第12話 バ◯◯は夢の中で
廃校のグラウンド。
桜の木々は、季節外れの暖かさにほころび、ほのかに花を咲かせていた。
「え、春?……いや、これたぶん“二度咲き”ってやつだな」
リョウが手帳片手に桜を見上げている隣で、ハヤがごそっと腰を下ろした。
「ちょっとだけ、休憩……」
ポンと地面に座ると、ほんのりと日差しが温かく、気がつけば、瞼が……落ちていた。
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夢の中
――グラウンド。だが、今度は競技用の白線がくっきり引かれた、本物のトラック。
「佐々木!!あと10本だ!!!」
響き渡るのは、桐谷コーチの怒号。
「は、はいっ……っく、ふぅ、あぁ……!」
ハヤは汗まみれでインターバルダッシュをこなしていた。
脚は棒。視界は揺れる。
「あと……2本……っ、ううぅ……!」
そして――
「ダメ……。もう、ムリ……」
ガクン、と膝が折れ、そのままトラックの脇に倒れ込んだ。
そんな彼女の横に、ドスンと落ちる影。
桐谷コーチだった。
「……佐々木、お前、倒れるまでやったのは立派だ」
低く、でもどこか温かい声。
「ご褒美だ。バ◯◯、欲しいか?」
(……バ◯◯……?)
「ほら、お前が好きだって言ってたじゃねえか。バ◯◯。陸女には欠かせないだろう?自分に正直になれよ?素直にください、って言えよ?」
「ほしいです! くださいっ、コーチのバ◯◯!!」
ハヤはもう、恥じらいも何もかなぐり捨て、そう、絶叫した――
「よし。お前の口に今、咥えさせてやるからな…」
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現実世界
「ほしいです! あなたのバナナが……!!」
がばっ、と起き上がった早矢の視界には――リョウの呆け顔。
「え、えっ……!? あ、あの……俺のバナナ15.2ですけど……?」
動揺しつつ、リョウはズボンのジッパーに指をかける。
「待っててね、今出して皮剥くから」
パアアアン!!
「なぁに出そうとしてんのよォォォォ!!!」
早矢の拳が空を裂き、リョウの顎を正確に射抜いた。
もんどり打って地面に倒れ込むリョウ。
「そのバナナじゃないってわかってんでしょ!? なんで毎回そうなるの!?」
「いや……寝言で『欲しい』って……俺のじゃないなら、誰のだったの……?」
血を流しながら涙目で見上げるリョウ。
「桐谷コーチのに決まってんでしょ!!!」
「…桐谷コーチのはよく熟れてそうだな…」
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近くでそれを見ていた真帆が、桜の花を1枚つまみながらつぶやいた。
「夢と現実が交錯するとき、人は最も“におい立つ”……文学的ね」
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※補足
・本日の補食:Doleのバナナ(15.2cm、カーブ強め)
・ケガ人:1名
・誤解の解消:未達
・青春ポイント:+300