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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
瓦解 ーCollapseー

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手記42

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

ーーーコンコン


 樋口さんに案内され、森田くんの部屋へと辿り着いたオレ達は、すぐに彼の部屋の扉をノックしてみた。


 だが……


「留守みたいね……?」


 ……中からは何の返事も無く、目的の人物が不在であるらしい事がわかる。


「じゃあ、仕方ないか……次に近い人の部屋へでも…」

「あれ……?樋口と、転校生?僕の部屋の前で、どうしたの……?僕に何か用?」


 森田くんが不在であるなら、今はとりあえず別の人の部屋を回ってから、後でもう一度訪れよう。


 そう考えて、オレが樋口さんに言い掛けた直後、背後から訝し気な表情の森田くんに声を掛けられた。


 ハンカチらしき物で手を拭っている様子から、どうやら彼はトイレに行っていただけらしい。


「急にごめん。実は森田くんに話があって来たんだ。」


「ぼ、僕に話……?とりあえず、中へどうぞ?」


 ……思ったより普通の反応だな?


 だとしたら、この間の一件は何だったのよ?


 まぁ、これならちゃんと話が出来そうだから、別にいいのだけどね。


「森田くん、ありがとう。お邪魔するわね。」


 中へ招き入れて貰った後、少し落ち着かない様子の彼を落ち着かせる為に、なるべく穏やかな調子で来た理由を話し始める。


「いきなりで驚いたよね?今日は森田くんにお願いがあるんだ。」


「お願い……?」


「うん。実は…」




「……にげる。」


 ……だが、話の途中で森田くんも三人と似た虚な表情となり、これまた同じ言葉を繰り返し始めたのだった。


 クソッ、彼もダメなのか!?


「森田くんまで……」


「仕方ない。次へ行こう。」


「……あれ?今の何の話だった?聞いてなかったよ……」


 しかも、記憶自体が無くなるのまで一緒か……仕方ないな。


「皆で協力しようよって話だよ。オレ達、武田くん達とも協力してるんだ。でも、森田くんは疲れてるみたいだから、今日はこのぐらいにしておくよ……良かったら考えておいて貰えるかな?」


「う、うん……分かった……?」


「じゃあ、またね。」


「森田くん、時間をくれてありがとう……行きましょうか、マサトくん。」

 

 オレと樋口さんは森田くんに別れを告げ、彼の部屋を後にしようとした。


 ……しかし、ドアノブに手をかけた直後、オレは首筋に冷や水を浴びせかけられたような感覚を覚え、咄嗟に振り向く。


「マサトくん?まだ森田くんに話でもあるのかしら?」


「ど、どうしたの……?」

  

 何だ、今のは?


 冷えるだけでなく、何かが纏わりつくような妙な感触もしたけど……?


 もしかして、誰かに見られていたのか?


 でも、オレ達以外に誰もいないのだが……


「いや、何でも……また来るね。」


 突然振り向いたオレに、困惑したような表情で問いかける二人へ返事をしつつ辺りを見回すが、特に何も見つけられなかったオレは、改めて森田くんに再度の来訪を伝えてから、部屋を後にした。



「次は……そうね…」


 彼の部屋から少し離れた場所で、オレと樋口さんは向かい合い、次にどのクラスメイトの部屋を訪れるか検討していたのだが、オレは先程感じた冷ややかな感触がどうしても気になってしまい、どうにも会話に集中しきれず、頭を悩ませる。


 考えられる事と言えば、窓からストーカーに見られていた、とかなのだろうけれどなぁ……


「……マサトくん?どうしたの?さっきから様子がおかしいけれど……」


「いや、何か見られてるような感じがしてさ……」


 まさか、あの感触は森田くん……?


 いやいや、幾らあの場に居たからとは言え、彼が犯人だと決めつけるのはよくない。


 それに、もしあの視線を向けていたのが彼だったとしても、ただオレを見ていただけではね……とりあえず、この件は保留だな。


「……マサトくんも?実は、私もなの……」


「樋口さんも?」


 彼女も視線を?


 実際樋口さんはストーカーに追われてる身だから、見られていても不思議ではないが……


「ええ。周りに誰も居ない筈なのに、時々視線を感じるのよ。追われている所為で、少し過剰に反応しているだけかもしれないけれど……」


「それはあるかもね……」


 こればかりは気の所為で片付けていい話ではないから、仕方ないな。


「でもここ数日で、よりはっきりと感じるようになったの。だから、勘違いでは無いと思うわ。」


 ……なるほど?


 丁度オレが、ストーカーらしき影を目撃した前後ぐらいからって事?


 だとしたら、犯人は監視する頻度自体を増やしているのかも?


「ちょっと気をつける必要があるかもね。」


「そうね……だけど、今はとりあえず皆の部屋を回りましょう?話はそれからよ。」


「その事で気になってたんだけど……協力者の中にストーカーが居たら、不味いんじゃないの?」


 犯人を至近距離に招き入れる危険性については少し前から考えてはいたが、どうにも対策が思い浮かばなかったオレが彼女へ問うと、樋口さんは眉を微かに寄せながらも口を開く。


「逆ね。皆で行動すればするだけ、向こうも手を出しにくくなるの。だから、寧ろそっちの方が動きを制限出来たりで、下手にバラけるより安全だわ。」


 ……そういう事か。


 彼女はストーカーや殺人犯が紛れ込むの自体織り込み済みで、敢えて集団行動する事によりストーカー達を牽制しようとしていると……


 そう上手くいくのかに疑問はあるが、どこに潜んでいるのか分からないよりかは、こちらへの負荷は確かに少ないかもしれないな。


「それに、この状況下で変な拒否の仕方をする方が、リスクが高いと思わない?」


「自ら犯人だと言っているようなものだと……」


「ええ。」


 なるほど、彼女の考えは理解した。


 当人が火中の栗を自ら拾う行為だと分かっているなら、オレから言える事は無いや。


「分かったよ。」


「マサトくん、心配してくれてありがとう。でも、私は大丈夫。それより今は、少しでも皆への被害を減らさないといけないのよ。だから、私達に迷っている暇なんて無いわ……行きましょう。」


「うん。」


 これ以上、中村さんや近藤くん達のような被害者を出さない為にも、行動出来るオレ達が頑張らなければ。

 

 ……本音を言えば、オレ達も周りを気にしていられる状況では無いと思う。


 だけどオレも樋口さんも、ただただ皆が被害に遭うのを見過ごす事なんて、出来やしない。


 だったら、やるしかないよね?



 そう内心で密かに決意して、クラスメイト達の協力を得る為にオレ達は行動を続け、まずは他にも一人で居る人達を中心に回る事にしたのだが……


ーーーコンコン


「はーい?どなたー……」


「あ、あの、桜井です……」


「……て、転校生……?何か、用……?」


「小川くんに、話があるんだけど……」


 数日前に近藤くんと共に顔を合わせたにも関わらず、何故か恐る恐るこちらへ尋ねてくるクラスメイトへ、オレは扉越しに声を掛ける。


「話……?待って、今開ける……ひ、樋口!?」


「え……?」


 すると、部屋の主が顔を覗かせた直後、オレの後ろに居る樋口さんの姿を見た小川くんは、慌てて扉を閉めてしまった。


「何で樋口なんかと一緒に!?……やっぱり君嶋が言った通り、お前らが中村や高橋達をやったんだな!!」


「小川くん……?」


 ……高橋?この数日の犠牲者にそんな人居たか?


 それと確か君嶋って、つい数日前に近藤くんと一緒に会ったうちの一人で……いわゆる、クラスのボス女子だったよな?


 目立つから流石に覚えているけど、何故彼女はオレ達が中村さんを殺しただなんて事を吹聴しているんだ?


「この人殺し!!!」


「お願い、小川くん!聞いて!!」


「うるさい!さっさとどっかいけよ!兵士呼ぶぞ!」


 他にも、まだ朝なのに昨晩の出来事がもう広まってるのは何故なのか等等、気になる事はあるが……ダメだな、これは。


 こうなってしまったら、もうこちらの話は聞いてくれないだろう。


「樋口さん、行こう。」


「でも……」


「いいから!」


 ……元より広まっていた噂とはいえ、オレだけならともかく彼女にまであらぬ疑いをかけられているのは、正直我慢出来ないからな。


 根も葉もない噂を流した奴を、すぐにでも問い詰めないと。


「……分かったわ。」



 湧いて来た苛立ちを隠せないまま、オレは彼女と共に小川くんの部屋前から立ち去り、少し離れた場所へ移動すると、樋口さんの目の前にも関わらず思わず壁を蹴りつけてしまう。




「マ、マサトくん?」


「いきなり人殺し扱いとか、どうなってんだよ!まったく!樋口さんにそんな事が出来るわけないだろ!!」


 突然の行動に、彼女は驚いたような表情でオレの名を呼ぶが、イライラしていたオレは堪えきれずに感情を吐き出した。


「……私は大丈夫だから、落ち着いて?」


「でも!」


「本当に大丈夫だから、ね?」


 諭すようにこちらへ語りかける彼女に不承不承ながらも頷き返すと、穏やかな微笑みを浮かべた樋口さんが口を開く。


「貴方やアルマちゃんが分かってくれるなら、私はそれで充分よ。それより、私の悪評を流していたのは柴田くんだけかと思っていたけれど、君嶋さんもだったのね……」


「何でそんな事を……?」


「さぁ……?私達の間には、余り交友が無かった筈なのよ……なのに、どうして?」


 首を傾げながら困惑している辺り、彼女に心当たりが全く無いのは事実なのだろう。


 だとしたら、やはり君嶋さんに会って確かめるべきだな。


「じゃあ、噂を流した張本人に聞いてみるしかないね。」


「ええ。高橋くんの件についても、聞いておきたいもの。行きましょうか。」


「ちなみに、高橋くんって……誰?」


 もう何度目かになる似たようなオレの問いに、樋口さんは短く嘆息しつつ、仕方ないと言いたげな表情で告げる。


「……柴田くんの力で操られていた内の一人よ。昨日、食堂にいたマサトくんより背の高い男子ね。」


 なるほど……


 柴田の力が解けた時、真っ先に走って逃げた彼か。


「君嶋さんの部屋は此処からそう遠くないわ……ただ、四人程で固まって生活している所為で、君嶋さんだけから話を聞く事は出来ないでしょうけれど……」


「樋口さん?」


 何だろう?


 少し含みのある言い方だけど……?


「何でもないわ。さっさと済ませましょう?」


「う、うん……」


 一瞬嫌そうな表情をした彼女に案内されるまま、小川くんの部屋からそう離れていない場所にあるという、君嶋さんの部屋へと二人で向かい、辿り着くなり樋口さんが軽く深呼吸してから部屋の扉をノックする。



「誰よ、こんな朝早くから〜……」


 すると、クラスメイトの中でも特に目立つ人物が、扉を開けて顔を覗かせた。


「ごきげんよう、君嶋さん。」


「樋口……!アンタ、よく顔を見せられたわね!!」


 だが樋口さんが穏やかな口調で声を掛けた直後、君嶋さんは憎悪に満ちた表情を浮かべ、声を荒げる。


「それは、どういう意味かしら?私が何をしたというの?」


「とぼけないで!アンタが清水や中村を殺したんでしょ!」


「私が?何故?理由が無いわ。」


「はぁ!?中村や清水達を真っ先にやるなんて、アンタ以外有り得ないんですけど!?」


 いや、それは疑う理由になってないよ?


 ……とは思っても、激昂している女子には言えないな。


 めんどくせぇ……


「貴女がどう思おうが貴女の勝手だけど、私に理由が無いのは変わらない。第一、どちらの件も私は兵士より後に現場へ行っているの。それに、殺された後そのまま床に寝かされていた中村さんを見兼ねて、ベッドへ運んだのは私達よ?勝手な憶測で噂を広げないで頂ける?」


 そんな敵意剥き出しの君嶋さんに対して、樋口さんは努めて冷静かつ、冷気を感じられる程に冷たい口調で言い放つ。


 こっちはこっちで怖いのだけど!?


 どうなっちゃうのよ、これ……


 

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 3月8日(日)18時となります

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