The end of building
サブタイトル『建物の末路』
啓……人間の所業を越えたお前はせめて俺達の手で……。
「聖奈の血が着いたダガーだ!」
余裕のあった啓の顔つきが一気に恐怖の顔へと変わった。
原理は知らないが、聖奈の血にはゾンビ化の治療をすることができる。
だが、祖父の手紙には重度のゾンビ化状態にある者に使うと死に至ると書いてあった。
宿主の体をも変質させるほどの脅威的存在だが、これには勝てまい!
死に至るとまでは到底思えないが……何しろ変質が凄すぎるからな。
ゾンビが出現してからの日を計っても早すぎる。しかし、人間から逸脱した姿はまぎれもなく現実。
「ウグ……ッ!」
「許せ、啓……!」
「ぐああああああああああああああッ!」
痛みで激しくのたうち回っている。だが、ゾンビ化の進行を浄化されるってのは、
そんなものじゃないはずだ。なにしろ通常のゾンビには死に至るほどの猛毒のようなもの。
「行くぞ、聖奈!」
「う、うん。」
急いで階段を下りた。血は少しだけ多めにしたからなんとか時間は稼げるはずだ。
4階のチームの部屋に戻る。
バンッ 勢いよくドアを開ける。
「皆!!」
「幽!」
「藤島……だけか?」
「どうしたんだ?」
「急いでここを出るぞ! もうここはダメだ。食糧も水分も積んであるんだろ?
すぐに準備してくれ! もう時間がないんだ!」
「わ、分かった……!」
後ろから誰かが入ってくる。
「新堂? 無事だったか!」
皆が入ってきた。香憐も、吉成も、大門さんも。
「急いで荷物を持ってください! もうこのビルにはいられない!」
「え!?」
「あのゾンビは強い。いままでのゾンビをはるかに超える格だ。」
ああ、そうだった。トランシーバーで連絡を取らなきゃ!
急いで会話を周りに発信する。
「皆、急いで荷物を纏めてビルを脱出してくれ! 今7階でゾンビがやられているが、
時間がもうないんだ! 第6チームも今ならまだ間に合う! 構わず降りてくれ!
他の皆もなりふり構わずビルから脱出して散ってください!
僕達第8チームは荷物をまとめ次第脱出します。7階にいるゾンビからなんとしてでも逃げるんです!」
急いで言ったが、多分大体伝わったと思う。
さて、俺達もこれ以上長居をするわけにはいかない。
今の啓は、もう以前の啓じゃない。生きている人間をも殺せる。
罪なき人間も殺せてしまうんだ。躊躇や戸惑いがないやつは強いんだ。
未だに戸惑いがある俺では互角といったところか。あれ以上続けなかったのは、
俺の心のどこかに啓に対する情があったからだろうか……?
「荷物は大体OKだ。準備も万端だぞ!」
「よし、脱出だ!」
ドアを出る。階段を下りているとまだ啓の叫び声が聞こえてくる。
すると、連合のメンバーに出会った。
「新堂君! これは一体……?」
「ゾンビの仕業です。もう持ちません! 7階でいまだにゾンビが叫んでますが、それだけの間しか
持ちません。ゾンビを倒しに7階へ向かうのも、諦めてビルを出るのも自由です。
僕は脱出します。僕達はもう応戦できない! では、失礼します!」
「あ、君達!?」
俺達は駈け出した。出口を目指して。
ゾンビは入口にはいない! 今が好機! 階段の奥に見えるゾンビの数も少ないぞ!
ドアを通り、外に出た!
「こ、これからどうする!?」
「そうだな、これからは……」
「ちょっと待ちたまえ。君達。」
声を放ったのは階段から昇ってきた男だ。白衣を着ていて、年齢は若そうだ。
黒髪でオールバック。初対面だというのにこの男、表情は笑っている。このいかにも俺達が焦りと恐怖で
戸惑っているのもすべてを愉快そうな視線で見ている。
「あんた……。」
「ん、私かい? 私の名は『江田 硲』。とある研究室で研究員をしている。
相棒を迎えに来たんだ。」
「そう、ですか。」
危険なにおいがする。普通の人間のはずなのに、ゾンビ……いや、啓よりも恐ろしい気がする。
「行こう。ここにいたら危険だ。」
「あ、ああ!」
「とにかく離れるしかなさそうだ。」
無事に全員が揃って逃げれた。もっと、もっと遠くへ……!!
その後のビルについては分からない。
あの時にトランシーバーで伝えた事。連合の人に伝えた事。
しっかり聞いてくれて、皆が無事でいてくれる事を願う。
ただ、色々と気がかりな事はある。啓の事もそうだが、研究員が最も気かがりだ。
啓よりも凄い気配がした。威圧と言うかそんな感じのものだ。殺気ではないのだがな……なんだか、
大事な事を見逃してしまった気がする。そういえば、硲さんは一体なんの研究員だったんだろう?
俺達は、とある場所に来ていた。巨体のゾンビが通ったがために遠回りを強要され、結局
通過する事が出来なかった場所。そう、あの場所だ。
無言だが、誰もが認知している。刻まれた記憶がよみがえる。
宿命のように回る時の歯車。それを俺達に再度確認させようとするかの如く、
目の前には微かだが堂々とした歩行でこちらに近づいてくる者がいた。
「新堂、あれは……。」
「あれ、だな。」
「あいつか。」
「怖いです……!」
「幽にぃ、負けないよね?」
「幽さんが負けるはずないですよ。」
いよいよ、決着をつける時が来たとでも言いたいのか? あいつは……。
巨体が俺達に刻一刻と地に跡をつけて迫ってくる。
ついに決戦の時だ。
「皆、決心はついたか? 油断するなよ。」
「ああ。」
「もちろんだ。」
「私は……どうすればよいのでしょう?」
「木刀あるから使ってくれ。」
荷物として持ってきた者を渡した。
「ありがとうございます!」
「頭部と急所狙いだぞ。」
「は、はい!」
「聖奈も頑張る!」
「よし、覚悟はいいな? ……来るぞ!」
聖奈はなんだかんだでいつでも冴えているというか、マイペースを貫き通しているような気がする。
本当は危険な目にあわせたくは無い。短期決戦だな!
ゾンビがこちらに気づく。ギラつく目線と俺の目があった。
「ヴオオオオオオオオ!」
猛突進で巨体が迫ってきた。
人間とゾンビ。それぞれの思念を抱いて雌雄を決する戦いが火蓋を切った!
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