手記44
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
「そう〜……そんな事があったのねぇ……」
名詞や細かな状況を省き、樋口さんが信じていた相手に裏切られた事を簡単にではあるが伝えると、アズサさんは困ったような表情でそう呟いた。
「お姉さん、お友達がツルギくんしか居ないけど〜……もし、ツルギくんが同じ事したら泣いちゃうかも〜……」
「は、はぁ……」
泣きたい程度じゃ済まないから、樋口さんはああなってるのだと思うが……
「でも、ミオちゃんなら大丈夫よ〜。今はアルマちゃんに任せましょう〜?」
「そうですね……」
確かに時間しか解決出来ない事だって、あるもんな。
だから、樋口さんが何かを言ってくるまでは、そっとしておこう。
「それよりマサトちゃん〜?他のお友達とは話せたのかしら〜?」
話が一段落したからか、アズサさんは部屋の奥の扉へと向けていた視線をこちらへ戻すと、恐らくは一番確認したかったであろう事柄を尋ねてきた。
やはり、彼女は武田くん達のあの状況を、予見していたに違いない。
「それなんですが……」
だとしたら、解決策も知っているのではと思い、オレはアズサさんに武田くん達三人組や、近藤くん、森田くんらの身に起きた出来事を説明する。
「……というわけで、逃げる提案をした途端、皆そうやって同じ反応を返してきたんです……直前に話した筈なのに内容まで全て忘れていて、実際にはまだ誰にも話せていません……」
「そうなの〜……」
「でも、もう七人も亡くなっているから、放っておく訳には……アズサさん、解決策を何か知ってるなら、教えてくれませんか?」
清水さん、斎藤、近藤くん、柴田、それに中村さん、高橋くん、南くん……たった数日の間にこれだけのクラスメイトが亡くなっているのだ。
世話係の獣人達を含めたら、その被害者の数はまだ増えるし……
幾ら親交が無かったにせよ、これ以上目の前で被害が広がっていくのを黙って見過ごすなんて、オレには出来ないよ!
「マサトちゃんは、優しいのねぇ……本当は〜……お姉さん、ツルギくんから〜……戻るまでは逃げたりしない方がいいって言われてるんだけど〜……マサトちゃんの気持ちも、分かっちゃうのよ〜……」
アレ?これってもしかして、ツルギさんはまた此処に戻ってくるって話?
殺人犯として追われているのに?
……っと、今はそれどころじゃない!
やっぱり、この人今の状況を把握してるんだ!
「お願いします!教えてください!」
「分かったわ〜……まず、マサトちゃん達に掛けられている魔術はね〜?〝拘束魔術〟と言うの〜。」
「拘束魔術……」
つまり、魔法みたいなモンで縛りつけられてるって事か……大体想像通りではあるが、エゲツない真似しやがる……
「本来は〜……使っちゃダメな魔術なんだけど〜……人間の街では、時々こっそりと使われているみたいなのよ〜……」
ふむふむ……所謂禁術って事なのかな?
何故、アズサさんがそんなモノを知っているのかは置いといて、何をするにしても情報が欲しいので、此処は詳細を聞くしかないね。
「どういう魔術なんですか?」
「えっとね〜……人の魂は、大いなる流れから生まれ、大いなる流れに還るのは、知っているわよね〜?」
「はい。」
「元々は蓄熱石を作った人達が〜……オニとなった人達を、どうにかしようとして研究していたんだけど〜……その研究の過程で〜生まれた物が、二つあるの〜。」
要するに、錬金術の研究中に何かが生み出されたと……それでそれで?
「二つ、ですか?何なんです、それは?」
「ひとつは、私達獣人ね〜。」
あ、なるほど。
ツルギさんも、確か儀式のような事をしたから獣人は生まれたって、言っていたもんね。
……で、この話の流れだと残るひとつが……
「そしてもう一つが、拘束魔術よ〜……でも、出来る事は意外と多くはないの〜。」
「というと?」
出来る事は多くない?拘束魔術って字面だけだと、捕縛術みたいなものかと思ったけど……
どっちかと言えば、よくラノベで出てくる奴隷契約に近いのかな?
逃げられなくなるって話だし。
「私達の魂は〜……こうやっていても、見えないけれど大いなる流れと繋がっているのね〜?その魂と流れの繋がりの間に魔術刻印を挟む事で〜……人を刻印の近くから、離れられなくしちゃうのよ〜。」
「すみません、ちょっと意味が分からないんですけど……」
魂と大いなる流れと繋がっているってのは、死んだら魂が還るって話だから、納得は出来るのだが……そこに刻印を挟むって……?
逃げられないって事だけは分かるけどさ?
「え〜っとぉ〜……普通だったら、皆何処にでも行けちゃうでしょ〜?でも、マサトちゃんのお友達は〜……何処にも行っちゃダメ〜って、鎖をつけられている状態なの〜。」
「鎖……」
「正確には、見えたりしないから違うわ〜?でも、鎖になっている何かが、ある筈なのよ〜。」
「それが魔術刻印だと……でも、オレ達奴等に何かをされた覚えなんて……」
全く記憶に無いのに、魔術に掛けるなんて真似が可能なの?しかも、刻印って……
うーん……身体の何処かにアルマの入れ墨のような物があれば、入浴の際に気付くと思うが……?
寝てる間に何かされたにしたって、ねぇ?
そんな疑問が湧いてきたオレを他所に、アズサさんはオレの頭のてっぺんからつま先までをなぞるように見た後、考えるような仕草を見せつつ口を開く。
「普通なら〜……インクに、唾液とか毛髪を焼いた灰を混ぜて紙に名前を書いた後、余ったインクを入れた小物を身につけさせるのだけど〜……マサトちゃん達には、鎖になる腕輪や首輪も無いしぃ……それに、お友達の状況を聞く限りだと〜……多分、もっと強力な魔術を掛けられているのよ〜?」
「もっと強力な魔術?オレ、名前とかこの世界に来てから書いてないんですけど、それでも出来るんですか?」
響きだけ聞けば厨二病心をくすぐるが、やってる事は最早呪術とかの類いだな……
「血を使えばね〜……血には因果の力の残滓が宿るから〜……マサトちゃん、何か模様のついた物に、血を垂らした覚えはあるかしら〜?」
模様のついた物かぁ……そんな事したかな……って、アレ?……まさか、あの時かよ!?
「あ、あります!此処に来て二日目の朝にやりました!それらしい紙に!」
べつに光ったりとか、何かが起きた訳じゃなかったからすっかり忘れてたけど、言われてみればあの紙には何か紋様が入ってたよな……
「間違いないわねぇ……」
つまり、アレがこの話で言うところの、鎖にあたる訳ね?
……ってか、アイツら祝福を調べるとか言いながら、何も知らないオレ達に呪いを掛けてたのか!?
エグい真似しやがる……
って、いやいやいやいや!!?待て待て待て待て!!
だったら何でオレと樋口さんは大丈夫なんだよ!?
「ちょっと待ってください!なら、どうしてオレと樋口さんだけ平気なんですか!?」
「多分〜……マサトちゃんとミオちゃんの因果の力が強すぎるの〜……二人の刻印は、力の逆流で使えなくなっちゃったんだと思うわぁ?」
樋口さんは分からなくはないけど、何でオレまで……?
全く自覚の無いまま、皆から強い力を持ってると言われてもさぁ?
よくラノベで見る展開ではあるけど……オレじゃあ物語の主人公にはなれないな……正直、違和感しかないもん。
「そうですか……」
とはいえ、事実としてオレ達は平気なのだから、受け入れるしかないわけで……何か釈然としないな。
「でも〜マサトちゃん、お友達に好かれているのねぇ?ミオちゃんとだけ仲良しさんだから、お姉さん心配だったのよ〜?」
「……え?いきなりどうしたんですか?唐突すぎて、意味がわからないんですけど……」
……好かれる?何で急にそんな話が?
「えっとぉ……血の拘束魔術はね〜?普通なら、逃げようとする意思を持てなくするだけなのよ〜。だから、考えてもすぐに力が働いて無理だ〜って、なっちゃうの〜。」
「逃げられなくなるのではなく、逃げるのを考えられなくなるだけ、って事ですか?」
「ちょっと違うけど〜……大体そんな話ね〜。だから、血の拘束魔術を使っても〜……無理矢理連れて行く事は出来ちゃうわ〜……そうやっても、必ず自分の意思で刻印の近くに戻ってきちゃうんだけどねぇ……」
「は、はぁ……?」
ちょっと違う?
まぁ、結局逃げられないという話ではあるみたいだけど……
「でも〜マサトちゃんのお友達は、マサトちゃんの事を信用しているから〜……マサトちゃんのお話を聞いてぇ、少しでも一緒に逃げる事を考えちゃったのよ〜……」
信用……?近藤くんはともかくとして、武田くん達は友達だって言ってくれたから分かるけれど、森田くんまで?
うーん……いや、でも彼だって素直に部屋へ入れてくれたし、話も聞いてくれたからな……
「……それで、強制する力が働いちゃって、お話をする前に戻っちゃったんだと思うの〜……お姉さんも本で読んだだけだから、もしかしてでしか言えないけれどねぇ……」
話を聞いた事実を忘れさせる事で、彼らは話を聞いていない状態へ戻った……と?
……何度話しても、記憶にすら残らないのはそういうワケね。
「そうだったんですね。ありがとうございます……ところで、どうやったらその魔術を解く事が出来るんですか?」
まぁ、理屈は分かったけど、魔術を解除する方法の有無が大事だから、アズサさんに聞いておかないと。
「それは、そんなに難しくないかしら〜?」
「簡単?どうしたら……?」
……おや?解呪って、何かの儀式が必要な印象があるけど……
「魔術刻印を壊しちゃえばいいのよ〜……今回なら〜……紙を燃やすだけね〜。」
「そ、そんな事しても大丈夫なんですか……?」
いくら何でも雑すぎない!?
確かに燃やすだけなら、誰にだって出来るけどさぁ!?
「えっとぉ……血に刻まれた魂の波のようなものを〜……う〜ん……つまりは〜……紙に〜刻印を使って〜……因果の力の波を記憶させて固定しているのね〜?だから〜……その情報を破棄する為には、破くだけじゃ足りないの〜……だけど〜紙なら簡単で助かったわぁ。」
なるほど……昨日言っていた、カルマの力は魂から溢れた波だって説明が、此処に繋がるのか。
……それは分かったけれど、これって何か悪影響出そうな話だよね?
「だから燃やす、と?何か影響とかは……」
「もしかしたら、ちょっと気絶ぐらいはしちゃうかもだけど〜……大丈夫なはずよ〜?」
ちょっとでは済まない気もするが、命に別状は無いのならやるしかないか……
「分かりました。ありがとうございます。」
「……マサトちゃん、もしかして探しに行くつもりなの〜?」
「はい。自分にだけやれる事があるのに、やらないで逃げたくはありませんから。」
今は樋口さんに頼れないからな。
こういう時こそ、オレが頑張らないと。
友達だって言ってくれた武田くん達の為でもあるわけだし。
そう内心で決意して彼女の問いに頷くと、アズサさんは少しの間悩んだ後口を開く。
「だったら〜……お姉さんに、任せてくれるかしら〜?」
「アズサさんに?」
「そうよ〜。お姉さん、此処の人達にもご飯を作っているから、探しやすいと思うの〜。」
「此処の人達って……兵士の分もって事ですか?」
「そうなの〜。一日二回、此処の人達の食堂でも作っているわ〜。」
なるほど……だから今朝早くに、調理場へ行ったのね。
「それにね〜?多分、刻印はこの建物の中央に近い場所にあるはずなの〜。だから、探すにしてもお姉さんの方が都合がいいわよ〜?」
「……中央?建物の中央って……」
建物の構造を思い出しつつ、何があったかを必死に思い返していると、背後から突然この数日で聞きなれたよく通る声が響いた。
「丁度、食堂の辺りだわ。」
……え?この声は……!?
「樋口さん!?」
よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。
批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。
ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。
次回更新予定は 3月22日(日)18時となります




