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9 『日本目録規則』

「いろんな落とし穴の話をしたけど。話し忘れたことがあったのを思い出した…」

「えっ? なんですか?」

「国立国会図書館サーチで、これって思った本の都道府県立図書館や政令指定都市図書館の所蔵が調べられるって言ったけど、刊行年が古い本は上手くリンクしていないことがあって、改めてカーリルローカルなどで確認した方が良いの」

「あっ、さっきの話。漢字データの入力間違い?」

「それもあるかもしれない。でも、細かく確認したわけじゃないけど、私が見たのはデータ化時の出版年の選択が違っていたの」

「出版年の選択?」

 彩子さんがパソコン画面を操作する。画面には、『日本目録規則2018年版』の文字。

「これは、図書館の資料をデータ化する時の最近のマニュアルのひとつで。出版日付についての決まりごとのページに例が載っていたはず…。あっ、このあたり」

 彩子さんは、画面のうちの発行の表示がある4行を指先で丸してみせた。


 昭和49年6月30日第1版第1刷発行

 昭和53年5月15日第1版第5刷発行

 昭和54年4月15日改訂版第1刷発行

 昭和57年6月1日改訂版第7刷発行


「で、説明文はここね」

 

 〝出版日付は、刊行物の出版、発行、公開と結びつく日付である。記述対象とした体現形の出版、発行、公開に結びつく日付が複数存在する場合は、最も古い日付を選択する。

1979.4.15

(情報源の表示は、次のとおりであり、改訂版第 1 刷に該当する日付を採用)〟


「奥付に、こういうふうに4行で書かれている本だったら、上から3行目の1979.4が発行年。そして版表示は改訂版。もしも、奥付がこの2行目までしかない本だったら1974.6にする。で、版表示は初版ではあるんだけど、図書のデータ上は、初版の情報は省略することになっている。でもねえ、昔のマニュアルはこうじゃなかったんだ」

 彩子さんは画面を変えた。

 今度のパソコン画面には、〝印刷カード通信 総目次〟とある。

「これは国立国会図書館が発行していた『印刷カード通信』という資料をPDFにしてサイトで公開しているページね。この通信のNo.53である〝「日本目録規則」適用組則〟を図書のデータ作成のマニュアルとしていた図書館は、昭和の頃、とても多かったそう。で、それに、出版年情報をどうするかについて書いてあるのがこのあたりか…」

 

 〝出版年は,その図書に表示されている最新の出版年を西暦紀年で記載し,そのあとに ピリオドを付して月を付記する〟


「あっ!」

「気づいた、マリちゃん?」

「これだとさっきのマニュアルと出版年が違くならないですか? 〝最新〟だから」

「その通り。さっきの例で上から2番目まで奥付に書かれた5刷の本が図書館に入って、この昭和のマニュアルでデータ作成されたら1978.5になってしまう。国立国会図書館の本はたぶん1974.6だからマッチしない」

「たぶん? どうして、国立国会図書館の本は初刷だってわかるんですか?」

「マリちゃんは〝納本制度〟って聞いたことある?」

「いえ、ないです」

「日本の法律で、国内で発行されたすべての出版物は、国立国会図書館に納入することが義務付けられているんだ」

「法律で!?」

「そう。だから各出版社は本を出版したら国立国会図書館にすぐ送る。もうルーティンになっているみたいで初刷が圧倒的に多い。でも、国立国会図書館以外の多くの図書館は、本を購入することが多い。すぐ予算がでない場合もあるし。そうこうしているうち2刷、3刷になり…最新出版年がずれていく。でも、それだと、同じ本だと判断しにくくなる。それで、たぶん、マニュアルの方があとになって変更されたんだと思う。私は長く大学図書館に入る本のデータ作成作業をやっていて、この古いマニュアルを使っていた時期もあるんだけど。ただし〝出版年はその版の初刷にする〟と、そこだけ変更したものを使っていたんだよ」

「古いマニュアルを使っていた時、そこに気づいていたかどうかで、出版年に違いが出ちゃう可能性があるということですね」

「うん、そう。最近、カーリルローカルで、あちこちの図書館の所蔵情報が比較できるようになって気づいた。だから、出版年が違うからってすぐ除外する前に、CiNii Booksで、その本の出版の変化の裏取りをした方が良いと思う」

「国立国会図書館サーチじゃダメなんですか?」

「〝納本制度〟の弱点」

「弱点?」

「出版社は、初版はわりと納本してくれるけど、時々、改訂版や増補版を納本しないケースがある」

「えええええ」

「出版社業界と図書館業界はともに本を扱う業界ではあるんだけど。本を売り物と考える出版業界と、本を資料と考える図書館業界では、考え方にいろいろ違いがあるみたいなんだ」

「あっ、ISBNの使い回し!」

「そうだね。どうやら、売るための管理番号としかISBNを考えていない出版社もあるらしくてね。〝初版はもう絶版なんだから、新しく売る…流通する改訂版の方に番号を転用しても良いでしょ〟っていう考えの出版社があるみたい。でも、研究者は、本文内容の違う初版と改訂版は、まったく別の資料と区別している。それに応える図書館業界の人間には、たとえISBNが同一だろうと内容が違うのであれば別データを作成するCiNii Booksというデータベースが必要なんだ。昔、私の先輩が言っていたんだけど。〝本にある情報は、データ化される前提で用意されていないものがほとんどだ。本の現物から目録規則…マニュアルに従い、情報をくみとり、どういう資料であるか、他の人が読み取れるようなデータを作成することを目指せ〟って」

「は〜。まるで暗号解読みたい」

「私も図書館業界に入るまでは考えてなかった。たくさんの人がそうだと思う。でも、だからこそ、私はこれまでお給料をいただけたんだとも思うんだ。〝同じ本みたいにみえるかもしれませんが、この本とこの本には違いがあります〟とか。逆に〝新装版なら内容的には同じだから、とりあえずこれを読んでいて下さい。その間に目当ての本を取り寄せましょう〟みたいに説明しながら本を提供していたら、利用者…特に研究者にはとても喜ばれたから」

「ちょっと待って! 彩子さん!」

「えっ? なに?」

「新装版は内容的に同じってところ!」

「あぁ。改訂版や新訂版、増補版は本文の内容を変更してある。でも、新装版は、装丁などが変わっているけど、本文内容は前の版と同じだったりするから、前の版がなくても新装版があったら、ある程度、代用できるという話」

「うっ、ややこしい」

「新装版の装の字は装い。つまり着替えただけ、中身は同じと、私は覚えた」

「あっ、それならわかりやすいです」

「漢字の良いところよねえ。訂正の訂の文字が入っている、改訂版、新訂版、補訂版。増補はまんまだし」

「そうか!」

「ただし…」

「ただし?」

「表紙や奥付に〝新装版〟って書いてあるのに、あとがきに〝旧漢字は新漢字に変えてあります〟みたいに書かれていたケースもあったから、参考文献に書いてある版は実際に確認した方が良いと思う」

「ううう、落とし穴が多すぎる」

「そうだね。さて、本の探索の注意点はだいたい話せたと思う。疲れたでしょ? 今回はこのへんにしない? また、何かあって協力できそうだったら話すから」

「はい。ありがとうございます。ちょっと、情報を整理しなくちゃ」

関連サイト

・「日本目録規則 2018年版」日本図書館協会

 https://www.jla.or.jp/committees/mokuroku/ncr2018/

  (アクセス日:2026/1/21)


・日本目録規則2018年版(NCR2018)について 国立国会図書館

 https://www.ndl.go.jp/data/ncr

  (アクセス日:2026/1/21)


・「印刷カード通信 総目次」No.53 「日本目録規則」適用組則 1979.11

 https://www.ndl.go.jp/data/basic_policy/bib_control/article/bpcc

  (アクセス日:2026/1/21)


・納本制度 国立国会図書館

 https://www.ndl.go.jp/collect/deposit

  (アクセス日:2026/1/21)


 初版 2026年1月21日

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