手記37
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください。
「さあさあ、みんな遠慮なく食べてね〜?」
いつもより豪華な夕飯を前に、何故か同席しているアズサさんがオレ達三人に向け笑顔で話しかける。
つい昨日まで柴田の側にいたのに、何で急に……?
まさか、この人まだ柴田の影響下にあるとか?
「あ、あの……アズサさん?」
「どうしたの〜?マサトちゃん?」
そう考えたオレは、何とかして彼女への洗脳を解除出来ないかと考え、問いかける事にした。
「まさか、アズサさんはまだ操られているんじゃ……」
って、オイ!?
言うに事欠いて、ド直球で聞く奴があるかよ!?
「私が、操られる?」
「……はい。」
そんなオレの問いに、キョトンとした顔でアズサさんが聞き返したのでオレが頷くと、彼女は少し悩む素振りを見せながら、再び口を開く。
「それは、柴田ちゃんの〝カルマ〟の力のお話ね〜?大丈夫よ〜?お姉さんに〝カルマ〟の力は効かないの〜。だから〜……」
「ちょ、ちょっと待ってください!昼間も言っていたその、〝カルマ〟って何ですか?」
昼間のやり取りの中にも出てきた単語がどうしても気になったオレは、アズサさんの言葉を遮りながら返すと、彼女はニコニコしながらオレと樋口さんに語りかけた。
「ツルギくんから聞いていたけれど〜……本当にマサトちゃん達は自分達の力について、何も教えられていないのねぇ……じゃあ、ツルギくんの代わりに、お姉さんが教えてあげますよ〜?」
「お願いします……」
ツルギさんと接点が……って事は、この人が彼の協力者で間違いなさそうだ。
……だとしても、何で急に?
それに、今の話が本当なら彼女には力が効かないって事だよな?
「まず〝カルマ〟とは……人の生まれ持つ宿業の事よ〜。」
「いや、それは知ってます……」
元々は宗教用語で、最近だと創作物でも性向値というパラメータを設定している小説もあるが故に、界隈でも比較的有名な言葉ではあるからな。
サンスクリット語が何で異世界にあるんだよと思わなくはないけど、既に日本語があるし今更か……カルマ自体は、仏教関連の用語でもあるわけだし。
「確か因果応報……の、事よね。」
「二人とも詳しいのねぇ……じゃあ何故、私達獣人の力がカルマの……因果の力と呼ばれるのかを、説明するわね〜?」
「お願いします。」
「私達のご先祖様が、魔術によって獣の魂を取り込んだのは聞いているかしら〜?」
「ええ、ツルギさんから……」
「その際、意図していなかった副産物が生まれたの〜。」
「それが、カルマの力?」
「そうよ〜。お姉さんが普段暮らしている所には、沢山の本があってね〜?そこに書いてあったお話なんだけど〜……簡単に言えば獣の魂を取り込んだ時に、人の部分と獣の部分が混ざったせいで、獣の魂が持つ人への恨みが大きくなって〜……因果の力が生まれた……みたいなの〜。」
二つの魂が混ざり合った結果、獣の魂が持つ怨嗟が力を持つに至った……?
……確かに、人と動物を掛け合わせるだなんて、業の深い話だよな。
だが、そうなると……
「そのカルマの力って、オレ達が祝福と教えられた力の事ですよね?つまり、オレ達間違った話を吹きこまれたって事ですか?」
「きっとそうねぇ……あの人達は独自に研究していたみたいだから、知らないのかもしれないわね〜?」
……待てよ?
だとしたら、近藤くんは力を使いすぎたからああなったのか?
例えるならMPを使いすぎた……みたいな?
「そのカルマの力を使いすぎたら、どうなるんですか?」
「何の事かしら〜?」
「あ、ええと……オレの友達は、チャクラとか気……みたいなものを使いすぎたから、あんな事になったのかなって……」
MPが伝わらないと思ったからチャクラってつい言ったけど、オーラのが伝わるかな……?
って、オーラは英語だったわ。
「う〜ん……カルマの力はね〜?蓄光石とは違って、無くなったりはしないのよ〜?」
「無くならないんですか?」
「えっとぉ……感情とは燃料ではなく、波のようなもので〜……そうね〜……言葉で表すなら〜……増幅された感情が溢れて、世界や人に影響を与えてしまっているだけなの〜。だから、無くなるのは死んじゃった時だけねぇ……強すぎると、本人にも影響はあるそうだけど〜……」
「なるほど……だとしたら、やっぱりオレ達の力は祝福なんて大層なものじゃなかったんだ……」
ここまでの話を信じるなら、オレ達に与えられたこの力の根源は、悪感情って事ね。
確かに、近藤くんの例もあるから納得は出来るが……だとしても、何故異世界に来ただけでオレ達にこんな力が生まれたんだ?
……それに、他にもまだ何かあるんじゃないのか?だって、話の通りなら……オレ達も獣人になってないとおかしいだろ?
なのに、オレの手足はアルマのようにはなっていない……シャワーの際にも間違いなく確認しているが、オレの身体は表面上何も変わっていないように見えるんだよ。
これはどういう事なんだ?
「あら〜?でも、祝福は祝福で実際にあるのよ〜?」
「実際に?祝福は別にあるって事ですか?」
この疑問については後で尋ねるとして、カルマとは別に祝福も存在はするって事か?
「そうよ〜?かなり珍しい力で……そうねぇ……いうなれば愛の力、かしらね〜?」
「あ、愛って……」
よく恥ずかしげもなく、アズサさんは愛なんて言葉を口にしたなと思いつつも聞き返すと、彼女は小首を傾げた後で再び口を開く。
「マサトちゃんは見たはずよ〜?マサトちゃんが寝ている間に、ミオちゃんから何が起きたのかを聞いたのだけど〜……お姉さんが考えるに、マサトちゃんのお友達はナギちゃんに守られていたはずなの〜。」
「え……?」
じゃあ、本当に近藤くんにはナギさんの声が聞こえていた……?
「でも、多分……ナギちゃんが守るには、あの子のカルマが大きくなりすぎたのねぇ……」
「あの子?」
「柴田ちゃんよ〜。」
「柴田……?どういう事ですか?使いすぎた事が原因じゃないなら、あの時何で近藤くんまで……?」
オレがアズサさんに問いかけた直後、何かに気付いたらしい樋口さんが顔をあげ、呟いた。
「人を呪わば、穴二つ……」
「樋口さん、どういう事?」
「恐らく、だけど……近藤くんが柴田くんを刺した時に溢れ出した何かが、そのカルマの力というものだったのではないかしら?」
そういえば直後に、柴田から漏れ出した何かが近藤くんに流れ込んだと、樋口さんは言っていたな?
それが、カルマの力だったって事か。
「そう〜。強すぎる力が流れ込むと、人の魂の容れ物は簡単に壊れてしまうのよ〜……それより、ミオちゃんは因果の力が見えているのねぇ?珍しいわ〜。お姉さんでも、見る事までは出来ないのよ〜?」
「はい……ここ何日かで……ですけど……」
「何日か……?」
「えぇ……石室の魔法陣に触れた日から……」
「石室……?魔法陣……??って、もしかして〜……ミオちゃん?あの魔術刻印に触っちゃったの〜……?」
「ええ、はい……?」
「よく、生きていたわねぇ……」
「生きて……」
「生きて……って、えぇ!?」
あの石室って、そんなヤバい場所だったのか!?
樋口さんも真っ青な顔になってるよ!!
「普通だったらマサトちゃんのお友達と同じ事になってしまうのだから、もうそんな事しちゃダメよ〜?お姉さんとの約束、ね?」
「分かったわ……」
……ホント、行かなくて正解だった。
でも、これだけ詳しいのなら、アズサさんに聞いておくべきだろうな。
「あの石室って、一体何の為にあるんですか?」
「あのお部屋はね〜私達のご先祖様が生まれた場所で、言わば霊廟なの〜。」
「私達の……って、獣人の……?」
オレが恐る恐る聞き返すと、アズサさんは頷いてから言葉を続ける。
「そうよ〜?あのお部屋自体は、近くで溢れたカルマを集める為のお部屋で〜……描かれた陣は、カルマの力を貯めておくための物なの〜。」
「貯めておく?」
カルマは感情由来なのだから、樋口さんは触れた際に妙なモノを見てしまったのかな?
「そう〜……一箇所に集めたカルマは〜……別の魔術刻印を使うと〜……色んな事に使えちゃうのよ〜。」
「もしかして、その蓄積したカルマとやらを使ってオレ達が呼び出されたんですか……?」
……なるほど。それで目が覚めた時、あの場所だったのね。
オレからの確認の意味での再度の問いに、アズサさんは黙って頷く事で返事をしてから、再び口を開く。
「だから、触ったりしたら普通はカルマを吸われたり〜……マサトちゃんのお友達みたいに魂の器が壊れたりで〜……すぐに死んじゃうはずなのよ〜?」
「カルマを吸われたら、死ぬ?何で?悪感情の力なんですよね?」
だったら無くなったら逆にいい人になる、なんて事……は無いのかな?
「これも、本に書いてあった事になるのだけど〜……客観的に見たら感情に悪も善も無いの〜。感情とはどちらでも等しく人の生きる力、すなわち生命力の根源ね〜。だから、それを奪われてしまったら〜……」
「死んでしまう……と。」
感情が無くなるとか、厨二病的な話では無いって事ね。
「そうねぇ……だから、祝福とカルマは表裏一体なのだと、その本には書いてあったわ〜。分かりやすく言えば〜因果の力そのもの全てがカルマで〜……その中でも人を想う気持ちから生まれた力が、祝福なの〜。」
人に影響をもたらすものをカルマ、中でも良い影響をもたらすものが祝福……って認識でいいのかな?
そういう事か……って、待てよ?
「だ、だとしたら、オレの毒って……?」
「毒〜?」
「そうです。オレの力は毒だって、最初に……」
人の感情が力の源かつ生命力に直結するなら、上手く言えないけど毒って変じゃないか?
「毒なんて力は、あり得ないわねぇ……」
「あり得ない?」
やっぱりな。
オレは別に誰かを呪ったりなんてした覚えが無いのに、そんな力を得るのはおかしいとは思っていたんだ。
「カルマの力の影響は、本人にも及ぶのよ〜?毒なんて力なら〜……真っ先に、マサトちゃんが被害を受けているはずだわ〜……?」
なるほど……あれ?でも、確か……
「じゃ、じゃあ、何で金属が腐食したりしたんですか……?」
「金属が〜……?マサトちゃん、その時に何があったのかお姉さんにも教えてくれる〜?」
アズサさんに問われたので、オレは最初の検査の際、指を切る為に用意されていた短刀と、その後の採血の際に使われた注射針が黒く腐食した事、それに加えオレの血を投与した動物が金属を怖がるようになった件を伝えた。
すると、少しの間アズサさんは頭を悩ませた後で、口を開く。
「それはマサトちゃんが、お注射や短刀を嫌だー!!って思っちゃったから〜……だと、お姉さんは考えるわね〜?」
「そのぐらいで?」
「……マサトちゃん達は、不安定なお年頃なのよ〜?だから、いやだーってなっちゃったのが、残っちゃったのねぇ……血液には、カルマの残滓が残ると言われているもの〜。」
この話は……やはり、何かおかしい。
アズサさんの話を聞いていて、どうしても確かめずにはいられなくなったオレは、彼女へ問いかける。
「……もし、知っていたら教えてください……オレ達は、人間なんですか……?」
「……マサトちゃん達は、ちゃんと人間よ〜?」
「そう、ですか……」
なんとなくだけど、これ……アズサさんは嘘をついてるよな?
もしかしたら、オレ達は人の形をした何か別のモノになった……の、かもしれない。
少なくとも、獣人では無いのは確かだが……身体能力が上がっているにしたって、明らかにオレ達はアルマに劣っているからな。
だったら、オレ達にある力って……?
……ん?あれ?待て待て。
獣人云々よりも何よりも、まずあの腐食がオレの力ではなくただの現象だとしたら……じゃあ、樋口さんの力は何なんだって話よ?
彼女の力は実際にこの目にしているし、しかも今の話と何日か前の樋口さんとの会話を踏まえても、願望がカルマの力となるにしたとしてもだな?
物体を消滅させるような力は、どう考えたところで人間の願いになるような類いではないような……?
それに、当人にも……力が影響する?
樋口さんが物体を消す際、反動はあれど彼女自身の肉体まで消失はしていないだろう?これは、どういう事だ?
しかも、明らかに反動が無かった事すら一度あったよな?
……だけど、普通なら近藤くんのようになるはずらしいのに、彼女は魔法陣に触れても気絶するだけで済んだりと、他にも特異な点が見られるから、樋口さんだけが特別な可能性は捨てきれないのか。
でも、う〜ん……?
そんな事を暫く考えながら、チラリと険しい顔で黙り込む樋口さんへ視線を向けてみた時、アズサさんが再度口を開いた。
「因果の力はね〜?強さに違いはあっても〜……人も〜獣人も〜動物も〜変わらずに持つものなの〜。だから〜……マサトちゃん達が持っていてもぉ、おかしくはないのよ〜?」
……話を聞く限り、カルマとやらは生命力らしいから今の内容自体は嘘ではないだろうが、普通の人間には発現するはずの無い力だという話は既に聞いているので、恐らくは言いづらい事を誤魔化しているだけなのだろうな。
「そうそう〜……それより、お姉さん今ちょっと納得いかない事があるんだけど〜……マサトちゃん達も聞いてくれる〜?」
「納得いかない事?なんです?」
……オレが納得していないのを察したからか、とうとうあからさまに話を逸らしにきたけど、何か言いたい事があるなら聞いた方がいいのかな?
どうやら、アズサさんはカルマについて相当詳しいようだし。
「ツルギくんったらねぇ!酷いのよぉ!」
「ツルギさんが?」
何で今、ツルギさん……?
「そう〜!ツルギくんがね〜!〝貴方一人では心配だから、マサトくんに守ってもらいなさい〟なんて言うのよ〜!?私の方がお姉さんなのにぃ!」
「えぇ……?」
あの人まさか、オレ達にこの人を任せたのか?普通、逆じゃね?
何だよ、それ?
てか、コレって誤魔化す云々じゃなく、単純な愚痴じゃん。
……あれ?そういや、お姉さんって確かアルマも……
「わたし、も、おねえさん!」
アズサさんが頬を膨らませながらツルギさんへの抗議の声をあげる中、先程まで無言だったのに何故かアルマがアズサさんの言葉に反応して、オレと樋口さんの手を取ると、アズサさんへ見せつけるように掲げて見せた。
「あらあら〜?アルマちゃんも、お姉さんになったの〜?」
「はい!」
「よかったわねぇ〜。」
あー……なるほど。
アルマがやけにお姉さんをアピるのって、アズサさんの影響だったのか……
よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。
批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。
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次回更新予定は 2月1日(日)18時となります




