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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
反転する世界 ーInversionー

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手記33

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください。

 そんなこんなで昼食後、オレは近藤くんとの話を思い出し、彼の申し出について樋口さんへ尋ねる事にした。


「ねぇ、樋口さん……相談があるんだけど……」


「相談?何かしら?」


「近藤くんから提案があったんだ。協力しないかって……それで、どうしたらいいかなって……」


 勝手に協力すると言ってしまった手前、思わず歯切れの悪い問い掛けになってしまうも、樋口さんは本日何度目かの盛大なため息を溢した後でオレを見る。


「……相談と言うより、私には答えありきに見えるけれど?もう決めているのでしょう?」


「……ごめん。」


 バレテーラ!?


 やっぱり、樋口さんの前じゃ隠し事は無理だな……変な誤魔化しは無しで話さないと。


「謝罪の必要は無いわ。私がどうこうではなく、貴方はどうしたいの?」


「近藤くんと協力したいって、考えてる……」


「なら最初から回りくどい事を言わずに、そう言いなさいよ。」


「いや、樋口さんと相談してからって思ってさ……」


 これでも一応は、樋口さんは嫌じゃないかなとか、考えはしたのよ?


 その後に、勢いで言っちゃったけどな!


「あのね?私は別に、貴方が誰かと協力する事に反対なんてしていないわ。私は嫌なら離れるだけだもの。」


「……近藤くんは嫌って事?」


「だ!か!ら!そんな事は言ってないでしょう!?むしろ近藤くんとの協力は、あのクラスメイト達の中では最もまともな選択肢ですらあるのよ!彼が正気なら、私に反対する理由なんて無いの!」


「そっか……」


 意外……でもないか。

 

 武田くん達三人ですら、最初邪険に扱いながらも近藤くんの話をすぐ聞いてくれていたから、普段から彼がどれだけ信頼されていたのかがよくわかったものな。


 ゆえに、周りを見ていた樋口さんも同様に、彼をある程度信頼はしているのだろう。


 ……ただ、なんだろうね?


 少し……ほんの少しだけど、モヤモヤするのは何故?


「ねぇ?いくらなんでも貴方、自分に自信が無さすぎではなくて?」


「いや、ほら……オレも柴田に洗脳されかけてから、いまいち確信が持てなくて……」


「安心なさい。その選択は、間違ってないわ。」


 オレの自信が無さすぎて、背中を押すつもりで言ってくれてるのは分かるけど、言葉だけだとすっごい偉そう……別にいいけどさ。


「ありがとう。」


「本当に、しょうのない人ね……」


「樋口さんにまで見捨てられたら、流石に立ち直れるか分からないもの。だから……」


 今の状況だと、樋口さん以上に頼りになる人なんて、中々居ないからね。


 尤も、女の子を頼りにするのはどうかと思わなくはないが……


「大丈夫よ……もう、手遅れなくらいだわ。」


「え?何?なんて言ったの?」


 オレの言葉に、彼女は少し困ったような表情で何かを呟くが、聞こえなかった為に問い返すも、樋口さんは慌てた様子で色素の薄い頬をかすかに染め、後に続ける。


「何でもないわよ!……それより、さっきの貴方の話、近藤くんにも聞かせてあげたらどう?」


「な、何で……?」


 暴力話を、近藤くんにもだって?


 流石に迷惑じゃないか……?


「多分、彼なら喜ぶと思うけれど?」


「そうかな?」


 その自信は何処から来るのだろう?


「じゃあ、早速確かめに行きましょう?」


「えっ!?今から!?」


「善は急げと言うもの。」


 そう言って彼女はオレの手を取るとそのまま部屋を後にして、楽しげな様子で近藤くんの部屋へと向かう。


 こんな所を人に見られたらどうしようと思ったけれど、到着まで誰ともすれ違わなかったのは幸運だったと言えるだろう。


 ……ひとつ気になったのは、途中すぐに顔を逸らされてしまったのだが、不意に視線を感じて振り向くとアルマは黙ってついてきながらも、何故か辛そうな表情でオレ達を見ていたように見えた事かな。





 近藤くんの部屋に辿り着き、オレは緊張から心臓の鼓動が早くなるのを感じながらも、数度扉を打ち鳴らす。


「どうぞー?」


 すると中から入室を促す声が響いた為、オレ達三人は近藤くんの部屋へと足を踏み入れた。


「おー?桜井と……樋口に、いつかの女の子だ……どうした?早速遊びにきたのか?」


「いや……実は……って!何!?急にどうしたの!?」


 オレが近藤くんに三人で来た理由を告げようとした直後、アルマが近藤くんの姿を認識するや否や、突然オレ達と近藤くん達の間に立ち塞がり、背中越しにも伝わる程の刺すような敵意を近藤くんへと向ける。


「……このガキ、いきなりとはいい度胸してるわね?痛い目に遭いたいの?」


 これ、やばくね?


「だ、ダメだよ!二人ともやめて!」


 アルマがいきなり威嚇し始めた事が余程気に入らなかったらしいナギさんまでもが、剣呑な雰囲気を漂わせながら立ち上がった為、皆の前で大っぴらにアルマの名前を呼ぶ訳にはいかなかったオレは、慌てて後ろから抱き止めつつ彼女の耳元で囁いた。


「アルマ……この人達も友達だから、そんな事しちゃ……」


 オレが彼女の耳元でそこまで言いかけると、アルマはビクッと身体を震わせ、頬を染めつつもオレに顔を僅かに向けた。


 するとその直後には、先程まで背中から感じられた敵意はすっかりと消え失せていたので、今のアルマの反応を不思議に思いながらもオレが彼女を離すと、どうやら意図がきちんと伝わっていたらしく、彼女は近藤くん達へと頭を下げる。


 だが……


「アンタ……人前でよくやるわ……」


「え?」


「いやー……女の子をいきなり抱きしめるなんて……桜井って、すごいなホント……」


「は?……いたっ!?」


 ……何故かナギさんと近藤くんの呆れと関心が入り混じった呟きの直後、こちらもどうしてだか膨れっ面の樋口さんの肘が、オレの脇腹に深々と突き刺さった。


 オレが何したってのよ!?



 その後、何故か不機嫌そうに視線を逸らす樋口さんを他所に、漸く話が出来そうな雰囲気になったので、オレはまずは非礼を詫びる事にする。


「この子が、ごめん。」


「俺は気にしてないよ。むしろ、俺がその子に謝らないといけないって思ってたぐらいだし。」


「近藤くん……」


 彼はさっき会った時も、そう言っていたものな。


「その子、なんて名前なの?」


「それは……」

「ヒロト……そのガキ、白狼だから家族ぐらいしか名前を知らないよ。だから、アタシも知らないし。」


 都市国家連合で生まれ育ったナギさんですら知っているとなれば、白狼族の習わしはかなり有名らしい。


「あー……そういう風習なんだ。じゃあ、名前はいいや……キミにも怖い思いをさせてしまって、ごめんなさい。許してくれとは言わないから、せめて桜井と……コイツと仲良くする事だけは、認めてくれないかな?」


 言い淀むオレとナギさんへ交互に視線を向けてから、近藤くんは困ったような表情で頭を掻いた後で、アルマへ頭を下げる。


「……はい。」


 まだ警戒は解いていない様子ではあるが、真摯な態度の近藤くんにアルマも短く返すと、その様子を見ていたナギさんも溜め息を吐き出してから口を開いた。


「仕方ないわね……アタシもさっきのは無かった事にしてあげるわ。ガキ相手に怒っても仕方ないし。」


「ナギさんも、ありがとう。」


「……子供相手だもの。むしろ、さっきつられてしまった事の方が恥ずかしい事よ。」


「確かに。ナギは俺の事になると、すぐこうなっちゃうんだよ。こんな小さな子相手なんだから、もうちょっとさぁ?」


 ……唐突にいちゃつき始めるバカップルは、燃やしても罪にならないよね?


「ヒロト、いい事教えてあげる……そのガキ、多分ヒロトより年上の筈ね。だから、分別はつく年齢なの。じゃなきゃ、アタシも簡単には怒らないわ。」


「はぁ!?」


「ヒロトには言ってなかったけど、アタシ達は人より肉体の成長が遅いの。だから、そう見えてそのガキは多分二十歳前後だと思う。」


「マジ……?」


 ナギさんの言葉に、近藤くんは信じられないといった様子でオレに視線を向けたので頷くだけで返事を返すと、近藤くんは何かに気付いた様子でナギさんへと顔を向ける。


「……あれ?だとしたら、ナギって幾つ……?成人はしてないとしか聞いてないんだけど?」


「……二十八。」


 すると、ハッとしたような表情で問いかける近藤くんに、ナギさんは余計な事を言ったとばかりに一瞬苦々しい表情を浮かべた後、不貞腐れたような態度で口を尖らせながら呟く。


 どうやら彼女自身、歳上なのを気にして正確な年齢を伝えないでいたらしい。


「獣人達の成人って……?」


「種族にもよるけど、大体三十ぐらいね。だから、アタシは人で言えば十八前後ぐらいかしら?アンタ達とたいして変わらないよ。」


 続く質問の直後、彼女は瞑目しつつ悩むような素振りを見せてから、諦めたようにハキハキと答え始めた。


 だが、彼女の言いたい事は、最後の一言に集約されているような気がするのだが、気のせいか……?


「ナギさんとお呼びした方がいいですか……?」


「怒られたいなら、好きにすれば?」


「ねぇ?夫婦漫才はもういいから、私達が来た本題を話さない?」


「あ、樋口、ごめん……」



 呆れた様な樋口さんの一言で、ようやく本来の目的を果たせそうな雰囲気になったのだが……


 しかし、何かさっきから樋口さんの機嫌がすこぶる悪いような?


 今の言い方にもトゲがあったし……そんなに怒るような話だったかな?



 彼女が不機嫌な理由に頭を捻りながらも、オレは先程樋口さんやアルマの前でした話を、近藤くん達にも打ち明ける。


「あー……なるほどなぁ……」


「何処にでも似たような話はあるものなのね……アタシも刃傷沙汰は日常茶飯事だったから言えるけど、アンタはよくやったと思うよ。ひとつ間違えたら、アンタの妹は生きてなかっただろうしね。」


 ナギさんの事情には絶対触れないからな!?


「俺もそう思う……ニュースでしか聞いたことないような話だから、あんま実感はないけどさ。」


「信じてくれるの?」


 アルマ……は理解してるか定かではないが、樋口さんはオレの話を信じてくれたし、近藤くんやナギさんまでも……皆、人が良すぎないか?


「だってそりゃ、桜井自身が証明してるじゃん?」


「証明?何を?」


 オレが?


「桜井はその子をオレから守ろうとしただろ?行動した経験のある奴じゃないと、普通中々出来ないよ、そんな事。」


 近藤くんの言葉で、思わず視界が歪む。


 オレ、間違って無かったのかな?


「……しかし、アンタも難儀な奴ね?妹だけでなく、自分の女までつけ回されるなんて。なんかそういう星回りなんじゃないの?」


 ……うん?オレの女?樋口さんが?


「だから、違うって!」

「わ、私は……別に!?」


 ほぼ同時に樋口さんも声をあげた為に、つい彼女へ視線を向けると、耳まで真っ赤に染まった樋口さんと目が合う。


 何で樋口さんが顔を赤くしているの!?


「樋口……お前も、大変だな。」


 近藤くんまで!?やめろ!アルマに勘違いされるだろ!!


 ようやく今この場にアルマも居る事を思い出したオレは、慌てて彼女へと視線を向ける。


 というのも、細かな会話内容までは理解出来ないだろうと、きっと小首を傾げているのだろうと、その瞬間まで考えていたからだ。


 ……だが、焦って視線を向けた先で見たアルマの表情は、今まで見た事が無い程に……悲痛に歪んでいて、今にも泣き出してしまいそうだった。


「まったく、言わんこっちゃない……そうだ、折角のお客にお茶も出さないんじゃ、女中としての名折れよね……待ってて、アタシが用意してきてあげるわ……ほら、クソガキ。アンタも手伝いなさい。」


「はい……」


 声を掛けるのを躊躇うオレを他所に、ナギさんは暗い表情のままのアルマの腕を引いて立たせると、二人は部屋を後にする。


 

 暫くして、ナギさんと共に帰ってきたアルマの表情はいつも通りだったので、オレはホッと胸を撫で下ろした。



 ……この後の事は、今でもはっきりと思い出せるよ。


 それ以降はアルマも普段通りで、何故か会話の最中にナギさんとコソコソ話す様子も見られたのだが、他には特に変わった出来事もなく、オレ達は夕飯までのひとときを近藤くん達と過ごしたんだ。



 それが、最後の平穏だとも知らずに。

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 1月4日(日)18時となります

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