Observers of occurrence Scene.5
サブタイトル『Observers of occurrence / 観測者の出来事』
『Scene.5 / 回想5』
※硲視点です。
個体のレポートはだいたいはすぐにとり終わった。
そして、5名が全員無事に今、HT-001をお目にかかろうとしていた。
場所は館内ではなく、外の特別な室内だった。
「クク、ついに来ましたねぇ。」
「ああ、やっとだな。」
風見が言った。
「彼女が、HT-001です。」
隣には、少女が立っている。
「クク、なんともまぁ可愛らしいですね。」
少女がこちらを見た。禍々しくも鋭い視線で睨みつけるようにこちらを見てくる。
が、こちらも引く気は無かった。純粋な願いとしていたものが目の前にあるのだから。
「貴方……。」
「構わなくて結構です。能力を今この場で見せてください。」
「分かった。見せてやる。」
すると動いたのは別の人物だった。
ガバッ
動いたのは島坂だった!!
手に瓶のようなものをもち、HT-001……夜霧美鈴の鼻に当てた!
「うぐっ!」
「貴様!」
風見がすぐにおさえかかる。
しかし……!
「ず、頭痛が……」
「美鈴! 大丈夫か……?」
「に、逃げて……このままじゃ、抑えきれない!」
「島坂、何の薬剤だ?」
「興奮剤さ。超強力なやつ。ゾンビの周りにいた人間って、そういう面でも凄く強いんだ。
頭痛がするほどの強い作用だけど、興奮作用はそれ以上ってところかな。」
「それが、お前の目論見か。」
「ああ、そうさ。」
「何が目的なんだ?」
「素直に言うわけないでしょ。んじゃ、俺はもうここには戻らないよ。
外でじっくり自分の研究を続ける。お前らも首を洗ってまってな。俺がいずれ、
ゾンビの研究で日本を変えてやるからよ! じゃあな!」
逃げ出した!
「島坂!」
「無理無理! お前らには追いつけねーよ!」
あっという間に脱走を許してしまった。
「やはり、噂は本当だったか……。」
「噂?」
「あいつは、自分にウィルスを撃ったって話さ。一部だけウィルス化させても尚、制御させる
っていうのを見つけたって自慢してたらしいぜ。」
「今の今までレポートには書かなかったのか!?」
「そういうやつらしいな……。」
「それより、美鈴!」
「ウゥゥウ……逃げて、ニゲテ……!」
「美鈴……!?」
ギンとした目で夜霧は硲を見た。
「アンタハ……ウッ!」
スッと立ちあがって夜霧は駈け出した!
「ま、待て!」
夜霧は一気に階段を下りて、外に抜けて行った。
「嘘だろ……?」
色々ととんでもない事になってしまったが、話は後だ!
「上に連絡を!」
皆がそれに従った。結果的に今回の事は全てにおいて延期となり、
結果報告も無しとなった。
覚醒少女が脱走したことで、上層部が決めた決断は
『この研究は、本日を持って凍結とする』
そして、時は翌日。
「どうしてですか!! どうして凍結になったんですか! わけを聞かせてください!」
ドアを岬が何度もたたく。
かれこれ粘って小一時間がたとうとしている。
私、硲もそこにいるわけですが……流石に色々と察しがつきますよ。
こんなのが公にされたら、そりゃ責任は負いきれないでしょうね……私だって、
そんな目にあうくらいならさっさと断ち切りますよ。
すると、ようやくドアの向こうから声が聞こえてきた。
「普通のゾンビならまだ処理が利いたんだ。だが、彼女はダメだ。
無理だ。頭痛が起こるほどの興奮状態は1,2日やそこらで消えるものじゃない。
そもそも、島坂が使った薬剤の詳細が彼独自のものだとわかってな……。
対処法も未だにない。鎮静化も望めない。こんな状態でしか、罪を割ける方法は無いんだ……。
君も、延命したいだろう? 疑われる領域で済むならそれに越したことは無い。
国と契約したおかげで幾分か積荷は減ることにはなっているが、
バレたらお終いだ。 そういうわけなんだ。もう、帰ってくれ……!」
最後の声は悲痛だった。
「そんなむちゃくちゃな!」
「岬君!」
「!?」
「……あきらめましょう。」
「君まで……!」
「公になったら、必ず責任者は罪をかぶせられます。
そして、そんなことになったら事によっては海外もその事に注目するかもしれません。
そうなったら、誰にも止められません。そうなる前に、最小限の被害ですませるほうが賢いです。」
「…………分かった。君が言うなら……そうだよな。」
これも、結果なのです。
「我々には、ここまでしか到達できなかった。」
仕方ありませんよ。
「もう、……」
しかし……
「本部のここは事実とともに抹消されるでしょうが、……支部なら生きてますよ。」
「支部?」
「私はそこそこの地位を得てますからね。上層部から研究施設の取引もありまして。
そういう目的の研究所、持ってますよ?」
「ほ、本当か!?」
「ええ、共に研究しませんか? 行くところまで、行きたいとは思いませんか?」
「……俺は、未知の領域を見てみたい。」
「なら、決まりですよ。行きましょう。研究所へ。」
「ああ!」
あの事から、大分月日はたった。結局、夜霧美鈴なる少女はTVのニュースにも、
新聞にも取り上げられることは無く、インターネット上にも、
その名前でヒットされることはなかった。完全に、事実は闇に包まれた……。
「支部の使い心地はどうですか?」
『ああ、大分慣れてきたよ。そろそろ、データを送ろうと思う。』
「お願いします。明日ぐらいにでも面会しましょうか。」
『ああ、それがいい。このご時世じゃ、区域内なら平気だろう。』
「そろそろ、別区じゃ抗争がはじまってます。ここもそろそろ……堕ちる日ですよね。」
『いつでも、堕ちるがいいさ。君が始めた事だ。君の手で……』
「ええ、それでは、ガス型の物を大型のショッピングモールにでも仕掛ける段取りを
早速立てます。あなたも、もちろん考えてくれますよね?」
『ああ、やるなら、今がチャンスだ。』
「クク、良い時間帯でセットして、ガス型でバラ撒きますよ。
作戦の考案、よろしくお願いしますよ?」
通話が終わった。硲の思惑と同じようなものが展開されるのは、今から約3カ月ほど後の話で、
その期間の間、彼らの意志に乗っ取る形で新たに悪夢を作り出さんと
ウィルス拡散の助力した人数は、あの本部の研究員の内の20人ほどまで集まった。
彼らが結束した日が11月13日。 そこから、1ヶ月と少し後、
人々は死と悪夢の中のような酷い世界に生きることとなる。