第11話 鋼鉄乙女、3歳児からの帰還→変態犬、掲揚
昨夜、旧理科準備室で幼児退行して以降、
佐々木ハヤは――3歳児になっていた。
「まほぉ……おなかすいた……」
「はいはい、はいはーい。マホ先生がミルク作ってあげますよ~」
そう、三ツ石マホが完全に“母モード”に入っていた。
トランペットケースは哺乳瓶へと役割を変え、
気象通報の地名は絵本のセリフになった。
「父島の、かいじゅうさんがね~、チチハルまでおさんぽに行ったんだよ~」
ハヤ「わあぁ……ちち、はるぅ……」
(この光景、シュールすぎる……)
ミオは完全に“傍観者”を貫いていた。
しかし、ただ一人――胸の奥に複雑な感情を抱える者がいた。
「……俺のせい、だよな……」
滝川リョウ。
昨夜、ふざけて人体模型を飛び出させ、ハヤを恐怖のズンドコに叩き落とした張本人。
(さすがにやりすぎた……でも今のハヤ、かわい……いや、ちょっと幼児化してるとはいえ、でも、あのハヤが……ちいさく……)
罪悪感。
と、興味本位(主に変態方面)。
リョウは、おずおずとハヤに近づいた。
「な、なぁ……俺にも世話、させてほしいっていうか、その、ハーネスつけて……散歩とか……」
その瞬間。
ピクッ。
ハヤの肩が、微かに動いた。
「……あれ?」
そして――そのまま、
ガバァアアアアアアアアアアア!!!
ハヤ、覚醒。
3歳児の顔から一転、鬼の形相へと変化。
「お前ッッ!! なに わたしに 近づいてんのッッ!!」
バシュゥウウ!!!
放たれたのは、全身全霊の――金的ミドルキック。
ズバアアアアアアアアッッ!!!!
「ごふぁぁぁぁあああああああッッ!!!!」
リョウ、即・崩れ落ちる。
マホ、卒倒しかける。
ミオ、やや笑う。
──翌朝。
リョウは、朝の校庭にハーネスで吊るされていた。
場所:国旗掲揚台。
ポールの先には――なびくリョウ(本体)。
「こ、これはさすがに……国旗に……国旗に失礼すぎるだろぉ……!!」
「反省の意を形にしてもらっただけです」
ミオが無慈悲に言い放ち、
マホは「おはようの替わりに気象通報でも流してあげようか?」とほほ笑んだ。
朝の風が吹く。
リョウの体が、静かに――なびいた。