Conference room
サブタイトル『Conference room / 会議室』
扉の先には数人の人がいた。
「大門君じゃないな……君は?」
大門さんが来ることを予想していたみたいだ。まぁ、当然の見解か。
「僕は、新堂 幽と言う者です。」
「新堂君!? 君は傷を負っていて眠っているはずじゃ……。」
「傷はまだ完治していませんが、こうして動ける程度には回復したのでお伺いに来ました。」
「そ、そうか。思ったよりもずいぶんと早い回復だな……。」
「こうして来て分かったと思いますけど、僕がチームのリーダーです。
何かお話があると言っていたので急ぎ目で来ました。」
少し堅苦しい言い方だが仕方ない。ああああ、もどかしいなぁ。
「リーダーの役目とチーム編成を記してほしいんだ。それから、新堂君には少しだけ体験談を
話してもらいたくてね。地区最強こと新堂幽君の歩んだ道を聞きたいんだ。」
「分かりました……。」
「チーム編成と役目については簡単で、編成はこの紙に記入してほしい。あ、このペンで書いて書いてね。多分ペン持ってないでしょ?」
そう言ってペンを渡された。
「そのペンもあげるよ。加入チームには配給サービスをしているんだ。」
「あ、ありがとうございます。」
「次に、リーダーの役目だよ。義務があってね。リーダー及びその代理人が会議に出席すること。
絶対にだ。それと、チームを纏める力も必要だけど、そこもリーダーの変更は随時受け付けるから、
問題が起きた時には来てくれ。後、部屋の割り振りについてだ。加入したからには部屋を設ける。
4~7階までの間でこの地図の好きな所に印を入れてくれ。君のチームには2室の使用を許可されている。
色々と一部屋じゃ都合が悪いからね。どこか選んでくれ。バラバラでもかまわないよ。
4,5階に一室ずつとか。今はもう時間も時間だから明日に会議を開く。
各チームのリーダーも来るから名前ぐらいは確認しておいてね。色々ここもおかしなところがあるけど、
早くなじんで活動できるように準備しておいてほしい。それから、異種のゾンビと思しき生物の
死体を展示してある。明日見に行こう。今日はもう休むといいよ。お疲れ様。」
「お、お疲れ様でした。」
俺は会議室から出た。あれ、紙とペンを渡されておわっちゃったぞ。
あの数人、もしかしてリーダー格の人たちだったんじゃ……。それかとあるチームか。
まぁ、考える時間はあるんだし……気にすることもないか。
俺は臨時の休憩室に戻った。
「皆、ちょっと来てくれ。」
会議室でのことを大方話した。皆の意見が飛び交ったが、すぐにまとまり、
2部屋は5階に2室とも置くことにした。
それから、チーム名も変更なし。チーム編成は名前だけでいいみたいだ。
コンコン ノックする音だ。誰だろう?
「誰かいるか?」
「はい。」
ガチャ
「新堂が目覚めたときいたが。」
「島虎さん。」
大門さんが言った。この人が島虎さんか。
「僕が新堂です。」
「……なるほど、よくここまでチームを引っ張ってくれた。このビルでの生活に早くなじめるようにな。
それと、全員が揃っている内がいい。8階に来てほしい。」
「な、なんですか?」
「ゾンビの見解についてだ。詳しい事は8階で話す。」
「は、はい。」
8階か。ずいぶんと遠くだよな。生き返ってたりしないよね?
そして8階。うわ、なんだこのゾンビ……。
「こいつだ。」
横になっている死体。手を広げ、足もしっかりまっすぐに正されている。
こいつ、ゾンビとかそういう類から外れている気がする。
肩から先が少し太くて、手が大きい。いや、肩は普通なんだ。そこから先がどんどん太くなって、
手まで来た時には凄いことになっている。手の大きさは物凄く、人を片手で持てそうなぐらいだ。
そんな両腕が特徴的だった。頭部には人間の面影が少しだけ残っているが、
脳の形が変形しており、更には目が肉に覆いかぶさっていて目が見えるようには思えない。
これは一体……。鼻の骨も変形していて、やや平らになったという感じだ。口は大きくなっていて、
蛇のように長い舌がある。ゾンビの類なのかもしれないが、人間ベースではないぞ。こいつ。
手は大きいが、爪がやや硬く見えるような感じだ。まだ発展途上だったのだろうか。
足も変化していて、まるで犬のように前と後ろでしっかり分かれているような感じだ。
腕は爪が長く足は地面をけれるような作りに変化。これは一体何をベースにしたんだ?
こんな生物、存在するのか?
「俺は、こいつにやられたんですね……。」
「ああ、そうだ。四つん這いで動いていたよ。まだこいつしか確認されていないが、
ゾンビ化した人間の耐性、器官の機能具合によって劇的な変化をおこした結果じゃないかというのが、
現在の見解だ。最後にこっちだ。ついてきてくれ。」
俺たちは無言でついて行った。一体、俺の知らない世界で何があったんだ……?
とある部屋の扉が開かれた。
「お前たち全員に、念のためこれを渡しておく。受け取ってくれ。」
6個分の何かを受け取った。
「トランシーバーだ。連絡用に常備するように頼む。」
「え、ええ!? いいんですか!?」
「チームでの状況把握は不可欠だ。これがあると大分楽になる。性能や機能も充実しててな、
電波も広い範囲で良く電波を拾ってくれる。トランシーバーには特定のコードがあってな。
トランシーバーのコードを利用することで特定の人間とだけの通話も可能だ。
基本的には電波があるとなんでも拾ってくれるが、これを利用することでチームメンバーだけの
電波を拾うこともできる。個別のコードを利用しての通話は10人まで登録可能だ。
使い方もこの説明書に書いてある。良く読んでみてくれ。」
俺は説明書を受け取った。
休憩室の荷物も全て5階の自分たちの部屋に移し替えてようやく休憩の時間がきた。
俺はと言うと、トランシーバーと説明書との飽くなきにらめっこ対決ばっかりしていた。
だってこのトランシーバー、全然想像していたやつと違うんだもん。
イヤホンとかもセットで渡されて便利そうなんだけどなぁ。
無線イヤホンだし、かなり本格的な作りなんだろうなぁ、これ。
おまけに携帯電話みたいに画面付いてるし。
俺が持ってるような携帯とは違い、一昔前のタイプで閉じたり開いたりはできない。
が、大きさ的には今の携帯のように、開閉ができるタイプと変わらないコンパクトなサイズ。
画面は上半分、下半分はキーである。無条件無線通話は横についているスイッチで稼働し、
そこからは声を入れたい時だけボタンを押しながらしゃべるといったように、
以前から引き継がれている部分もある。流石は最新式と言ったところか、
携帯のメールアドレスのようにコードを登録すると特定コードにのみ受信される電波を発することも可能。
おまけに発電式。ちょっと分厚くなってしまっているが、ポケットにも入るし、
腕に巻きつけれるようにもなっているので配慮されていることも多い。
無条件通話のスイッチの下にもスイッチがあり、
順に特定グループ1、特定グループ2という風な具合に分かれている。
この特定グループとは、指定コードを集めたものであり、特定コードの人にしか拾えない電波を
即時に発信できるようにと配慮してくれてつけた機能だ。素晴らしい!
使い方もわかったところで早速トランシーバーの設定だ。コード名はあらかじめ決まっているので、
そこに自分の名前と情報を入れていく。所属チーム名もしっかり情報として扱われるようだ。
チーム内の登録も終えたところで早速特定グループ発信のところに追加した。
これでいつでもチーム内に通話が出来るぞ。
余談だけどこれ、メールも遅れるらしい。隠密行動時のためにとつけてくれた機能らしい。
イヤホンつけているときにしか音がならないが、音で反応するゾンビもいるだろうということで。
文字打ちも形態とほとんど遜色ない。
使い方を大方把握したところでグッと眠気が襲ってきた。
「悪い、俺先に寝るわ……。」
「ああ、お疲れ。」
「おやすみなさい。」
「しっかり休めよ!」
すまないが俺は先にギブ。もうくたくただ。さっきまで寝てたんだが全然足りないみたいだ……。
「ああ、なら聖奈も寝るー!」
聖奈、お前はもう少し俺離れしような? 体はもうスリープ状態だし、俺も気力が残ってない。
今日のところは勘弁してやるか。 それじゃ、皆。お休み……。
そして朝が来た。
時計の機能もあるらしい。基準は偶然アナログの腕時計をつけていた人物のを参考にしているようなので、
狂いはほとんどないだろうとのことだ。
傷の痛みもほとんどひいて、派手な事をしなければなんとかなりそうだ。
隣にはなぜか聖奈が寝ていた。すやすやと本当に心地よさそうな寝顔だ……。
兄心というかそんな何かをくすぐられてしまうような、そんな感じの何かがわいてきたぞ!
寝顔は言葉では括れないほど愛くるしいと思う。……少し見てから仕度でもするか。
まじまじと聖奈の顔を見やる。なんだか見ていて癒される。そんな風に思える寝顔だ。
さて、そろそろ仕度でもするか。起き上がると聖奈の手が俺の腕を掴んでいた。
「んん?」
握る力がやけに強いぞ。どうしよう、はずれない! このままでは前と同じ事に…………!
いや、待て待て。この力の強さもしかすると……。
「聖奈、朝だぞ。」
「…………。」
「聖奈~~。」
「………ッ」
強情な所もあるんだな、ならいいだろう。とっておきの実技をお見せしてやろうじゃないか。
「ウグッ、背中の傷が……ゾンビにやられたのが悪化しちまったか!」
苦しそうにもがく。さぁ、どうだ。聖奈!
「待ってて幽にぃ、今すぐ治癒するから!」
ガバッと聖奈が起きる。
「……やっと正体を現したな? 聖奈。」
とんでもない速さで起きたぞ……。化けの皮もあっという間にはがれてしまった。
「うぅ、幽にぃ、嘘ついたのー!?」
「わざとらしく強く握って一体なんのつもりだ?」
「もう起きる時間だぞ。」
大門さんが仕度をしながら言う。
「だってぇ、また寝たかったんだもーん。」
「全く、わがままもほどほどにな。」
「はーい……。」
さて、トランシーバーのホルダーをセットしなくては。ベルトのところにがっちりセット。
トランシーバーはというと、……おや、一通メールが来ている。
どれどれ……
『To:島虎 隆
件名:会議
本文:会議の時刻が9時30分に行われる。出席が困難な場合は代理人を用意してくれ。』
え、え、島虎さん!? いつの間にコードを……!!
9時30分か。今は8時40分だからまだ時間があるな。
会議までの間にトランシーバーの使い方を皆に説明しないとな……。
俺は皆を起こして説明会のような何かをしていた。時間は9時15分。ようやく一通り終わった……。
「そ、そういうことだから使い方は各自で確認しておいてくれ。」
「分かった。」
「疲れるなぁ。」
「なんとか使えるように覚えておきます。」
さて、そろそろ会議室に向かうか。
9時20分に会議室へ入室。10分早いけどまぁいいか。
なんてことを考えていた俺が甘かった。なんともう実質俺の到着待ちだったようだ。
席が俺の分だけしか空いていない!
「新堂君が来ました。」
「おお、これで全員そろったな。」
「君が新堂幽君か。」
「地区最強とは心強い!」
等々、色々聞こえてくる。
「では、これより臨時会議を始める。」
俺を含め、新しいチームを迎え入れての会議が始まった。