Runner of limit
サブタイトル『Runner of limit / 駆者の限界』
スタートから今に至るまで、すでに7分30秒が経過していた。残り時間 22分30秒。
「啓君、どうかしましたか?」
「……ああ、さっきのスタート地点の方角あたりにおかしな気配があってな。」
「新堂 幽君ですか?」
「さぁな、流石にこの距離じゃ解析できねぇ……。」
「若干ですけど、面白味が出てきましたね。」
「そうかぁ? ……うし、こっちも終わったぞ。」
グチャッ 啓の右手が肉塊から引き抜かれ、血が滴る。
「このアジド、面積の割には警護が薄すぎますよ。よくもまぁ名乗れたもんです。」
「拍子抜けするのはもう慣れたけどよ、いくらなんでも雑魚すぎだろ。
こんなに弱い能力者始めてみた。」
「所詮は宝の持ち腐れってところですかね。才あるモノが持って初めて宝は宝と呼べる価値を生むんです。」
「なるほどな。こいつらは豚に真珠ってことか。ま、御似合いだぜ。」
「啓君はその能力、もう慣れましたか?」
「……ああ。『加護系』にしては珍妙な部類だから不安だったけど、容量は掴んだ。」
「そうですか。これで2つ目でしたか?」
「そうだな。1つ目は『視察系』だったからがっかりしたけど、こいつはかなり役に立ちそうだ。」
かなり嬉しそうですね、啓君。凶悪な笑みだと私でも思いますよ。
「ふふ、流石はインスペクトの中でも屈指の『円環支配の傍観者』の使い手!
研究した甲斐がありましたよ。」
「まだ使いこなせねぇけどな。セルフも『悪徳信者の創世律』と使い勝手が
未だに全部把握できてねぇし……。使いこなすには時間がかかりそうだ。
つか、そういう硲だって1つだけ持ってんだろ?」
「クク、そういえば話をしただけで披露した事が無かったですね。」
「そうだよ。気になって仕方が無かったんだ。後で見せてくれよ。」
「クックック。 そのうち見せてあげ……風向きが、怪しくなってきましたね。」
「……何かが、こっちに迫ってくる! このままじゃばったり出会っちまうぜ!」
「『円環支配の傍観者』で確認を!」
「もうやってる……! こ、こいつは――――」
「なんですか?」
「幽にィの反応だ!」
「なんとッ!」
期待が高まりますねぇ! さぁ幽君、早くこちらへおいでなさい! 目にモノを見せて差し上げましょう!
……なんとなくだが、こっちに硲がいる。
感覚と言うか、勘でしかないが分かっちまう。向こうから強烈な悪意が漂ってきやがる。
く、未だに涙が止まらない。聖奈のことは、もう終わったはずなのに。止まらない……!
そう思っていると、俺はあるいていた。建物の角を曲がると、白衣の男と人ならざる男がいた。
「……幽にィ!」
「本当に幽君でしたか。驚きです。」
……こいつらのせいで、聖奈が、聖奈が……!
硲に対する怒りは本物だが、啓……お前に対しては複雑な心境だ。
姿形は依然と違えど、もとは血のつながった兄弟だ。こんなことになっちまうなんて……。
本当に、どうして、硲の側に着いたんだよ……!
「幽にィ、泣いてるのか……?」
「……覚醒しましたか。」
「お前のせいで、聖奈が、聖奈が……!」
「聖奈に何かあったのか?」
「…………。」
俺はもう、言葉を発しなかった。発せなかった。複雑すぎて、怒りが満ちていて。
もうただ視線を浴びせるだけだった。矛を片手で構える。水平に左手で持ち、
歩いて近づいた。
「『解明』! …………な、『ティルフィング』……!?」
「な、なんだそりゃ!?」
「……流石、啓君の兄! 高貴な能力まで繋がっているとは……!」
……理解できない。こんな風に、命を絶つなんて。ふざけるな。ふざけるな!
お前たちの足元に横たわっている人たちの命も、お前たちがやったんだろ…?
人の命は安くないだろ!
コイツラニハ、味ワワセテヤル。 人々ノ痛ミヲ……。
「うぐっ! あああああああああ!」
「な、なんなんだこれ!」
「覚醒のレベルが高すぎですね! 一体何が幽君をここまでにさせているんでしょうか!?」
「聖奈に決まってんだろ……!! やばくねぇか!?」
……
辺りが鎮まる。
「幽君?」
……返事はなかったが……
ギロッ 視線が硲を向く。
直後、幽がすさまじい速度で硲目掛けて地を駆けた! そして、掌を眼にもとまらぬ勢いで突きだした!
「危な……グフォッ!」
ドシャッ 手ごたえのあった感覚だが、硲ではなかった。啓だ。
啓が身代わりになって硲をかばっていた。
「ゲホッ、お、おい、これが覚醒初期のレベルか……!?」
「相当な使い手。それも、最強レベル。決して太刀打ちできなくは無いですが、
代償も高くつく。それほどの相手ってことです。」
「引いた方がいいか?」
「そうですね。捕まらなければどうという事は――――」
ヒュッ!
「フッ グぅぅッ!」
見事に呼吸の隙間に入り込むがごとくの自然で素早い動きで硲を自分の射程範囲内に、
いとも簡単にその位置に至るまでの過程を通過して突きだされた嘗拳。
硲はすんでのところで両腕で防御したが、勢いで突き飛ばされた!
そして衝撃が硲の体の芯にまで響いた。
「流石にこれでは分が悪い。……さぁ、捕まえてみてくださいよ、幽君!」
タンッ
跳躍で華麗に弧を描いて飛んだ二人。そして、建物の向こう側へと姿をくらました。
「う、ぐ、はぁ、ああ……。」
力が抜けていく。この脱力感と睡魔は一体……
そして気を失いかけそうになるが、ハッと意識を取り戻す。
「ま、まだだ……!」
現在 スタートから14分07秒が経過していた。 残り時間 15分53秒。




