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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
瓦解 ーCollapseー

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手記38

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

 もう一度オレ達の事について聞いても、恐らくアズサさんは答えてくれないだろうから、とりあえず今はさっきの話で気になった部分を確認しておくか……


 聞けそうな雰囲気でもないしね。


「そういえば、アズサさんにカルマの力が効かないって、どういう事ですか?」


「お姉さんは、巫なの〜。」


「つまり巫女さん……ですよね?」


 要するに、シャーマンって事だろ?


 ……それで?


「そうねぇ……普段は、オババ様の所にいるのよ〜?」


「オババ様?それは誰ですか?」


「オババ様はオババ様ね〜?」


 いや、それは答えになってないのですが……?


 まぁいいや。それより、何で柴田の力が効かなかったのかの方が大事だ。


「じゃあ巫と呼ばれる人達は、皆効かないんですか?」


「分からないわ〜。」


「わ、分からない?何で……?」


 自分達の事じゃないのかよ!?


「だって役目に就いているのは、今お姉さんだけなのよ〜?先代が居たのも、随分前だってオババ様が言っていたもの〜。」


 巫は現状、アズサさんしかいないのか?


 何?もしかしてこの人、実はすごい人だったりするの……?


「それに、巫の修行はね〜?大変よ〜?」


「そんなに……?一体どんな修行をしたら、そんな力が……?」


 そりゃ、修行って言うぐらいだもの、きっと毎日滝に打たれたりとか……?


 いや?無効化能力ってどの作品でもかなり希少だから、そこまで簡単じゃないよな。


「そう〜。好き嫌いの多いオババ様のご飯を作ったり〜、オババ様のお着替えをしたり〜、書庫のお掃除したりで、毎日大変なのよ〜?たまにこうしてお出かけしても、お姉さんの代わりの人にご迷惑をかけていないか、心配で心配で〜……」


 ……って、ただの介護じゃねぇか!?


 母親を見てるし、オレ自身も職場体験でやった事あるから、介護が大変なのは分かるけどさ!?


「そういう冗談はいいから、真面目に答えてくださる?」


 あーもう!樋口さんも、段々苛々を隠しきれなくなってきてるじゃん!?


「そう言われても〜……お姉さんはたまにツルギくん達にお呼ばれするぐらいで〜……普段はオババ様の元で修行しているだけなの〜。だから〜……お姉さんにはカルマの力は効かないのよ〜?」


 ……うん、色々と分かった。


 この人話が通じそうで、通じない人だな!?


 原因と結果の因果関係を聞いてるのに、過程も何もかもすっとばして、結果だけ言ってきやがる!?


 こっちは、修行したら何故効かなくなるかを聞いているんだよ!


「でもね〜?お姉さん、そのせいで獣人なのにここの人と殆ど変わらないのよねぇ……」


「え?」


 ここの人と変わらない?


 他の世話係と同じなら、わざわざ言う意味は無いと思うが……?


「だから〜オババ様に言われたのに、ツルギくんは反対していたのよ〜。」


「はぁ……」


 アズサさんの場合、何か別の理由な気がするけど?


「なるほどね……」


「樋口さん?」


 今の要領を得ない話で分かったの?


「つまり、柴田くんはアズサさんに力が通用しないから恐れて遠ざけたけど、実際は危なかったって所かしら?」


「どういう事?」


 危なかった?アズサさんが?


「この間、柴田くんは小心者だったと言ったでしょう?だから、貴方が自力で彼の力から抜け出した事を警戒して近づかなかったのと同様に、アズサさんを過度に警戒していたのだと思うわ。」


 あー……三日前、柴田が食堂へ行かなかったオレの前に現れず隠れて様子を伺っていたのって、そういう……?


 その後も、直接姿を見せなかったものな。


 なるほど……


 それによく考えたら、柴田の力が効かなかったアルマもずっと一緒だったし……警戒すんなって方が無理があるわ。


「故にアズサさんは無事だった?」


「でも、実際に手を出されていたら……って事ね。恐らく、効かない代わりに獣人としての力は無いって話よ。」


「じゃあ、ギリギリだったのか……」


 もし柴田に気付かれでもしていたら、危なかったな……


 こうやって目の前で話している人が、ひとつ間違えれば死んでいた可能性があるだなんて、考えただけでゾッとするよ。


「心配しなくても、お姉さんは大丈夫よ〜?ちゃんと、ツルギくんに教わっているもの〜!」


 そう言ってアズサさんは、シャドウボクシングをするかのように虚空へ向け数度拳を突き出してみせるのだが、その動きに一切のキレは無く、勇ましい言葉通りとはとても言い難い様子だった。


 ……これは、格闘技の経験が無いオレにすら分かるぞ?


 あかんわ、この人。


 ツルギさんがオレ達に投げるのも当然だよ!!


 ……あ、それより多分この人で確定だろうけど、一応確認だけはしておくか。


「ツルギさんと親しいという事は、アズサさんがツルギさんの協力者なんですね?」


「う〜ん……好きに行動していいと言われているから、協力していると言えるのかしらねぇ……?」


 ……確かにそれは悩ましいところだが、だったら何でアズサさんは此処に?


 他にも、トーマ達やクレイと敵対しているのなら、この人達って……?


「好きに……?あなた達は一体何者なんですか……?ツルギさんはツルギさんで、アルマについて異様に詳しかったりとかで謎も多いし……」


「……ごめんなさい〜。お姉さんは白い髪の人達の事を、あまり知らないの〜……三十年前にオババ様に引き取られた後は〜、時々しか外に出ていないから〜……」


 白い髪の人……?


 その特徴って、確か……アズサさんは詳しくないようだが、これってばつまりは白狼の血族絡みって事か?


 まぁ、聞いた内容とちょっと違うが、ツルギさんとアズサさんはやはり、アルマとなにかしらの関係があるのは間違いないな……って、いや?


 だとしたら、ツルギさんは何でこんな目に遭ってるアルマを置いていった?


 包囲網から難なく逃げ出せるのであれば、アルマ一人ぐらいなら連れて行けそうなのにも関わらず、街に行った帰り道ですら、連れ出す素振りを見せないまま何もしないで大人しく館へ帰っただろう?


 自らが追われるようになる事も承知の上で、兵士長を殺害してまでだぞ?


 なのにアルマは置き去りって、上手く説明出来ないけどヘンじゃないか?


「じゃあ、ツルギさんは何が目的なんですか?」


「……そういえば、お姉さんも知らないわね〜?」


「知らないって……」


 オレの問いに、何故かアズサさんまでも首を傾げる。


 この様子では恐らく本当に何も知らないのだと思うが、だったらアズサさん自身は何しに来たのよ……?


 まさか、マジでオババ様って人に言われたから来ただけ……?

 



「さぁさぁ、それよりもそろそろご飯を食べましょう〜?」


「……そうね。そうしましょうか。」


 これ以上聞いても、仕方ない……か。




 先程と同様、うんざりしたような樋口さんにも促されつつオレ達はようやく夕飯に手をつけ始めると、食欲が無かったはずなのに朝以降食べていなかったからか、オレはいつもより多くの量を食べてしまった。


 ……案外、人間って現金なものだよな。


 気持ちとは裏腹に、腹だけは減るなんてさ?




 それから、夕飯の後アルマと樋口さんもオレを看病したからか疲れているらしく、まだ早い時間ではあるが今日のところは早目に休む事となる。


 無論、二人の部屋とこちらの部屋の窓にはカーテンがわりに分厚い布をかけて、外からは見えないように対策を施したのだが、窓ガラスを割って侵入してくる相手には気休め程度にしかならないのだろう。


 だが、何もしないよりかはマシだ。


 それに……


「お姉さんもいるから、大丈夫よ〜!」


 ……妙にやる気に満ちたアズサさんまでもが、二人と同じオレの部屋の奥で寝泊まりするらしい。


 オレとしては寧ろ、心配の種か増えるだけなのですがね?


「流石に狭くないですか……?」


「アルマちゃんもミオちゃんも、小さいから大丈夫ね〜。」


 いや、確かに二人は小さいけれど……アズサさん、貴女オレと大差ないですよね!?


 それに、ベッド自体の大きさは問題なさそうなほど大きいけれど、二人はそれでいいのか……?


 って、うわー……樋口さん、超イヤそうな顔してるわ……なのに、アルマはすっごい楽しそう……


「これでも、私達のお部屋の寝床よりは大分広いわ〜?」


「ん?私達……?」


「私達にも、別に皆でお部屋与えられているの〜。でも、こちらを使ってもいいらしいの〜。」




 ……この後の要領を得ない話を要約すると、どうやら人返りの世話係達には複数人で使う部屋が、性別毎に何部屋かずつ割り当てられてはいるらしい。


 ただ、中にはアルマやナギさんのように周りと馴染めない人もいたようで、そういう人達はオレ達が現れるまで数ヶ月の間、別途個別で勝手に部屋を使っていたのだとか。


 そして、そういう人でもオレ達と同じ部屋で寝泊まりするのはごく少数で、現在は勝手に部屋を使っていた人でも寝泊まりの際には大部屋へ戻っているとの事。


 ……にも関わらず、何故か大部屋へ戻って来ないアルマを、当初アズサさんも大層心配していたようだが、それまでにも食事の際に確かめてはいたものの、数日前にオレの腕にしがみつくアルマを見たのだそうだ。


「アルマちゃんがマサトちゃんと仲良しさんで、お姉さん安心したのよ〜。」


「そ、そうですか……」


 そうやって改めて言われると、恥ずかしいな……


 しかしまぁ、アルマやナギさん、それにアズサさん以外の世話係の人達は見かけこそすれ、話した事も無ければ近寄った事も無いから、別に部屋があるだなんて知らなかったよ。


 というかこの話で少し気になっているのが、彼らはオレ達を遠くからでも見かけると、逃げるようにしてすぐに何処かへ行っちゃうから、ひょっとして他のクラスメイト達って、世話係とあんまり仲良くなっていないのでは……?


 ……まぁいいや。これは、オレが心配するような話じゃないものな。


 恐らくは、柴田が世話係を殺害したからだろうし。



 そんなアズサさんとの会話を終えた後、昼間の出来事もあってか何時間経っても眠れそうに無かったので、一人で部屋を抜け出し中庭へ向かうと、手頃な地面に腰をおろしてから夜空を見上げる。


 するとそこには、オレ達の世界とそう変わらない星空が広がっていたのだった。



よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 2月8日(日)18時となります

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