第15話 鋼鉄乙女sが筋肉で校舎を制す日 ~そして顔面に落ちるのは、鋼鉄の尻だった~
天気、快晴。雲ひとつない青空。
こんな日は、訓練日和。
「というわけで、今日は登る!」
レオが指さすのは、廃校校舎の外壁。
「またかよ……いや、まあ、やるけどさ」
ハヤが苦笑しつつも、手袋をきゅっと締める。
ふたりの目的地は、3階のベランダ。
ルートは、給食室の雨どい経由、技術室の出窓、理科室換気口を経てベランダ直登。
「腕、肩、握力、全身使っていくよ!」
レオが笑う。
「これ体育じゃなくて、訓練だからなっ!」
ふたりは交互にルートを探し、壁に這い、力強く登っていく。
途中――
ハヤの手が、ほんのわずかに滑った。
「うわっ、やばっ……!」
「ハヤ!!」
レオが即座に手を差し伸べる。
「やったれ!」「とぉぉぉぉおおおおおお!!」
バシィッと手を掴み合い、筋肉の力でグイッと持ち上げる!
そのまま、ふたりは見事に3階まで登頂成功!
「はー……生きてるって感じするわぁ」
ハヤが息を切らしながら笑う。
そのころ、真下では――
芝生に寝そべる変態犬・リョウ。
「くぅ……いい匂い……ッ」
見上げる視界の中心にあるのは――登っていくレオとハヤの“尻”。
「肩から腰にかけて、しなる筋肉の谷間を滑ってきた黄金のしずくが、俺の頬を濡らす……」
「汗が……尊い、重力に従い、まっすぐ俺に降ってくる……天の恵み……」
ぽた、ぽた、と滴り落ちる汗が、リョウの額、頬、首筋に落ちてくる。
「うぅ……ありがてぇ……この浄化の雨……」
両手を広げて恍惚とするリョウ。
そして数分後――
2人がロープで降りてくる。
最後に降りてきたレオが――
「おりゃっ、着地っと!」
ドスン!!!
「ぶへあっっ!!??」
見事にリョウの顔面にレオの尻が着地。
「う、うれし……ぐはっ……!」
鼻血と涙が同時に噴き出るリョウ。
「……変態は踏んで治す」
レオが冷静に呟き、尻で圧を加える。
「俺の嗅覚、今、極限の花が咲いてます……」
リョウは天を仰いで崩れ落ちた。
――筋肉は裏切らない。
友情は鍛えられる。
だが、変態は治らない。
今日も市立万妖中学校に、筋肉と汗と友情と、ちょっとの鼻血が舞うのだった。