来世はイケメンが良い(切実)
「ねえ、もし来世あるならさ」
佐倉澪音は、コンビニ前のベンチでスマホを見ながら言った。
「絶対イケメンがいい」
隣の友達が呆れた声を出す。
「またその話?」
「だってさ、顔が良いって正義じゃない?」
「はいはい」
スマホの画面には、何度も読み返したファンタジー漫画。
——ヤンデレ皇太子
——レオニス・ヴァルディア
「見てこの顔。芸術」
「またこいつ?」
「は?こいつじゃねえよレオニス“様”ね」
澪音は軽く笑ったけど、胸の奥は少しだけ静かだった。
まあ、正直、好きになる基準は顔だけじゃない。
優しい人も、真っ直ぐな人も、綺麗な人も、かっこいい人も。今で言う、バイセクシャルってやつだ。
でも——それを口にしたことはない。
言わなかった。
言えなかった。
家族とも、友達とも、
関係が壊れる想像をするくらいなら、
普通なフリをする方が楽だったから。
「澪音ってさ、恋愛興味ないよね」
前に言われた言葉を思い出す。
否定もしなかった。
肯定もしなかった。
そもそも、付き合ったこともないし。
「来世はさ」
澪音は立ち上がって、空を見た。
「何も考えずに生きたいなぁ。
顔が良くて、立場も強くて、
誰にも説明しなくていい人生」
「雑すぎない?」
「いいの。願望だから」
その瞬間——
キキィィッ!!
視界がひっくり返った。
どうやら私だけ車に突っ込まれて死んだらしい?
⸻
「……え?」
目を開けると、知らない天井。
でかくて、豪華で、現実感ゼロ。
「ここ、どこ……」
声を出した瞬間、違和感。
低い。
落ち着いてて、やたらいい声。
嫌な予感がして、横の鏡を見る。
そこに映っていたのは——
銀髪、長身、非の打ち所がない顔。
「……」
「……え?」
数秒後。
「いや待って」
「待って待って待って」
「これ……」
「推しじゃん!!!」
頭の中に、一気に情報が流れ込む。
「まじでこれ私が読んでたレオニス様の小説じゃん!」
——レオニス・ヴァルディア
この国の皇太子。
原作では、報われない男。
物語の中心は、
聖女として現れた少女
エリナ・リュミエール。
彼女を巡って、二人の男が描かれる。
一人は、
ヒロインと結ばれる正規ルートの相手。
——ノア・グランツ。
名門グランツ公爵家当主。
剣も政治も完璧な、正統派主人公。
もう一人が——
ヒロインを愛しすぎた皇太子、レオニス。
原作の展開はこうだ。
レオニスは、エリナを想うあまり重くなる。
守ろうとして、縛る。
信じてほしくて、疑われる。
エリナは次第に疲弊し、
理解してくれるノアへ惹かれていく。
最終的に、
エリナはノアと結ばれる。
そして——
レオニスは選ばれない。
居場所を失ったレオニスの前に現れるのが、
ローザ・ベルグラード。
皇太子を盲目的に愛する悪役令嬢。
「殿下、一緒に死にましょう」
生きる価値がないと信じていたレオニスは、
その手を取って物語から退場する。
——それが、澪音が何度も読んで泣いた原作。
「……待って」
鏡の前で、レオニス(中身:澪音)は頭を抱えた。
「私、今」
「報われずに死ぬ推し本人なんだけど??」
しかも原作知識フル搭載。
未来が見えてる。
破滅エンド確定キャラ。
普通なら絶望する場面。
でも。
鏡の中の顔を見て、思った。
「……でもさ」
「顔、めちゃくちゃいいな」
前世では、
好きなことも、好きな気持ちも、
全部飲み込んで生きてきた。
でも今世は、皇太子。
顔よし、立場よし。
「破滅ルート?」
「知らん」
「まずはイケメン人生満喫してから考えよ」
こうして——
何も言えなかった元女子は、
推しの運命を知ったまま皇太子として生きることになった。




