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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
反転する世界 ーInversionー

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33/39

手記32

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください。

 原因は分かったが、どうして捻じ曲がった噂が流れたのかを知りたくなったオレは、まずそちらについて尋ねてみる事にした。


「ちゃんと答えるから、先に聞いてもいいかな?どうして人殺しなんて、変な噂が広まっていたの?」


「……原因は担任ね。貴方が転校してくる少し前に、ホームルームで余計な事を言ったの。問題を起こしたらしいって。そこから噂が一人歩きし始めたのよ。」


 そういう事か……どうりで、近藤くん以外は殆ど誰も話しかけてこなかった訳だ。


 ……だとしたら逆に、何故彼だけはオレへ親し気に話しかけてきていたのだろうか?


「なるほどね……確かに間違ってはいないけど……」


「ねぇ、本当に何があったの?逮捕されたのなら、このご時世何かしらの情報があるはずなのに、幾ら調べても記事にすらなって無いから不思議だったのよ。」


「ん?樋口さん、オレの事調べてたの?」


「ええ。貴方が私に手を差し伸べた後にね……」


 だから偽善者だと思ったって事かな?


 間違いではないから、別にいいけど。


「そっか……まぁ、逮捕されたのは本当だよ。ただ数日で保釈されたし、結果も不起訴だったから、記事になったりはしなかったんじゃないかな?なったとしたら、向こうだし。」


「どういう事?向こうって?貴方も逮捕はされたのでしょう?」


 オレも逮捕されて、警察から話を聞かされるまで勘違いしていたが、記録としての罪になるのは立件された後らしいからね。でも、補導歴が付くとは言われたっけ……


 ……覚悟を決めるか。


「えっとね、オレ妹が居るんだけど……」


「妹さん?」


「うん。実は妹が、ストーカー被害に遭ってたんだ。」


「妹さん、お幾つ?」


 樋口さんと話していると時々思うけど、近所の品のいいお婆さんとかと同じ言い回しだよな。


 こういう所が、お嬢様ならではって事なのだろうけれど。


「十二歳。身長も、多分アルマと同じぐらいだよ……今は分からないけど。」


 アルマは急に名前を呼ばれたからか、オレに向けて小首を傾げて見せたので軽く首を振って違う事を伝えると、樋口さんが恐る恐る確かめるように口を開く。


「…今は?」


「半年は会ってないだけだよ……順番に話すね。始まりは丁度一年ぐらい前なんだけど、妹がいつも帰り道で同じ人に声をかけられるって言い始めたんだ。段々着いてくるようになってきたって……」


「それで?」


「それで、両親も最初は警察に相談したんだよ。そうしたら、パトロールしてくれるようになったおかげで、しばらくは何も無かったんだ。」


「それでどうなったの……?」


 話が話だからか、樋口さんが神妙な面持ちで頷き先を促すので、オレも頷き返してから再び口を開く。


「そこから一カ月ぐらいは平穏だったんだけど、警察の警戒が解かれた頃、また妹が同じ人がいるって言い出したんだよ。」


「完全にストーカーね……」


 直近で自分もつけ回されている為に、樋口さんは自らを抱きしめるようにして身震いした。


「うん。オレも同じ事を考えた。でも、その時はまたすぐに警察に相談してね?で、再度パトロールしてもらって、しばらくして警戒が緩んだらまた現れてって……それを繰り返していったんだ。」


「警察の対応まで計算している辺り、かなり悪質だわ……」


「今でも本当にそう思うよ……でね?そうしているうちに、年が明けて……そうしたら、今度は……」


「今度は?」


「……追い回されたんだって、夜になって知り合いの家の人に連れられて帰ってきたんだ。」


 あの時の事は、今でも忘れられない。


 夕飯になっても帰ってきていない妹をオレが心配すると、先に連絡を受けていた両親が酷く険しい表情で教えてくれたんだ。


 その後、恐怖からか顔を引きつらせた妹が、その家のお姉さんにしがみつきながら現れた事で、オレの中の怒りが溢れそうになったからね。


「妹さん無事だったの?」


「その時は、連れて来てくれた知り合いの家に逃げ込んでたから、大丈夫だったよ。」


「そう……良かった……って、言っていいのかしら?」


 妹が無事だった事を告げると、樋口さんは安心したように深く息を吐き出しながら、複雑そうな表情を浮かべる。


 いやいや、話は此処からなのだけどね?


「……わかんない。でも、話を聞いたオレは居ても立っても居られなくなって……」


「妹さんを守ろうとした、と……」


「うん。またすぐに現れるって思ったオレは、男友達と二人で理由付けて早退して、次の日に妹の下校を見守ったんだよ。」


「警察には?」


「言ったけど、信用してなかったから。」


「……貴方ねぇ?」


 呆れたような彼女の声に、言い方が不味かった事に気付き、オレは当時何を感じていたのかを正確に説明する。


「いや、その時は妙な胸騒ぎがしてたんだ。だって、何度も警察に相談したのに、その都度姿をくらませる奴だよ?何度か繰り返せば、警察もパトロールに本腰入れなくなるのを見越したんだろうね。」


 警察の警戒は、うちの自宅から学校までの経路ではあったけど、回数を重ねているうちに全域ではなくなっていたらしいからな。


 ……犯人は、そこを突いたんだ。


「まさか……」


「案の定だったよ。次の日、妹の下校中に奴は警察の目をかいくぐって現れた……しかも、ナイフを持ってね。」


 オレの言葉に余程衝撃を受けたのか、樋口さんは緊張した面持ちのまま息を呑む。


「物陰から現れた奴が、いきなり妹の腕を掴んだところまでは覚えてる。その瞬間、妹はオレが居るのを知っていたから、泣きながらこちらに助けを求めるように見たんだ……そこからは、あんまり覚えてない。」


「全く覚えていないの?」


「そうだよ。気付いたら、オレ……何処かで拾った棒きれを持った状態で友達に止められてた。それ以上は殺してしまうって……実際には、全治二週間ぐらいの軽傷だったらしいけど。」 


「それで貴方が逮捕されたのね?」


「うん。目撃者が他にもいたから、すぐに警察が来て現行犯でね。ただ、何故待たなかったのかって怒られたけど、正当防衛だからすぐに帰れるよって言ってくれて……警官は思ってたより優しかったっけ。ちなみに、勿論ストーカーも捕まってたよ。」


 妹も妹で防犯ブザーを後から鳴らしていたみたいで、それに気付いた人が通報をしてくれたらしく、比較的すぐに警察は駆け付けたのだよね。


 ……だけど、妹の心に出来た傷は浅く無かった。


「……そんな事が。」


「それ以来かな?妹は、オレや親父を含め男性が近付くと、泣き出すようになったんだ。だから、事件からすぐに妹と妹に懐いていた飼い犬は叔母さんに預けて、地元に居づらくなったオレを母親が自分の地元へ連れてきて、親父だけストーカーの裁判を見届ける為に残ったんだよ……」


 母親は介護の仕事だったから、比較的どこでも仕事があるとかで、殆ど迷ってる様子が無かったな……親父は、何してる人かよく分からなかったけど、書棚に建築っぽい専門書とかがあったから、多分そっち関係だとは思うので簡単にはいかないのだろう。


「どうしてマサトくんが地元に居づらくなるの?」


 そんなオレの事情を聞き終えた樋口さんは憤りを隠せないらしく、少し険しい表情でオレに尋ねる。


「正当防衛とはいえ、暴力事件だからね。保釈の後は友達も近付かなくなってた。近所の人は言わずもがな、かな……仕方ないよ、オレが悪いんだし……転校も、不起訴が確定するまでは警察からの要請があるからか、学校の都合で出来なくて、その間は辛かったね……正直、しばらく休んだりもしちゃった……」


「貴方は悪くなんてないじゃない……」


 正直言えば、誰も助けてくれなかった癖にと考えなかった訳ではない。


 だけど、感情だけで行動する事が肯定されてしまうなら、法なんてモノは意味を為さなくなるわけで……


 そのために、警察があるんだよ。


 まぁ、正当防衛は認められたから、オレの行動も間違いでは無かった……とは思う。


 ただ……


「……カウンセリングの先生が言うには、PTSDを発症した際にストーカーへの恐怖と、目の前でオレがやった事への恐怖が混ざってしまったんじゃ無いかって……だからオレが悪くないなんて事は無いよ。」


「確か、いわゆるトラウマってやつ?」


「正式には、心的外傷後ストレス障害だったかな?調べたからね、名前。症状を知る為に。」


「そう……」


「オレが、悪いんだよ。ちゃんと大人を頼れば良かったんだ。なのに、頭に血が昇ってさ……」


 ……そう。行動を起こす前に、妹と一緒に帰るとか他にもやりようがあったのに、妙な正義感だけで突っ走った結果が、コレなんだ。


 だから、悪いのはオレなんだよ。


「マサトくん……」


「保釈された後で親にも怒られたけど、謝られもしたかな。妹が追いかけられた後、すぐに送り迎えしたかったみたい。でも、共働きだからどうしてもいきなりは無理だったからね。仕方ないよ。」


 ちなみに両親の名誉の為に言うと、親は事態を決して軽く見ていた訳じゃない。


 むしろ、その翌日から妹の登下校の時間にだけ抜けられるように、職場と交渉を済ませていたくらいだからな。


 ……その前に、オレが行動してしまったわけだが。


 そんなオレの懺悔を、樋口さんは黙って見つめる。


「オレ、どうしたら良かったのかな……行動した事は、後悔してないよ?静を……妹を、守りたかっただけだから……」


 本当にそう思ってはいるのに……なのに、何でオレは今もこんなに苦しいのだろう?


 まるでその答えを探すかのように二人へ話終えたものの、未だに心の中につかえたものが消えなくて、どうしていいのか分からずに言葉を切ると、樋口さんが後に続ける。


「きっと、妹さんも分かってくれているわよ……貴方の友達だって……」


「だと、いいな……」


「マサト。」


「あ、アルマ!?」


 樋口さんに返した直後、アルマは立ち上がりこちらへ移動すると、突然オレの頭を撫で始めた。


「アルマちゃんも、貴方はよくやったって言っているのよ。」


「そっか……ありがとう、アルマ、樋口さん。話して良かったよ。」


 まだ自分の中で整理はついていないけど、誰かに話す事が出来たから……また一つ前進、かな?


「……じゃあ、そろそろお昼にしましょう?」


「そうだね。」


よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 12月28日(日)18時となります

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