手記30
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください。
「都市国家連合……」
確か、その名前をツルギさんも言ってたな。
「そう。正確には国じゃないらしいけど、アタシらからすれば別の街に入る手続きが簡単になるぐらいしか関係ないし、どうでもいいわ。」
「なるほど……」
此処の連中や、クレイ達はその主義者とやらの一員だって事か。
……いや、違うな?クレイは白狼の血族と関係がある筈だ……なら、奴って一体?
「……でも、アイツら別にアタシらに何かをしてくるワケじゃないんだよね。どっちかと言うと、一緒にいたくないとか、近寄りたくないとか、そんな風に見えるわ。」
「え?見下してるのに?」
クレイについて考えていたせいか、思わずオレの口をついて出た言葉に、ナギさんは苦笑を浮かべる。
「そうやって言われるとなんか腹立つけど、アタシにはそう見えるよ。だから、獣人達が住めない街があったりするんだろうね……まぁ、それでも宿に泊まるぐらいは出来るわ。行商の護衛とかもいるから。」
「何か理由は……」
便利に使う割に、居住まで制限してるって事か……?
やはり差別をされているようだが、一体何故?
「さぁ?ずっと昔からそうらしいのに、アタシが知るワケないでしょ。」
「そうですか……」
例えるなら、獣人排斥運動……みたいな?そのぐらいの話なのかな?
「だからアンタらも、あんまり連中に関わらない方がいいよ。これはアタシのカンだけど、そういう奴らがアタシらみたいなのを集めてるなんて、多分碌でもない事の為だろうからさ?」
「分かりました……」
この人鋭いな……やはり、味方になってくれたら心強そうだ。
とはいえ、無理に頼むような事も出来ないし、どうしたものかね?
「そういう殺伐とした世界なのか、此処……」
どうにかしてナギさんの協力を得られないものかと考えた直後、オレ達の話を聞いていた近藤くんが、複雑そうな表情で呟く。
「いや、オレ達の世界も大概だと思う……」
ツルギさんの話をあらかじめ聞いていたからか、ナギさんの話にさして驚きもなかったが、近藤くんの反応も分からなくはないのだよな。
「そうかぁ?俺はもっと、異世界って冒険とか、モンスターがいたりとかで、派手なヤツ想像してたんだけど。」
「多分、オレ達が意識してなかっただけで、似たような事はオレ達の世界でも沢山あるんじゃない?」
むしろ、普段は見ないように、気付かないようにしていただけ……かもしれないけど……でもこの世界、ゴブリンみたいなのは居たけどね?
それだけで、充分ファンタジーしてるよ?
後、ナギさんやアルマとかの獣人だっているじゃない?見た目は殆ど人間だけどさ?
「異世界って言っても、そんなもんか……」
「アンタら、まだそんな事言ってんの……?」
ナギさんはやはり信じてくれてはいないらしく、呆れたような表情でオレ達を見ると、そんな視線に近藤くんは耐えられなくなったようで、頭を掻いた後こちらに向き直る。
「まぁいいや。それより桜井は、これからどうするつもりなんだ?」
「とりあえずは、ストーカーをどうにかしたい……他はそれから……」
「ストーカー?何、それ?」
オレ達の会話が気になるらしいナギさんは、興味津々といった様子で近藤くんに問いかけてきた。
「分かりやすく言うと、こいつの女が別の男に付け狙われてるんだよ。」
「ち、ちがっ!?」
やめろ!オレなんかが相手じゃ、樋口さんに失礼だろ!
「えー?もうそれでいいじゃん。」
「良くないよ!」
「ふぅーん?アンタも大変そうだね?……じゃあ、楽しそうだからアタシも協力したげるよ。」
「えぇっ?楽しそうって……」
協力の申し出は嬉しいけど、益々興味ありますって顔をするのは、やめてくれませんか?
当人からしたら、死活問題なのに。
「ヒロトのご飯作るぐらいしか、やる事無いし。それに、人の恋路を邪魔する奴はなんとやらって言うじゃない?」
「近藤くんのご飯を、ナギさんが?」
もう触れないからな!?
……それよりこう言っては失礼かもだけど、この人料理も出来るのね?
「そうよ?というより、アタシ以外もやってるわ。多分アンタのご飯も、あのガキが用意してる筈だけど?」
「本当に?」
アルマが持ってくる料理って家庭料理のようなモノばかりだけど、アレを彼女が?
作れそうにないとかじゃなくて、単純に取りに行ってから戻ってくるまでに時間が余り掛かっていないから、あれだけ手の込んだ料理をアルマが作っているだなんて、有り得ないと思うけど……
「知らなかったの?……でも、もしかしたら、作れない奴らの為に代わりに作ってる奴が居るみたいだから、ソイツが用意してるのかもね。」
「なるほど……」
それならアルマが戻ってくるのが早い理由も分かるな。
しかし、作っている人は一体誰なのだろうね?
「人の女にちょっかい出すような奴なら、アタシらの方が案外気付いてるかもしれないから、そいつらにアタシから聞いてみるよ。」
「ありがとうございます……」
だーかーらー!オレの女とか、そんな話はしてないってば!
……でも、ナギさんは顔も広そうだから、協力して貰える事自体は心強いよ。
「礼なんていいって。寧ろ、アタシが礼をしたいだけだから。」
「やっぱり、ありがとうございます……」
今の状況ではそういった申し出自体が有り難かったので、オレが再び頭を下げると、二人は顔を見合わせて苦笑する。
「んじゃ、今後は協力してこうぜ!」
「うん……ストーカー問題が片付いたら、一緒に逃げる事も考えようね。」
……あれ?まずは樋口さんに相談するって話だったような……?
ま、まぁ、多分説得は出来るよね、きっと!
「アタシは金さえ稼げるなら、なんだっていいけどね。」
ホント、たくましい人だ。オレも見習わないとな。
そんな風に呑気に考えた瞬間、突然近藤くんが虚な目で何かをぶつぶつ呟く。
「にげる……?にげる………にげる………」
そのあまりにも異様な様子に、オレとナギさんは殆ど同時に近藤くんの名前を呼んだ。
「ヒロト?」
「近藤くん?どうしたの!?」
「え?あれ?んー……何の話だっけ?」
「い、いや、何でもない……」
今のは何だ?まともな状態には見えなかったぞ?
逃げるって繰り返してたから、多分オレが口に出したからだとは思うけれど……
先程の様子があまりにも異常だった為、オレは言い知れない恐怖に襲われるが、どうする事も出来ないまま言葉を区切ると、一瞬だけ時計に視線を向けた近藤くんが笑みを浮かべつつオレを見据える。
「そうか?……それより、桜井?そろそろ樋口の所に帰ってやれよ。オレと会ってからもう二時間以上経つから、多分アイツも待ってると思うぞ?」
「……うん。そうだね。そうするよ……」
もうそんなに時間が経ってたなんて……
これは、近藤くんの言う通り一度部屋へ戻ってみようか。
ずっと、アルマに任せきりじゃ悪いし、何より樋口さんが心配だもの。
「そうしてやれ。」
「近藤くん、ありがとう。また来るね。」
「ああ、またな。」
「アンタのいい人にも、よろしくね。」
だから!違うって!
そうして、オレは近藤くん達に見送られながら退室し、自分の部屋へと戻る事にした。
……だが帰る道中、オレはふとある事に気付き足を止める。
結構時間が経ったけれど、今樋口さんがどんな状態かわからないよな?
もしかしたら、まだ泣き続けている可能性も……?うーん……?
まぁ、なるようになるよな……多分。
ひょっとしたら彼女がまだ取り乱したままの可能性に思い至り、オレは念の為足音を殺しながら近付いて扉の前で聞き耳を立てるのだが、中からは物音ひとつすら聞こえてはこない。
泣き疲れて寝てるのかな?
だとしたら、アルマにはお礼を伝えなければと考えつつ、オレはなるべく静かに扉を開けた。
するとーーー
「……おかえり。」
ーーー泣き腫らした目のまま、アルマに頭を撫でられていた樋口さんが、扉の開く音で気付いたのか、オレへと視線を向けそう告げる。
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次回更新予定は 12月14日(日)18時となります




