表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
瓦解 ーCollapseー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/40

手記34

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください。

 次の日、オレ達はいつも通り朝食を摂り、食器を片付けるアルマを手伝った樋口さんが、アズサさんにお礼を言いたいからと、二人連れ立って部屋を後にしてから少しした頃だった。


 何故か血相を変えた樋口さんが、アルマの手を引いた状態で部屋へと戻ってきたのだ。


「マサトくん!大変よ!」


「樋口さん?どうしたのさ、慌てて?」


「それが……また、犠牲者が……出たらしいの。」


「嘘でしょ……」


 あまりの衝撃で言葉を失うオレを他所に、樋口さんは険しい表情のまま続ける。


「炊事場に行こうとしたら、武田くんに会ったのだけど……」


 武田くん?……あぁ、昨日近藤くんと一緒に会った人だな。


「どうも、食堂に入り浸っていたうちの誰かが、今朝遺体で見つかったらしいわ。」


「食堂って……」


 まさかアイツ、とうとう……


「だから私、慌ててアルマちゃんを止めて、戻ってきたのよ……」


「犯人は、柴田の奴……かな?」


「恐らくは……」


「だとしたらまずいね……柴田の奴、相当おかしくなってるんじゃない?」


 柴田は最早、正常な思考を失っていると考えるべきだな。


 そうなると、このままという訳には……


「その可能性があるわね……どうする?」


「どうするって……」


 恐らくは、逃げ出すかどうかを尋ねているのだろうが……今しかないのか?


 だとしたら、せめて近藤くん達だけでも……


「……まずは、近藤くん達と合流しよう。そこから話しあおうよ。」


「そうね……協力者は多い方がいいもの。私に異論はないわ。」


「じゃあ、すぐ行こう。」


「分かった……アルマちゃん、ごめんね。ご飯はもう少しだけ我慢してくれる?今は危ないかもしれないの。」


「はい。」


 オレ達の様子が尋常ではない事に気付いているようで、樋口さんの言葉に神妙な面持ちでアルマは頷くと、オレ達三人は近藤くんの部屋へと向かう事にした。



 途中、樋口さんの表情が硬く、恐らくは昨日の惨劇を思い返しているのだろうと気付きながらも声は掛けずに、オレ達は道を急くのだが……


 近藤くんの部屋の前にたどり着いたオレ達の目に、何故か自らの部屋の扉の前に膝を抱えて座り込む、彼の姿が映る。


「近藤くん!どうしたの!?」


 その様子に唯ならぬものを感じたオレは、慌てて彼に駆け寄ると、近藤くんはゆっくりと顔をあげ、虚ろな瞳でオレを見た。


「桜井か……」


「こんなところに座り込んで、何かあったの!?」


 酷く憔悴しているようだが……もしかして、寝てないのか?


「桜井……待ってたんだ……一緒に来てくれ……」


「近藤くん?」

「近藤くん?マサトくんに用事でもあるの?」


 オレを待っていたと告げる近藤くんの様子があまりにも昨日と違いすぎて、おかしいと感じたらしい樋口さんが口を開くと、ようやく彼女がいる事に気付いたような調子で、近藤くんは樋口さんへ視線を向ける。


「樋口もいたのか……」


「いるわよ。昨日も会ったでしょう?」


 目の前に居るのに気付かないなんて……一体どうしたのだろう?


「そっか……そうだよな……なぁ、樋口?悪りぃけど、桜井を貸してくれないか?話が終わったら、すぐ返すから……」


 どうやら、近藤くんはオレと二人きりで話したいらしい。


 そう考えたオレは、樋口さんに頷いてみせると、彼女はやや困惑したような表情を浮かべながらも了承する。


「え?……えぇ、わかったわ。私達は、此処で待っているわね。」


「ありがとう樋口……そっちの子も、ありがとう。借りてくよ。」


 そうして、険しい表情で近藤くんを見るアルマと、何かを察したような表情の樋口さんを部屋の前に置いて、オレは近藤くんと二人、彼の居室へ足を踏み入れた。



 だが、中に足を踏み入れたオレは、すぐさま違和感を覚える。


 ……部屋の中が薄暗いのだ。


 世話係には数日間灯りを点け続けられる程度に蓄光石が支給されるようなのだが、現状は何故か照明が使われていないらしい。


 それに、ナギさんの姿も見えないのだけど……彼女は何処へ?


「近藤く……」

「桜井……」


 そんな風に疑問に思っていると、部屋の中に入ってからは無言だった近藤くんはベッドの前で足を止め、違和感の正体を尋ねようとするオレの言葉を遮るように、一瞬だけこちらを見ながら名前を呼んだ直後、彼は布団を捲る。


「そんな……なんで……?」


 するとそこには、ベッドの上で瞳を閉じ穏やかな顔で横たわるナギさんの姿があった。


 しかし、その顔には明らかに血の気が感じられず、身じろぎや呼吸音すらもなく、一目で生きていない事を悟るには充分だった。


 彼女は元々色が白かったが、血の気が無いと本当に人って真っ白になるんだな……


「……昨日の夜、此処にアキトが来たんだ。」


 目の前の現実を受け止めきれずに立ち尽くすオレが、ややトンチンカンな事を考えた直後、近藤くんはゆっくりと口を開く。


「柴田が?……まさか、柴田がナギさんまで!?」


「他にも、いるのか……」


「うん……」


「でもな、桜井。ナギを殺したのは、俺だよ……」


「まさか……」


 近藤くんが?どうして!?


「……昨日の夜、此処に来たアキトは謝りたいって言ってきたんだ。俺に悪い事をしたって……」


「柴田が……?」


「ナギはやめろと言って、そんな俺を止めようとした。でも、俺は……アキトを信じたかった……幼馴染だったから……」


 近藤くんの声が震えてる……


「でもな?俺が間違ってたよ。」


「間違い?」


「部屋の中にアキトが入った直後から、前みたいに自分の意思ではどうにもならなくなったんだ……でも、意識は前と同じではっきりとしていたんだよ。」


「もしかして、柴田の……?」


「多分……でも、この間桜井に正気に戻してもらった後にアキトと会った時は、何とも無かった筈なのにな。」


 ……それって、昨晩アイツがクラスメイトに手をかけたからか?


 だから、柴田の力がさらに増して再度近藤くんは柴田に……?


 だとしたら、最早印象を書き換えるとか、そんな次元の話ではなく洗脳……いや、意思が残っているなら、樋口さん風に言えば〝クラッキング〟か〝ブレインジャック〟ってところか?


「そんな俺の後ろから……お、俺が、ナギの首を絞めるのを……アキトは……アイツは、笑いながら見ていたんだ……」


「近藤くん!もういいよ!」


 ナギさんに手をかけた瞬間を思い出したからか、近藤くんは涙を溢しながらもオレに向け説明を続ける。


 その様子に、居た堪れなさと柴田への怒りで頭の中がどうにかなりそうになりながらも、オレは彼の身を案じつつ叫んだ。


「いいから、聞いてくれ……ナギは、自分が殺されそうになっているのに、笑ったんだよ。」


「え?」


「仕方ないって一言だけ呟いて、笑っていたんだよ……」


 ナギさん……そこまで近藤くんの事を……


「少しずつナギの身体から力が抜けていくのを、俺ははっきり覚えてる!覚えてるんだよ!!俺が!俺が殺したんだ!」


 とうとう感情が抑えきれなくなったからか、そう叫んだ直後に近藤くんは崩れ落ちるようにして、地面に突っ伏してしまった。


 それから暫くの間、オレは彼の背中に声をかける事もできずに黙って見守っていると、そのうち感情を吐き出し終えたのか、涙で濡れた瞳のまま近藤くんは顔をあげる。


「最後……ナギの身体から完全に力が抜ける瞬間……かな?ナギの声が聞こえた気がするんだ。」


「声?」


「あぁ……出会えて嬉しかったって、最後に俺と二人で暮らす夢が見れて、幸せだったって……そう、ナギが言ってくれた気がするんだよ。」


「近藤く……」

「でもな……だから、かな……俺は……俺は、アイツを許す訳にはいかないんだ!!ナギの死を嘲笑いながら去っていったアイツを、絶対に許す訳にはいかないんだよ!!」


 呼びかけようとするオレを遮るようにして、叫び声をあげた彼の目にはっきりと怒りの炎が見てとれた瞬間、オレは指一本すら動かす事が出来なくなる。


 なんだこれ!?身体が動かない!?


「俺はこれからアイツの所へ行って、決着をつけてくる……桜井を待ってたのは、協力出来なくなるのを謝りたかったからなんだ。ごめんな、俺から誘ったのに。」


 謝らなくていい!だから、早まらないで!


 そう言葉に出したいのに、口すら開けないままオレは固まり続ける。


「……桜井は、優しいから。転ばされた樋口に手を伸ばした桜井を見て、俺……本当にお前と友達になりたいって思ってたんだ……だからこそ、俺の力で桜井を止めた。」


 止めた?もしかして、この身動き一つ出来ないのは、近藤くんの力のせいか!?


「復讐を誓った瞬間に、理解したよ。自分の中の力を。そして、その使い方も……桜井、俺は行くよ。ありがとう。一日だけだけど、本当に楽しかった。ナギも、そう言ってる。」


 ダメだダメだダメだダメだ!行っちゃダメだ!!


 最後にオレに笑顔を向けた後、近藤くんは一人部屋を後にする。


 部屋の外で樋口さんも近藤くんに声をかけたようだが、すぐに途切れた為、恐らくは彼女も近藤くんの力にかかってしまったのだろう。


 それから恐らくは数十秒後、オレは突然身体の自由を取り戻したので、慌てて近藤くんの後を追い、部屋を飛び出す。


「ミオ……?」


 すると、手を伸ばした格好のまま固まる樋口さんと、樋口さんを心配そうに揺さぶるアルマが部屋のすぐ外にいた。


「樋口さん!」


 慌てて彼女が呼吸をしているかを確かめると、特に何ともないようで、ただ動けないだけだと分かりホッと胸を撫で下ろした直後、樋口さんが自らの手のひらを確認するようにし始めたので、オレは改めて彼女へ声を掛ける。


「動けるようになった?」


「えぇ……凄い力ね……」


 キミがそれを言うかな?確かに、凄いとは思うけれど。


「そうだね……って、のんびり話してる場合じゃない!近藤くんを追いかけなきゃ!」


「追いかける?中で何があったの?」


「追いかけながら話すよ!だから、今はとりあえず食堂へ!」


「分かったわ。いきましょう。」


 近藤くんが食堂へ向かった……


 その一言である程度事情を察したのか、樋口さんは神妙な面持ちで頷くと、オレ達は三人で走り始める。


 お願いだ、近藤くん……どうか、早まらないで……!

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 1月11日(日)18時となります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ