天照大御神様との対話ー自分の幸福を知る
不老不死は手に入れた。次は小説を書いて金持ちに成る夢を叶えようと思った。
「天照様、私は作家として大成し金持ちに成りたいです」
「ふむ、残念じゃが、それは無理じゃ」
「え?何でです?」
「お主、自分に才能が有ると本気で思っておるのか?」
「いいえ、ですが天照様の力があれば成功するのでは?」
「そもそもお主、小説を書くことが好きでは無かろう?」
天照様の指摘はもっともだった。好きだったら頼まれなくても書いているはずだ。だが、私は今まで1本しか小説を書かなかった。それは、賞に応募したが落選した。その後は、何も書いていない。
「ですが、私は金持ちに成って仕事を辞めたいのです」
「ほら、やっぱりお主は作家に成りたいのではない、金持ちに成りたいのであろう?」
言われて気が付いた。私が欲しいのは作家としての名声ではなく金だった。それなら小説を書く必要は無い。
「ですが、小説以外に私が金持ちに成る方法がありません」
「金だけなら、何とでもなるぞ、仕事を頑張って節約して暮らせばよい」
「仕事はしたく無いのです。遊んで暮らしたい」
「では、宝くじでも当てるか?」
「そうしてください」
「本当に良いのか?金持ちになる事で失うものがあるのじゃが」
「金持ちに成って失うものですか?」
「そうじゃ、金を持ちすぎると安心と自由を失う」
「どうしてですか?」
「お主は知っているはずじゃ、金持ちは、犯罪者に狙われる。多くを持っておるからの、強盗や詐欺師が寄ってくる。家族を持てば身代金目当ての誘拐を気にしなければならぬ、親戚や家族からも金を無心される。そんな生活を本当に望むのか?」
「私は生涯独身で構いませんし、誰にも騙されないし、宝くじが当たっても誰にも言いません」
「宝くじを当てたという情報は簡単に漏れる。人の口に戸は立てられぬ、銀行に金を預けていれば当然の様に銀行員にはバレている。つまり、金持ちであることを隠す方法は無いのじゃ」
ここまで言われて私は気が付いた。金はブラックホールのようなものである。集めれば集めるほど自由は無くなるのだ。
「ですが、私は贅沢がしたい」
「本当に、そうか?お主は世界の真実を知った。創造神の目的も知っておる。お主は本当に贅沢がしたいのか?」
そう聞かれて、私はある可能性に気が付いた。私が輪廻転生を繰り返しているのなら、過去に私は贅沢な生活をしている可能性がある。その上で、安心と自由を選択しているのだとしたら?
「なら、お願いが有ります。社員旅行で伊勢に行った時、高級ホテルに泊まり、高級レストランで食事をさせてください」
「分かった。手配しよう。その後は?」
私の魂が贅沢な生活に飽きているのなら、高級ホテルも高級レストランの食事も私を幸せにはしないだろう。それが、確認できたのなら金持ちに成る必要なない。だが、仕事は嫌いだった。だから、お願いする事にした。
「もし私が贅沢を望んだのなら大金を下さい。ですが、私が贅沢を望まなかったなら、そこそこのお金で構いません。死ぬまでの間、働かずに暮らせるだけのお金を宝くじで当ててくれませんか?」
「それを創造神が許可すると思うか?」
「正当な理由があれば良いんですよね?」
「そうじゃ」
「では、それまでの間、私は知識と技術に見合わない不当な給料で働きます。最低賃金でも構わない。そうやって不当な扱いを受けその差額を創造神に対する負債とします。それを後で返してもらうのです。これは正当な権利ですよね?」
「分かった。良いじゃろう。これからイーストライズに入社するまでの間、不当な賃金で人材募集している会社に入社する事になる。その負債を返すという名目で宝くじを当てよう」
「ありがとうございます。ですが、それが無理であるのなら、定年退職する前に私に安らかな死を与えてください。老後に金の心配しながら生き続けるよりはマシですから」
「分かった。創造神が、お主に富を与えぬ時は妾が天界へ連れて行こう」
こうして私は宝くじを当て、早期退職をするか、さもなければ安らかな死を手に入れた。




