手記41
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
「さぁ、マサトくん。行きましょうか。」
「うん。」
「あら〜?二人とも、何処へ行くの〜?」
身だしなみを整えるのもそこそこに、オレと樋口さんが部屋を出ようとすると、アズサさんとアルマが不思議そうな表情で尋ねてくる。
うーん……アズサさんはツルギさんの協力者だから、理由を話せば助力を得られそうかな?
「ねぇ、樋口さん?」
「……そうね。」
オレが視線を向けると、樋口さんも同様に考えていたらしく頷いて見せたので、オレは二人にも事情を説明する事にした。
「実は……オレ達、此処から逃げようと思っているんです。」
「この館からかしら〜?」
「はい。それで、皆からも協力を得られないかなって思って……これから、回ろうかと。」
クラスメイト達がどんな状況か殆ど分からないから、未知数ではあるが何もしないよりはマシだからな。
「……余りオススメはしないわよ〜?」
「それは、どういう意味かしら?」
「外の人達は、逃がさないように言われているのよ〜……だから〜……」
やはりか……
「それは知ってます!でも、このままだと……!」
そう、このまま此処に居ると、自分だけでなく樋口さんやアズサさん……果ては、アルマにまで危険が及ぶのは明白なのだ。
そんなのは、見過ごせない!ナギさんや近藤くんのような事はもう沢山なんだよ!
だから危険は承知の上でも、何とかして此処からの脱出を計らないと……
「……それに〜……う〜ん……お姉さんは、やっぱり難しいと思うの〜……」
「難しい?何がです?」
「いざとなったら、私が力を使ってもいいわ。私の力なら、大抵は大丈夫なはずよ?」
いや、それは樋口さんが大丈夫ではないと思うのだが?
「そうじゃなくてぇ〜……え〜と〜……」
「はっきり言ってくださる?」
「多分〜……館からは出られないはずでぇ〜……」
……はぁ?出られない……?
いやいやいやいや!オレと樋口さんは街に行ってるのに、館から出られないってどういう事だよ!?
「……いい加減な事言わないで!!貴女が何を知っているかは知らないけれど、私達は街まで行っているのよ!ならば、出られない筈がないでしょう!?もういいわ!マサトくん!行くわよ!」
「あ、うん……」
アズサさんの煮え切らない態度に、樋口さんは憤慨しつつ先に部屋を飛び出してしまうが、まだ何か言いたげなアズサさんの表情が気になったオレは、後ろ髪を引かれながらも部屋を出ようとする。
すると……
「マサトちゃん、もしダメだったら……お姉さんに教えてね〜?」
「分かりました……?」
アズサさんの言葉に首を傾げながらも、困った顔でオレ達とアズサさんを交互に見るアルマも置いて、オレは樋口さんを追いかけ部屋を後にした。
「全く!なんなのよあの人!言いたい事があるなら、はっきり言いなさいよ!」
「まぁまぁ……」
追いついてもなお、憤りを隠せないままでいる樋口さんを宥めながら、オレ達二人はまず昨日のお礼を兼ねて武田くん達の元へ向かう事にした。
だけど、アズサさんあの様子だと言い淀むというよりかは、どう説明するか迷っているように感じたけど、最後の一言はどういう意味なのだろう?
まるで、結果が最初から分かっているような口ぶりだったけれど……
ーーーコンコン
「……はーい?誰ー……?」
そんな疑問に頭を抱えながらも三人の部屋へ辿り着き、恐る恐るノックをすると、中から返事が聞こえてくる。
……今はアズサさんの話より、こっちが優先だ。
「あ、あの……桜井、です。」
「桜井……って、転校生か。朝早くに、どうかしたの?」
確か、この声は佐藤くんだったかな?
「えっと、佐藤くん達三人に話があるんだけど、いいかな……?」
「うちらに話?待って、今開けるよ。」
そう言うと、佐藤くんは扉を開けてオレ達を部屋に招き入れてくれたので、まずは昨日のお礼を開口一番で伝える事にした。
「最初に、皆に昨日迷惑を掛けたみたいで、ごめんなさい。」
「……仕方ねぇよ、俺達だって桜井を運んだ後、三人でさ……」
「そっか……」
多分、近藤くんの遺体を部屋へ運んだのもこの三人なのだろう。
真っ先に返事をしてくれた武田くんだけでなく、他の二人も鎮痛な面持ちで顔を伏せる所を見るに、彼らだって相当悲しんでいたに違いない。
「僕達、昨日の事情は樋口さんから聞いてるから、気にしないでよ。寧ろ、こっちから様子を見に行こうかって相談していたくらいなんだ。」
「そうなの?」
青木くんが口にした言葉に思わず佐藤くんや武田くんにも視線を向けてみると、二人もオレに向け頷いた後で、武田くんが再び口を開く。
「昨日の朝に樋口と話した後、俺達三人で相談してたんだよ……で、ヒロトや桜井の所へ行こうって結論になって二人の部屋を探してたら、食堂から声が聞こえて見に行ったんだけど……着くなり目の前で桜井が急に倒れたからなぁ……そりゃ心配にもなるって。」
「……ごめん。」
「いやいや、元気そうで安心したよ。それより最初って事は、他の話があるんだよね?」
「ありがとう……うん、そうなんだ。実は三人にお願いがあって来たんだよ。」
謝罪を繰り返してばかりでも話が進まないので、オレは此処から逃げ出そうとしている旨を伝え、三人にも協力を要請しようとした直後だった。
「にげ……る……」
「にげる……にげる……」
「にげるにげるにげるにげるにげるにげるにげるにげる」
……突然、三人が虚ろな目で逃げるという言葉を繰り返し始めたのだ。
「何?どうしたの三人共!?」
「急にどうしたのかしら?ねぇ貴方達、大丈夫……?」
その異様な様相に、会話をオレに任せていた樋口さんも、困惑したような声色で三人へ声を掛ける。
「……あれ?今何の話してたっけ?悪い、もう一回頼む。」
「え……?」
すると、すぐに三人は繰り返すのを止めたかと思えば、今度はたった今話したばかりの内容が抜け落ちたらしく、武田くんは首を傾げながらオレに問い掛けた。
「ごめん、僕も聞いてなかった……桜井くん、僕からもお願いしていい?」
「う、うん……」
これ、確か一昨日にも……?
内心で酷く嫌な予感を覚えつつ、オレは再度三人へ向け、逃げ出そうとしている旨を伝えたのだが……
「にげ……る…にげる…………」
やはりと言うべきか、またしても彼らの様子がおかしくなってしまうのだった。
「な、何よ……これ……」
再びの変容っぷりに、樋口さんがやや怯えたような調子で呟くのだが、そこでオレは一昨日にも似たような光景に遭遇した事を思い出す。
……そう、今の三人の状況は、近藤くんの前で言ってしまった時と酷似しているのだ。
だとしたら、恐らくは……
「あ、あれ……?桜井くん、今何か言った……?」
……やっぱりな。
「貴方達、本当にどう…」
「いや、大丈夫だよ。佐藤くん達に協力しあおうよって、提案しにきただけなんだ。」
「んー……それは別に構わないよ。寧ろ、こんな状況だから、僕達からもお願いするね。」
「友達の友達は、また友達だって言うだろ?遠慮すんなよ。」
「青木くん、武田くんも、ありがとう。勿論だよ。じゃあ、皆疲れているみたいだから、また来るね。」
「う、うん、またね……?」
「おう……?」
そう言って、三人へ問い掛けようとしていた樋口さんを遮りつつ会話を切り上げ、彼女の手を掴みながらオレは足早に彼らの部屋を後にした。
「……ちょ、ちょっと、マサトくん!三人の前で恥ずかしいじゃない!」
「あ、ごめん……」
ついどさくさに紛れて樋口さんに触れてしまったからか、彼女の抗議の声に慌てて手を離すと、樋口さんは赤い顔のまままだ何か言いたそうに、繋がれていたオレの手をまじまじと見つめ返してくる。
……そんな嫌だったのかな?
いや今は、三人の様子について彼女へ話さないと……
「それより、急にどうしたの?」
「実は、オレ……一昨日、同じ状態になった近藤くんを見たんだ……」
「え……?」
近藤くんも同様だった事を伝えると、彼女は益々困惑したような様子になる。
俄には信じられない話だから仕方ないが、今はオレの推測を伝えないと。
「反応まで殆ど一緒だった……多分、此処の連中に何かをされているんだと思う。」
「でも、だとしたら私達は?どうして、彼らのようにならないの?」
そこなのだよな……
今の憶測だけでは、だったら何故オレ達は彼らのようにならないかの説明がつかない。
とはいえ、武田くん達とアズサさんの様子を比べるに、彼女達へは何もしていないらしいが、オレ達には逃げ出せないよう何らかの魔術を使っているのだろう。
だが一人だけならまだしも、オレ達二人共が術に掛かっていないのは何故……って話な訳で。
恐らくだがアズサさんは、これを知っていたがどう伝えていいのかが分からずに、ああ言ったのかもしれないな。
……待てよ?だったら、案外他にも掛かっていない人がいるのかも?
これは、確かめてみる価値があるぞ。
「他の皆にも声を掛けてみる必要があるけど、もしかしたら他にもオレ達と同じように話せる人がいるかもしれない。」
「……そうね。」
「此処から一番近い部屋って、誰の部屋か分かる?」
「此処からだと……多分、森田くんかしら?」
なるほど、この辺りって清水さんの部屋と然程離れてないから、彼が一番近くなるのか。
しかし、森田くんね……ちょっと苦手なタイプだけど、今は好き嫌いを言っていられないや。
「案内をお願い出来る?」
「分かったわ、行きましょう。」
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次回更新予定は 3月1日(日)18時となります




