It name is "Kei"
サブタイトル『It name is "Kei" / その名は"啓"』
俺は第6チームの元へと足を運んだ。7階の第6チームのドアの前に立つ。
流石に、ここまで怒りを引きずるのはあれだよな。冷静になれ、俺!
感情を堪えつつも、そのドアを開くのであった。
コンコンとノックをする。すると、扉がゆっくりと開かれた。
「……あんたか。何か用か?」
例の下っ端が出てきた。情報が送られてきて知ったが、名前は『空知 信』。
珍しさもあって名前はすんなり覚える事が出来た。
「ちょっと聞きたい事があってな。全員揃ってるか?」
「ああ。中に入ってくれ。」
怪我の方は大丈夫らしい。皆もそこそこ痛そうにしている者もいるが、普段の行動には師匠はなさそうだ。
これなら実戦でもおそらく大きな影響は無いだろう。
「幽か。ここには確かに全員揃ってる。聞きたい事っていったいなんだ?」
「……啓の詳細についてだ。」
「……なるほど、な。」
皆の顔つきが変わる。
「啓は俺達の元リーダーって話は聞いただろ? このメンバーが揃ったのはちょうどクリスマスイヴの日だ。
あの時から俺達はずっと行動してきた。幸いにもこうして武器が揃ってたからな。
なんとかメンバーが欠ける事もなくこうしてここにたどり着いたってわけだ。」
「そこで最初の防衛戦が始まったってわけか。」
「そうだ。こうして武器も揃ってる俺達はすぐにビルの付近のゾンビ共の殲滅にあたった。
その時はしっかりいたはずなんだ。だが、ゾンビ共を粗方始末した時にはもう……。」
「ゾンビはビルの前にまだウヨウヨしていたぞ。本当に殲滅していたのか?」
「ビルの中まで侵入するゾンビはいない。何しろ、昼夜交代制の方針を取っていたからな。
ビルの手前の階段までは確実に始末することで必要最小限のリスクと人員を保っていたんだ。
俺達は例外で実戦派だ。啓もいたからな。それで階段よりも少し範囲を広げてなんとか
ゾンビを追い払ってきた。だが……今はそうもいかなくなった。」
……やはり、啓がいなくなったからだろうか? 啓は腕もそこそこ立つと俺も思う。
だが、実戦派だと主張している割には一気に弱気になりすぎじゃないか?
「啓はいなくなる前に何か言っていたか?」
「いや、特に何も言わななかったよ。加入決定時にしっかり物資も受け取っているし、
ちゃんとトランシーバーも持っていたはずだ。」
「連絡はとれるのか?」
「いくら連絡を入れても反応は無かったよ……。」
「クッ……。」
まさかな……啓がヘマをするとは考えにくい。
色々考えても啓が戦線で姿を忽然と消す要因が見当たらない。
トランシーバーの反応は……そうだ。
「啓のトランシーバーの反応はどうなんだ?」
「トランシーバーの反応はあった。だけど……返事は無かった。」
このトランシーバー『PT-2000』は相手のトランシーバーの有無を確認できる。
メールでもなんでも対象のトランシーバーの反応が返ってくる仕組みになっている。
つまり、トランシーバーが壊れていれば反応は無く、反応があればトランシーバーが機能している事になる。
これにより仲間の生死、登録メンバーの生存も大体だが明らかになる。
トランシーバーはモードの切り替えがない通常の状態だと1時間放置状態になると電源が勝手に落ちる。
このモードは常に維持されるが、振動や温度を感知していないとモードも勝手に解除される。
そして反応があるという事は啓はまだ生きているという事が証明されたのである。
……ただ、何をするにしても電源ON時のパスワード入力が最初で最後の壁であり、
電源を切らさなければ簡単に他人にでも使えてしまうというのが欠点だ。
せめて悪用されているなんて事だけはないように祈る……。
「でも、お前がこうしてここに来るなんてな……。啓よりも鬼気迫るものがある。」
「色々あったからな……。最初は4人メンバーで戦闘員も俺だけだったが、
なんとか6人メンバーで戦闘員3人。2人は援護とか補助、1人は非戦闘員だがな……。」
「確か、地区最強なんだろ? 啓もお前の事を言っていたよ。」
「地区最強なんてもうただの過去でしかないさ。」
「謙遜したって無駄だよ。最強なんだろ?」
「ハハ、前にも言われた事あるようなセリフだ。」
「啓はお前に憧れていたみたいだ。強く在り続けるお前にな。」
「そう、か。啓はそんなことを言っていたのか……。」
啓、お前は俺みたいになりたかったのか? 強くても、実際には喧嘩ばっかりな日々だった。
俺は啓にはそんな道を歩んでほしくは無かった。結果的に言えば、啓は普通の学生らしい生活を
送っていたように見える。だから、俺はすごく安心したぞ。俺を目の敵にしてるような連中が
お前を目につけたりしてないかどうかって。だから強くなくてもいいと思ってたんだ。
だけど、少しずつ稽古をつけていたりしていたのは正解だったかもな。
普通の学生らしさと強さも兼ね備えたやつなんて、もう啓にしかなれないよ。
過去の俺に張られたレッテルはもう取り除けない。……本当は俺も啓が少し羨ましかったし、憧れてたのかもな。
沈黙を破ったのは一史のトランシーバー。メールが来たようだ。
「すまん、ちょっと待っててくれ。」
「ああ」
「誰からだ?」
徐に聞いた第6チームのメンバーが聞いた。すると、
「こ、これは……!」
「どうした?」
「まさか、ゾンビか?」
「今は確か……第3チームがビルの入り口付近を見張っているはずだぞ。」
「一体何があった?」
一史は言い放った。
「新堂啓からのメールだ……!」
「!?」
「ほ、本当か!?」
「やっぱり生きてたんだよ!」
「これでこのチームも……!」
「読むぞ……
『第6チームの誰でもいい。可能なメンバーを代表で一人選んで空白メールを返してくれ。』」
「代表は俺でメールを返すぞ……。」
返信したようだ。数十秒後に今度はトランシーバーから音声が流れた。
『よう、一史。俺だ。新堂 啓だ。元気にしてるか?』
「啓!! 一体今までどこに……!」
『まぁ待て。積もる話もあるだろうし、ビルにお邪魔させてもらうよ。
部屋は変わってねぇだろ?』
「ああ!」
「啓! 啓なのか!?」
俺が言った。
『んぁ? その声……幽にぃか!?』
「啓なんだな!」
『やっぱり生きてたんだな。でも、まさか身近にいるなんてな……。幽にぃも一緒みたいだな。』
「ああ、そうだ!」
「それじゃ、そろそろビルにお邪魔させてもらうよ。部屋でしっかり待っててくれよ?
俺もすぐにビルからさっちまったからな。あんまり場所覚えてねぇんだ。」
「分かった!」
これで会話は終わった。啓が生きている事が揺るぎないものとなった!
これで、これで……!!
「ん、おい、なんだこの揺れは……。」
「揺れ? そういえば少しだけそんな気もする……。」
「少しだけだが確かに揺れているな。」
「なんなんだ?」
「気にする事でもない気がするが……。」
「こんな時の為のトランシーバーか。」
俺はトランシーバーの一覧で通話することにした。とりあえず指定なしで。範囲内なら誰かが会話を拾ってくれるはずだ。
「もしもし? 誰か聴こえてますか?」
すると、意外なほど早く、そして衝撃的な言葉が返ってきた。
『新堂か!? た、大変だ! いままで見た事もないゾンビが……!!』
「な……ッ! 守備はどうなんです!?」
『1階で暴れまわっているんだ! 第3チームメンバーは全員3階にいる。無事だ。だが、誰がやつを……。
あいつを抑えられるかで必死で討議している。対策も練っている最中だ!』
「……!! 一体どんなゾンビなんです!?」
『人と同じで立っている。が、知能もあり、言葉も話す。と第3チームが証言している。
武器も扱えるようで、手には強靭な爪があるそうだ。』
「相当厄介なタイプです。僕も一度だけ知能を持つタイプは見た事があります。
何としてでも逃げるか倒すかしないといけません。早急に決めてください!」
『……分かった。持ちかけてみる。君達は7階か? そこで待機していてくれ!
いざという時の為にな……! 後、聖奈が君達の方へと向かっているはずだ。見つけたら早急に保護するようにな!』
「は、はい!」
会話はここで終わった。
「お、俺、聖奈を迎えに行く!」
「分かった!」
ドアを開けると、階段から昇ってきた聖奈の姿があった。
「あ、幽にぃ!」
「聖奈! こっちだ!」
聖奈が走って寄ってくる。
「聖奈、疲れたよ~……。」
「聖奈、悪いけど部屋を移る。第6チームも移動してくれ!」
なんだか嫌な予感がする。
「ど、どうした?」
「危険なゾンビがビル内に侵入して来てる。もしもの時の為に部屋を移し替えよう。この部屋と
階段がドアから見える向かいの部屋がいいと思う。中央は空洞状になってるし、危険も回避できると思う。」
「分かった。全員、向かいの部屋に移るぞ!」
「ああ!」
「向かいだな。」
全員が向かいの部屋に移った。俺と、聖奈と、啓を除く第6チームメンバーがこの部屋にいる。
「声は絶対に出さないようにお願いします。話す時も小さな声で……。」
ドアを少しだけ開けておく。隙間からしっかり階段も部屋も見えるぞ。
トランシーバーで第3チームのリーダーを指定して通話を持ちかけてみた。
「もしもし?」
『おお、新堂君か! 私だ。『箱田』だ。』
「はい。箱田さん。状況はどうですか?」
『ゾンビはまだ1階にいるはずだ。俺は中央の空洞から下を見ている。まだいるぞ。
ただ、黙々と1階を物色しているだけだ。俺は3階の会議室前から見下ろしているんでな。
すまないが、刺激するわけにもいかないから、これで切る…………なッ!?』
「ど、どうしました?」
『ゾンビが階段を駆け抜けて行った! 凄いスピードで昇っている! 7階にいる君達も気をつけてくれ!』
「分かりました。一旦切ります。」
会話終了。さて、……! 気配が……!! 凄いぞ、これは。俺も少し怖い……。
「ここか。」
奥から声が聞こえてくる。
こ、こいつは……。言っていたことは確かだ。爪がやや長く見えている。ただ、右手だけだ。
物を掴むのはなんとかなる程度の長さだ。色々厄介そうだ……。
服装は割ときれいだ。なんだ、こいつ。本当にゾンビか?
ガチャ 俺達が元いた場所を開ける。
「……誰もいない?」
非難してみたが、正解だったようだ。人間らしい口調なのは理解できる。が、
爪がある。しかし、血色は人間の肌色だ……一体どういうことなんだ……。
俺は小さく言った。
「いざという時は俺と聖奈が出ます。トランシーバーで支持しますので準備していてください。」
「OKだ。」
「聖奈、幽にぃと一緒でよかった!」
向かいのゾンビが言った。
「仕方ない……生物センサー使うか。嫌な予感するから使いたくなかったんだけどなぁ。」
ピピピッ 取り出した機会のボタンを押してセンサーが音を放つ。
センサーならバレるか。仕方ないな……行くか!
ドアを開けて俺と聖奈だけ出てドアを閉めた!
「言葉が理解できるなんてな。意外だったよ。センサーまで持ってるのは想定外だったがな。」
「…………。」
「急にだんまりするなよ。これから殺るか殺られるかの死闘が幕を開けるんだぜ?」
「ハハ、……ここで再開するとはなぁ。」
「は?」
「俺だよ。分からないのか? さっきトランシーバーで応答してくれたのは嬉しかったぜ。」
「な、な……お前が……そうなのか?」
「ああ、そうだ。」
「な、なんで……! なんで啓が『ゾンビ化』してるんだ……!」
俺は目を疑った。目の前で言われて一気に世界が崩壊してしまったかのような絶望感に襲われた。
目の前にいるのはまぎれもなく啓。髪型も、顔立ちも、しゃべり方も、身長も……
全部、全部啓と同じなのに……異形の右腕に目が行き、見るだけで信じたくない事を
嫌でも現実にさせている。
どうして、どうしてなんだ……? 啓、お前は無事に生還してきたんじゃなかったのか……?
俺は目から溢れる涙をこらえきれずにいた。
「幽にぃ……すまなかった。俺もこうなるとは思わなかったんだ。」
「幽にぃ、しっかりしてぇ!」
聖奈が俺を気にかけてくれている。
「……聖奈、幽にぃは強くて頼もしかったか?」
歩み寄ってくる啓が言った。
「うん、幽にぃはいつも聖奈を守ってくれたよ!」
「強いよな、幽にぃは。」
「うん!」
感動の再会なんだろうな。だが、これを受け入れるわけには……いかないんだ!!
ヒュッ 矛を聖奈と啓の間に挟む。
「そこまでだ……。」
「幽にぃ? どうしたんだ?」
「聴こえなかったのか? そこまでだと言ったんだ。それ以上寄ったら……容赦はしない!」
「ど、どうしてだ!? 受け入れられないって言うのか……!?」
「会いに来るだけならまだ許してやった。人の心を持つならまだ受け入れたさ。
だがな……『ビルで暴れまわるような奴』はどんなやつでも聖奈には触れさせないッ!!」
「ふん、鋭いな。流石は幽にぃってところか。」
「なッ!?」
「やっぱりその強さも感覚も健在か。生存者の中じゃ最強クラスだな。」
俺は矛で啓を薙ぎ払った! 体ごと吹っ飛ばしてしまったが、多分タメージは薄い。
啓の口調が変わった。いや、もうあいつは昔の啓じゃない……!
「イテテッ ……なんつー力だよ。流石は地区最強だな。だけどな、俺もイイ力もってんだぜぇ!」
今度は凄い猛威で突っ込んできた! 木刀を構えている!
俺は矛で木刀を抑える姿勢に入った。たぶん……隙をつける相手じゃないぞ!
ガッ 啓の木刀を俺の矛で抑えている。クッ、なんつー力! 俺が押されそうだぞ!
「いいパワーだろ? 人間を失った代わりに手に入る力はでけぇんだ。」
「…………失ったのは人間だけか?」
「ぁ?」
「大切な仲間とかも失っちまって……どうだよ?」
「仲間だと?」
「クッ…………馬鹿野郎! 第6チームのメンバーがいるだろ!」
気を抜いたらあっという間に潰されちまうぞこれ!
「ああ、仲間ってそっちか。あいつらはもういいや。俺にはもう戦友がいるからよ。
チーム組んでようやく生き残れるような人間とかかわるのは御免だなぁッ!」
グゥゥ! さらに力を入れてきやがった! 俺が折れるわけにはいかねぇ!!
「てめぇ……!!」
「……どうしても届かなかった幽にぃにもうすぐ届くぜ。」
「……ふざけるなッ!」
矛で押し返して薙いだ! カッとなって今以上の力が出たみたいだ。
「あと一歩ってところか。」
「力じゃ負けるかもしれないな。だけど、勝負なら俺は絶対に負けねぇよ。」
「どうだろな?」
「人間相手になら負ける気はしねぇ。知能がある分行動に人間臭さが混じってんだ。
だけど、体力面ではゾンビクラスか……。まぁ、とにかく今のままじゃ俺が勝つよ。絶対にな!」
「舐めるなよ!」
啓が木刀で斜めから振り落としてきた!
俺は屈みながら右に避ける。今だッ!
矛で頭部を横から渾身の力で一打を入れた! いい手ごたえだ。
「ぐあッ!」
啓が膝を突く。
「ふッ!」
腹に矛による一撃を加える。体ごと壁に向けて吹っ飛ばした!
「ガハッ!」
「聖奈、治癒だ!」
「うん!」
聖奈はダガーをポケットから取り出し、傷を入れる。少量の血があふれてきた。
俺はダガーを聖奈から取り、血を付着させる。治癒には多い量ぐらいの血がついたダガーを壁際で
もがいている啓の足を狙って浅く切りつけた!
スパッ
「ダガーか……痛くも痒くもねぇよ。」
ダガーを聖奈に返した。余裕なんてもうじき無くなるさ。
「ただのダガーじゃねぇよ。」
「じゃぁ、どんなダガーだ?」
「聞いて驚け。」
俺は勝利宣言も含めて言った。啓……人間の所業を越えたお前はせめて俺達の手で……。
「聖奈の血が着いたダガーだ!」
余裕のあった啓の顔つきが一気に恐怖の顔へと変わった。