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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
目覚め ーAwakeningー
2/17

手記2

そんな石室内でのやり取りの後、オレ達は各自用意された部屋でとりあえず休む事となった。


 何でも、詳しい話は翌日に話すらしい。


 それでも食い下がって質問をする奴は居たのだが、話もそこそこに地下にあったらしい石室からは追い出され、各自にあてがわれた部屋へ半ば強制的に通されてから外を見て気付いたのだけれど、どうやら今は夜だったようだ。


 教室に居た時は間違いなく昼前だったから、石室でそんな事言われても何故明日なんだと疑問に思っていたのだが、単純にお偉いさんが就寝中だからって事なのだろう。


 それと、これは石室にいる時には気づいていたのだけど、いつの間にか全く覚えの無い服を着ているのだよな……まぁ、それとは別にベッドの上に服が用意されているし、取り敢えず今はこれに着替えておくとするか。


 他にも革製らしき靴もあるから、部屋を出る時はこちらも使わせてもらうとしよう……だって靴下すらも履いてなかったんだぜ?


 流石に不便だよ。

 


 ……さて、とりあえず着替えも済ませてひと心地着いたけれど、急に寝ろって言われてもなぁ?


 こっちからすれば、午前中に昼寝をするようなものだぞ?


 しかも、ラノベみたいな出来事の後で妙に興奮している所為か、落ち着けやしねぇ。


 そういや、軽く部屋の中を探索してみて気付いた事なんだが、奥の小部屋にもベッドがあるのは何でだ?


 着替えみたいなのが置いてあったのは今居る大きな部屋のベッドだから、恐らくはこっちを使っていいって事なのだろうけれど……


 ……うーん、色々ありすぎて眠れそうにないし、折角だから今の内にアレを試してみるか?


「ステータスオープン!」


 小っ恥ずかしい言葉を高らかに口にしながら手を前方の虚空へと突き出してみるも、当然の如くそんなゲームのようなモノが眼前に表示される事は無かった。


 おかしいな?やり方が違うのか?


 もしかして、ステータスカードみたいなモノを貰わないとダメ……なの?



 ……なんて、頓珍漢な事をその時のオレは考えていたけれど、己の生命力や身体能力を数値化なんて、出来る訳がないんだよ。


 そもそも、数字化するにしたって基準をどうやって決めるんだって話だしな。


 尤も、オレがその事実を知るのは翌朝になってからの事なんだが、そうとは知らずにオレは事前勉強の知識をフル活用して、ベッドの上で色々試し続けたんだ。


 

 

ーーコンコン


 ん?


ーーコンコン


 なんか、五月蝿いな?



 翌朝、いつの間にかオレは寝ていたらしく、控えめなノックの音で目を覚ます。


 一瞬見覚えの無い部屋の中の光景に混乱するが、そう言えばと昨日あった出来事を思い出し、すぐに気持ちも落ち着きを取り戻した。


 知らない天井だ……なんて、実際に自分の身に起きたら、鉄板ネタですら考える余裕もねぇんだわなぁ。


 そんな風に呑気な事を考えている間も扉をノックする音は止まなかったので、面倒だとは思いながらもベッドから身体を起こすと、朝早くから一体誰なんだろうかと頭を捻らせつつ、一定の拍子を刻みながら扉を叩く人物の正体を確かめる為に、オレは扉を開ける。


 すると、そこにはーーー


「ヒッ……!」


 ーーーいきなり扉が開かれた為に、驚いた表情で小さな悲鳴を漏らした、年端も行かない少女が立っていた。


 多分、妹と同じぐらいの年齢だろうか?


「……お、おは・う、ござ・・す。」


 オレと目が合った見覚えの無い少女は、数瞬の後に怯えた表情になりながらも消え入りそうな声で恭しく頭を下げつつ、よく聞き取れはしないが恐らくは朝の挨拶をしてくる。


「あ、あぁ……」


 余りにも突然の事でオレは面食らってしまい、まともに挨拶を返す事が出来ずにその少女をまじまじと見つめてしまうのだが、彼女が顔を上げるとそんなオレの視線に気付いたらしく、酷く怯えた様子のまま視線を泳がせた。


「な…なにか……?」


「ご、ごめん!」


 少女が少し涙目になりながら居心地が悪そうにオレへ尋ねた為に、自分がずっと彼女を凝視していた事に漸く気付いて、慌てて目線を逸らしながら彼女が何者なのかを問い掛ける。


「そ……それより、キミは誰?何かオレに用事でもあるの?」


「失礼、しました……朝食のおじかん、なりましたので、お連れするよう、もうしつかり、ました。」


 幼いからなのか、それとも日本語が余り自由では無いからなのかは分からないが、やや舌足らずとも、辿々しいとも思える話し方で彼女は深々とお辞儀をした。


 ……あー、なるほど。


 女中さん、ってヤツか。


 言われてみれば確かに、創作物とかで見るメイドのような格好をしているからな。


 何て呼ぶか知らんけど、帽子みたいなのも被ってるし間違い無いだろう。


 まぁ、アニメみたいにスカートの丈が異様に短かったりとか、胸元を不自然な程に露出しているとかは無いけど、これはこれでいいものだ。


「わかった、ありがとう。」


「ごあんない、します。」


「う、うん。お願い、します……?」


 彼女が緊張しているからか、ソレが伝播したオレも謎に丁寧な言葉で返した後、少女に案内されるがままオレはあてがわれた部屋を後にして、朝食の用意されているという場所へと向かった。



 そうして食堂と思しき部屋に案内されたのだが、来たのはどうやらオレが最後だったらしく、一番端の空いている席に腰を掛けてから、食事が出されるまでの暇つぶしに改めて集まった面々を見回してみる。


 すると、そこでオレは昨晩には気づかなかった事に今、気が付く。


 どうやら、クラスの全員がいる訳では無いらしい。


 此処にいるのはオレを含め二十五人で、目の前に用意されている食器の数が一致している事からも、転移してきたのはクラスの六割程といったところだろうか?


 多分だが、顔をよく見れば席が近かった連中だから、教室の半分ぐらいが巻き込まれた範囲だったのかもしれない。


 こういう場合、クラス丸ごととかが物語だと一般的だけど、現実となればそういう訳でも無いのかもな。




 ……クラスの仲間なのに、やけに興味が薄いから薄情と思われるかもしれないが実際、オレは薄情なんだよ。


 だって仕方ないだろ?


 まだ会って何ヶ月も経っていない連中なんだぜ?


 ロクに話もしねぇから、こちとら名前すらまともに覚えてねぇよ。



 まぁ、それは向こうからしても同じ事で、今も何でコイツがって視線で見られてるのだけどな。



 グループが全員揃っているのも見た限り、所謂クラスカーストが中位ぐらいのひとグループのみだから、大抵のグループはメンツが何人か欠けているらしいのに……何故か、オレを含めたぼっち勢も多数居る、というね?


 こうなると、グループの統合とかでの揉め事が増えるのは間違いないな。


 とはいえ、誰とも関わる気の無いオレにとっては、それらもどうでもいい話だが。


 

 現状を改めて把握して、面倒な事がおきそうな予感を微かに憶えながらも、運ばれてきた食事を丁度食べ終えた時だった。


「皆様、ご用意させていただきました食事は、お口に合いましたかな?」


 昨日石室に現れた偉そうなオッさんが、再びオトモと共に現れたのだ。


「まずは先日、名乗りもせずにいた事を深くお詫び申し上げます。改めまして私、この屋敷の主人にお仕えさせて頂いております、家令のトーマと申します。以後、お見知り置きを。」


 トーマ?


 なんか、日本人っぽい響きの名前だな?


 トウマだとすれば、冬馬とか斗真って名前の可能性もあるし、名字のセンだってありえる。


 というか、昨日は石室が暗くて気付かなかったけれど、このオッさん……明らかに日本人っぽい顔つきだよな?


 いいや?どっちかと言うと……顔つきはアジア系のハーフ、っぽい……?


 年齢は…多分、うちの親より年上……かな?


 なるほど、だから流暢な日本語が扱えるのか?


 

「それでは、お一人ずつ、こちらの別室にお越しください。そうですね……まずは、そこのアナタからお願い致します。」


「え!?俺!?」


 あっ、やばい!


 考えるのに夢中で、全く話を聞いて無かったわ。


 今、何がどうなってんだ?



 どうでもいい事を考えていた所為で、オッさんの話を全く聞いておらずに状況を飲み込めていなかったオレは、誰かの驚く声で我に返ると、現状を把握する為に改めて周囲を見渡した。


「んじゃ!行ってくるわ!」


 すると、奥にある扉へオッさんとクラスメイトの中でも陽キャグループの男子が丁度連れ立って入っていく所で、周囲の連中が小声でやり取りしているのを聞くに、どうやら別室で何かの検査をするらしい事が分かる。


「ねぇねぇ、所でさー?あのオジサンが言ってた〝祝福〟って、何?」


「さぁ?私に聞かれてもなぁ……ねぇ、ちょっと男子達!あんたら何か知らないの?」


「俺らが知る訳ないだろ!」


「あー……さっきの話から考えて多分、ゲームでいうスキルとかアビリティの事なんじゃない?」


「お?流石、オタクくん!詳しいじゃん!」


「オタク言うな!お前だって、ゲームぐらいするから分かってるだろうが!」


「それな!」


 陽キャどもめ!五月蝿いんだよ!こんな状況ではしゃくんじゃねぇ!


 ついでに、チラチラとこっちを見ながら笑うな!


 悪かったなオタク臭くて!


 女子どもは女子どもで、昨日はあんなにピーピー泣いていた癖に、もうケロっとしてやがるしよぉ?


 まぁ、おかげで状況を飲み込めたから許してやらん事も無いがな!



 それはさておき話を総合するとだ……どうやら今は、俺たちがどんなチートを貰っているかを確かめる時間……っぽいな?


 なるほど、なるほど……


 

 叫んで小躍りをしながら喜びたいのを必死で堪えつつ、どんな力がいいかを色々と考えている内にまたしても時間が経ち、いつの間にか食堂にいたクラスメイトも半分ぐらい居なくなったからか、周りが静かになっている事に気付く。



 あれ?


 先に出て行った連中は、どうして戻って来ないんだ?


 別室に連れて行かれたか、自室にでも戻ったのかな?


 まぁ、いいや。


 どうせオレの番になれば分かる事だし。


 

 それからたっぷり三十分ぐらい後、オレの順番が漸く回ってくる。


 内心で待ちくたびれたと悪態を吐きつつ案内され通された部屋は、時計等の調度品があった食堂とは違い酷く殺風景な部屋で、中央にテーブルと椅子が設置されているだけであり、その上にはよく分からない紋様の描かれた紙と、刃渡りの短いナイフが一本だけ置かれていた。


 なんじゃこりゃ?


 こんなので〝祝福〟とやらを調べるのか?


 それに、この部屋……何処かで嗅いだ事のある匂いもするな?


「では、そちらの椅子にお掛けください。」


 へいへい。


 オレを部屋まで案内した兵士らしき人物に促され、オレは部屋の中央の椅子に腰掛ける。


「そうしましたら、そこのナイフで少し指先を切って、血を一滴その紋様の中央に落としてください。」


 はぁ!?


「え、と、これで……ですか?」


「はい。」


 マ、マジかよ。


 こんな、誰が使ったかも分からないナイフで、指先を切れ……と?


 見る限り血が付いている形跡は無いが……そこから感染症になったらどうすんだ!?


 これまでの部屋の様子を見るに、どう見ても一般的な作品で見る中世ヨーロッパぐらいの文明レベルだろ!?


 となれば、医療の水準も中世レベルの可能性がある訳だが、現実の中世の医療の概念って、アレだぞ?


 解説動画で見た事があるけど、ペストマスクなんて気密性も無いのにハーブを詰めただけのモノで、ペストが防げるなんて真剣に信じられていたりしたんだろ?


 他にも排泄物やゴミが街中に溢れたりとかで、公衆衛生の概念が現代と違いすぎるから、何かが付着していても不思議じゃねぇし、更に怖えよ!


 ……いやまぁ、此処には綺麗なトイレがあったし、食事も手づかみじゃなかったのだけど、それでもだ!

 

「あ、あの……」


「如何されました?」


「いや……あの、これ……」


 考えている事は立派なのに、偉そうな人を前にするとその十分の一すら話せない悲しき会話能力を晒しながら、必死で置いてあるナイフを指差すと、兵士は何故かオレの言いたい事を察したらしく、笑顔を浮かべながらオレに語りかけてきた。


「もしかして、誰かが使ったモノだとお考えですか?」


 ……お?


 何故か言いたい事が伝わったので控えめに頷くと、兵士はこちらを安心させるように柔らかな笑みで話を続ける。


「それはご心配なさらずとも大丈夫です。そのナイフは、皆様がお部屋に入られる前に新しい物と取り替えておりますよ。無論、手入れもされておりますので、サビもありません。」


 おお?


「それに加え、何度も蒸留した酒を使い消毒もしてありますので、ご心配は何も要りませんよ。」


 おあー……なるほど、入った時にしていた匂いは、アルコールだったのか。


 確か、オレ達の世界だとアルコール消毒って近代になってからだったよな?


 なら、この世界の公衆衛生の概念は中世相当じゃない可能性が高い。


 とは言え、それでもどうしたって不安は残るけれど、部屋に入った時には匂いが残っていたから消毒は本当にしていたのだろうし、オレ自身も能力は知りたいから此処はやるしか無いか。


「私がお手伝い致しましょうか?」


「い、いえ、自分で……」


 ええいままよ!


 説明の後にもオレが動かなかったからか、物怖じしたと判断したらしい兵士の申し出があったがソレを断り、覚悟を決めてナイフを右手で握りしめ、左手の親指の腹を刃先で軽く引いてみる。


 すると、言葉通りナイフの手入れが行き届いていたらしく、大した抵抗や痛みも無く皮膚が裂け、血が数滴どころかポタポタと紙に滴った。


 ……うん、これは深く切りすぎたっぽい。


「少々お待ちを……こちらをお使いください。」


 どうしたものかと困っていると、兵士は少し待てと言いつつ、腰に付けていた何らかの容器からガーゼらしき布を取り出し、更に懐から取り出した小ビンの中から何かの液体を振り掛けて、そのガーゼをオレに差し出してくる。


「す、すみませ……」


 直後に部屋の中に漂った匂いから、かけた液体は多分アルコールだろう。


 この対応から考えて、どうやら先程までの話も本当らしい。


「いえ……それより、痛みはありませんか?」


「だ、大丈夫です!」


「そ、そうですか?……では、血が止まるまではそこでお待ち頂いても構いませんので、その間に私は此処を片付けさせて頂きますね?」


「はい!」


 この人、いい人だ!

 

 我ながらチョロいとは思うが、家族以外に心配された事が最近無かった所為か、机の上の紙とナイフを片付ける兵士の姿を目で追いながら言われた通りそのまま待っていると、その兵士の表情が一瞬驚愕の表情を浮かべたのを目撃する。


 どうしたのだろうか?


 聞いてもいいのかな?


「ひ、人を呼んで参りますので、もう少しこの場でお待ち頂けますか?」


 そんな事を呑気に考えている内に、兵士がオレにそう言うと慌てた様子で出て行き、オレは一人で部屋に取り残された。


 おや?


 この反応はもしかして、オレってばレアな能力持ちって事なのか?


 一体どんな能力なんだろ?


 さっきの人、早く戻って来ないかな?



 内心でワクワクしながら更に数分待っていると、白衣の様なモノを纏ったオッさんを連れて、先程の兵士が戻ってきた。


 ……なんでだろうな?


 猛烈に、嫌な予感がし始めたのだけど?


「お待たせ致しました。詳しくお調べしたいと思いますので、申し訳ありませんが血液を少々頂いてもよろしいでしょうか?」


「えっと……どれぐらい……?」


 さっき滴った血だけじゃ、足りません?


「注射器一本分ですので、大した量ではありません。」


 いやいやいや!


 充分多いですから!


「無論、注射器もキチンと消毒されており、使い回しではありませんのでご安心ください。」


 いや……そうでもなくて、注射が嫌なだけです。


 兵士はそう言うと、オレには分からない言語で医者らしき人物に何かを話した後、笑顔を浮かべたまま医者のオッさんの後ろに控える。


 分かってはいたが、オレに拒否権は無いらしい。


 嫌な予感が現実となり絶望感がオレを襲う間にも、医者と思しきオッさんは黙々と採血の用意を整えていくのだが……


 あれ?でも、注射器は思ったより綺麗なガラス製、なのか?


 針も太いのを想像したけど、現代の物と大差無いぐらいに見える。


 これなら、案外平気かも?



 数分後、思っていたよりも痛くて嫌な予感が間違いで無かった事を確かめながら、オレはさっきの兵士に疑問を尋ねる事にした。


「あ、あの、それで、オレの能力って……」


「能力?……あぁ、〝祝福〟の事ですね?詳しくは結果が出るまで分かりませんが、恐らくは〝毒〟か、若しくは〝腐食〟かと思います。」


「えっ?はっ……?」


 それがオレの祝福、なの……?


 この時に察したんだが、どうやらオレはこの世界だとマトモには生きられないらしい。

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