手記35
おかげさまで、この作品は前話までで1000プレビューに到達致しました。
お読み頂いている方々には、感謝の思いしかありません。
今後も更新を続けていきたいと思いますので、是非最後までお付き合い頂ければ幸いです。
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください。
食堂へ向け走りながら、オレは簡単に樋口さんへ中での出来事を伝える。
「そう……」
……だが、彼女はまるで全てを知っていたかのような様子で、短く呟くだけだった。
「驚かないんだね。」
「ええ。部屋の外まで近藤くんの叫び声が聞こえていたから……それに、アルマちゃんが悲しそうにしていたもの……」
「アルマが?」
「多分、近藤くんがナギさんに手をかけた事に気付いていたのね……どうしてかは分からないけれど、近藤くんの背中を睨むようにもしていたわ。」
「そうなの……?」
なるほど。だからアルマは、部屋に入る彼をじっと見ていたのか。
「それより、近藤くんをこのまま柴田くんに近付かせるのは危ないでしょうね。また操られてしまう可能性だって……」
「うん、そうだね。急ごう!」
近藤くん……お願いだから、早まらないでくれよ!
そう何度も心の中で祈りながら、オレ達は近藤くんの後を追い、食堂へと向かった。
「お前は騙されてるんだよ!ヒロト!」
柴田が発したと思しき叫び声が廊下にまで響き渡る中、オレ達は食堂の入り口に辿り着き、扉の辺りから中の様子を伺う。
「騙されてる?」
「あいつらは僕達の敵なんだ!だから、僕は仕方なく……」
「ふざけんな!もう騙されない!お前が昨日何を言ったか、俺は覚えてるんだよ!」
二人は食堂の中央辺りで言い合いをしているもののその姿は真逆で、柴田は取り繕うような言葉を吐きつつ、周囲を自らの能力で操ったクラスメイト達で固めているのに対し、近藤くんは怒りを露わにしながら一人で立ち向かっていた。
「近藤くん!」
だが、柴田の周りにいる他の三人のクラスメイトは身動きもしていない所を見るに、恐らくは全員が既に近藤くんの力に掛かっているのだろう。
だとしたら、柴田が話せている理由がわからないが、険しい表情をしている事からも、恐らく身体の自由のみを奪い、敢えて話せる状態で止めているのかもしれない。
それに、この様子なら近藤くんもまだ操られてはいないみたいだ。
よかった……
そう内心で胸を撫で下ろしつつ、オレは食堂へと足を踏み入れようとする。すると……
「桜井?ちょうどよかったキミか……」
「桜井!来るな!入っちゃダメだ!」
……柴田が一瞬だけにやりとしたかと思えば、こちらへ向けて話しかけようとしたのだが、近藤くんが柴田の言葉を遮るようにしてオレを制止した。
「え?」
「とにかく来たらダメなんだ!ナギがそう言ってる!」
……ナギさんが、言ってる?
確か、さっきも同じ事を言っていたけれど……まさか、近藤くんは力に呑まれた所為で、おかしくなって……?
「ナギが俺に力を貸してくれてるんだ!だから、今の俺にアキトの力は効かない!そのナギが言ってるんだよ!アキトの力は危険だって!だから、頼む!そこにいてくれ!」
「マサトくん、多分近藤くんは正気よ。柴田くんの事は彼に任せて、私達は此処で見守りましょう?」
湧き出した焦燥感から、余計に彼を放っておけなくなったオレを樋口さんがそんな風に宥めると、険しい表情をしたアルマまでもがオレの腕を取り首を横に振ってみせる。
そこまでして二人が止めるなら、ここは大人しく従おう。
「わ、わかった……」
「チッ……大人しく入ってくりゃいいものを……」
「桜井達をお前の餌食になんてさせるかよ!」
「まぁいいさ……しかしなぁ、ヒロトぉ?人のせいにするのはよくないなぁ?あのメイドはお前が殺したんだろぉー?」
こちらを操る事を諦めたらしい柴田は、何故か煽るような口調で、自分が操っていたにも関わらず近藤くんの責任を問い始めた。
「……そうだよ。」
「だったら、僕に復讐する理由なんて……無いはずだよなぁ?」
コイツ……言い逃れにしても、酷すぎるだろ!?
テメェが近藤くんを操ったからだろうが!!
「ああ、そうだ。アキトが俺にやらせたって証拠だって無いからな……でもお前は……絶対にやっちゃいけない事をやったし、言ったんだ。俺がお前に復讐する理由なんて、それで充分だよ。」
しかし、思わず割り込もうかと考えたオレとは対照的に、近藤くんは言葉の端々から怒りを滲ませながらも、努めて冷静に言い返すのだが……
「何だって?僕が何をしたって言うんだい?」
「とぼけるな!お前は、ナギ達を〝経験値〟だって言っただろ!そして、人が死んでいくのを嘲笑ったんだ!!そんな奴が、人間な訳がない!!」
……続く柴田の一言は、ナギさんとの日々を否定するように感じられたからなのだろう。
柴田の態度に我慢の限界を超えたのか、近藤くんは声を荒げながら昨晩の言動を咎めると、柴田はキョトンとしたような表情で更に問い返した。
「僕が、人間じゃない……?」
「そうだよ!ナギ達だって生きていたんだ!それを笑う権利なんて、誰にもない!それが出来るなら、お前はもう人間じゃないだろ!」
「はぁ?選ばれし者である、僕が?伝説の勇者であるこの僕が?たかだかヒトモドキを殺したぐらいで、人間じゃないだって?」
コイツ、本当に度し難いな!?
生きて言葉を交わせる相手がヒトですらないなんて、よく言えるよ!
「お、お前、それ本気で言ってるのか……」
「ヒロト、お前こそ目を覚ませよ。僕達は選ばれた勇者なんだよ?その勇者がモンスターを少し狩ったりしただけで、ゲームで罪になると本気で思ってるのか?それに、奴らを殺さないと僕達は帰れないんだよ?」
あまりにもな言い分に、一転して呆れたような、驚きを隠せないような口調で近藤くんが真意を問うと、さも当然と言わんばかりの様相で柴田は彼へ聞き返す。
「……アキト、だったらなんで斎藤を殺したんだよ……クラスメイトだろ?俺達は勇者なんだろ!?だったら……だったら何で!友達まで殺せるんだよ!!」
だが、柴田のその態度が近藤くんの逆鱗に触れたようで、彼は再び激昂しながら問い詰めるも、当の柴田はまるで駄々をこねる子供を叱りつけるような様子で再び口を開いた。
「そんなの、ヒロトを操るのに経験値が足りなかったからだよ?トーマから聞いたんだ!力が足りないなら、倒して稼げばいいんだってね!その為にこいつらを確保しているんだからな!こんな肝心な時に、全く役に立たないけどさぁ!」
トーマから……聞いた?
やっぱり、アイツらの目的は樋口さんの言ったように、オレ達に殺し合いをさせる事だったのか!?
「……お前……友達を何だと思ってるんだよ!」
「そんなの、僕が勇者として成功する為の踏み台に決まってるだろ!」
「な、なぁ……どうしちまったんだよ、アキト?昔はそんな奴じゃなかっただろ……?」
「そんな奴じゃなかった……?お、お前が、僕の何を知っているというんだ!?中学に入って、周りからチヤホヤされていたお前に、僕の何が分かるって言うんだよ!!今も昔も、僕は何ら変わってなんかいない!僕を認めない皆が悪いんだ!」
トーマの件も気になるが、言うに事欠いて周りが悪い……ね?
他責の典型だが、これも力に呑まれた所為?それとも……?
「アキト……」
「前の世界じゃ、僕はいてもいなくても変わらなかったけど、この世界では違う!僕は!この世界で!勇者になる!!僕は望まれて此処に居るんだ!!!……でも、そうだな?こんな力があるなら、ヒロトは操らないで特別に仲間にしてやるよ!だから、今すぐ僕を解放しろ!」
「もういい、黙れ……」
「黙れだって……?お、お前も、あのクレイとかいうクソモブみたいに、僕を見下すのか!?」
……クレイ?今、柴田がクレイって言ったよな!?
トーマだけじゃなく、アイツも柴田に何か言ったのかよ!?
「うるさい、黙れよ……」
「アイツが僕に、メイドが獣だって教えたからやっただけだろ!?それなのに、お前は僕が悪いって言うのかよ!?勇者であるこの僕に、使えないと言い切ったアイツみたいにさぁ!!」
自分がやった癖に、開き直るんじゃねぇよ!
しかも、トーマだけでなく、クレイまで柴田を唆していたって事!?
あの野郎、何て真似しやがるんだ!!
「それに、桜井みたいな奴と仲良くしようとするヒロトも悪いんだ!お前は子供の頃みたいに、僕の後ろにだけ居ればいいんだよ!!」
オレと仲良くって……まさか、昨日の出来事を柴田に見られていたのか?
だから、柴田はあんな事を……?だとしたら……
「もう何も言うな!黙れ!」
柴田の態度が余程腹に据えかねたのか近藤くんが再び叫ぶと、ヤツは動きを止める。
……直後、近藤くんは顔を伏せ肩を震わせ始めた。
やはり、彼は幼馴染の変化が何かの間違いだったと思いたかったのだろう。
だが、勘違いでも何でもなく、扇動されたにせよ明確に柴田自身の意思で行っていた事を、こうして確かめてしまった。
だから、今彼は泣いているのだ。
信じたかった物をとっくに失っていた事を知ってしまったのだから、それは致し方ない事なのかもしれない。
それから暫くの間、近藤くんの嗚咽だけが食堂内に響いていたのだが、彼は徐に顔をあげ周囲を見回す仕草を見せたかと思えば、どうやら探し物を見つけたらしく、真っ直ぐにテーブルへと歩いていき何かを手に取る。
……何だろう、アレ?
「マズイわね……近藤くんは、柴田くんを殺すつもりよ。」
「え?」
樋口さんの言葉で、オレは慌てて近藤くんが手にした物を確認する。
「……包丁?」
キラリと鈍く光を反射した事で、彼の手にした物がそこそこの刃渡りがある刃物だとオレの頭が把握した時には、既に近藤くんはクラスメイトを押しのけて柴田の目の前にまで近付いて、まっすぐに柴田くんの目を見つめている所だった。
……待てよ?昨日のナギさんの話が本当なら……もしかしたら、これ以上誰かを殺してしまえば、彼が彼でなくなるかも!?
「近藤くん!ダメだ!」
頭では状況が分かっているのに、どうしてだか近藤くんを静止する言葉をかけられないながらも、オレは何とか吐き出すようにして叫んだ。
すると、近藤くんがふいにオレへ視線を向け、寂しそうな笑みを浮かべた次の刹那、彼は再び柴田へと視線を戻しつつ包丁を勢いよく柴田の首元へと突き立ててから、ゆっくりとした動作で引き抜く……
「あああああああ!!?こいつ、や、や、や、やり、やりやがったな!!」
……直後、柴田が彼を睨みつけながら怒声を浴びせた。
どうやら、近藤くんは引き抜くと同時に力を解いたようで、柴田は服をみるみる間に鮮血で染めながらも、何とか彼から離れようとする。
立って逃げようとしている事からも、痛みで顔を顰めてはいるものの、致命傷になるほど深い傷ではないらしい。
「まだ話せるのか……そっか。このぐらいだと、案外人って死なないんだ?」
「や、やめて……来ない…」
「じゃあ、もう一回な?」
柴田の様子と刃物を交互に見比べた後、近藤くんは笑顔を浮かべつつ再度ヤツに近寄ると、柴田は懇願するような言葉を吐き出そうとした瞬間に、再び動きを止める。
恐らくは、近藤くんが再度力を使ったのだろう。
そうして動きを止めた柴田へ近づきつつ、穏やかな調子で言葉を掛けながら蹴りつけ転ばせた後、柴田の前でしゃがみ込むと今度は下腹部辺りを目掛け、今一度勢いよく包丁を振り下ろす。
「ああああああああ!?痛い痛い痛い痛い!?」
近藤くんが刃物を引き抜き立ち上がると、また聞くに耐えない柴田の絶叫が辺りに響き渡る。
あまりの光景に、オレは慌てて樋口さん達に視線を向けてみるが、どうやら二人にもかなりの衝撃だったらしく、彼女達は硬く瞑目して顔を逸らしている。
そりゃ、こんなの怖くて見てられないよな……って、それより手遅れになる前に早く止めなきゃ!
「まだだ!まだ入っちゃダメだ桜井!」
「え!?」
そう考えたオレが足を踏み入れようとするも、彼は柴田を見下ろしつつも一瞥すらせずに、こちらの動きを制止する。
これだけ離れているのに気付いたの!?見てすらいないのに!?
「さ、桜井!た、たす、たすけて……いたい、いたいんだ……たすけて……」
だが先程と違い今度は相当な深手らしく、柴田は身体を起こそうとするもののどうにもうまくいかないようで、傷口を押さえながら痛みに顔を顰めつつも何とか身体を少し浮かせ、こちらへと空いた手を伸ばす。
……しかし、近藤くんはそんな柴田の行動を妨害するかのようにヤツの伸ばした手を蹴り付けた後、柴田を睨んだまま口を開いた。
「まだ、アキトは桜井を操ろうとしてるって、ナギが言ってる!だから、頼む桜井!来ないでくれ!」
もしかして、近藤くんには本当にナギさんの声が聞こえているのか……?
「てめぇ……さっきから、うるせぇ…んだよ!桜井も、僕がたすけろって……言ってるだろうが!?…見てないではやく、たすけろよぉ……」
「ごめん、桜井。巻き込んで……でも、アキトは俺が止めるから。こんなのは、これっきりだ……」
「近藤……くん……」
これはもう、最期まで見守るしかないのか……?
「ふざ…ふざけ…んな!……ぼ、ぼくは、ゆうしゃ…だぞ……こんな…こんな、やつなんかに……!」
「ナギの苦しさを、お前に少しでも味合わせたかったけど……見ていられないな……」
そう言うと、近藤くんから上半身だけでも逃げ出そうと蠢く柴田の腹辺りに馬乗りになり、両手で包丁を掲げ上げながら握りしめる。
「何?……や、やだ!?いやだ!いやだ!いやだ!」
恐らくは痛みで鈍る思考の中でも、近藤くんが何をしようとしているのかを感じ取ってしまったのだろう。
柴田は満足に動かせなくなってきているらしい手足をばたつかせ、必死に抵抗して見せた。
だが……
「この期に及んで、嫌だ……ね?斎藤や、ナギ、他にお前に殺された人も、きっと……そう思っていたよ。」
「近藤くん!」
「待って!やめて!やめてよ!あ、あやま、あやまるか……らっ!!!!」
……オレが近藤くんの名前を呼んだと同時に、近藤くんは泣き喚く柴田の胸に深々と包丁を突き立てると、柴田は手足を一瞬だけピンと伸ばしながら痙攣して、その後全く動かなくなる。
終わった……のか?
人の死を間近に見た事で、また少しの吐き気を覚えつつも、オレは恐る恐る食堂へと足を踏み入れた。
「お、俺は関係ないからな!」
「うわああああ!!」
「きゃああああ!」
すると、先程まで近藤くんによって動きを止められていたクラスメイト達が、我先にと食堂から逃げ出し、中央に柴田の遺体と近藤くんだけが残される。
あの様子だとどうやら、近藤くんは力を解いたらしい。それに、柴田の影響も……
……終わった。
終わってしまったんだ……
胸の中を無力感や後悔が去来する中、逃げるクラスメイト達の背中を目の端で追いながら、オレは事を終えた近藤くんが正気のままなのかを確かめる為に、再度彼へと視線を戻しつつ歩みを進めはじめる。
しかしその直後、いつの間にか立ち上がっていたらしい近藤くんが、オレへと視線を向けたまま、静かにその場で崩れ落ちた。
「大丈夫!?」
冷静に考えれば惨劇の後なのだから、精神的にも無事なわけはないのだが、倒れた近藤くんを見て、オレは慌てて声を掛けながら駆け寄る。
「桜井……?そこにいるのか……?」
「え……?」
そうして、地面に寝転んだまま動かなかった為に彼を抱き起こすと、近藤くんは虚空へと彷徨うように手を伸ばした。
「オレは此処にいるよ!」
「そっか……桜井、無事か?」
「うん!オレは大丈夫!」
「よかった……」
目の前にいるはずなのに、オレを探すようにして辺りを見回そうとした後、自分の身体を支えているオレの腕に気付いたのか、袖口を掴みながら近藤くんが呟く。
もしかして、目が見えていない?
まさか、これがあの強力な力の代償なのか?
「なぁ、桜井?俺さ……桜井と、本当に、友達に、なりたかったんだ……」
「近藤くん……?」
……なんだよ、それ?
それじゃあまるで、遺言みたいな……
「いつ、だったかな……学校で、樋口に……手を、差し出す、桜井が、俺には……カッコよく、見えたんだよ……」
「そっか……」
なるほど、オレがこっそりと樋口さんを助け起こした場面を、近藤くんも見ていたのか……だから、オレにちょっかいを……
「後さ……ごめんな……事情、知らないのに、学校で、絡んで……うざかったろ?」
「ううん、オレはもう気にしてないよ。」
彼なりに気を遣っていたのは今なら分かるから、気にしないでいいと伝えると、近藤くんは安心したように瞳を閉じる。
「良かった……なぁ、桜井?お願いが……あるんだ……」
「何?」
「俺も……樋口みたいに、名前で………」
段々と眠りに落ちていくような様子で、近藤くんの身体から力が抜けていくのを感じながらも、彼の言葉に返そうとしたーーー
「友達だから、当たり前だよ…………近藤くん?」
ーーー次の瞬間、彼の身体がふいに軽くなったような感覚を覚えると共に、急速に弛緩する。
よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。
批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。
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次回更新予定は 1月18日(日)18時となります




