偽典 決意 1
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
「お前は騙されてるんだよ!ヒロト!」
……何でこんな事になっちまったんだよ。
「騙されてる?」
「あいつらは僕達の敵なんだ!だから、僕は仕方なく……」
俺はただ、桜井やアキトと友達で居たかっただけなのに……
「ふざけんな!もう騙されない!お前が昨日何を言ったか、俺は覚えてるんだよ!」
どうして、アキトはそんな風になっちまったんだよ!
こんな事になる前は、大人しいけれど優しい奴だったはずなのに……
「なーなー、ひろとー?夏休み、みんなで海に行こうよー?」
クラスメイトの佐藤カナデが、終業式後の夏休み前で浮ついた雰囲気の喧騒の中、俺の席に来てそう話しかける。
海かぁ……中学最後の思い出作りに、旅行なんかしてみるのもアリかもね。
何かそういう事計画してる女子とか、居るみたいだしさ。
真似するのも悪くないっしょ?
「お!いいね!」
佐藤の案に俺が同意をすると、遅れてやってきた武田リクも続いて口を開く。
「ヒロトが居たら、女子も来るしさぁ。」
「……リク、幾らヒロトが居るからって、流石に女子は来ないんじゃない?一応僕達、受験生なんだよ?」
すると、その後ろから更にクラスメイトの青木ケイがやってきて、呆れた様子で武田を諌めた。
……あ、そうだ。折角中学最後なんだから……
「んー……海行くならアキトも誘っていい?」
「あ、うん。勿論うちはオッケーよ。」
「柴田?僕も構わないよ。」
「いいんじゃない?人数多い方が楽しいし。」
俺がアキトを誘うのは初めてでは無いからか、三人からも良い返事があったので、俺は早速アキトの席へ行き、声を掛ける。
「アキト、俺さ?武田や青木達と海に行こうと思うんだけど、アキトも来ない?」
「……僕?僕はいいよ……」
……だが、当の幼馴染は少し悩んだ末に、断ってきたのだった。
「えー?何でー?何か予定でもあるのー?」
「いや、別に無いけど……」
「だったら行こうよー?」
「……ほら、僕が行っても場の空気悪くしちゃうからさ……第一、夏期講習だってあるし……」
それって、用事あるって事じゃ……いや、それよりも……
「……アキトって公立狙いだっけ?」
皆が行く予定の私立なら、別に勉強しなくてもクラス上位のアキトなら行けるはずだけど……そんな話は聞いた覚え無いが、アキトの家の近くにあるレベル高い公立志望なのかな?
「違うよ。でも、進学クラスには入りたいんだ
……それに……」
「それに?」
違うのか……いや、だとしてもアキトの奴、何で中村さんの方見てるんだろ?
「……とにかく、僕はいいよ。ヒロトは武田くん達と、楽しんできて。」
「そっか……分かった。じゃあ、また夏休み遊べそうな時には連絡くれよ?」
「うん。勿論だよ。」
俺がそう言うと、アキトは笑顔を浮かべて返事をしたので、仕方なく自分の席へと戻る。
すると、待ち構えていた佐藤がやっぱりと言いたげな様子で、口を開いた。
「柴田に振られた?」
「うん。振られちゃった……てか、カナデはよく分かったね?」
「いやー……当然、というかー…」
何よ、その含み笑いは?
「あー……まさか、あの噂ってマジなん?」
「噂?何かアキトに噂でもあんの?」
え?そういうのに疎そうな武田すら何か知ってんの?
「……逆に、何でヒロトは知らないの。幼馴染でしょ……かなり噂になってるよ。」
「俺、あんまり噂話とか好きじゃない……」
元々そんなの興味無かったけど、樋口の件でエグいの見たから余計無理になったんよ……
呆れた様子の青木にそう告げると、青木は仕方ないと言いたげな表情で続ける。
「分からなくは無いけどさ……柴田と中村さんが付き合ってるって、今結構な噂だよ。」
「……マジで?」
だから、さっき中村さんを見てたのかぁ……
そっかー……アキトもそうならそうと言ってくれたら、お祝いぐらいしたのに……
「マジマジ!なんか、放課後に二人で居るのを見た奴が何人もいるみたい……でも、中村さんなぁ……」
「中村さんがどうかした?」
「いや、彼女ってほら……」
あー……佐藤が言いたいのは、中村さんも樋口事変で絡んでた事かな?
俺の中で、優等生である樋口を追い落とす為だけに行われたから、あの事件はこっそり樋口事変って呼んでるんだけど……
アレは流石に俺も知ってるが、中村さんは君嶋達とかに無理矢理やらされてただけだって。
「それを言ったら、樋口さんを庇おうとした奴以外は同罪だよ?」
「……え?そんな奴いんの?」
俺、中村さんと小学校から一緒で、本人が何度か参加したくないって言ってたのは聞いていたしさ。
やった事に肯定は出来ないけれど、ある意味中村さんも被害者なんだよ……その点なら、発端とはいえ清水も一緒か……君嶋達のああいう悪ノリって、ホント嫌いだわ。
しかも、樋口の居ない所だと隠しもしてなかったからな……同じクラスだった奴は、嫌でも知ってるよ。
アレに参加した高橋とか、南、小川達のグループについては、君嶋達と同罪だな……いや、関わりが無いからって見て見ぬフリしたんだから、俺もアイツらと変わらないか……
「うん……でも、僕も居るらしいって話しか聞いてないから、誰かまでは知らないな。」
「へぇ~……」
……しかし、アイツら男子なのに何で参加したんだろ?樋口と接点無いっしょ?
まぁいいや……それより、俺としては後一人どうしても誘いたい奴がいるんだけど、絶対来てくれないよな……俺、何か嫌われてるっぽいし。
「ヒロト……あの転校生も誘いたいのは分かるけど、さっきから見過ぎだよ?」
「え……そう?」
青木に指摘されて初めて気付いたけれど、つい考え事をしてたからか、俺はどうやら桜井の方を見ていたらしい。
「そうだよ。そんなに友達になりたいの?」
「いや、だって……アイツ絶対いいヤツだよ?」
青木達は信じてくれなかったが、君嶋達に転ばされた樋口を助けてるの、俺は見たからな。間違いない。
「噂の真偽はとにかく、何かあって転校してきたのは事実っしょ?じゃなきゃ、ゴールデンウィーク直後……しかも三年生になってからの転校なんて、普通有り得ないもん。」
「確かに、カナデの言う通りかもしれないけどさ〜……」
「あまり話さないのはヒロトに対してだけじゃないから、僕達みたいに噂を信じてない連中も、彼をどう扱っていいか分からないんだよ。リクですら遠慮してるのに。」
「そうそう〜俺も……って、ケイさんや?俺ですらってヒドない?」
でもさぁ?なんか、そーゆーの余計放っておけないじゃん?
それに俺、昔の不良漫画とかに出てくる男気あるキャラが大好きで、桜井は何となくそういうキャラに似てるって思うんだよ。
勿論、見た目とかじゃなく内面だけど。
……だからって、武田達と話すノリで話しかけたのは失敗だったよなぁ。
「それにカナデの言う事もあるにしろ、まず仲良くならないうちから、マサカドサマはダメだって……」
「いやー……俺はウケると思ったんだよ……?」
実際、武田にはウケたんだけどさー……桜井にはスッゲェ嫌な顔されたんよなぁ……
「そういう名前弄りとか容姿いじりは、人によって許容出来る出来ないにかなり差があるから、把握しない間からやるのはやめなね?」
「はーい……」
確かに、青木の言う通りだわ……桜井に謝る機会があるといいんだけど……難しいよね。
はぁ……どうしよ……ちょくちょく話しかけてはいるんだけど、その度に明らか嫌そうな顔してるし……もう、どうにもならないのかな?
「俺は平気!」
「リクは弄りようがないよ。名前も容姿も普通だし。」
「いや、今まさにケイがいじってんじゃん!?さっきから酷いって!?」
「武田、アンタうるさい〜。」
「いや、だってケイがさー!!」
罪滅ぼし……って、訳じゃないけど、桜井の噂を消して回ったりしてるものの、本人とはどう話したらいいか分かんねぇし……何かキッカケでもあれば……
……あっ、先生来たわ。
「んじゃ、また後で……」
武田がそう言い掛けた直後、後ろから何かに押されたような感覚を覚えると同時に、俺は気を失っていたらしい。
どれぐらい意識が無かったかは定かじゃないけど、床の冷たさで目を覚ました俺は、身体を起こして辺りを見回してみる。
すると、そこは教室とは似ても似つかない、窓の一つすら見当たらない薄暗い石室だった。
「ヒロト、起きた?」
辺りをキョロキョロと見回していると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「カナデ……?此処、何処?」
「さぁ……?わかんない……」
「リクやケイは?」
俺が問い掛けると、佐藤は自分のすぐ隣の地面を指差したので、そちらへ視線を向けた所、気を失ったままの二人が目に入った。
「うちもさっき起きたばっかりだから、多分二人もそのうち起きるよ。」
「そっか……」
しかし、何なんだこの状況?
俺達以外居ないみたい……ん?いや?
……にしてはなんか、人数少ないような?
ちょっと暗くて全員は判別出来ないけど、クラスの六割ぐらいしかいないんじゃ?
「お、おい、これって……」
「まさか……」
なんて俺が考えている間に、高橋達が騒ぎ始めたけど、アキトや桜井は……?
……あ、いた。アキトだ。
けど、アレは……斎藤と一緒なのかな?
チラチラこっち見てるから、アキトも俺を気にしてるみたいだけど、中村さんらしき女子も近くにいるようだし……まぁ、後でいいか。
それより、桜井は……ダメだ、暗くて誰が誰だか分かんないや……多分、独りで居ると思うんだけど……
「ヒロト……?カナデ……?」
「あ、ケイも起きたね。」
「何だ、此処……?」
「リクもおはよ。」
俺が辺りを観察している間に、気を失っていた二人が目を覚ましたので、俺も佐藤に習い声を掛ける。
よかった、二人も大丈夫そうだな。
青木と武田が目を覚ましてから少しして、偉そうなオッさんが部屋に現れ、何だかよく分からないうちに俺達は異世界に連れて来られたと教えられたんだけど……正直イマイチピンと来なくて、話半分も俺は聞いてなかった。
それからオッさんの話が終わった後で、夜だからって部屋に案内してくれる事になったんだが、兵士を待っている最中、アキトが近づいてきて口を開いたんだ。
「ね、ねぇ、ヒロト……後で、ヒロトの部屋に行っていい?」
「あ、うん。いいよ……つっても、場所分かんないだろうから、後で何処か分かりやすい場所で待ち合わせよか。」
「う、うん。じゃあ、また後でね……」
アキトと話していると、兵士に来るよう促され、俺は青木達やアキトと分かれて兵士に付いて行く事になった。
どういう基準で分けられているのかよく分からないが、各兵士毎に大体三人から四人ずつ程が案内されるようだ。
俺と同じ兵士に案内されたのは山岸と白石の女子二人だったので、軽く二人と話しながらそれぞれの部屋へ案内された後、部屋に用意されていた服や靴に着替えてから、俺はそのまま部屋を出て、自分の部屋へと続く通路の入り口に立ち、アキトを待つ。
……しかし、変に場所を指定しなくてよかったな、コレ。
パッと見ただけでも、めちゃくちゃ広いよこの建物……通路が見える範囲だけでも、両側合わせて十本以上はあるし……どんな構造してんだか。
「あ、あの……ヒロト、くん……?」
「え?」
そんな風に周りを見回しながら考え事をしていると、背後から声を掛けられた為、振り返る。
すると、そこには何故か中村さんが立っていたのだった。
予定より遅くなってしまいました。
尚、こちらの番外は不定期かつ完成次第の為、場合によっては完結が本編終了後になる可能性があります




