本当に、口は災いの元ね
あら、気がついたかしら?
安心なさい。ここは天国でも地獄でもなく、我が公爵家の別邸よ。
助けてくれたのか?
まあ、そうね。一応助けた事になるのかしら?
自分の結婚式で、あなたの乳姉弟で、わたくしの婚約者である伯爵令息に刺された事は憶えていて?
憶えているのね。よかったこと。
自分の都合のいい部分しか憶えていなかったら、どうしようかと思ったわ。
あなたとわたくしの婚約者になった伯爵令息は恋仲だった。
それを公爵令嬢で次期公爵となるのが確定しているわたくしが、彼を見初めたために引き裂かれてしまった。彼は、そう思っているようね。
だから、いつまで経っても、わたくしに心を開いてくれず、話しかけても無視、こちらがプレゼントを贈っても、しっかり自分はもらうくせに、自分からは、わたくしに何もくれない。
ふふ、そもそも、彼の両親の伯爵夫妻は最初から男爵令嬢にすぎないあなたとの結婚など認めていなかったし、あなたはあなたで、息子から引き離したかった伯爵夫妻が勧めた見合いで、お相手の豪商に一目惚れして、恋人だった彼と離れたかったのよね。
彼を引き受けてくれて感謝していますと、晴れ晴れとした笑顔で、あなたにそう言われた時のわたくしの気持ちが分かるかしら?
確かに、わたくしは彼に一目惚れして、権力で無理矢理、彼と婚約したわ。
それは認めるし、別段、その事で後悔もしていない。
わたくしは、わたくしの持てる権力で、欲しいものを手に入れた。
あなたのためじゃない。
だのに、まるで、不要になったモノを引き受けてくれたと言わんばかりの言い方に、もやっとしたの。
だから、あなたを助けなかった。
怪訝そうな顔ね。
愛する彼の動向は全て把握しておかなければ気が済まない。
公爵家の諜報員に常に見張らせ……見守ってもらっているわ。
だから、彼があなたの結婚式に乱入しようとしていた事も分かっていた。
でも、あえて止めなかったわ。
愛する彼が犯罪者になってもよかったのか?
自分の今の状況ではなく、そっちが気になるとはね。
別に構わないわ。彼が犯罪者になろうと、他に愛する女性がいようと、傍にいてくれれば。
彼の全てを愛している。外見も、人格も。
わたくしを愛していなくても、わたくしが愛している以上、誰にもやらない。一生、いえ永遠に、彼は、わたくしだけのものよ。
あなたを殺して死ぬつもりだったようだけど、ふふ、愛する女性を傷つける事はできたくせに、自分をそうする覚悟や度胸はなかったみたいね。駆けつけた警察に捕まって、そのまま彼は断頭台に送られるところだった。それをわたくしが、彼が刑務所内で体調が急変して死んだ事にして、公爵家の離れに連れ帰ったわ。
あなたも世間的には死んだ事になっているから。
どうしてそんな事を、だなんて。
決まっているでしょう?
生きて、わたくしが味わった悔しさの片鱗を味わってほしかったからよ。
あなたは、わたくしに不要になった恋人を押し付けて感謝したわね。
だから、わたくしは、あなたから、あなたの愛する豪商を奪う事にしたわ。
どういう事かだなんて。
ふふ、彼が、あなたの結婚相手の豪商が、あなたを愛して結婚を決めたと思っているの?
彼にとっては、貴族の娘なら誰でもよかった。彼は貴族相手の商売を始めたかった。そのために、末端の男爵令嬢とはいえ、一応貴族の娘であるあなたとの結婚を決めたのよ。
わたくしも、世間的には婚約者が死んだから、新たな結婚相手を決めなければいけないのですもの。そのお相手として、あなたの結婚相手の豪商を選んだわ。
彼は貴族相手の商売を始められるのなら、相手に愛人がいようと、托卵されようと、構わないと言ってくれたわ。
わたくしの身勝手な結婚条件を呑んでくれて、しかも、あなたに苦汁をなめさせる事もできる。これ以上、最良の相手はいないわね。
ああそうそう、命は助かったけど、当たり所が悪かったようね。あなた、一生歩けないから。
安心して。歩けなくても、わたくしが生きている限り、あなたを飼って、いえ、面倒をみてあげるわ。
だから、あなたも、乳姉弟と豪商、あなたを愛する男性とあなたが愛する男性、わたくしと二人との生活を見守っていてね。
まあ、いっそ殺してくれだなんて。
それでは助けた意味がないじゃない。
せいぜい長生きして、苦しんでちょうだいな。
ふふ、わたくしに、あんな事を言わなければ、楽に死ねて、こんな苦しい思いをしなくて済んだのに。
本当に、口は災いの元ね。
読んでくださり、ありがとうございました!




