1 『国語入試問題必勝法』と『鼻行類 : 新しく発見された哺乳類の構造と生活』
翌日。さっそく彩子さんのマル秘裏ワザ講座が始まった。
彩子さんは頑なに「マル秘でも裏ワザでもないから!」って言ってるけど、ホントかなぁ。
「基本的なところを確認しておきたいんだけど。マリちゃん、分類の話は学校図書館で聞いているよね?」
「はい。すっごく細かくは覚えてないけど。類は覚えてます。あと、小説と伝説のあたりは少し覚えてます」
「嬉しいなあ、じゃあこの本の表紙を見て、どのあたりの本か、予想してみて」
テーブルの上には本が二冊。どちらも読んだ事がない。
書名は『国語入試問題必勝法』と『鼻行類 : 新しく発見された哺乳類の構造と生活』。
「こっちが言語…日本語で、頭の数字が8。こっちが哺乳類で動物だから自然科学で頭の数字が4ですか?」
「うん、類の数字がきっちり頭に入っているのね。素晴らしい。ただし、これは、書名だけで中身を判断しちゃダメというひっかけ問題です」
「えええ!?」
「『国語入試問題必勝法』の著者名に注目。清水義範さんは小説家です。これは大学入試の国語問題を風刺した小説なので、913.6に分類されてます」
「……小説? この書名で?」
「だから、落とし穴なの。ただ、著者を知っていたり、本の目次を読んだり、奥付あたりの著者紹介や初出誌を確認したら、違和感に気づくと思うのね。この本は小説の短編集だって。次に『鼻行類』だけど、これはとってもややこしい本でね。こういう動物が発見されましたって、大真面目に大ウソをついた本」
「ええええ? ウソを本にしても良いの!?」
彩子さんが腕組みしながら何度も頷く。
「そう思うよねえ。でも発行されちゃったんだよね。しかも、私が知る限り、日本国内では出版社を変えて三回翻訳本が出てるの。元々はドイツ語で出されたもので、この本が最初に日本語で翻訳発行された時は、〝分類的に危ない本が出た。気をつけて〟っていう話が図書館業界に回ったぐらいだったって。でも、発行されるごとに意見が別れてね。マリちゃん、CiNii Booksって知っている?」
「…いえ、知らないです」
「カーリルローカルは?」
「それは知ってます。前に、彩子さんに教わったから。地元以外の図書館にある本のこともいっぺんに調べられるサイトですよね?」
「その通り。ただ、カーリルローカルは公共図書館が中心の検索で、CiNii Booksは大学図書館が中心のサイトなの。このあたりを説明すると長くなるから、今回はカット。で、さっきの〝鼻行類〟の本をCiNii Booksで検索すると、この本を持っている大学名が出て、図書館によっては請求記号の分類の情報も表示されるのね。で、一番最初に発行された本のを見比べると…」
「あっ! 頭が4! 自然科学! 489は哺乳類の分類ですか?」
「その通り。真面目な哺乳類の本とした分類ね」
「でも、944もある。これは、小説の分類?」
「そう、原書はドイツ語のフィクションだから。つまりドイツ文学っていう判断をしたと思うの。で、その後に発行された本の分類を見比べてみると…」
「…480.4が多い」
「動物に関する雑著という分類。エッセイという判断かな? ドイツ文学の分類にして棚に並べたら、こういった本を探している読者には届かない。でも、動物学そのものの本じゃない。落とし所がこの数字かなって、私も思う」
「…分類って難しいんだ」
「うん、難しい。けど、細かな知識がなくてもある程度は参考にできる。ただし、落とし穴もあるから注意してねという話。こういう話ならできるけど。どうかな?」
「とっても面白いです! あと、この本、読みたいです!」
私が本に手を伸ばすと彩子さんは片方の本を素早く掴んだ。
「〝鼻行類〟は良いけど、こちらはまだ早いから!」
「早い!? どうしてですか!?」
「マリちゃんは大学進学希望だよね?」
「え? あ、はい」
「この本は小説なんだけど、ものすごく説得力があってね。読むと引きずられるから、大学入試が終わってない若者には貸さない事にしてるの」
「…徹底してるんですね」
「この本を貸した大卒の大人たち全員の感想が〝高校生の時に読まずに良かった〟だから」
「す…ごい」
「とても面白い小説だからいつかは読んでみて欲しいけどね。そういうことで、お友達にも秘密にしてね。わかりやすい事例だから出したの。マリちゃんを信じて」
「了解です。書名だけで中身を判断しちゃいけない。分類を確認しなさいというお話ですね?」
「その通りです。でも、分類を全部覚える必要はないし…。あっ、でも913.6だけは覚えてね。あと、分類の最後が04となっているものは、注意が必要なものがあるから」
「さっきの〝鼻行類〟みたいに?」
「そう。〝エッセイを参考文献にするのはダメ〟という考えの大学の先生もいたから」
「わかりました。注意します」
「それから、図書館の本につける分類には100%の正解はないと思って下さい」
「…どういうことですか?」
「私の先輩が言っていたんだけど。〝図書館に置く本の分類は、その図書館を使う人たちにとって一番使いやすいものを選んだ方が良い〟って」
「同じ本でも、学校図書館や大学の図書館じゃ、数字が違う事があるってこと?」
「そういう場合もありますね。日本のいろんな図書館が使用している〝日本十進分類法〟…通称NDC。この表にある通りに分類を決めると、とても数字が多くなる事がある。でも、学校図書館や公民館図書室は本の冊数が、多くても10万冊はないぐらい。そういうところでは数字全部は必要ない、三桁か四桁ぐらいで良いだろうという考え。逆に、100万冊以上ある大学図書館だと細かく数字をつけていかないと、似ているテーマの本なのに、置く棚の場所が離れてしまう事もあるのね。図書館が持っている本の総数。偏りのある分野。各図書館の、いろんな事情を考えて分類は決められているケースがほとんど。それと、ちょっと特殊なケースがあって…。ちょっと待ってて」
彩子さんはリビングの隣の部屋に入っていった。
関連図書
・清水義範著『国語入試問題必勝法』講談社 1987.10
・ハラルト・シュテュンプケ著 日高敏隆, 羽田節子訳
『鼻行類 : 新しく発見された哺乳類の構造と生活』思索社 1987
関連サイト
・CiNii Books
https://ci.nii.ac.jp/books/
(アクセス日:2026/1/2)
・カーリルローカル
https://calil.jp/local/
(アクセス日:2026/1/2)
初版 2026年1月2日




