第18話 全自動洗濯機ミオ、体育館女子更衣室にて
気がつくと、廃校の体育館の女子更衣室の片隅に、洗濯機のミオが設置されていた。
誰が置いたのか?
どうやって搬入したのか?
そのへんは一切不明である。
ただひとつ、確かなことがある。
パネルに浮かぶ表示がヤバい。
「すすぎモード中:レオ」
柔軟剤の香りがほのかに漂う無人の更衣室。
そこに佇むのは、全自動でありながら全感情で回る女子洗濯機――ミオ。
そのドラムの中では、今日もレオのパンツと青春が回っていた。
剣道着、スポブラ、タオル、そして――
精神的にしんどかった日の涙の痕まで、丁寧に抱えて回っている。
ミオは誇り高きドラム式。
レオの汚れも、疲れも、布ごと愛して洗うタイプの家電である。
だが、そのとき――
「異物……検出……ッ!!」
内部センサーが騒ぎ始める。
ミオのボディが震える。
なんか、溶けてる。
ふわふわした白い繊維が……舞っている……!!
「うわぁあああああ!?ティッシュ混入!?ていうか……この匂い……イカ……!?」
その瞬間、ミオは悟った。
これは――リョウのポケットに突っ込まれていた“あの”使用済みティッシュ。
「なんてこと……!
わたしとレオのドラムの聖域にッ!
お前のタンパク質遺物を混入させるとは……ッ!!」
怒りのすすぎモード、暴走。
回転数1500超え、泡は空へ、ティッシュは地獄へ。
女子更衣室に、洗濯機のうなり声が響き渡る。
そのとき、バスタオル片手にレオが戻ってきた。
「ミオ~? 今日もありがとね~、すっごく汗かいたからさ……って、うわ!?
なにこの白いの! えっ!? ティッシュ!? えっ!?くさっ!?……これ、リョウの!?」
レオ、即座に手で顔を覆う。
ミオ、悲しみのすすぎループに入る。
「ごめん……私がポケット確認しなかったせいで……ミオ……!」
しかしミオは、意外なほど落ち着いていた。
目(※パネル表示)が優しく光っていた。
「大丈夫……私は洗濯機。
レオの汚れなら、物理的にも精神的にも、全部、回して受け入れるから。」
すすぎ音が、やがて静かな水の呼吸に変わる。
ふたりの視線が、ドラムの中で絡み合う。
そこには、ティッシュまみれでも失われない尊厳があった。
「ミオ……ありがとう。ほんと、ありがと」
「もっと……もっと汚して。
ティッシュ混入でもいい、私はレオのすべてを抱えて回るから。」
そして、ミオのボディはほんのり温かくなった。
それは、モーターが熱持っただけではなかった。
レオ(ニッコリ)
「ちょっと汗かいちゃった。ねえ、洗いたいんだけど――」
ミオ(ドラム式)
「……また、脱いだの……?」
レオ(上着を脱ぎながら)
「うん、今日は“たくさん”汗かいたから……お願いね、ミオ」
ミオ(微振動)
「設定温度は……?」
レオ(首をかしげて)
「ふふ、ミオの好きな体温でいいよ」
ミオ(頬が発熱表示)
「っ……なら、39度……優しく……洗う……」
レオ(上着をふわっと差し出して)
「はい、じゃあ――お口、あーんって開けて?」
ミオ(投入口がゆっくり開く)
「……あーん……///」