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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
目覚め ーAwakeningー

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13/30

手記12

「しかし、こうなるとやっぱり力の使い方が分からないのは問題かな……?」


 アルマがようやく少しの笑顔を見せた事で、先程までの湿った雰囲気も落ち着いた為オレは話を戻す事にして、会話が一段落したからか包帯を巻き直す手伝いをし始めた樋口さんに問い掛けた。


「気持ちは分かるけれど、こればっかりは周りから教えられるものでは無いみたいなのよね……私も、あの検査の時に使い方を理解した訳だし。」


 あの?


 ……もしかして、祝福を調べた時の検査の事か?


 アレって、ちゃんと意味があったのだな……


 それはさておき、どうやら他人から教えられるような事は無いって話らしいが、そうなると清水さんの力とは一体?


「清水さんに聞けば分かるんじゃないの?」


「私、そんな事ひとことも言ってないわよ?それに、彼女の力はそこまで便利でもないの。」


 確かに直接言っては無いけど、誤解させるような事そのものは言っていたような?


 まぁ、今更追求したところで実際に違うようだから仕方無いわけだが、どういう事なのだろう?


「というと?」


「説明が難しいのだけれども、簡単に言えば彼女の力は秘密を暴く力よ。だから、多分本人が使い方を知らないと、彼女でもどうにも出来ないわ……アルマちゃん、これでどうかしら?」


「んー……?」


 秘密を、暴く?


 書いて字の如くなら、清水さんの前では隠し事が出来ないのか?


 そんな風にオレが頭を捻っていると、アルマの包帯を巻き終えた樋口さんはオレへと向き直り口を開く。


「えっと、彼女って日和見で臆病なの。それが影響しているみたいで、相手の思考とか、ひた隠しにしている事とか……そんな事ばかりを知る事が出来る力……そういった形容が難しい類の、趣味の悪い力なのね……だから、名付けるとしたならばテレパスでは無く〝ピーピング〟といった所かしら?」


「覗き見、ね……だから、清水さんに会っても本人が知らない事は分からない、と?」


 確かに、清水さんも柴田と同じで分かりやすい願望というか……樋口さんの言う通り、オレにも下世話な能力に思えるな。


「ええ。故に昨日マサトくんと話した時に、会わせる必要は無いと感じたってワケ。それよりも、私と話した方がずっと有益よ?」


「なるほど……」


 樋口さんと話すのが有益かは今更だし置いておくとしても、こうなってくると清水さんとは寧ろ会いたくはない……って、あれ?


「嫌そうなカオをしているわね?」


「そりゃそうでしょ。」


 隠し事を暴かれて、嬉しい奴なんかいないって。


「そんなに隠したい事があるんだ?」


「誰にでもあるだろ、そんなん。」


 何でそんなに興味津々って顔で聞いてくるのよ……


「ふぅ〜ん?……じゃあ清水さんに会わせたりはしないから、代わりに今日こそはマサトくんのお話を聞かせてくれる?昨晩は私の事を話したでしょう?」


 オレの話なんて聞いてもつまらないだろうに……いや、そんな事よりもだな?この人何で急に馴れ馴れしくなってんの!?


「嫌だよ……ってか、さっきからオレの名前……」


「何?アルマちゃんは良くて、私は名前で呼んだらダメなの?……あ、もしかして近藤くんみたいに呼んだ方がいいとか?」


 それは不敬だからやめい!


「別に、ちゃんと名前ならいいけど……」


「よろしい……で、マサトくんの話を……って、アルマちゃん?どうして怖い顔をしているの?」


 気付くと柴田と話していた時のように、アルマは隣にいた樋口さんの腕にしがみついて険しい表情をしていた。


 これって多分、またオレ達を止めようとしてるって事だよな?


「大丈夫よ?私は純愛が好きだから、寝取ったりなんてしな……え?違う?」


 だが、彼女の行動の意味を知らない樋口さんは、何を思ったのかとんでもない事を口走るのだが、アルマはそれに首を横に振って応える。


 べ、別に彼女とは恋人でも無いんだから、いきなり変な事言ってんじゃねぇよ!!びっくりするだろ!?


 ……って、そうじゃなくて!


 アルマが首を横に振ったのは多分、樋口さんの言葉の意味を理解したからではなく……


「アルマはきっと、力を使いこなしている人と会うのは、危ないって言いたいんだと思うよ。柴田と会うのもこうして必死に止めてくれたから、オレも何とか気付けたんだし……」


「あら?そうなの?」


「はい。」


 オレの言葉で、樋口さんは少し驚いたような表情でアルマへと視線を向けると、彼女は肯定するように頷きながら返事を返した。


「そうねぇ……じゃあ、私も危ないと思う?」


 アルマの返事を聞き、少し逡巡する仕草を見せてから自分もなのかと樋口さんが彼女に尋ねたのだが、アルマはじっと樋口さんを見つめた後で、首を横に振る。


「私は大丈夫……の、ようだけれど、使いこなしている事がそんなに危険なのかしら?」


 アルマの答えに、少しホッとした表情を浮かべながら、樋口さんは次にオレへと視線を向けた。


「少なくとも、柴田が危ないのは間違いでは無いでしょ?」


 とはいえ、ただ仲間作りをしたくてオレに祝福を使った可能性は、まだあるとは思ってるけど……


「それもそうね。」


 あれ?柴田の力は大した事無いと言った割に、危険性そのものは素直に認めるのだな?


 ……そうそう柴田と言えば、昨日アルマとの会話の中で気になる部分があった事を今思い出したから、折角だし聞いてみるか。


「そう言えば、アルマ?あの時食べるとか言ってたけど、アレはどういう意味?」


「あの時?それに、食べるって……?」


「えっと、柴田は怖い人だから近づいたら食べられる……みたいな事を、昨日食堂へ行こうとした時に、こんな風にオレを止めながら言った筈なんだよ。」


 最初は比喩か聞き間違いだと思ってたんだけど、殺し合い云々が少し現実味を帯びてきた今、気になる部分は潰しておかないと。


 考えすぎかもしれないけどな。


「怖い、人……?」


「多分、樋口さんの言うおかしくなってる連中の事……だと思う。」


 オレがアルマから聞いた話の内容を説明すると、樋口さんは少しの間何か考えるような仕草をした後、ハッとしたような表情で再びオレを見る。


「私……今の話を聞いていて、かなり嫌な想像しちゃったのだけど……もしかして、私達が此処に連れて来られた理由って、ソレなんじゃないの?」


「え?どういう事?」


 何処がどう繋がるというのだろう?


「ねぇ、アルマちゃん?貴方、怖い人とやらが危ないとマサトくんに教えたって事は、その怖い人を此処以外でも見た事があるって事よね?その時、その人はどうなったの?」


 ……あっ、そうか!


 オレ、何でこんな簡単な事に気が付かなかったんだ?


 樋口さんが言うように、アルマが柴田を怖い人だと気付けたのは、似たような状態になっている人物を、前に見た事があるからだという事だろうに。


「〝・・・は、私の前で父と……母を、殺して……その肉と力を……食べました。その後は、分かりません。〟」


 私、父、母……と、肉と何かをを食べる、ぐらいしか分からないし、最初の言葉も彼女の声が掠れてよく聞き取れなかったけど……これってもしかして両親は食べられた、って事か?


 いやいや、そんな訳が……でも、アルマがまた涙を浮かべてるって事は……


「まさか……」


 食べられるって、もしかして本当に食われるって事なのか!?


 比喩なんかじゃなくて!?


「ね、ねぇ、マサトくん?何か分かったの?」


「多分、アルマの両親は怖い人に殺されて、食われたって事だと思う……」


 そんなオレの最悪の想像を肯定するかのように、アルマは俯きながらも頷いた。


 マジかよ……


「……それで、アルマちゃん。その怖い人は獣人だったの?」


 余りの衝撃にオレの思考が停止している中、今の話を聞いた樋口さんはまた少し考える素振りを見せた後、険しい表情でアルマに問い掛ける。


「はい……」


「お腹が空いていたから食べたって事?」


「違う……」


「……となると、祝福が目的かしら?」


 樋口さんがそう問うと、アルマは再び頷いて応える。


 彼女の両親はだから殺されてしまったのか……じゃあ、今の状況って……


「私達は人間だから、食人までは無いかもしれないけれど……殺す事で、他の人の祝福を奪えるのだとしたなら……」


 青ざめつつも驚いた様子も無く、どこか腑に落ちたような表情で呟きながら、彼女はオレに視線を向ける。


「……奪い合いをさせて、人間がどれだけ強い力を持てるかどうかを試している、とか?」


「もしかしたら、アルマちゃんの言う怖い人って、ソレを実行してしまう危険のある人って事なのかもね……」


「なるほど……」


 そりゃあ、柴田に会うのをアルマが必死になって止める訳だわ。


 ……あれ?だとしたら、彼女はどうやって生き残ったのだろう?


 多分だけど怖い人を見たって事は、両親は彼女の目の前……もしくは近くで殺されたって事だよな?


「あー……という事は、昨日私に陶器を投げつけたのも、脅しじゃなくて本気で狙ってきたからなのかしら?」


「どういう事?」


 ……アルマの事も気に掛かるけれど、どう聞いていいのか分からないから今は置いておくとして、この反応はひょっとすると昨日の犯人の見当がついているのか?


「柴田くんが犯人なのよ、アレ。」


「柴田が犯人?もしかして、姿でも見てたの?」


 見当どころか、しっかりと特定までしているようだ。


 だから昨晩、アイツに対してかなり辛辣だったのね……


「ええ。多分、こっそりとマサトくんを観察していたのでしょうね。あの場に居合わせたのはさっきまで偶然だと思っていたけれど、貴方の力を奪う機会を伺っていたと考えるならば、あそこに柴田くんが潜んでいた理由も分かるもの……そこで、偶々私を見つけてしまって、恨みから衝動的にあんな事をやってしまったが為に、逃げたのでしょうし。」


 なるほど……昼食時にオレが食堂に現れなかったから、物陰からこちらの様子を伺っていたのかもしれないな。


 しかし、柴田……柴田ねぇ?うーん……?

 

 昨夜も何かに違和感を感じたのだけど、幾ら考えても分かりそうにないな。


 それより、昨日アルマに止められて無かったらオレ、今頃どうなっていたのだろう……


 いや、すぐにどうこうされた可能性は薄いかもしれないが……流石に監視までするとなると、呑気に仲間作りしようとしている奴の行動とは思えない。


 ……どうやら、本当に時間の猶予があまり無いようだ。


 だとしたらやはり、あるかどうかも定かでは無い元の世界に帰る方法を探すよりか、先ずは安全の確保のためにも此処から一刻も早く逃げるべきだろう。


 となると、アルマだけでも連れて行きたい所なのだが、彼女は樋口さんを信じられると判断したようだし、オレも樋口さんは信じてもいいと思い始めている。


 だからーーー


「ねぇ、樋口さん、アルマ……」


「真面目な顔をして、急にどうしたの?私達に告白でもするの?」


 うっさいわ!茶化すな!


 とりあえず話が進まないから無視だ、無視!


「オレ、ずっと実現させるのが難しいと思ってたから、今まで口には出さなかったんだけど………三人で此処から逃げないか?」


「逃げる……ねぇ?」


 樋口さんは少し眉を顰めつつ呟き、アルマは理解が出来ていないのか首を傾げながらオレを見た。


 アルマには後でもう一度言葉を変えて伝えるとして、樋口さんが眉を顰めるのも理解は出来るのだよな。


「言いたい事は分かるよ。アテはあるのかとか、何処に行くのかとかさ?色々あると思う……でもね……」


「何?」


「此処に居続けても、いい事は無い気がするんだよ。寧ろ、生命の危険ばかりが増すだけじゃない?」


 だが帰る方法を探すにしても、此処で命の危険に怯えながら元の世界に帰る方法を探るよりかは、別の場所で安全を確保してから時間を掛けて調べるべきではないだろうか?


「……それは、その通りかもしれないけれど、まだ結論を出すには早すぎるのではなくて?」


「というと?」


「私から言い出しておいて申し訳無いけれど、さっきまでの話はまだ推論の域を出ていないからよ。実際に起こってからでは遅いかもしれないけれど、かと言って準備も整えずに行うのは愚かだわ。」


「それは分かってるよ。だから、樋口さんも協力してくれないかって話なんだ。」


 オレ達はこの世界の事を全く知らない。


 だから、今口にした事がどれだけ無謀なのかもよく理解している。


 でも、このままだとオレだけじゃ無くて、二人も危ないんじゃないかって思うと……オレは……


「でも、逃げるにしても追われたら追跡を振り切る手段も無いわよ?それにさっきも言ったけれど、この館は周囲を兵士で囲まれているの。それこそ、殆ど死角もない程にね?どうやって、そこから逃げ出すと言うの?」


「それも分かってるけど……」


「いいえ!分かっていないわ!捕まるだけじゃ済まない可能性だってあるの!でも……」


 多分、彼女も同じ事を何度も考えたからなのだろう。


 口調は厳しいが怒っているのとは明らかに違う様子で、真っ直ぐにオレを見ながら告げてから、彼女は俯きそこで一度言葉を区切る。


「でも?」


 急にどうかしたのだろうか?


「でも……私も一緒に、って言ってくれた事は、本当に嬉しかった。ありがとう。」


 オレが聞き返すと彼女は顔を上げたのだが、先程まで浮かべていたやや険しい表情からは一転して優しい笑みを浮かべていた為に、思わず見惚れてしまう。


「お、お礼を言われるような、事じゃ……」


 不意打ち気味の微笑みは、破壊力高いって……


「私の事も友達だって思ってくれたからでしょう?……でもね、私も同じように、貴方やアルマちゃんを無闇矢鱈に危険に晒したくないのよ。だから、ヤケにならないでもう少しだけでも、一緒に情報を集めてみない?」


「……分かった。」


 そうだな。


 樋口さんの言う通り、ヤケを起こしちゃダメだ。


 こういう時だからこそ、冷静にならないと。


 とはいえーーー


「でも、情報を集めるってどうやって?アテはあるの?」


「あら?取り敢えずでもこの世界の情報収集をするなら、人が多くてもってこいの場所があるじゃない?誰も行こうとはしていないみたいだけれど、行ってみるのも手だと思うわよ?」


「もってこいの場所?……あ、城下町、だっけ?」


 確か、クレイさん達に頼めば、連れて行ってくれるのだったよな。


 そう言えば、何日か前にも似たような事を考えて、止めた事があったっけ?


 でもまぁ確かに、まだまだ言葉は分からないにせよ行ってみるだけでもした方が、ただ逃げ出すよりも余程健全だろう。


「ええ。だから、午後は三人でデートしましょ?」


「デート云々は置いておくとしても、午後から?なんで?」


 いや、それもだけど……今日いきなり行けるとは限らなくない?


「私がもう少し休みたいだけよ。」


「……ごめん。」


 言われてみれば、樋口さんはあんまり寝てないのだった……


「じゃあ、こっちで頼んでくるから樋口さんは休んでてよ……しかし、街かぁ……流石に街だと元の世界へ帰る手掛かりは、無いだろうなぁ。」


 魔術が絡んでいそうな話なので、その辺りにヒントがあるとは思えないもんな。


「……そう、ね。じゃあ私は寝るから、あとはお任せするわ……」


 何気ないオレの呟きに樋口さんは眉を寄せながら瞑目しつつ、再びベッドで横になる。


 やはり、彼女は相当疲れているらしい。


「うん、おやすみ。」




 その後、寝息をたてる樋口さんを横目に見つつ、オレはアルマになるべく分かりやすい言葉で噛み砕きながら、先程の会話の内容を説明した。


 無論、その間なるべく大きな声を出さないようにしたのは、言うまでも無い。


 ……ただ一つ気になったのは、オレが説明している最中、アルマが酷く複雑そうな表情を始終していた事なのだけど、一体どうしたのだろうな?

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