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Death such as in nightmare  作者: C.コード
Episode.1:Around the Yokosaka Town
14/73

The actual situation of Yokosaka Town

サブタイトル『The actual situation of Yokosaka town / 横坂町の実態』

聖奈は鋭利な刃物で少しだけ血が出る程度の傷を指につけた。

「聖奈……。」

本当に治癒できるのか!? 

不安で仕方なかったが、今はこうするしかないだろう……。だが、俺には聖奈の血がなんだか

妙な風に見えてくる……。無事に治癒できるとよいのだが……。聖奈の血が患者の傷口に当てられた。


「ぐぅぅぅ……。」

「……はい、治癒完了。」

「え?」

思わず声を上げたのは藤島だった。患者はまだ苦しそうな表情を浮かべている……。

「ちょ、ちょっと! まだ苦しんでるんですけど!」

「何ってるの、これで完璧のはず……。」

「いやいや、血を当てただけじゃん! それって何の意味があるの?」

……藤島達は聖奈の能力についてまだ話してなかったよな。

「あ、あのさ……皆、よく聞いてほしい。」

「どうした、新堂?」

「じ、実は聖奈のことなんだけど……。」

「聖奈がどうかしたのか?」

「……皆、心して聞いてくれ。実は聖奈は凄い力を持ってるんだ。」

「力?」

「ああ、今のところ2つの能力を持ってて今は……【治癒】の能力を使ってるんだ。」

「ち、治癒!?」

俺と聖奈以外が声を上げた。

「な、なんだってー!?」

「そ、それは本当なのか?」

「こ、これは……。」

「そ、そうだったんですかー!?」

「え、ええ~っと……お、俺もまだ半信半疑感が否めないんだけど今回ばかりは頼らざるを

得なかっというかその……。」

「詰まる話、新堂さん自身も信憑性(しんぴょうせい)に欠けると……。」

「ああ……。」

「幽にぃ信じてなかったの?」

「すまん……。」

「なるほど、治癒か。だったらなおさら患者への失態はいかんだろ!」

「何言ってるの。その人はもう治ったよ。」

「だから苦しんでるっしょ、その人!」

「藤島、治癒と名ばかりの呼び名だから誤解しているが、治癒できるのはゾンビ化だけなんだ。

傷口を(ふさ)いだり痛みの緩和(かんわ)といったのは聖奈ではできない……。」

「え、そうだったのか……。」

皆にも多分直接は言わなかったけど間接的には伝わったんだと思う。

『治癒できるのはゾンビ化だけ』。これはもちろんゾンビへの進行を止める効果を聖奈が

持っていることと、今の患者は放っておけばゾンビになっていたということを意味している。

それと、もうひとつが……『ゾンビから傷を負うとゾンビ化する』。

今の現場で目にして、治癒を受けているとなれば導き出される答えは誰でもわかる。

俺達はまだ怪我を受けていないし、詳しいこともわからないので何とも言えない……。

ゾンビに喰われているのは攻撃だけでゾンビ化はしれなくて、ほかに条件があるのかもしれない。

が、今それを検証するには環境が悪すぎる。

「あの、もう大丈夫ですよ。ゾンビ化への進行は止めました。もうゾンビにはなりません。」

「ほ、ホントか!?」

「はい。完璧に治癒しました。」

「おお、ありがとう! 君は私の命の恩人だ!」

「いえいえ、……命は大切にしてくださいね。」

「ああ、もちろんだ!」

「もう治癒は終わったので傷口に影響がでない程度に運動してもいいですよ。ただ、傷口があるので……

いざという時には逃げてくださいね。」

「あ、ああ……とにかくありがとう! 私は安全な所に非難することにするよ。君も早く逃げるんだぞ!」

「はいです!」

患者はやや小走りでこの場を去った。……命を救うのはやはり良い事なんだと思う。

自分への達成感や幸福感もあるけど、人として助け助けられるってのがあるべき姿なんだと思うんだ。

こんな状況だから忘れられがちだけど、助けあわずして生きてはいけないんだ。

だからこうして今皆と一緒に誰かを助けるのってきっと良い事だ。そうに違いない。

俺はこれからもこうして誰かを助けようと思う、皆の為にも……な。

「行こう、ゾンビがここにも来るかもしれない。」

「ああ、大通りに出るまではなんとかしてでも頑張るぞ!」

「おう!」

街の大通りは……こっちだな。俺が歩き出すと皆も何も言わずについてきた。

建物の間を通っているが多分問題は無いだろう。後ろにはゾンビはかなり遠くにしかいなかったし、

前から来ても俺が片づけられる。もしもの時は後ろから逃げればいい。

さて、そろそろだな。

「ここで待っててくれ。この先は俺が確認してくる。」

「ああ、気をつけろよ……。」

「まかせとけッ!」

路地を出た。……こ、これはッ! マズィ! とてもじゃないが……突破できない!

俺は慌てて路地に戻った。 クッ……これは予想だにしていなかった。

「ど、どうした!?」

「ぞ、ゾンビの数が多すぎる。大通りの道路一帯に散らばっていて……とてもじゃないが通れそうにない。」

「な、なんだと……!?」

本格的に逃げの一手を迫られている。しかし……これは逃げるしかないか。

い、いや……向こうは日影が多くて視界も逃げ場も狭い。比べて大通りは明るく広い。

しかしゾンビの数が違いすぎる……。二者択一だがよく考えるとどちらも望ましくない……。

だが、もたもたしてるとゾンビが……!!

路地に1体のゾンビが大通りの方から入ってきた。俺は矛を振り下ろす。

流石は両手で使う武器と行ったところか。ゾンビの力もものともせずに下まで届く。

木製だがこれほどのものだとは……。もうゾンビも俺達の存在に薄々気づいているやつらが、

少しだけ増え始めている……もう躊躇(ちゅうちょ)している暇は無い!

「大通りから突破だ! 壁際を通るぞ!」

俺は出来るだけ皆がまとまれる方法を取ることにした。大通りはゾンビの隙間を縫うように

進めばチームとしての機能は無くなってしまうが個人の力を存分に振るえるし、

進むスピードも自分のペースを維持できる。チームとしてでは、

壁際は後ろが壁なので背後の心配をする必要がない。

横も端の二人は2方向、他は目の前の敵を相手にするだけでいい。好きあればその隊列のまま移動し、

極力安定した殲滅力で進める。……というのも全員がゾンビを頭部攻撃での1発即死を狙える場合でしか

意味がなく、吉成が穴になってしまう。一応最低限の装備はそろっているけど……。

できれば投擲(とうてき)方面で活躍してほしい。石はそこらじゅうに落ちているし、

広い大通りでは活躍する機会は多いだろう。その代り全方向からの襲撃に対処できなければならないが……

いや、ダメだ! 考えてる場合じゃない!

目の前の的に矛をたたきつける。矛の良いところは大ぶりで隙が大きそうに見えるが、

木製なのでそれほど重いわけでもなく、中学時代から筋力がそこそこある俺にとってはすぐに

突きや横薙ぎにも繋げるのが容易なところだ。堅く、常人にとってはそれなりの重さでもあるので、

威力は絶大だ。ゾンビ2,3体程度なら軽く振りきれる。木刀ではどうあがいても1体ずつしか

相手にできなかったのに対し、矛は長い。余裕で届かなかったところも届く!

ドシャッ 横薙ぎがゾンビを地に着かせた。木刀では頭部以外では軽傷だったが、

矛による重さのある一打は通常のゾンビなら思いのほか効果があるようだ。

ゾンビは地を吐き、必死に手足を動かしている。

「こっちだ!」

俺が言う。皆が俺についてきた。藤島はもちろんだが、大門さんも積極的にゾンビの頭部を意識して狙っている。

吉成は小太刀で急所狙いの連打。目、鼻、首等々。頭部へは横から突く攻撃を入れている。

使いなれていないようで急所狙いでもゾンビを1発で倒すことや即死させることはできないようだ。

それとも実戦経験が少ないからどこかで躊躇(ためら)っているのだろうか?

香憐は武器を持っていない。俺達の強さから自分が全く手を出さずとも生き残れるとでも思っていたのだろうか?

後で護衛用の木刀を渡しておくか……まだ木刀のストックは2本ある。

1本は最初、藤島からもらった木刀、もう一つは道場で手にいれた良い品。

渡すなら訓練用にも藤島の木刀を渡すつもりだ。藤島と大門さんの後ろに旨い具合にぴったりとくっついている。

多分大丈夫だろう。吉成も近いからなおさらだ。聖奈はというと俺の近くで果敢にゾンビに

立ち向かっている。俺もひやひやしたが、聖奈は木製とは違う本物の金属の刃物……。

それも祖父が渡した曰くつきのような感じのナイフ……いや、ダガー?

なんか、刀身がシンプルな形状とは違い、(いびつ)な形状をしている。

波を思わせるような刃先の部分、ハリネズミを連想させる刃先から下の部分。

そして(つか)みやすいように設計されたような形状、(つか)の部分も……。

刃先はスパッと一刀両断できるようなコンセプトだろう。刃先より下のギザギザの部分は

少しでも外傷を多く与えることができるような感じ……なのだろうか?

でも聖奈は見事と言えるほどに使いこなしている。身長の関係で頭部への攻撃はしないものの、

足首への攻撃でダウンしたところを頭部への集中攻撃に切り替えているといったところだ。

可能なら首狙い攻撃。首なら確実に死ねるだろうな。あの形状は死んでくれないとおかしいぞ……。

「くそ、次から次へと!」

矛で次々に始末しても奥からどんどんわいてくる。俺個人だと進む余裕はあるが、

仲間がてこずっている。俺はその助力をしているが、何せ香憐が非戦闘員……。

どうにかして一人分を補わなくては! む、遠くに人影が……。

やはり戦っているのだろうか? 何人かで固まっていてゾンビを迎撃している。

その奥を見ると、大きなガラズ張りで高さが目立つビルが立っていた。相当高い。

唖然としていると俺の手に噛みつかんとするゾンビが迫っていた!

身をかがめて口を開くゾンビ。

「うわぁぁぁぁ!!」

なりふり構わず矛を横に薙いだ。手にかみつこうとしてたので矛の攻撃をまともに食らい吹っ飛んだ。

俺の手はなんとか無事だ。念のためあとで聖奈に見てもらうか……。

「はぁぁ!」

グシャァッ ゾンビの頭部へ重い一撃。藤島の木刀がゾンビをあっけなく沈めさせた。

「ハハ、木刀でも数を相手にできるもんなんだな!」

「確実に一撃で殺れれば数相手には少しだけ優勢だ。だが必ず一撃で仕留めろよ。

仕留めそこなったら距離を置かないと喰われるぞ!」

「言われなくてもわかってるさ!」

グショッ 藤島の木刀が横薙ぎされ、ゾンビを吹っ飛ばした。頭から崩れるゾンビ。

「ほっ!」

ゴッ 地に伏せるゾンビ。

「大門さん気をつけて!」

「オラッ!」

地面にいるゾンビに追撃。足にしがみつかんとするゾンビの頭を蹴り、自らの体重をも乗せた

木刀で顔面を潰す。

グシャッ  一応頭部への攻撃を心がけている大門さん。安心したよ。でもできれば一撃でできるようになってほしいところだ。

シュッ 水平に飛んでいく石。ゴッ ゾンビの鼻を直撃する。そして全体へのバランスの掛け方が

おかしいゾンビは後ろへと倒れざるを得ない。倒れたゾンビは(しばら)くは起き上がれない。

次々と投げられる石は遠くまで届き、ゾンビを部分的に崩す。

さて、俺も頑張らないとな。

グジャァッ 頭部への位置を狙って水平に矛を薙いだ。するとバランス感覚が狂っている

ゾンビは一気に倒れ込んだ。4体を巻き込んだ攻撃だったが頭部は脆いな。

流石、人間がベースだけの事はある。もちろん全体を狙っての攻撃なので4体とも生きている。

俺はそれぞれに留めの一打を入れる。グシャッと鈍い音が数回響く。

これには慣れざるを得なかった。本当は誰もこんな音、慣れたくないよな……。

「キャーッ!」

「香憐!」

香憐が上をゾンビに掴まれている!

藤島が迅速に木刀を握りしめ、腕を掴んでいるゾンビの顔目掛けて木刀を振り下ろした。

しかし、至近距離に香憐がいることで戸惑ったのか、ゾンビは腕を放さない。

頭部への攻撃を入れる時の角度が浅かったのだ。少し首が傾いたゾンビが、口を開く。

「やめて、やめてぇ!」

「こんのやろ!」

無我夢中で今度は木刀を掴んでいる腕へと振り下ろす藤島。しかし、腕がガクッと下がるだけ。

木刀では切断できるはずもない……どうしたんだ藤島!? このままじゃ……!

ガクッ下がった影響でゾンビの体位は下がったが、香憐も同じように下に引きずられていた!

パカッと開けられた口が香憐に向かって迫る! やめろ、それ以上は……ッ!!

グシャァァァッ ゾンビがかみついた! しかし、香憐は苦しそうな表情ではない。

まだ恐怖におびえきったような顔だ。では一体何が……?

「藤島ッ! お前……!」

大門さんが声を上げる。俺もそれを見て目を見張った。

「ウグァァァァァァ、ッァァァァ!!」

藤島が叫ぶ。そう、藤島は香憐の身代りに自分の腕をゾンビに喰わせたのだ!

ゾンビが強引に肉を噛みちぎろうとするように顎を動かす。

「ガァァァァァ! (イデ)ェェェェ!」

悲痛な叫びが大通りに響く。

「藤島から離れろ! クソゾンビッ!」

大門さんが地面に伏す藤島の腕を喰うゾンビの頭部を真横から木刀で一打!

大門さん……!

「藤島ッ! 大丈夫か!?」

「ゲホッゲホッ、ッ痛! ハハ、心配ねぇよ……ゾンビ化は聖奈ちゃんが治癒してくれんだろ……?

俺はまだ左腕もあるし……出血もまだたいした事ねぇからな。いけるさ……!」

「無茶を言うな……! ゾンビ化への進行がどれぐらい苦しいかわかるだろ……!

今だってもう痛みが響いていてるはずだ!」

「イテテッ! ……治癒は戦場を駆け抜けてからでいい! それまではなんとか持つだろ……。」

割って入るように聖奈が近くにいるゾンビを始末してからこちらに接近し、さきほどの指とは

別の指を浅く切り、血をたらす。

「藤島さん、病気はなんでも早期解決がいいんですよ。あまり無茶はしないでください。」

「あー……すっげぇ! 痛みが引いてきた!」

「馬鹿、腕の痛みはそのまんまだろ!」

「こんなの大したことねぇって! 大門さんがスパッと決めてくれたおかげで、

歯形が深めについただけで済んだんだぜ? 大門さん、助かったよ! ありがとう!」

「お、おう……大丈夫なら何よりだが……。」

「修羅場を潜りぬけてきた俺にこの程度の痛みなんぞ無に等しいッ! 行くぞ!」

木刀を両手でふり下ろす。

威力は今まで通りで一撃で沈めるほど! おお、本当だったみたい……いや、違う!

顔には隠しているかどうかわからないが少し疲労の跡が見える。そして極め付けが木刀。

アイツ、片手でも倒せていたはずだ。それなのに今は両手。

威力的にはさほど変わらなくても両手だと動きに無駄があるだけで重荷になってしまう!

疲労もあり危険だッ!

「藤島、協力するぜ。」

俺も藤島寄りで戦うことにした。

「おお、サンキューな!」

「疲れているのか?」

小声で聞いた。

「……やっぱ、お見通しか。」

「きついか?」

「そろそろ限界だ……。右手がダメになれば両手で振れないし、喰われたら振り払えないだろうな。」

「馬鹿野郎……! 強がってどうするんだ!」

「言っても不安にさせるだけだ。大丈夫だって。俺達には、お前がついてるじゃねぇか。」

「そ、それでもな……!」

「あー、それ以上は言わなくて大丈夫! 頼りにしてるぜ。新堂!」

「……ったく!」

矛を薙ぎ、確実に仕留めていく。頭を潰すことで次々と撃破していく大門さんと違い、

俺は少しでも藤島を楽にさせてやるために地面に伏したゾンビをようやく頭部狙いで仕留める形。

たくさん攻撃できるので一辺に倒すことも可能。そして頭部攻撃はリーチが長いので屈まなくても

頭は潰せる。

だが、そろそろ藤島の限界が……! どこかに隠れる場所は無いのか!?

やばい、俺もそろそろ疲れてきた! ……そうだ、あのビル! ガラス張りのビルだ!

結構進んできてるし、距離もそう遠くは無い! ……チームの為だ。自分が犠牲になるのは仕方ない。

「向こうのガラスのビルまで走る! 俺の後ろに続けぇぇ!!」

無我夢中で叫んだ。これしか、チームが生き残る方法は無い!

皆が俺に集まる。

「行くぞ! うおおおおおお!」

矛を強引に薙ぎ、ゾンビを力いっぱい倒す。倒れただけだが、本気で入れた分良い威力のはずだ。

「うらぁぁぁぁぁ!」

更に4体程度を倒す。また4体、次に2体と敵を多く倒しつつ進んだ。

俺は倒して道を作るだけ。処理はどうでもいい!

「階段を登ってドアに入れ!」

皆が階段を上る。階段の上には少ししかゾンビはいない。

先に上った大門さんが1体を先に仕留める。そしてまた次のゾンビも仕留めた。

俺は聖奈と香憐が昇るまで階段の下で待機。

「ありがとうございます、新堂幽さん!」

「幽にぃ、ありがとう!」

そして迫ってきたゾンビを突き飛ばし、俺も階段を上った。

「ハァ、ハァ、ハァ、全員いるな!?」

「ああ!」

「ビルに入れ!」

ビルの中には人がいて、ドアを開けてくれた。

「さあ、急いで入るんだ!」

中の人が言った。

皆が連なって入る。俺が最後に入ろうとした瞬間に横からゾンビ……とは違う何かが!

ガガガッ!


なんとか中には入れた。しかし…………

「新堂!」

「幽にぃ!!」

「幽さん!」

「新堂さん!」

「新堂ッ!?」

「ガハッ……何かが横から……。」

「腕に傷が……! 今、治癒してあげるからね!」

ああ、痛みが少しだけ引いていく。凄いな、聖奈。お前の力は本物だったんだな。

今まで信じてやれなくてすまなかった……。

「おい、なんだあれは! ゾンビなのか!?」

皆が騒いでいる。俺はもがく事もなく床に倒れたまま動けない。体が……重い。

「幽にぃ! 幽にぃ!」

聖奈が叫んでいるのか。言葉もでねぇ……。耳も遠くなってきやがった……!

こんなことつい最近経験した気がする……。くそ、まだ俺が目を(つむ)るわけにはいかねぇのに……!!

しかし、俺は目を閉ざしてしまった。

「し、新堂……? 新堂ッ!」

「幽にぃ! しっかりしてよ、幽にぃ!!」

「し、しっかりしろ! ここはビルの中なんだぞ!」

「新堂ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

藤島の叫びがビルの中に響く。反響もしっかり聞きとれるくらいに。

聖奈が涙を流している。ポタポタと床に落ちる。

「幽にぃ! 死んじゃ嫌だよぉ!」

「嘘だろ、新堂……!  起きろよ、お前の言ってたビルだぞ! 安全地帯だぞ!」

「……藤島、もうよせ……!」

大門さんの一言でついに藤島からも涙が溢れる。大粒の涙が頬を伝う。

「新堂……! うああああああああああああああああああああああ!!」

藤島の咆哮にも似た声がビルを包んだ。

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