bad combination
サブタイトル『bad combination / 凶悪な組み合わせ』
事実を知らざる人間と、狂気に満ち溢れた人間。衝突する時、本当の交戦が始まる――――――――
座光寺が、虚しき道路を一人で進んでいた。
彼にとって新堂 幽とは『赤の他人』であり本来ならば『興味を示すに値しない人物』であった。
が、それを大きく覆したのは『紛れもない実力』。
座光寺にとって平和とは『退屈』そのものであり、混乱を言い換えるならば『遊戯』の様だった。
今までのような平和な世界では得られない、目に見えぬ何者かが座光寺にとって
生きていくうえでの重要なスパイスだった。武道家の血を引いた所以か、
それともあらゆる偶然をはらんで生まれた狂気だからなのか。
だが、今の座光寺にとってはそれすらもどうでもよかった。
今は『新堂 幽』と同等か、それ以上の快楽を感じ取れるであろう『遊戯』を求めていた。
「新堂 幽か……。」
名前を口にしただけでも期待感をそそられる様な高揚に浸れる座光寺。
彼が今この場においてどれほどの影響を及ぼすのかを知る者が存在しない事と、
新堂 幽と江田 硲の衝突が無くなったことも知る人間はいない事。
あまりにも狂いすぎた状況の中でも只管に前へと進むという選択は
正解に限りなく近いものだったのかもしれない。
「座光寺……お前もか。」
「ん、相馬に夜久……?」
「一人で何しようってんだ。念力系が伝わらなかったわけじゃないだろうに?」
座光寺はこれに何食わぬ顔でさらりと回答した。
「相馬。確かにテレパスではそういう事は伝わっていたけど、今は状況が違うんだ。
緊急事態だし、敵は並じゃない。そうだろ?」
「そうか、……戦うんだな?」
「勿論。結構楽しみだからね。」
「お前をそこまでにする相手なら、俺たちも黙って見ているわけにはいかないな。」
「そうね。早いうちに始末しましょう。」
「芸がないなぁ。始末だなんてさ。戦うなら楽しまなきゃ損だよ?」
「生憎だが、余裕なんざこっちにはないんでな。」
「……全く、僕よりもましな能力があるってのに。勿体ない。」
「何が能力だ。座光寺、『今のお前』は俺たちからしてみれば戦闘凶にしか見えない。
その状態のときでも感情のコントロールができればいいんだが……。」
「感情なんてものは積まないほうがいいのさ。荷物を背負ってまで戦う理由はないからね。」
話しながらも足を進めていった座光寺は大きな十字路の道路に出たところで、
右に曲がる。ビルが立ち並ぶばかりだが、そこに不審な何かを見た。
「ん、あれは……。」
「何かいたのか?」
「人影……。」
「相手は人間か。いや、それとも新手のゾンビ……?」
「どっちにしろ手ごわそうね。今までつかまらずに徘徊しているなんて。」
「向こうのほうだ。」
座光寺が走り出すと相馬、夜久も続いた。
口には出さなかったが、座光寺も一応は『念力系』の使い手。
範囲内の人間の心を読み取る『心境潜水』がある座光寺には、
犯人を捕らえてしまえさえすれば自軍の目的は完了となる。
「面倒だな。ルナシーさえいてくれれば……。」
「来るよ。ルナシーは。」
「どうしてそう思う?」
「ルナシーは全部見えてると思うからね。誰がどこでどうしているかなんてあいつにとってみれば
大した苦労もなく把握できちゃうもんだから……差し詰め、居場所が見えているかくれんぼってところかな。」
「ルナシーはいつも戦闘部隊を組んで送るだろう。どうして今になって……。」
「俺たちが一つの隊として組んだことってあると思うかい? ないよね?
みんなどこかしらの戦闘部隊のリーダーだったから組む機会なんてなかったはずだよ。」
「そ、そういえば……。」
「だから、ルナシーもきっと違和感を感じてくるはずだ。部隊を送るなんて野暮なことはしないよ。」
一方、その頃……
「なぁなぁ、硲! ホントにいいのかよ!」
「何がです? あなたはこのまでいいんですか?」
「そ、そりゃ、むかっ腹が立つけど……引き際じゃなかったのかよ!」
「引き際というのは、一時退却すべきタイミングのことですよ。それに、
あまり望ましくないでしょう。『自分の獲物を盗られる』のは。」
「硲は熱心だよな……。幽のことは大丈夫だろう。強いし生き伸びてるし。」
「……だったら尚の事、対策を取らないと全部持っていかれてしまいます。
強いのはOKですが、中途半端な強さだと返り討ちにあう危険も高いですしね。
正直幽君を盗られると……厄介事が多いですからね。聖奈君も付いているとはいえ安心は……。」
「そうか。…………少数だけどもう動きが活発になってきてる。行くなら急ぐぞ。硲!」
「ええ! なんとしてでも阻止するのです!」
座光寺率いるアジト精鋭。ミネリー。硲が主戦場へと赴き始めた。
幽という歯車が抜かれた今、狂ったものは全て一つの終着点へと向かい始めていた。
そして、とあるビルにて……
「もう行くのか?」
「……誰かが、来ている。」
「強そう?」
「かなり。」
「そうか……。」
「それじゃ、もう行く。」
「気をつけろよ。」
ルナシーの名が刺繍されたローブを身にまとってビルを出た少年。
彼はビルから少し歩いたところで立ち止まり、空を見上げた。
「……空が泣いている。」
空は雲行きが怪しくなり、灰色の雲が覆っていた。
そのあと、すぐに足を進めていった。少年が進む先が『終着点』だということは彼しか知らない。
見渡す限り雲に覆われたこのアジト近辺はまるで何かを予兆しているかのように
着々と色の密度を高めつつある。
いよいよ、アジトを巻き込んだ唐突な遊戯は終盤に突入しようとしていた。