A matter of opinion
サブタイトル『A matter of opinion / 見解の相違』
現在、スタートから27分01秒が経過していた。 残り時間 2分59秒。
「手の内を見せてくれると考えれば、安い代償なのかしら?」
「今、手を引くなら丸く収まるんですけどねぇ……いいんですか?」
「ふん、なるほどね。相手にサービスしちゃったってことね。
でも、それも私にとっては興味深いわ。どうしても、知りたい。」
「……。」
もう、残り時間がありません。
そもそも、ゲームと名ばかりの『偵察』なんですから、本格的に捜索させてもらいたいものです。
なんせ、厄介な軍団。徒党を組むことに慣れていて、且つ能力者の集団。
相手の能力の段階は把握できましたが、規模は不明のまま。
このままでは帰れません……。
「停戦協定、にしましょうか。」
「寝ぼけてるのかしら?」
「クク、あなたにはメリットがあるかもしれませんが、私には何もない。
あまりに不釣り合いなことだとは思いませんか? ここであなたを始末しても私には
関係性が薄い。しかし、あなたはそれを自分にとって大きな利益とする……。
戦うにしてはハンデも大きいですし、こちらは逃げるという行為も不自然ではないので。」
「そうね、私を相手に逃げられるのならいいんじゃないかしら?」
「啓君!」
「OK!」
ガッ
「うぐっ!」
「フラーウィンド!」
「面倒なことしやがって。次は命ねぇと思えよ。」
流石、啓君ですね。『悪徳信者の創生律』があるとこうもうまくいくとは……。
「次はお前だ。」
「ふぅん、面白いこと言うじゃない。」
「面白くありませんよ。なんせ、こればかりは私もリスキーだと思いますから。」
なにせ、悪徳信者の創生律は――――
「な、な!」
――――相手の能力を複製して自分のものにできる能力ですからね!!
「バッチリ死んどけよ……!」
ドゴォッ
ミネリー周辺の床が砕け散る!
今回は『周辺爆破』ですか。
抑え目でしょうね。本来ならビルの中枢を破壊し、ビルごと巻き込むのは容易なんでしょうが……。
「爆破の能力……!?」
「面倒じゃないですか! 殺してもいいですよね?」
「いいえ、まだよ。未知なる解明があるかもしれないし、せめて生け捕りじゃなきゃね。」
ピピピピ、ピピピピ
30分ジャスト……!!!
「時間ですね。残念ですが、あなたたちには足止めでもさせていただきますよ。啓君!」
「もうやってるての!」
次は『照明』の能力で目くらまし。次のときには
我々は安全なビル崩壊余波の圏外で中枢どころか、ビルの下部を狙っての爆発連打。
柱なんて関係ありませんよね。何せ土台が崩れるわけですからね。
「……そろそろ時間です。」
「ああ、……ハッ!」
ドン ドンッ
爆発音が響く。のちに鈍く崩れる瓦礫の音。
「急ぎましょう。厄介なエースが出てくる前にね。」
「ああ、硲は相変わらず何事もないかのようにやってのけてくれるよな。」
「努力の甲斐と言ってほしいですね。相手は履き違えた上に選択を過っただけですけどね。
啓君のためにも時間は稼いだでしょう?」
「ああ、おかげで、拘束されてる間に盗めたが……。」
「ミネリーの眼は確かなものです。啓君の能力を複数だと危険視したと思われますね。
さらに、爆発という能力が予想だにしなかった能力のように対応の遅れ……。
普段なら真っ先に『氷結魔術』ですよ。なのに、使えなかった……。
つまり、完全に予想外で後れを取らざるを得なかった……。」
「ほうほう、そりゃぁ、お前相手なら知る相手こそ誰でも警戒するしな。」
「さらに言わせてもらえば、私のハッタリにもまんまと引っ掛かってくれましたしね。」
「本当は使えたんだろうにな……。ハッタリとかいいつつも、手の内を隠しただけだろ。」
「クク、鋭くて助かります。ま、盗めただけでも収穫ですかね。今回はもう引き際です。
拠点へ戻りますよ。」
「おう!」
去りゆく二人。ビルの崩壊を知る者はまだ、アジトの人間には知る由もなかった。
座光寺が去ってから幾分かが過ぎた。
「……」
「心配すンナ。座光寺はああなったら負けなしだ。」
「だけどよ……。」
「勝てるんだ。絶対に!」
……気がかりだ。聖奈と日向が……今、ここにはいるのか?
「な、なぁ、聖奈と影――――」
ドン ドンッ
「な、なんだ!?」
「……まさかな。」
「どうかしたのか?」
「嫌な予感がするんだ。」
「座光寺の強さを知れば、そんなことも言わなくなるよ。」
「わかった、わかったって……。」
ゲーム終了の旨すら知る手段がなかったアジトの団員は、さらに深入りすることになった。
自らの意思で……。
「痛ッ やってくれたわね……!」
「ど、どうするんですか。」
「もう、いや!」
「手ぶらじゃ帰れないわ。硲が来たからには理由があるはずよ。突き止めましょう!」
「わかりました。」
「……軽く終わらせましょう。」
硲の代役といってもいいほどの存在が、この地に訪れた。
そして、硲を負わずに、留まった。
事実を知らざる人間と、狂気に満ち溢れた人間。衝突する時、本当の交戦が始まる――――――――