていてもおかしくない威力!

「ッ痛!」

硲が揺らぐ。しかし、なんとか踏みとどまり、姿勢を保った。

「こ、ここまでのものとは。」

流石に能力の使いすぎですか。あと2回ほどの代入が限界でしょう……。

……脳へのダメージを抜きにすると体を張ることも方法の一つでしょうか。

吸引能力を自分に代入して、護壁付加も加えて突撃……。

疲労スピードは増しますが、啓も私も生還できる保証はなし……。

一方、啓の安全に費やせば啓は無事に帰れるかもしれませんが、聖奈は助からない。

そもそも前者でも助かるかどうか。何しろ聖奈の容量は未知数に近い。


硲が案を練っていると……

バチチチチ!

「うああ!」

聖奈から次の衝動が周囲にまき散らされる!

フッ

「いい加減にしろッ!」

しまっ……護壁(バリア)が!

「聖奈、俺だ! 啓だ! わかるか!?」

「うぐ、け、啓……にぃ?」

啓を認識してからやや衝動の流れが弱まった。

「そうだ、俺だ!」

――――概存能力『護壁付加α(オンリーシールド)』の起動を実行. 対象『新堂 啓』.――――

「ぐぅぅぅぅッ! こ、これほどの痛みとは……。」

頭痛がひどくなって……きましたね。

「啓、にぃ……!」

聖奈の能力漏れの鎮まりが皆にはっきりと伝わった。

「聖奈……ったく、心配掛けさせるなよ?」

「どうして、ここに……?」

「お前がやばそうだったから、俺が助けに来てやったんだぞ?」

「あ、ありがとう。啓にぃ……。」

「もうゆっくり休め。だからもう我慢するな。」

「わかった、啓、にぃ……。」

聖奈は目を閉じた。その瞬間――――


バチチチチチ!!

聖奈から放出された青い電撃が啓を襲った!

フッ

そして、硲のバリアは一瞬にして消滅した。

「え?」

驚く啓。しかし、その時間すら許すことのない次手が迫った!

バシュッ!

「ぐはっ!」

な、聖奈の攻撃でバリアが……それにあれほどの距離まで飛ばすほどの能力!

「やべぇ……まだあんのか。」

壁にたたきつけられ、電撃まで浴びた啓はボロボロだった。

自分で回避することも困難を極める状態で聖奈の我慢から解放された最後の一撃が、

衝撃波となって啓をめがけて直線状に放出された!

「啓君!!」

……頭痛に関しては奇跡に託すしかないようですね!

――――概存能力『護壁付加α(オンリーシールド)』の起動を実行. 対象『新堂 啓』.――――






「うわあぁぁぁぁ!  ……って、あれ? なんで無傷なんだ?」

啓が見た先の聖奈はコンクリートに横たわっていて、場違いな寝息を立てていた。

「っはぁぁぁぁぁぁぁ、た、助かった! 硲ぁ! やったぞ!」

ところが、硲はおぼつかない足取りでその場をひき返していた。

「お、おい、硲?」

「……啓君。聖奈を運んでください。休養をとれば後は万事解決ですから。」

「あ、ああ。」

「万事解決か。俺たちは必要なかったみたいだな。」

「そうね。無益な殺生(せっしょう)がなくてよかったわ。」

「夜久……君、冗談だよね? 僕は君に対する印象が変わってしまいそうだ。」

その後、硲はなんとか頭痛を隠し、平常時を(よそお)いながらアジトの休憩所へと向かって足を運んだ。

啓は聖奈を運び、夜久が影山を支えながらその場から早々に去った。

休憩所の前で立ち止まると、硲が口を開いた。

「やっと、ですね。」

「っかぁぁ! 疲れ溜まる!」

建物の中に入ると、見覚えのある人物と目があった。その姿は――――


新堂 幽だった!!


「な、硲……ッ!」

「奇遇ですね、幽君。」

「てめぇ、なんでここに!」

「平和協定とでも思ってください。今は団結すべき時です。」

「貴様、あの事を……ガフッ」

「まぁまぁ新堂君。そうあせらないで。疲労も傷も全部癒えてからにしなよ?」

「詳しいことは啓君から聞いてください。それでは。」

会話を終わらせると足早に上の階へと昇って行った。

別のフロアに移ると、硲はばったりと倒れこんだ。

「おい、硲!?」

「啓君……後の事は頼みます……。」

「待てよ、おい!!」

脳を酷使しすぎましたか……啓君、お願いしますよ……?


硲は深き眠りに就いた。

この晩、アジトでは遠征も行われずに日程を終えて団員の休養を図る契機となった。

この日から聖奈は3日。硲は2日ほどの眠りに入り、その間、遠征は中止となった。

加川は事情を聴きとるまで新たな敵、またはゾンビと何らかの関係者に警戒する旨を報告した。

遠征は結果的に硲が目覚めた日の翌日まで行われることはなかった。

そして時は過ぎ、硲が3日の眠りから目を覚ます日の日差しが地上に差し込まれた。

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