第14話 バーコードNo.47の呪い ~切断再生、そして音の意志~
廃校二階、放送室。
重たい鉄扉をギィ……と開けると、乾いた埃と、使われなくなって久しい機械油の匂いが鼻をかすめた。
「うわぁ……まさに“時が止まってる”って感じ……」
リョウが呟く。
早矢は黙って窓を開け、空気の流れを作っていた。
部屋の中央には、機材ラックと放送卓。 棚にはVHS、MD、CD、謎のテープ……そして、見慣れないグレーの機械がぽつんと置かれていた。
「……なにこれ。レトロプリンター?」
「いや、違う……これ……見たことある……」
マホが、震える声で前に出た。
白手袋の指先が、機械の側面をなぞる。
そこには、剥がれかけたラベルが辛うじて読めた。
《バーコード音声再生装置 CA-BC1000》
「……これ、バーコードプレーヤーだわ」
【ミニ解説:バーコードプレーヤーとは】
2000年代前半、一部の学校教材で使われていた音声再生装置。
CDやカセットをセットし、専用のバーコード付き台本をスキャンすると、該当する音声トラックが再生される。
英語教材やリスニング対応の目的で導入されたが、
・読み取り失敗多発
・待機時間のロス
・生徒がバーコードで遊ぶ
などの理由で、短命に終わった“幻の教育機器”である。
「へぇ〜、こんなんあったんだ……」
レオが機械の上に手を置き、手首のスナップで埃を払う。
マホは隣にあった古びた厚紙のカードを拾い上げた。
横長の、太く黒いバーコードが印刷されている。
《No.47 記録再生・英語2年 Bパート》
「……読んでみる?」
ミオが、声を潜めて言った。
ピッ――
バーコードをスキャンした瞬間、
機械がカチャリとCDを読み込む音を立てた。
……ザザ……ジリ……ピ――……
「……to…day's…wea……ther……」
「……雨……です。風が……強く……なります……」
(……今、何語だった?)
ざわり、と空気が揺れる。
音声は英語の教科書朗読……のはずだった。
だが、妙にこもった女の声。抑揚のない、誰ともつかない発音。
そして最後に――
「――……うしろ……いる」
バチン!!!
蛍光灯が爆ぜる音が放送室に響いた。
「うわああああ!!」
「本体……なんか点いてる!!」
CDデッキの液晶に、赤く光る謎のカウントダウン表示。
02:03…02:02…02:01……
「なっ……なにこれ、タイマー!? 爆発系!?」
「プレーヤーって音流すだけじゃなかったの!?」 ハヤの声が裏返る。
「言ったじゃん絶対怪異系だってぇ!!」
ミオがマホの腕を引っ張り、後方へ逃れる。
マホは青ざめながら再生ボタンを連打。
だが、音は止まらず、カウントは続く。
00:59……00:58……
リョウとハヤが慌てて布を被せ、電源コードを引き抜いた――
……が、電源は切れない。
「な、なんで……!? 停電してるのに……」
「これは……霊的エネルギーで駆動してる……?」
マホがぽつりと呟く。
ピピピッ……ピ……
タイマーが00:45を示した瞬間、再びスピーカーから声が――
「う……し……ろ……」
「い…………ル……」
「うしろに……いる……」
「“いる”って……なにが!? どこに!?」
全員が一斉に周囲を見渡す。
その時――
ズバッ!!
音が空間を切り裂いた。
プレーヤー本体が、真横から一刀両断されていた。
「えっ……」
全員の視線が一点に集まる。
東雲レオが、背中の真剣を抜いたまま、静かに構えていた。
「……音響兵器には、物理で対処」
淡々と言い放ち、レオは剣を納める。
断面から煙を上げながら、機械は沈黙した。
タイマーは――00:44で停止。
「れ、レオ……すご……」
「いやいや、どこで真剣抜刀許可もらってんの!?」
「“いる”って……まさか、プレーヤーが?」
マホが低く呟いた。
「いや……違う」
リョウが鼻をすすりながら言う。
「バーコードの“中”に、“声”が残ってたんだよ……」
放送室の隅。静かに転がる厚紙カード。
そのバーコードには、今も“何か”が刻まれたままだった――。