私はどうやら推しに転生したらしい
私はどうやら、推しに転生したらしい。
改めて、鏡の前で自分の顔を凝視する。
「……何回見ても顔がいいな?」
銀髪、整いすぎた輪郭、作画崩壊ゼロ。
原作通り。いや、原作以上かもしれない。
少し身体をひねってみる。
「お、細身だけど……」
腕に力を入れると、ちゃんと筋肉が動く。
華奢に見えるのに、無駄がなくて引き締まってる。
「え、これ努力してる体じゃん……」
原作で剣も政務もできる設定、伊達じゃない。
……ふと、好奇心が勝った。
「せっかくだし」
「胸板、見ちゃおっかな」
自分でも何言ってんだと思いながら、
制服のボタンに手をかけた、その瞬間——
「殿下!!」
バァン、と扉が開いた。
「うわっ!?」
反射的に手を離す。
飛び込んできたのは、執事っぽい人。
目が真っ赤で、明らかに取り乱している。
「ご無事で……本当に……!」
執事はベッド脇に駆け寄り、深く頭を下げた。
「……え?」
頭の中で、記憶がつながる。
——皇太子レオニスは、
連日の政務と訓練で無理を重ね、倒れた。
つまり。
「……あ、これ」
(過労死未遂からの転生パターンだ)
「殿下、急に倒れられて……わたくし、殿下がもう目を覚さないかと..」
「ストップストップ」
私は慌てて手を振った。
「大丈夫、生きてる」
執事は一瞬固まり、
次の瞬間、目を見開いた。
「……殿下?」
「あ、いや、いつも通りだから。多分」
(中身は変わってるけど)
その時、廊下の方がざわついた。
「殿下のお見舞いに——」
執事が振り返る。
「聖女エリナ・リュミエール様、
それからノア・グランツ公爵です」
「…………」
来た。
原作のメインキャラ。
まず入ってきたのは、
柔らかい雰囲気の少女。
「殿下……!」
エリナ・リュミエール。
原作ヒロイン。近くで見ると、くっそ可愛い。
(うわ、光属性……)
続いて、背の高い青年。
「ご無事で何よりです、殿下」
ノア・グランツ公爵。
爽やか、誠実、正統派。くっそイケメン
(あ、勝ちヒーローの顔だ)
二人とも、クソ顔がいい!なんてこの顔面偏差値の良すぎる世界は!最高!
原作では私——いや、レオニスの運命を左右する存在。
私は一瞬だけ考えて、
にこっと笑った。
「心配かけてごめん」
自分でもびっくりするくらい、
自然に声が出た。
エリナはほっとした顔で微笑み、
ノアは安堵したように肩の力を抜く。
……原作と、少し違う、こんなシーンなんてあったっけ?
胸の奥で、嫌な予感と、
ちょっとした期待が同時に芽生えた。
(これ……)
(本当に、原作通りに進むのかな)
私は、もう一度だけ思った。
「……まあ」
「今はイケメンだし、いっか」
破滅ルートの確認は、
もう少し後でいい。




