Last letter
サブタイトル『Last letter / 最後の文章』
道場の格技場に当たる部屋はここだ。この扉を開ければ、
全てがわかる……。祖父の安否も、弟子の安否も……。
混濁した疑惑の思念が渦巻く中、俺は目の前の扉を力強く開けた!
扉を開く音が響いた。反響までしっかりと聞こえてくるほどの静寂。
扉の奥には誰もいない時と変わらない道場のあるべき姿がそのまま残されていた。
「ここにはゾンビもいないみたいだな。床も綺麗だし、さっするに戦闘すらなかったんだろう。」
「ゾンビもいないし、ここは本当の意味で楽園みたいだな。」
「楽園?」
「ここならゾンビが来ることもないと思うし、何より周外の音がほとんど聞こえないからね。
こんな地獄になっちまった国からすれば、ここはまさに外界からシャットアウトされた楽園さ。」
「んん、おい、新堂。扉に紙が貼ってあるぞ。」
「どんな紙だ?」
「『木刀に吊るしてある手紙を読め』とだけ書いてある。」
「木刀?」
祖父の道場は数々の木刀がある。もちろん、どれも普段使わない品々だが、
小太刀など常人から見れば大変珍しい品も飾られてある。一体どの木刀に吊るされてあるんだ?
考えれば木刀というジャンルだけだと格技場以外に保管されている別室にいかないとな。
グルリと見渡しても木刀から何かがつるされているというやつはない。
やはり、別室に行かないと。
「ここには多分ないと思う。木刀は別の部屋にもあるから見に行こう。」
「新堂の祖父は凄い方だったんだなぁ……。」
「いざ見てみると驚きっぱなしだわ。それにしても広すぎだろ。」
「道場ってこういう風にできてたんですね。マジマジと見るのは初めてです。」
「私もじっくり見るのは初めてです。」
俺達は別室へと足を運んだ。そして、保管庫の扉を開いた。
ギィィィっと扉を開くたびに音が出る。
「懐かしいな。」
窓が一つもない部屋だが、イスとテーブルがある。それに結構スペースもある。
壁にはいくつもの木刀やら何やらの祖父のコレクションと呼ぶべき品々が飾られてあった。
紙がつるされている木刀……あ、あの木刀か。
「これだな。」
木刀に吊るされている手紙をはずし、文章を見た。
『親愛なる家族へ
12月26日午前0時以降にこの手紙を読んでいる誰かがいるのなら、私はもうここに戻ることはないだろう。
これを読んでいる者は落ち着いてこの先を読んでほしい。
あの日の悲劇から、家族は離ればなれになてしまったが、私は啓と聖奈を
見つけた。初日は二人とも無事でいたが、翌日に啓が手紙を残して去っていってしまった。
啓の行き先は私が見つけた見解からの憶測だが、ここの隣街の横坂に行ったと思われる。
今のところ周辺での大きな騒ぎは無いが、啓を連れ戻しに、私はここを離れることにした。
ここから隣街までの距離を考えると1日以内だと思う。が、不測の事態が起こった時の為に、
この手紙を記した。
聖奈の話に移るが、彼女はこの道場【閉の間】に幽閉した。食糧や生活に必要な最低限の
仕度は整えてあるので安心してほしい。だが、食料については持って2,3週間しか持たないだろう。
これを読み終えた者がいるのなら、どうか聖奈の事を頼む。
啓の手紙と【閉の間】の鍵の場所はこの部屋のテーブルの裏に貼ってある封筒の中だ。
では、健闘と武運を祈る。 新堂 貴道より。 12月25日』
「こ、これは……」
「で、どういう内容だった?」
「家族の事について書かれてあった。祖父は俺の弟の啓の行方を追っていったらしい。
隣町に向かったって書いてある……。」
「と、隣町!?」
「な、なんだと!?」
「よりによって隣町ですか……!?」
「それって……!」
「弟の詳しい所在については祖父が発見でき次第ここに連れて来るつもりだったんだろうな。
俺の妹は安全なところに幽閉しているらしい。食糧もしっかり蓄えられているらしいから、
多分無事だろう。」
「なら、妹の救出が先だな。」
「ああ。」
テーブルの下を見た。確かに、封筒がある。はがして、中身を確認する。
まずは、鍵だな。俺も見たことはない鍵だ。【閉の間】も祖父からは何も言われてない。
次に弟の手紙ただ『俺はここを去る。いままでありがとう。さようなら。』
とだけ書かれてある。どういった経緯でその判断に至ったのかはまるでわからない。
「手紙の方は別れの文章か。閉の間……俺も聞いたことがない。」
「むぅ、自力で探すしかないということか。この広い道場内を……。」
「……いや、ひとつだけ思い当たる場所がある。頑丈そうな扉で閉まっている部屋だ。」
「なるほど、安全面では随一の部屋なら幽閉状態でも大丈夫というわけか。」
「とにかく、行ってみよう。」
俺達はその部屋へと向かった。俺は一部屋だけ入れてもらえなかった部屋があるのを思い出した。
そこしか、もう幽閉できる場所がない。それ以外の部屋は安全性に欠けるし、
多分食糧をためることも難しいだろう。最低限の仕度もできている部屋だから、なおさらだ。
「ここ、か。」
「でかいな……!」
「凄い……」
「僕もこんなに頑丈そうな部屋、始めてみました。」
「なんだか少しだけ怖いです……。」
そこ佇む大きな扉。黒い。なんとも言えない確固たる硬度の大きさを示しているのは
黒光りの加減である。
ここまでの黒い光沢はなかなかお目にかかれるものではないぞ……!?
「あ、開けるぞ……!」
鍵を差しこむ。ガチャ、ガチャ、ガチッ
「よし、開いた。開くぞ。」
ギギギギギと扉が鳴る。しかし、重いぞこの扉。
「ウグ……!」
「俺も手伝う!」
藤島も手伝ってくれた。更に扉は口を開けるが、まだ足りない……!
「お、俺も手伝う!」
「僕も手伝います!」
「わ、私も!」
5人がかりでようやく黒の扉が開いた。その先は通路になっていて、その先に木製の扉がある。
この先か。
「よし、ここか。」
「ようやくここまで来たな!」
「妹さんも救出間近だ!」
「行きましょう、新堂さん!」
扉をゆっくりと開けた。どうしてゆっくり開けたのかは自分でもよくわからない。
多分、妹の安否を知るのが怖かったんだと思う。他の人なら、きっと勢いよく扉を開けていたんだと思う。
扉を開けたその先には、普通の生活空間としても機能を備えていると思われる部屋があった。
何事の争いの痕跡もなく、平和的な……そう、まるであの悲劇以前を思い出させるような、
そんな光景がそこにあった……。
部屋の中には、その平和な光景には似つかわしくない姿が見えた。
一人の少女が、ソファーに座って泣いていた。広い空間だけに一人だけの少女……
まるで広くて誰もいない世界の中に置き去りにされてしまったかのような切なさ、孤独さが感じ取れた。
「……幽……にぃ?」
その少女は涙が止まらない顔をこちらに向かせ、声を発した。
少女は俺の事を知っている。俺も、この少女の事は知っている……!!
「幽にぃ!」
少女はこちらに向かってきた。俺も、多分無意識だったんだろう。とっさに声が出たんだ。
「聖奈!!」
って声がさ。
泣きながら俺に抱きついてきた少女【聖奈】を俺はできるだけ強く抱いた。
「幽にぃ、ヒッグ、ヒッグ、怖かったよぉ!」
「聖奈、無事でよかった。俺、ずっと心配してたんだ。本当によかった……!!」
聖奈……やっと、家族に会えた。祖父ちゃん。俺、やっとめぐり合えたよ……!
「おお、感動の再会ってやつか!」
「俺も、感動しすぎて涙が出そうだ……!」
「おめでとうござます、新堂さん!」
「よかったです……本当によかったです!」
後ろの方で皆何か言ってた気がするけど、この時の俺の耳には届かなかった。
何を言っていたかわからなかったけど、多分大事なことではないだろうな。
「さて、無事に救出できたことだし、次はどうするか決めないとな。」
「ああ。」
珍しく藤島から先陣を切っている。
「新堂は隣町に行きたいか?」
「そ、そりゃもちろん行きたいけど……。」
「なら、決まりだな。隣町に向かう方針にしよう。」
「気合い入れなきゃな。」
「僕もがんばります。」
「私も、覚悟きめておきますッ!」
「ん~、でも行くのは明日以降にしよう。皆も色々疲れてるでしょ?」
「今日も色々あったからなぁ。確かに疲れてはいるが……。」
「だろ? 明日は待ちに行く。修羅場を見るかもしれないだろ?
今日はもう寝ておくべきだって!」
俺も話は聞いていた。しかし、忘れてはならないことがあるぞ。藤島。
「待ってくれ、藤島。確かに、その結論に意義は無いが……」
「意義はないけど……どうしたの?」
「聖奈はどうしたい?」
「どうしたいって、何が?」
「ここに残りたいとか、危険な場所に行きたくないとか、何かあるか?」
「ん~、幽にぃが行きたいなら聖奈もついて行く!」
「危ないけど、大丈夫か?」
「うん、だって聖奈は……」
「よし! それじゃ、明日はそれで決まり! 今日はここで休養を取って明日出発ということで!」
「おう!」
「つかの間の休息ですね。」
「ふぇぇ、疲れましたぁ。」
各自で寛ぎ始めた。せめて許可ぐらい取ってほしかったけど、いまさら言うまい。
「さっき、何か言いかけてたけど……なんだって?」
「えっとね、聖奈は、その……ゾンビ? って言う人達から受けた怪我を……なんて言うのかな……。」
「なんとか言葉にできない?」
「う~ん、聖奈には難しいかも……。あ、お祖父ちゃんから手紙を渡すようにって言われてたんだ。これ!」
手紙を受け取る。確かに祖父の文章だ。
『聖奈について
聖奈が持つ、異形の力について書き記す。これをもし手にした者がいるならば、
最後まで読んだ暁にはこの手紙を始末してほしい。
やつらにすれば、聖奈の力は脅威であるとともに……最初に消したい人間になってしまうだろうからだ。
前置きが長くなってしまったが、説明する。尚、これは見解や憶測があることを踏まえてもらいたい。
聖奈は普通の人間にはない特殊な力を持っている。いくつか種類があるかもしれないが、
ここでは確認できた能力だけを記す。
まず、第一の力【治癒】についてだ。聖奈はゾンビの攻撃を受けた者の治癒ができる。
傷口が癒えるという形ではないが、腐敗……つまり、ゾンビ化の進行を止める事が出来る。
上記のとおり、疲労回復等の類ではないものの、これによる効能は非常に効果がある。
また、かなりゾンビ化の進行が進んだ者に治癒をした場合も、ゾンビにはならない。
しかし、明確には分からないが重度の進行具合の者に治癒をさせた場合、死に至る事が発覚した。
この方法でもゾンビ化はしないが、踏まえておいてもらいたい。
もうひとつの力。確認できたのはこれで最後だが、これは本能的な力に近い。
ゾンビの位置を把握する力……つまり【察知】の能力がある。
文字通りの力だが、移動方向まで正確に把握できるらしい。
自分が密閉されていても、外界にいるゾンビの位置が把握できるようだ。
聖奈についてはここまでだ。自分自身、まだ信用してよいのか、葛藤している。
これをどう思うのかについては読んだ者に任せることにする。どうか聖奈の事を守ってやってくれ。
健闘と武運を祈る。 新堂 貴道より。 12月25日』
「……こ、これは……。」
ど、どういうことなんだ。 異形の力? 脅威? 治癒? 察知?
どこをとっても、これはあまりにもひどい文章だ。信用するに値しない。
だが……これはまぎれもなく祖父の字体だ。そして、しっかりと最後に自分の名前と日付まで……。
これは真実なのか? 偽物なのか? いや、しかし誰かこんな時に偽物の情報を流すやつがいる。
だが、これは信用してもよいのか? 人間にはない能力ってなんなんだ……!?
くそ、どうすれば、俺はこの情報をどうすればいいんだ!?
鵜呑みにしてもいいのか? それとも、シビアな目で見ればいいのか?
祖父は一体どんな心境でこれを書いた……? そうだ、この時の祖父はもう普通じゃなかったのかもしれない。
そうだ、そうに違いない!
……ダメだ。なら、何故態々これを保管庫じゃなくて聖奈に持たせた?
辻褄が合わなくなる。祖父の気が動転していて、支離滅裂だった、
これが一番適当な答えのはずなのに、聖奈に持たせただと……?
気が動転していたなら弟の啓を追っていく最中に聖奈に気づくかどうかも怪しい。
ましてや、聖奈に会う理由が手紙だ。動転していてできることじゃない。
やはり、考えると祖父は正気で手紙を書いた。
どうすれば…………あ!! そうだ、聖奈に直接聞けばいいんだ! 何を考えていたんだ俺は……
答えは近くに知っている人がいるじゃないか!
「な、なぁ、聖奈。」
「なぁに? 幽にぃ。」
「こ、この手紙のことなんだけど。」
「これって、聖奈は読んじゃダメってお祖父ちゃんが言ってたんだけど見ていいの?」
「ああ、見てもいいぞ。」
「それじゃ、読むね。……ふ~ん、お祖父ちゃん、こんな事書いてたんだ。」
「らしいんだ。聖奈、そこに書いてあることって……本当なのか?」
「……うん、本当だよ。」
「…………ッ!?」
なん、だと……? これが、真実だっていうのか!?
「でも、聖奈はあんまり最初に書いてある方は使いたくないの。」
「ど、どうして?」
「これね、治す方法って、聖奈の血を使うの。だから、治すの嫌い。」
「血?」
「うん。傷口に血を当てたり、飲ませたりすると、治っちゃうんだってお祖父ちゃんが言ってた。」
「そ、そうか。祖父がそう言ってたのか……。」
血を使う治癒……。俺にも理屈なんかは到底理解できそうにはない。
問題は、この事実は本当なのだという事を受け止めるしかないことと……
これを皆に話すべきなのかということだ。何か、証明さえできれば苦労はしない。
これが本当なら、俺達の生存率は格段に上がるし、今後の行動にも大きく影響が出る。
しかし、証明する方法がないとなるとな……現に俺もまだ半信半疑だし。
「そ、そうだ。察知の方も使えるんだろ? このあたりにいるゾンビがどこにいるのか教えてくれよ。」
「え、あ、うん。こっちはいつでも使えるから。 う~ん、この辺りには……ほとんどいないよ。
もう2人しか見えないよ。」
「…………。」
ああ、さらりと潔白証明できると思ったけど、この部屋、窓がない。頑丈な作りだから当然だろうけど、
これで証明する方法は無くなった。検証は明日でもいいか……。
なにはともあれ、聖奈云々については保留だ。聖奈はいままで一人で苦しんでいたんだ。
これ以上、聖奈に辛い思いはさせられない。明日からはまた地獄のような日が続きそうなんだから、
今日はもう考えるのはやめよう。ああ、そうだ。黒い扉、閉めておかないとな。
「藤島、扉閉めるの手伝ってくれないか?」
「おう、いいぞ!」
扉を閉めて、俺達はその日だけあの時のような平和な日を過ごした。
あの平和だった時以上の幸せを感じた。本当に、俺達は今、楽園にいるんだ。
あっという間に今日は終わり、明日を迎えた。
ふぁぁぁ、もう朝か。
時計がここにはあるので、時間が分かる。今は午前6時34分だ。
皆はまだ寝ている。と思っていたら、聖奈が俺の隣に来た。
「幽にぃ~!」
小声で言い、俺の腕に抱きついてきた。
「せ、聖奈? どうしたんだ。今日から隣町に行くんだぞ。聖奈はまだ寝ててもいいんだぞ。」
「でも、もう目がさめちゃったし。それに、いままで一人ぼっちだったんだもん……。」
「聖奈……いままで辛い思いをさせてゴメンな。だけど今日からは俺が護るから……。」
そうだ、聖奈は何があっても護る。例え、この命に代えてでも……!!
「幽にぃの腕、あったかい……。」
「聖奈……そろそろ自分のベットに戻らないと風邪ひくぞ? 冬だから寒いだろ。」
「ベットの中よりも、幽にぃの方が暖かいもん……だから、もう少しだけ……」
……!! 聖奈、泣いているのか? 涙が両目から溢れている。
やっぱり、一人で助けが来るかどうかすらも信用できない状況だったから……。
一人だったから、最悪の状況しか考えれなかったのかもしれない。
俺は泣く聖奈を抱き寄せた。
「大丈夫、俺が護るって言ったじゃないか。もう、泣かなくてもいいんだ。」
「幽にぃ……!!」
ギュッと腕を抱く力が強くなった。
その後の俺と聖奈は温度の低い部屋の中でも寒いとは微塵も思うことはなかった。
そして、時は刻一刻と過ぎて言った。
午前8時30分、全員が目覚め、朝食を取り終えてもう準備は済ませてあった。
「皆、準備はいいか?」
「ああ、バッチリだ!」
「俺も良い調子だ。」
「僕はいつでも行けます。」
「私も大丈夫です。」
「聖奈は準備万端だよ!」
よし、皆も整っているな。6人か……護衛が務まるかどうかわからないけど、全力を尽くす!
「戦闘員は俺、藤島、大門さん、吉成の4人。非戦闘員は香憐と聖奈。これで行く。それじゃ、ここを出るぞ。
食糧や荷物はまとめてあるな?」
「鞄が1つ聖奈が持っていたから、食料には少しだけなら余裕があります。」
香憐が言った。おお、頼もしい限りだ。カバン2つ分も食糧があるなんてな……!
「懐中電灯も1つと電池が十数個あるからストックも十分だよ!」
聖奈が言った。灯りも問題ないな。
「それじゃ……扉を開けます。覚悟はいいですか?」
「…………」
皆緊張している。緊張するのは街の手前からでいいのだが、まぁ緊張感は無くされても困るから、
問題ないだろう。
俺は、小声で聖奈に聞いた。
「一応聞くけど、ゾンビの気配は?」
「ん、大丈夫。門の前に1体いるけど、中には誰もいないよ。」
「そうか、ありがとな。」
扉を開けて、黒い扉の前に立つ。扉は重厚な雰囲気を漂わせて、俺達の前に聳えている。
「開けるぞ! 手伝ってくれ!」
俺が扉を押し、藤島たちが続く。ギギギギと扉が少しずつ開いていく。
寒気が隙間から差し込み、俺達を包んだ。
「出るぞ、俺に続いてくれ!」
扉から出て、俺は外ではなく保管庫に向かった。
「新堂?」
「ん、どうした?」
「どうしてここに来た?」
「木刀が欲しくてな。」
「ああ、ここにはたくさんあるもんな!」
俺は……そうだな、これとこれにしよう。
「これってどうやって使うんだ?」
「これはだな……後で使ってみせるよ。藤島はこれに変えておけ。」
木刀を一本差し出す。
「使ってもいいのか?」
「ああ、祖父はもういないんだし。」
「大門さんにはこれかな、はい。」
「ああ、すまんな。」
「吉成も一応これ持ってて。」
「こ、これは?」
「小太刀ってよばれる武器だよ。射程が短いけど軽いし、小回りが利くからな。」
「ありがとうございます!」
「香憐と聖奈は何かいる?」
「わ、私は遠慮しておきます……。」
「聖奈はこれがあるから大丈夫。」
聖奈が見せたものは……凄く斬れ味がよさそうな刃物だった。
「扱いには十分注意するんだぞ?」
「うん!」
さて、武器も本格的に整った。俺は今まで使ってた木刀をベルトと腰の間に挟めた。
そういえば俺、制服のままだったな……。ベルトが役に立ったから文句は言えないけどさ。
保管庫から新たに手にした獲物を手に握りしめ、俺達は道場を出た。