Yokosaka town
サブタイトル『Yokoska town / 横坂町』
※ここでの『横坂』は慨存するものとは別に架空の設定として扱っています。
武器も本格的に整った。俺は今まで使ってた木刀をベルトと腰の間に挟めた。
そういえば俺、制服のままだったな……。ベルトが役に立ったから文句は言えないけどさ。
保管庫から新たに手にした獲物を手に握りしめ、俺達は道場を出た。
最初に目についたのは正面の門の下にあるゾンビの死骸とは別の1体のゾンビ。
門前のあいつは動く気配は無い。チャンスだ。内側のくぼみの場所も外とは同様に、
門から離れた位置の塀にあるので門の前なら何とかなりそうだ。
少し回れば戦う必要もない。ここは少しでも温存だ。更なる強襲に備えておかないとな……。
「それじゃ、出るぞ。予定通り、くぼみから出る。」
俺が先陣を切ってくぼみを使ってさっと塀を越えた。藤島達も後に続く。
全員が越えたところでゾンビの方へと見やる。大丈夫だ。このままいけば……。
そういえば、聖奈が言っていたな。1体いるってこと……あれは信じてもいいのか?
いや、あれが証明された今それを俺が否定することはできないよな……。
「あのゾンビは無視していく。横坂町に着くまではできる限り温存だ。いいな?」
「もちろん!」
「僕もOKです!」
「当然だ。」
「準備はできてます。」
「聖奈も大丈夫!」
「よし、隊形は戦闘が俺。左右の後方を大門さんと藤島が、吉成は後方の見張りと援護だ。
香憐と聖奈はできるだけ俺達の内側にいるような形で行く。後、何か反応があったら……
聖奈、教えてくれ。」
「うん!」
「ん? 聖奈ちゃんって何かの発信機みたいなの持ってたの?」
「え、あ、いや、そういうのとは違うんだが……それについてはまたあとで説明するよ。」
信じるしかないのにここで言えなかった……。俺も言いたかったんだが、
ここで踏みとどまってしまうということは、俺もどこかでまだ信じ切れていないところがあるのか?
「それにしても驚きだったよ。聖奈ちゃん、想像よりも全然可愛かったとは~。」
「い、いきなりなんだ?」
「正直な気持ちさ。てっきり新堂みたいな感じだとばかり……。」
「ほう、俺みたいとは一体どういうことか説明してもらおうか、エェ?」
ギロリと視線を鋭くして藤島を見やった。若干の冷や汗が藤島のほほを伝う。
「……いつみても冷や汗がとまんねぇ。」
「冬なのに冷や汗かくような事してると冷えるぞ?」
俺が悠々たる態度で言ってやった。
「心配してくれてんなら汗かかすなよ!」
「藤島、事の発端はお前だということを自覚してるか?」
「大方口火を切っているのは藤島さんですね。」
吉成が会話に加わった。
「吉成まで!? 誉めてただけじゃんか~。」
「だったら余計なことを口走らないようにしたらどうだ? そんなことだと信用されないぞ?」
「うおい! チームメイトは信用しあうもんだろ!?」
「チームメイトは信用しあうが、表面だけになるかもな……。」
「裏では評価されてないってか!? 悲しすぎる!」
「でも、悲観することもないですよ。信用を惜しんでいたら生きていけない世界ですから……。」
「そ、そういえばそんなご時世になっちまったばかりだな……。」
「俺達はこれから地獄に踏み入ろうとしてるんだからな?」
「わ、分かってるよ……!」
「……ま、さっきは俺も悪かった。地獄に入っちまったらもう、こんな会話できないかもしれないからな……。」
「…………。」
「向こうは向こうで盛り上がってるみたいですね。」
「今は、一時の安らぎを与えてやるべきなんだろうな。シビアな事は俺達だけで考えよう。」
「僕達も、楽しんだ方がいいんじゃないですか?」
「そう、かもな。」
「なら、続きをやろう!」
「続き?」
「しりとりだよ! 俺が負けっぱなしだったからな。次こそは俺が勝つ!」
「面白い。受けて立つ!」
「僕も負けませんよ?」
「順番は俺、新堂、吉成の順だ。最初は『り』からだな。『リ』ストラ。」
「シビア……だな。『ラ』イト。」
「『ト』ライ(英語『Try』訳:挑戦する)」
「『イ』ト(意図)。」
「『ト』イレ。」
「『レ』バー。」
「『バ』ス。」
「『ス』コール。」
「『ル』ール。」
「『ル』ス(留守)。」
「『ス』ルー。」
「『ル』ーレット。」
「『ト』ットリ(鳥取『県』)。」
「『リ』カ(理科)。」
「『カ』ラス。一字のやつはナシってことで。」
「『ス』……スパイダー!」
そんなこんなでいつの間にか6人全員参加のゲームにまで発展していった。
順に藤島、俺、吉成、大門さん、香憐、聖奈。
「な、なかなかやるな……! 『カ』カシ(案山子)!」
「『シ』ーラカンス!」
「『ス』……ステーキ!」
「『キ』ジ(雉)。」
「『ジ』コク(時刻)。」
「『ク』ロウト(玄人)。」
「『ト』キ(鴇)。」
「『キ』シ(岸)!」
「『シ』シ(獅子)。」
「『シ』シマイ(獅子舞)!」
「『イ』ケ(池)。」
「『ケ』ダマ!」
「『マ』……? あ、『マ』キガイ(巻貝)!」
「そろそろ決着をつけてやんよ! 『イ』ソ(磯)!」
「『ソ』……ソーラーパネル!」
「『ル』……『ル』ロウ(流浪)!」
「『ウ』ソ(嘘)!」
「『ソ』ラ!」
「『ラ』……ラ……ラ!?」
「勝負は決したな。まだまだ詰めが甘いぞ。藤島!」
「またなのか……? また、負けた……だとぉ!?」
「『字連魔』じゃなかったですし、今回は経験不足だったんですよ。藤島さん。だから、落ち込まないで!」
「あ、ああ。俺はこの程度ではまだ……! ちなみに今回はどんなテク使ったんだ?」
「今回は『一般型』です。特に目立ったやり方は無いです。
個人の傾向とかがありますけど、『間法』が若干ありました。……最後の最後で、
安心してませんでしたか?」
「え、ああ。確かに少し安心してたが……。」
「いいですか。『間法』というのは文字通り『間をおく法』なんです。
若干の間と、全力で考えた感をあえてかもし出させて相手を油断させるんです。」
「ハ、ハハ、マジで奥が深いな……。」
「しりとりはシンプルな分、出所次第で色々推測できます。
そこを考えてからの計画性が重要なんです。要はどれほどの許容範囲で何手読めるかです。」
「まだまだ、甘かったか。」
「藤島さん、頑張りましょう。いつか勝利を掴む日まで!」
「……ああ!」
「そういえば聖奈ちゃんもしりとりできるんだね。やっぱり学校で?」
「うん。皆やってるから聖奈もがんばったの!」
「聖奈ちゃんは強いほうなの?」
「強いって言うよりも、顔見てたら大体何を言って来るのかわかるの。」
「え?」
「顔に書いてあるの!」
「流石、自慢の妹だ。」
「これは幽を越える実力者の予感だな。」
「はは、どうだろな。」
実際のところ察知する力だけなら俺を越えている。
オセロ、将棋、麻雀……どれをとっても勝てたことは無い。
先読みする力が強過ぎて運よく早い順で上がれるような麻雀くらいしか先手を取れた事は無い。
一体どこまで読んでいるのかは俺にもわからないが……。
まぁ、そんな妹が顔に書いているというのだから多分本当に顔を見ただけで分かるんだろう……。
そういう感じで幕を閉じたしりとり以後はまた3,3のグループに分かれた。
「それにしても聖奈ちゃん可愛いなぁ。」
「いつまで言ってるんだよ。」
「だって、そうじゃんか。」
聖奈が可愛い。か。黒く艶やかで肩より少し下まである髪。
大和撫子を連想させるような……。なんだかんだで俺も可愛いということは否めていないようだ。
結局の所、聖奈は藤島の言うとおりで『可愛い』のだろう。
そんなことを考えていたらいよいよ荒廃した建物の群が見えてきた。
「ここからが本番だ。気合い入れてけよ!」
「ああ!」
皆の雰囲気がコロッと変わり、緊張が伝わる。各自で武器を構えて不測の事態に備えている。
「街の大通りの付近まで突っ切るぞ!」
俺の声と共に皆の目つきが変わった。俺が走り出すと、皆が走り出した。
「うぎゃああああああああ!」
どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。
「悲鳴か! 向こうからだ!」
現場に立ち寄った。 ……グッ、クソ、間に合わなかった……!
ゾンビがすでに男の肩に食いついている。無我夢中で俺はゾンビに長身の武器を振り下ろした。
グシャァ ゾンビの脳天が砕ける。おお、これは思った以上の威力だ。
「幽、それなんていう武器なんだ?」
「確か、矛って言うやつだ。木製だけど……。それでも頑丈だから威力はある。両手で使うんだ。」
「ほほぅ、便利そうだ。」
そうしていると……
「う、グハァッ!」
「だ、大丈夫ですか!」
「ゾンビ化が進んでいるのか……!?」
「ど、どうすれば……!」
「聖奈に任せてください。」
全員が聖奈に向き直った。
「私が治療します。」
すると、聖奈は鋭利な刃物で少しだけ血が出る程度の傷を指につけた。
「聖奈……。」
本当に治癒できるのか!?
不安で仕方なかったが、今はこうするしかないだろう……。だが、俺には聖奈の血がなんだか
妙な風に見えてくる……。無事に治癒できるとよいのだが……。聖奈の血が患者の傷口に当てられた。