手記45
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
「な、何よ……?そんなに驚かないでくれる?」
「いや、大丈夫なの……?」
あれからまだ三十分も経っていないのだけど、いつも通りの樋口さんだ……
心配そうなアルマに付き添われながらも、彼女自ら扉を開けているので、間違いなく樋口さん自身の意思で出てきたのは解るけどさ?
「私は大丈夫。途中からだけど、貴方達の話も聞いていたわ。」
途中から聞いていたって……手間が省けるから助かるけど、だったら出てきて一緒に聞けばいいのに……
そんな事を考えるオレを尻目に、どうやら本当に奥で聞いていたらしく、彼女は戻ってきたばかりだというのに、真っ直ぐにアズサさんへ視線を向けつつ言葉を続ける。
「食堂辺りなら、確かにアズサさんにお願いする方がいいと思うけれど……」
「けれど?」
まだ何か言いたそうにしつつも一度は言葉を飲み込んだ後、樋口さんはアズサさんの様子を確かめるように視線を投げ続けた。
「私の先程の態度については、謝罪をします……でもアズサさん、貴女……私達を危険から遠ざけようとしすぎではなくて?だから、私達が皆の説得に行こうとした時も、今の話を言うに言えなかったのでしょう?」
「だってぇ……ミオちゃんやマサトちゃんは、まだ子供なのよ〜?お姉さんは心配でぇ〜……」
どうもツルギさんに口止めされていたみたいだから、彼女の立場からしたら仕方ないとは思うけれど、オレ達なら逆にキチンと説明してもらった方が、止められたのでは無かろうか?
……いや、そのくらいでオレらが止まるかな?
まぁ、そんな事はどうでもいいが、アズサさんの提案は流石にね……
「オレ達は大丈夫です。寧ろアズサさんの方が心配ですよ。」
「そうね……年長だからって、無理をする必要はないわ。」
この人、頼りになるのかならないのか、微妙なところがあるし、何よりもこういう単独潜入の提案は、ラノベならお決まりの死亡フラグなのよ。
……冗談は置いといても、本人の申告通り獣人としての力がほぼ無いのだとすれば、兵士に囲まれでもしたら相当危険なワケだし……無理はさせられないって。
「……お姉さんね〜?小さな頃に、住んでいた場所を無くしちゃって〜……お友達も家族も皆、ツルギくん以外死んじゃったのね〜……だから、マサトちゃんやミオちゃんの気持ちが、分かっちゃうのよ〜……」
「だからって、危ない真似をさせるワケにも……」
壮絶な過去があります……とか、ますます強固なフラグおっ立てるのはやめてもろて……
「二人が頑張ろうとしてるのにぃ……お姉さんだけ何もしないのは、イヤなの〜……」
「オレ達は大丈夫ですから……あると思われる場所だけ教えてくれませんか?」
「でもぉ……」
この人、結構頑固だなぁ……
もしかしてツルギさんが同行を承諾したのって、きっとこうなると聞かないからなのかもね。
でも、だからといって、はいそうですかとはならないワケで……ってか、樋口さんも黙ってないでアズサさんを説得してくれない?
そんな思いを込め、オレは樋口さんへと視線を向けたのだが……
「……ねぇ、マサトくん?ならいっそ、アズサさんに頼んでみてはどうかしら?」
「樋口さん!?急に何言ってんの!?」
……何とかしてアズサさんを諦めさせようとするこちらを他所に、樋口さんは考える素振りを見せながらも、何故か真逆の事を言い出した。
いやいやいや!?敵地のど真ん中に、彼女一人で送り出すようなものなんだよ!?ダメだって!!
「私も危険だとは思うわ……でも、例えばなのだけど、もし私達が刻印を燃やした際に、アズサさんの言う通り皆が気絶してしまったら、どうなると思う?」
「どうって……暫くしたら起きるんでしょ?」
気絶するだけで、命に別状はないって話だしね。
「そうではなくて……ええと、前提が抜けていたわね。」
「前提?」
何か条件が足りてないって事?
「思い出して欲しいのだけど、ストーカーは逃げるまではしなくても、私達のように建物から離れる事が可能なのよ。中村さん達を殺した奴も、同様にね。」
「え……?」
「つまりは、そのどちらも私達のように刻印の効果が無い、もしくは薄い可能性があるの。逃げている訳では無いから、あくまで可能性でしかないけれど……」
た、確かに言われてみれば……ストーカーを何日か前に追跡しようとした際、結構な勢いで館から離れていたような……
殺人犯も殺人犯で、明らかに建物の外から中に入っているワケだし。
「皆の説得へ行く前に、アズサさんが〝館からは離れられない〟って、言っていたでしょう?つまり、有効範囲は丁度館の敷地程度とならないかしら?アズサさん、どう?」
「そうね〜……刻印にもよるけど〜……お姉さんが、柴田ちゃんを見ていた限りだと〜……そのくらいだって思うわ〜。」
「……にも関わらず彼らは動けるのなら、刻印を壊した際の影響もかなり抑えられる筈……此処まで言えば、分かるわよね?」
前に樋口さんも何故かオレ達以外、街に行こうとしないって言っていたもんな……つまり逃げる云々関係無く、刻印からは離れられないって事か。
だとしたら有効範囲は、おそらく樋口さんの推測で間違いないのだと思う。
となれば……
「だったら、皆が気絶したら……危ないね。」
……樋口さんに付き纏うストーカー野郎はともかく、殺人犯の方はトーマ達主義者に加担している可能性が高い訳だから、そんな美味しい状況を見逃すはずがないわな。
彼女の言う通り、ストーカーや殺人犯には刻印が機能していないであろう事は、明白だもの。
「そう。だから私達は、刻印の破壊までに出来るだけ、皆を一箇所へ集めておく必要があるのよ。」
「なるほど……故に、アズサさんの協力が必要だと……」
「ええ。皆の安全の為にもね。」
「お姉さんに任せて〜!」
うーん……これは、アズサさんに頼む以外無さそうだな……彼女も自分が非力なのは理解しているようだから、無理はしないだろうし……
「……分かりました。アズサさん、お願いします……でも、絶対に無茶だけはしないでください。」
「勿論よ〜。」
「後はアズサさんに任せて、私達はやるべき事をやりましょう。」
「うん。皆の説得……だね。」
でもなぁ……一箇所に集めるといったって、あの様子だと……少なくとも、君嶋さん達五人と小川くんを合わせた六人からは協力が得られないワケだし、欠けた状態で一箇所に集めた所でなぁ……
やらないよりはやるべきだとは思うが、あれから三十分は経つから、悪評がもう広がっている可能性すらある訳で……となると、全く協力を得られなくなっている状況すらあり得るぞ。
だとしたら、直接犯人を見つけだして捕まえる方が、簡単と言えるレベルな気がするよ……いや……まぁ、それも難しいんだけどさ?
……言っても仕方ない事だけど、真っ先に清水さんを狙われさえしなけりゃなぁ。
彼女の協力があれば、比較的簡単にストーカーだけでなく、殺人犯も見つける事が……出来た……筈なのに…何か、他に手は………って!!
「あっ!!??」
思考を続けるうちに、ある考えに行き着いたオレは、思わず大声を出しながらアルマに視線を向けると、彼女は酷く驚きながらもオレへ首を傾げて見せる。
「ど、どうしたの……マサトくん?」
「そうだ……アルマだよ!アルマ!」
「アルマちゃん?アルマちゃんが何……?ちゃんと言ってくれないと、分からないわよ?」
「わたし……?」
「アルマがいたんだよ!」
「え、えぇ……私達と一緒に、此処にいるわね……?」
……っと、危ない。
先走りすぎだ、落ち着けよオレ。
困惑した様子の樋口さんの表情を見て、全く会話になっていない事にようやく気付いたオレは、落ち着く為に深呼吸をしてから、気付いた事の裏付けの為に彼女へ問い掛ける。
「説明の前に確認なんだけど、樋口さんって見た人がカルマを持っているかどうか分かるんだよね?」
「ええ。」
「それって、どんなふうに見えてるの?」
「えっと……昨晩も少し言ったけれど、透明なモヤのような物が見えるだけよ?身体から湯気が立ち昇るように見えているわ。」
オレの投げかけた質問に、彼女は訝しげな表情を浮かべながらも返答する。
此処までは、確かに一度聞いている話の確認だけど、本題は此処から先だよ。
「オレが他の人と違うって言ってたから、そのモヤが沢山出ているかどうかとかの判断は出来るんだよね?」
「ええ。それで力の強弱が分かるのよ。マサトくんから溢れているモヤは、私とそう変わらないの。」
……やっぱり違和感がある話だけど、今はそんなのどうだっていい。
まずは、確かめないと……
「じゃあ、柴田が斎藤って人を殺した後、食堂で近藤くんと言い争ってる時のアイツから出るモヤは、前見た際と違って見えた?」
「いいえ?前に見かけた時と同じね。」
「なら、近藤くんがナギさんに手をかけた後、部屋の前で会った時は一昨日と違ってた?」
「そちらも、ノーよ。二人とも、それ以前に見た時と変わったように見えなかった……それが、どうかしたのかしら?」
……やっぱり。
だから樋口さんは、柴田の力が変質している事に気付けなかったんだ。
だとしたら、彼女では殺人犯に会っていても感知すら出来ないだろうな。
でも、アルマは……
「アルマはね?アズサさんとオレが最初に会った時なんだけど、初めて接したはずの柴田を異常なくらい警戒していたんだよ。」
「マサトちゃんと仲良しさんなだけよ〜?」
「え?ええ……」
「そして昨日も、近藤くんがナギさんに手を掛けた事に気付いていた。同じようにカルマが見えている樋口さんは、分からなかったのにね……」
「話が見えないのだけど、マサトくんは何が言いたいの……?」
「えっと、もしかして……だけど、ナギさん風に言えば、アルマは穢れを取り込んだかどうかが……要するに、見た人が人を殺しているかどうか……が、カルマの状態で分かるんじゃないの……?」
例えるなら、樋口さんには白黒に見えて、アルマには色付きに見える……みたいな?
二人の見え方の違いは実際のところ分からないけど、これなら説明出来る気がするよ。
そこまでオレが話すと、何を言いたいのかが伝わったらしく、樋口さんはハッとしたような表情で、オレに視線を向け口を開く。
「ナギさんについては置いておいても、なるほど……もしその通りだとしたなら、皆と会う際にアルマちゃんを連れていけば……」
「そう!この推測が正しければ、アルマなら誰が殺人犯か調べられるんだよ!!」
……その理屈で行くと、最初にアルマを怯えさせたオレも殺人犯になっちゃうんだけど、この際無視だ無視!!
オレは間違いなくやってないもん!未遂はあるけど!
おっと、それより窓から誰かが覗いたりは……よし、してないな。
「……試してみる必要があるわ。」
「そうだね……ねぇ、アルマ?お願いなんだけど……オレ達と一緒に来て、怖い人が居たら教えて欲しいんだ。」
オレと樋口さんの意見が一致した為、改めてアルマと向き合い直接頼むと、アルマは少し難しい顔をしつつオレへ問い返した。
「マサト、も、いっしょ?」
……その直後、何故かアルマは眉間に皺を寄せ悩むような素振りを見せる。
「うん。一緒に来て、教えてくれないかな……?」
相変わらず助詞の使い方がおかしいのは置いとくとしても……ひょっとして会話の内容が難しかったのかな?
一緒に来て欲しいって部分は概ね伝わってるみたいだけど、他はどう伝えたらいいんだろ?
……などと、説明し直すかどうかを悩むこちらを他所に、彼女は険しい表情のままアズサさんとオレへ交互に視線を向けた。
どうやらこの様子では、先程までの話はしっかり伝わっていたらしく、アズサさんが危険だという事をアルマも把握している為に迷っているようだ。
彼女もアズサさんが心配なのだとしたら、無理強いは出来ないか……
「アルマちゃん、マサトちゃんのお手伝いをしてあげて〜?お姉さんは大丈夫だから〜。」
「アズサ、だいじょぶ?」
「うん、だいじょぶ〜!」
アルマの問いに、アズサさんが元気よく答えるもまだまだ不安なようで、それから暫くの間アルマは悩んでからようやくこちらへ向き直り、頷いて見せた。
良かった……って、言えないような嫌な選択をさせちゃったな……
「アルマ、ごめん……アズサさんも、危険な事を押し付けてしまって、すみません……」
「お姉さんよりも〜……マサトちゃんは二人を守ってあげてね〜?」
「そちらにつきましては、検討を重ねさせて頂きます。」
アズサさんの言葉に、つい政治家の常套句のような軽口で返すと、聞いていた樋口さんが呆れたような様子で口を開く。
「貴方ねぇ……」
しょうがないじゃん!!
だって、樋口さんの方が頼りになるんだもん!!
「……折角カッコよかったのに、台無しじゃないの……」
「ん?何か言った?」
「何でも無いわ……独り言だから、気にしないで頂戴。」
呆れた様子で何かを呟いたので聞くも、樋口さんは瞑目しつつわざとらしく溜息を吐いてからそう返す。
その様子を不思議に思うけれど、当の本人が気にするなと言ったので気にしない事にして、アズサさんに改めてお願いをした後、オレ達は三人で部屋を出た。
くれぐれも無理だけはしないよう、オレから何度も念押しした上であるが、それでも直前までアルマが気にしていたのは、仕方ないと言えるだろう。
「アズサさん、大丈夫かしら……?」
「無理な事はしないと思うから、今は信じて待とう。それに普通なら、駄目だと判断すれば戻ってくると思うし。」
「そうだといいのだけれど……」
樋口さんも不安そうだな……
とはいえ、クラスメイトからの協力を得られない場合、オレ達もアルマの力に頼るしかないので、申し訳無さはあるが致し方ない。
あちらはアズサさんに託して、オレ達はまず、未だ会っていない残りのクラスメイト六人に会うところから始めよう。
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批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。
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次回更新予定は 3月29日(日)18時となります




