ruins
サブタイトル『ruins / 廃墟』
東条 春と、河上 佐久と名乗る二人組に先導されるままに、
俺達は道を歩いた。彼らの言うアジトのメンバーに加わることに同意した俺達だが、
アジトとは、一体どんなものなのだろうか……?
「もうすぐそこだ。」
東条 春が言った。
「あのなぁ! それ何回目なのか言ってみろ!」
「そんなこと言われたって、しょうがないだろ。リーダーの作戦で、このルートをしっかり通らないと
敵とみなされちゃうんだからさぁ。」
九と東条の口争いが勃発している。
九の言う事にも若干同じ意見は出る。もう何回もそんなこと言われたよ。
俺は3回目から数えるのをやめてしまったがな……。
「ったくよぉ……。それで、そのお前のリーダー様のお考えになったルートとやらは、
今何割ぐらい進んでるんだ?」
「9割9分9里といったところかな。あ、ここ曲がったらまっすぐ行けば大丈夫。」
「てめぇ! やっぱりなめてんのかァァァァ!」
「落ちつけぇ! 九ッ!」
憤る九を藤島が抑える。
「やれやれ、これだから野蛮人は……。」
「佐久とか言ったな! 後で覚えてろよ!」
「あのねぇ、君。いくら僕が直接戦闘に影響を及ぼさない能力だからと言って、
油断してると痛い目にあうよ? 僕だって何回も経験してきたんだ。」
「てめぇの経験談は聞いてねぇンだよぉぉぉ!」
……ダメだ。九は完全に感情のコントロールが出来ていない。
九のやつ、朝に騒がれるとイライラするタイプか?
「九。もうゴールは目の前なんだから、落ち着いてもいいんじゃないか?」
「幽は甘い! 見ず知らずの人間だからって奥手だと、不意突かれんぞ?」
ハァっとため息交じりに九は言った。
「そうかもしれないが……俺たちだって、伊達にここまで生き延びてきたわけじゃないだろ?」
少し余裕ぶった目線で九を見やる。それを見て九もイライラを抑えて、いつものような、
余裕に満ちた目線を浮かべた。
「ああ、そうだろ。俺達は死線潜ってきたんだ。アジトぐらいどうってことねぇよ。」
「だったら、敵意満々にしなくても良いと思うぞ?」
そう、九はイライラと同時に敵意もばら撒きまくっていた。
堪えかねた東条達は今まで意外というぐらいにまで道中は話をしなかった。
が、敵意に感化されたのか、終盤はさっきのようにとうとう口を開いてしまったというわけだ。
比較的クールな『河上 佐久』もしゃべりだすのだから、彼らもかなり敏感に感じ取っていたのだと思う。
「はいはい、分かったよ。」
ついに諦めたのか、九から放たれた敵意は消えた。
おかげでいままで怯えていた聖奈もホッとしてくれたよ。
「先に行っとくが皆、何があってもアジトで隊列に関しては文句なしだ。
バラバラでも、ちゃんと役目を果たすように!」
釘を差しておかないと、九が何をしでかすのか分かったもんじゃないからな……。
「さぁ、入って入ってー!」
「さっさとするんだな。」
なんだこのもてなし方は……!
そしてこの建物は!
アジトと聞いていたんだが、これは見当違いもいいところだ!
「ここ、アジトって本当なのか?」
「マジマジ。マジもんです!」
「嘘だろ!? ここって……」
そう、ここは紛れもなく……
「廃病院じゃないか!!!」
廃病院。ゾンビ出現前ですら忌み嫌われたスポット。心霊スポットで有名だろう。この状況は。
ゾンビが出現しているから、今更心霊現象を怖がることはないが……
「中はゾンビはいないよ。元々人いないし。機材も全部外に放り投げたし。薬なんか薬品関係は、
ぜーんぶ、遠征の時に投げ捨てたよ。中は調達した武器やら、食料やら、寝床とか。
お化けが出たとかの報告は今まで一切出てないから安心しても大丈夫だよ。」
「そ、そうか。ならいいんだ……。」
危ない薬品関係が無いなら大丈夫か。人が住めるならまぁ、ありがたい場所ではある。
俺達は足を踏み入れた。
「ぶっちゃけ、ここはアジトの一部でしかないんだけど、休憩班が使ってる。ホラ、人いるでしょ?」
「ほんとだ……。」
人はいた。ピンピンしてるような人ばかりだ。
「なんだ、東条か~。脅かすなよ~! もう交代なのかと思っちまったよ。」
「んなわけあるか! 1日分のスケジュールぐらいリーダーはしっかりやってくれてるだろうが!」
「そうか、そうだよな! アハハ! にしても、後ろの連中は?」
「ああ、『把握系』の連中が見つけた生存者だ。リーダーが待ちわびてるから、
さっさといかなきゃならんのでな。んじゃ、またな。」
「さっさとリーダーのところにいってやれよ! 後、遠征中止おめでとう!」
「サンキュー!」
少々理解に困る単語やら会話やらがあったが、まぁ……リーダーに詳しく聞かせてもらえることを願う。
「さっきの会話からすると、東条……寄り道とはいい度胸だな。」
俺は若干怒り気味に言った。こんなもてなし方があるか?
リーダーのところじゃなくて、他の連中にあいさつしに行くなんてどうかしてる……。
「悪かったって! ちゃんと案内するから!」
今度は廃墟ビルらしい高い階層の建物に入った。
見てみると、1階の広間に格の高そうな人達がかなりいた。
どうやらここで話し合うらしいな……。リーダー以外は皆、各自で何かしている。
上の空でいる男、そして話し合っている男女ペア。真剣な目つきでこちらを見る男性。
「君達だな。生存者と言うのは。」
「はい、こいつらが生存者。総勢8名です。」
「東条、ご苦労だった。もう下がっていい。」
「はーい。」
そう言うと、東条も河上も去っていく。
「さて、まずは自己紹介から始めよう。 私は『加川 和』だ。
空を見てるのは……『座光寺 雅』。武道界の名門家の息子だ。
男女ペアは男の方が『相馬 來斗』。女の方が『夜久 玲南』。
他の重要メンバーについては後ほど連絡を入れる。」
「は、はぁ……。」
一気に詰め込みすぎて把握に困るぞ……。
「徐々に慣れていけば問題は無いだろう。君達の寝床はここの4階だ。
指定された階ならどこの部屋をつあってもかまわん。ただし、他の人も使うから平和的に頼むぞ。」
「は、はい。」
「今日はこちらも特に目立った事をするつもりは無い。ゆっくり明日に備えるなり、
連携を深めるなり……時間を有効に使ってくれ。」
「分かりました。」
俺達は4階に荷物をまとめた。ここは意外にも平和的な連中ばかりだ。
窃盗にあうのではと危険視もしたが、大丈夫そうだ。
「フゥ、……皆、解散していいぞ。ここで俺達だけが固まってもここにはなじめないと思うから、
各自でアジトに慣れれるように努力してみてくれ。」
「分かった。行こうぜ、藤島。」
「あ、ああ!」
九と藤島は先に行ってしまった。
そしてそれを追いかけるようにしてついていく華憐。
大門さんは吉成とペアを組んで階下に降りた。
俺は……
「聖奈、幽にぃとがいい!」
ということになり、聖奈とペアでアジト巡りだ。
「私も同行願いたいのだが、よろしいかな?」
影山 日向さんだ。
「もちろん、いいですよ。」
「ありがとう。恩に着る。」
こうして、各自で行動する日常が幕を開けた。




