思いを馳せる2人
夜。
月は、王城の塔の上にも、町外れの小さな家にも、等しく光を落としていた。
◆ 平民の家 ―― フィリア
布団に入っているのに、眠れなかった。
昼間と同じ部屋。
同じ天井。
なのに、世界だけが、少し変わってしまった気がする。
「……王女、かぁ」
小さく呟いて、天井を見つめる。
実感は、ない。
だって、今日までと何も変わっていないから。
洗濯をして、掃除をして、
夕飯を手伝って、叱られて、笑って。
(……でも)
胸の奥に、知らない“居場所”が生まれた。
「お兄ちゃん、いるんだって……」
「レオン、って言うんだって」
義母の言葉を思い出す。
顔も知らない、声も知らない。
それなのに。
「どんな人なんだろ」
強い人?
怖い人?
それとも――
「……やさしい人、だったらいいな」
そう願った瞬間、なぜか胸が、ふわっと温かくなった。
会ったこともないのに。
名前を呼ばれたこともないのに。
それでも、どこかで誰かが、
自分を大切に思ってくれている気がして。
フィリアは、指輪を胸元で握りしめ、そっと目を閉じた。
◇◇◇
◆ 王城 ―― 王子
高い塔で星を見ながら、動けずにいた。
窓の外には、満月。
いつもと同じ景色なのに、今日は違って見える。
「……フィリア」
口に出した瞬間、胸が締めつけられた。
妹。
双子。
――生まれた瞬間から、離れて生きてきた存在。
「……怖くなかったか」
知らない家。
知らない人たち。
「……寂しくなかったか」
拳を握る。
(俺は)
守るべきものを、何一つ知らされずに、
ぬくぬくと王城で育った。
「……絶対に」
王子は、窓に映る月を見つめる。
「必ず、迎えに行く」
「どんな立場でもいい」
「王女でも、平民でも――」
声が、少しだけ震えた。
「……妹なら、それでいい」
胸の奥に、理由のない安心感が広がる。
会ったことはない。
でも、確かに“いる”。
同じ空の下で、生きている。
王子は指輪に目をやり、目を閉じた。
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月は、二人を隔てる距離など、何も知らない顔で輝いている。
けれどその光は、
確かに――
双子の心を、同じやさしさで照らしていた。




