生まれたのは双子⁉︎
王城に鐘の音が響いた夜、
王国はふたつの産声に包まれた。
「……双子、でございます」
産婆の震える声に、
部屋の空気が一瞬、凍りつく。
それでも、王は一歩も引かなかった。
寝台に駆け寄り、小さな命を見つめる。
右腕に抱かれたのは、力強く泣く男の子。
左腕には、静かに瞬きをする女の子。
「兄君と、妹君です」
その言葉を聞いた瞬間、
王妃の瞳から涙が溢れ落ちた。
――双子は王国に災いをもたらす。
古くから語られてきた迷信が、
この国には根深く残っている。
王家であればなおさらだった。
家臣たちは視線を交わし、
誰も口を開こうとしない。
だが、王ははっきりと言った。
「この子たちは、災いなどではない」
「私と王妃の――かけがえのない子どもだ」
王妃は震える手で、
妹の小さな頬に触れた。
「……フィリア」
「あなたは、フィリア」
名を呼ばれたその瞬間、
赤子は小さく指を握り返した。
「兄は、レオンだ」
王は男の子を胸に抱き寄せる。
「この国を守る剣となる子だ」
その夜、王と王妃は決断する。
誰にも知られてはならない、
けれど、決して捨てない選択を。
王子レオンは、
正式な王太子として王城で育てる。
王女フィリアは、
王と王妃が心から信頼する者のもとへ。
それは、引き離すためではない。
生かすための選択だった。
王は密かに誓う。
――必ず迎えに行く。
――この子が、自分の名を名乗れる日まで。
こうして、
同じ夜に生まれ、
同じ愛に包まれた双子は、
違う世界で生きることになる。
だがその運命は、
まだ、静かに息づいているだけだった。
王城から少し離れた町の外れに、その家はあった。
石造りでも、装飾のある屋敷でもない。
木の扉に、小さな庭。
けれど手入れは行き届いていて、窓辺には季節の花が揺れている。
そこが、
王女フィリアが生きることになる場所だった。
夜明け前、馬車は音も立てずに止まる。
王妃は深くフードをかぶり、胸に小さな命を抱いていた。
扉を開けたのは、
王家に長く仕えてきた元近衛騎士と、その妻。
二人は深く膝をつき、何も問わず、ただ頭を下げた。
「……この子を、お願いします」
王妃の声は、震えていた。
「この子は、この国で最も大切な存在です」
「どうか、どうか……生きさせてください」
妻は静かに赤子を受け取る。
その腕は温かく、迷いがなかった。
「必ず」
「この命を、守り抜きます」
赤子は、不思議と泣かなかった。
王妃の胸から離れても、
まるで分かっているかのように、静かに瞬きをしている。
王は一歩前に出て、
その小さな額に、そっと口づけた。
「フィリア」
「今は名を隠すが、
お前は確かに、私たちの娘だ」
そして、
王妃は自分の首から小さな護符を外し、
フィリアの衣の内側に忍ばせる。
「これがあれば、
あなたは一人じゃない」
扉が閉まる直前、
王妃はもう一度だけ、振り返った。
暖炉の火。
揺れる影。
平民の家に抱かれる、小さな王女。
――ここなら、大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、
王と王妃は背を向けた。
◇◇◇
それからの日々、
フィリアは「フィリア」として育てられた。
王女ではなく、
平民の娘として。
朝は畑の土の匂いで目を覚まし、
夜は物語を聞いて眠る。
笑えば笑い返され、
泣けば、理由も聞かず抱きしめられた。
そして、
何も知らないはずの少女は、
不思議なほど背筋を伸ばして歩いた。




