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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
瓦解 ーCollapseー

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手記36

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください。

 どうやらあの力は視力だけでなく、相当な体力も消耗してしまうようだ。


 そう考えながら力の抜けた近藤くんの身体を支えていると、樋口さんとアルマも一足遅れでこちらへ近づいてくる。


「マサトくん……」

「マサト……」


 ……だが、どうにも二人の表情が険しい。


「近藤くん、寝ちゃったみたい。どうしようか?このままってわけには……」


「……あのね?マサトくん、落ち着いて聞いてね?」


 考えた挙句、二人の手を借りて彼の部屋へ運ぶ事を思いついたオレが、樋口さんに顔を向け話すと、彼女は悲しそうな顔で眉を寄せつつ口を開く。


「何?」


「近藤くんは、もう……」


 言い淀む樋口さんの様子に、オレはそこでやっと近藤くんが呼吸をしていない事に気付き、慌てて彼の胸に耳を押し当ててみた。


「え……?」


 心音が、無い……?


 う、嘘だろ!?


「な、なんで!?」


 近藤くんは、柴田から何かされたようには見えなかったぞ!?


 なのに、なぜ近藤くんまで!?


「……最期に近藤くんが柴田くんを刺した直後、柴田くんから何かが溢れて、その一部が近藤くんに吸い込まれていったように見えたわ。その後は、だんだんと近藤くんの力が弱くなっていって……恐らくは、流れ込んだ何かが原因ね……」


「そ……そんな……あ、あ、そうだ、なら、し、心臓マッサージをしないと……」


 オレは慌てて、授業で習った応急処置をするために、抱き抱えていた近藤くんをそっと地面に寝かせようとした。


 するとーーー


「その子はもう、手遅れですよ〜?魂の器が壊れていますから、助かりませんよ〜?」


 ーーー背中から、やや間延びした調子ながらも、酷く冷たい言葉をかけられる。


「手遅れだって!?そんな事がどうしてわかるんだよ!!」


 あまりにも無神経な発言に、オレは怒りを抑えられずに思わず声のした方向へと顔を向けながら、怒鳴り声をあげる。


「私は〝巫〟なので、例え魂の器は見えていなくても、何が起きたかは分かるんですよ〜?」

 

 かんなぎ……?確か、神職の事だっけ……?


 つまりは、巫女さんって事……?


 あれ?それより、この人は確か……


「アズサ!」


「あらあら、アルマちゃん〜?その子、アルマちゃんともお友達だったの〜?」


 やっぱり、アズサさんだったか。


 ……いや、今はそれよりも!!


「近藤くんが助からないって、どういう事!?」


「貴方は、確かマサトちゃんね〜?アルマちゃんから聞いているわ〜………残念だけど、その子の魂は器が壊れてしまったから、既に大いなる流れへと還っていったの〜。だから、もう休ませてあげましょう〜?」


「そ、そんな……う、嘘だ……」


「マサトちゃんにとって、その子は大事なお友達だったのね〜?でも、その子の器で受け入れるには大きすぎる〝カルマ〟を取り込んでしまったのだから〜……もう、誰にも治す事は出来ないのよ〜。」


 さっきから、この人は一体何を言ってるんだよ!?


 魂だとか、カルマだとか、そんなのゲームの中だけの話だろ!?


 ……そ、そうだ、こんな人に構うより、今は早く心臓マッサージを!


「近藤くん!待ってて!すぐ助けるからね!」


 暫くの間、過去の記憶を思い返しながら見様見真似ではあるが、近藤くんの体温が徐々に失われていくような感覚に焦りつつも、オレは必死で人工呼吸とマッサージを交互に行う。


 だがしかし、どれだけやっても近藤くんの拍動が戻る事はない。


「何で!?どうして!?」


 やり方が悪いのか!?


 こんな事ならもっと真剣に参加しておくべきだったと後悔しつつも、オレはひたすらに心肺蘇生を繰り返し続ける。


 確か、かなりの力で鳩尾の少し上あたりを……ああ!なんで此処にはAEDが無いんだよ!!


「マサトくん、もう……無理よ……」


「樋口さんまで!?どうしてそんな事言うのさ!」


「聞きなさい!貴方だって、分かっているのでしょう!?」


 そう言って、イヤイヤと頭を振るオレを両手で制止しながら、こちらと目を合わせつつも涙を流す彼女を見て、オレの視界が急速に歪み始める。


 やだ!いやだ!まだ間に合う筈だ!


 そう必死に自分へ言い聞かせようとするも、数分の間で既に彼の温もりは失われかけており、どう足掻いてもその温かさが再び戻る事は無いのだと、頭の片隅で理解してしまっている自分がいる事にも気付く。


 ……直後、自分の口から言葉にならない叫び声が無意識に漏れ出して、オレは堪えきれずその場に突っ伏した。




 それから、気付けばかなりの時間が経過していたらしく、ふと目を覚ましたオレは部屋の時計を確認しつつ起き上がる。


「起きたのね?」


 時計から窓の外へと視線を移しながら、もう夕方なのかと考えているオレへ、ソファに腰掛けたままの樋口さんが声を掛けてきた。


「オレ、いつの間に寝てたの……」


 それに、此処はオレの部屋だ。


 樋口さん達が運んだのだろうか?


「アレだけ暴れたのだから、仕方ないわ。」


「……ごめん。」


 どうやら、彼女達に相当な迷惑をかけてしまったらしい。


「……仕方ないわよ。目の前で、ですもの……ただ、貴方を運ぶ事に協力してくれた武田くんや青木くん達には、後でマサトくんからもお礼を言っておきなさい。」


 彼女の言葉で、やはり近藤くんは助からなかったのだと改めて知り、視界が再び歪み始める。


「分かった……それで、近藤くんは……?」


 信じたく無い思いから、一縷の望みを託して彼の様子を樋口さんに尋ねると、彼女は顔を伏せつつ口を開いた。


「今は、ナギさんと……彼の部屋で、二人だけにしてあるわ。」


「ナギさんと?」


 ……やはり、どうにもならなかったらしい。


 その事実に、頬を熱いモノが伝うのを感じながらも、オレは問い返す。


「ええ。彼女に返してあげるのが、一番だと思ったから……」


「樋口さん……」


「な、何よ?私がそんな事するとは、思わなかったって顔してるわね!?」


「違うんだ、ありがとう。きっと近藤くんも喜んでるよ。」


 オレが真っ直ぐに彼女を見ながらそう返すと、心配そうな表情を浮かべた樋口さんはベッドの端に腰掛けつつ、ハンカチを持った手でこちらの頬へと手を伸ばした。


「……多分、近藤くんはこうなるって分かっていたんじゃないかな。」


「分かっていた?」


「うん……はっきり言ってた訳じゃないけど、今から考えると分かっていたとしか思えないような事を言っていたから……」


 協力出来なくなる……と、言っていたもの。


 だから、オレを部屋の中で一度足止めしたのだろう。


 オレならきっと、知れば自分を止めようとするのが分かっていたから……


「そう……」


「本当に、止められなかったのかな……部屋で話している時に、止められたんじゃないのかな?」


 近藤くんが相当な覚悟を持って事に及んだのだと頭では分かっているのに、どうしても自分を責めずにはいられないオレが後悔の心情を吐露すると、樋口さんは眉を寄せながらオレを見やる。


「マサトくん……」


「それにあの時だって、何か他に出来る事だって……あったんじゃ……いや、むしろ全部がオレの所為で……?」


 今日の出来事は、ひょっとしてオレが原因なのでは……?


 確か柴田は、オレと近藤くんが仲良くする事が気に入らないと言っていたはずだし……だとしたら、オレが近藤くんに近付いたから柴田はナギさんや他のクラスメイトを……?


「マサトくん!!」


「何……?」


「いつまでも、そうやって後悔しているつもりなの!?」


「そんな事、言われても……」


 いつまでもも何も、今日の出来事な訳で……樋口さんみたいに、オレは強くないから……


「あのまま柴田くんを放っておいたら、彼が殺人を繰り返すようになると近藤くんは考えたのだと思うわ……決して、自分を犠牲にしようとしていた訳ではないはずよ!勿論、貴方の所為でもないの!」


「樋口さん……」


「なのに、救われた貴方がそんな調子では、近藤くんが浮かばれないわ!今すぐは無理でも、足を止めてはダメよ!」


 そうか……彼女は強いのではなく、無理矢理前を向く事で自分を保っているのか。


 後悔していないのとは、まるで違うんだ。


 それなのに、オレは決めつけて……


「私達に出来るのは、彼の選択を尊重する事だけ……だから、そうやって泣くのは構わないけれど、今だけにしておきなさい。」


 目の端に涙を浮かべつつも真っ直ぐにオレを見る樋口さんの言葉で、一際視界が歪むのを感じながら彼女の言葉を噛み締める。



 すると、再び喉の奥から声にならない叫びが漏れだすと、オレは慌てて枕に顔を埋め声を殺した。




「ありがと……」


 それから三十分程が経った頃、短かった友達としてのやり取りを思い返しながらも、泣いている間中頭を撫でられていた事に気恥ずかしさを覚えつつ、オレはまだ微かに歪む視界のままでも何とか顔をあげ、彼女へとお礼を伝える。


「今度こそ大丈夫みたいね。でも、友達を悼むのは決して悪い事ではないわ。近藤くんだけでなく、ナギさんも貴方を気に入っていたみたいだもの。」


「うん……」


「だから二人に報いる為にも、私達は私達でやれる事をしましょう?彼らの魂が、大いなる流れに安心して還れるようにね?」


「樋口さん……」


 ……そうだな。


 いつまでも泣き喚いていたのでは、二人に顔向け出来ないものな。


「やめて、これは感傷なんかじゃないのよ?私、ここに来るまでは魂だとか、前世があるだとか、そんなのは一切信じていなかったの。なのに、この世界にはそれらが確かにあった……それだけよ。」


「……魂、か。本当にあるのかな?」


 急にスピってる話とか、樋口さんらしくもない気もするが……


 二人が安らかに眠れるなら、それでいいや。


「あるわ。私達がこうして此処にいる事が、その証明でもあるの。」


「どういう事?」


 ……証明?目に見えないものなのに、どうやって?


「……薄々気付いてはいたけれど、マサトくんは覚えていないのね?」


「え……?それって……?」


 覚えて、いない?


 さっきから何の話だ?


 彼女の言葉の不吉さから、だんだんと心臓が早鐘を打つようになるのを感じながらも続きを促すと、樋口さんは眉を寄せ少し俯きつつも口を開く。


「私達、恐らくは元の世界で……死んでいるの。」


「まさか……?」


「私が最後に覚えているのは、連続した轟音と、皆のうめき声よ。多分、爆発か何かだと思う。でも、間違いでは無いわ……」


 樋口さんが根拠なく、こんな事を言うとは思えない……


 だとしたら……


「じゃ、じゃあ……元の世界に帰る事は……」


「恐らくは、出来ない……」


「そんな……」


 帰れない可能性がある事自体は考慮していたが……いざ、こうして突きつけられると、やはり辛いものがあるな……


 それに、だとしたら妹や両親ときちんと和解も出来ないままになってしまったのかよ……


 せめて、謝りたかったのに……


「気付いている人は、殆ど居ないみたい……清水さんは気付いていたから、自室に引きこもっていたようだけど……」


「……それって、どういう意味?」


 内心で酷く落ち込んでいる間にも樋口さんが言葉を続けるので、オレは何とか気持ちを立て直しつつ、彼女へ問い返す。


「これは確信とまでは言えない、状況証拠だけの憶測だけど、あの子は誰が犯人かを知ってしまった可能性があるのよ。」


「犯人……?もしかして、オレ達が元の世界で死んだ原因を作った奴がクラスの中に居て、尚且つこちらにも来ているって事?」


 でなければ、清水さんが知り得る訳もないが……?


「……えぇ。普通に考えたら、クラスメイトを巻き込んだ自殺だなんて、あり得ないとは思うわ。でも、そう考えたら彼女が殺された件の辻褄が、合うようにも思えるの。」


 ……なるほど?


 清水さんの力は、他人の秘密を覗き見る事。


 その力でクラスを巻き添えにした奴を特定していたとするならば、充分にありえる推測だ。


 となると、やはり……


「じゃあ、清水さんを殺した人と、オレ達が此処に来る原因になった件の犯人って、もしかして同一人物……?」


「そうなるわね……ただ、少し気になる事もあるのよ。」


「気になる事?」


 オレがそう問い返すと、彼女は少し躊躇うような素振りを見せつつ、苦々しい表情で口を開く。


「昨日からずっと考えていたのだけど、犯人はどこであの子の力を知ったの……?彼女の力を知らなければ、彼女が狙われた理由に説明がつかないわよね?」


「うん。」


「……でも、当人から直接聞いた時の話では、彼女は自分の力を吹聴していない筈なの。バレると面倒な事になるだけなのだから、当然と言えば当然の話だわ。」


「確かに……清水さんの前では隠し事が出来なくなるなら、知っていたら誰も近寄りたくはないよね。」


 最初はオレもそう考えたぐらいだし、多分皆もあまり変わらないだろう。


 だったら、沈黙するのが最も自然な選択肢になる訳だが……


「だから、私とマサトくん以外は知らない筈よ……とはいえ、私が聞いてから一週間程は経つから、その間に本人が話している可能性が無いとまでは言わないけれど……閉じこもっていたとすれば、その可能性は考えにくくなるでしょう?」


「じゃあやっぱり、オニか何かが犯人とか?」


 遺体損壊の状態からオニの可能性は無いと思っていたけれど、犯人でないと決めつけるには早すぎたのかな?


「……私も考えなかった訳ではないけれど、そうなると今度は、清水さん以外に被害が出てない事がおかしくならないかしら?」


 ……なるほど、あのオニが犯人だとしたら馬にすら襲い掛かるぐらいなのだから、樋口さんの言う通り、清水さんだけが狙われてしまった事の説明がつかないね。


 それに、クラスメイト二人目の被害者は恐らく昨夜柴田が手にかけた斎藤の筈だし、オニならば手当たり次第襲うはずなのに、二人の殺害の間に結構な時間が空いている事を鑑みれば、やはり犯人はオレ達の中に……あれ?ちょっと待て、これってもしかして!?


「他に考えられる可能性って……まさか!?」


「……えぇ。犯人は私達の会話を聞いていた人物ぐらいしか、思い当たらないの……だとしたら、あの子を殺したのは……」


「ストーカー、か……」


 なんてこった……全て繋がっていたのかよ……


「……つまりは、私のせい。私が盗み聞きされている可能性に気付かないまま、迂闊に清水さんの事を口にしたから……」


 いやいや、だとしても普通は実行したりはしないから、樋口さんの責任とは言えないだろ!?


 ……さっきオレが自分のせいだと口にした時、きっと彼女もこんな気持ちだったのだろうか?


 そんな事を考えながらも、オレは樋口さんの所為ではない事を伝える、が……


「それは違う!悪いのは、実行した奴だよ!」


「でも、私の過失だとしか……」


 ……樋口さんが言い淀んだ直後、部屋の入り口が唐突に開き、トレイを持ったアズサさんとアルマが現れた。


「マサトちゃんの言う通りです〜!ミオちゃんは良い子ですもの〜!お姉さんが保証しますよ〜!」


「え……?」


 突然響いたやや間延びした声に、オレは思わず困惑の籠った呟きを漏らすのだが、アズサさんはお構い無しに言葉を続ける。


「さぁさぁ、そんな暗い話より、そろそろ晩御飯にしましょう〜?アルマちゃんにもお手伝いしてもらったから、きっと美味しいわよ〜?」


「いや、オレは別に……お腹空いてないので……」


 それよりも何よりも先ず、何でアズサさんが当たり前のようにこの部屋に居るんだ……?


「ダメよ〜マサトちゃん!ご飯はしっかり食べないと、頑張れないわ〜!」


「えぇ……?」


 一体何なんだよ、この人は?


「マサトくん、諦めなさい……」


 そう短く言いながら、うんざりしたような表情でオレを見る樋口さんの表情は、何処か疲れたような様子だった。


よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 1月25日(日)18時となります

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