エルフの師と見習い剣士—ユエとハルの無茶苦茶すぎる訓練の一日—
初めまして!ねこです!!
初めてなろうに投稿する作品なので多少(?)おかしくても多めに見てください!!(は?)
この世界には怪異と呼ばれる人ならざる者がいる。
それらは人を襲い、危害を加えるため誰かが倒さなくてはならないのだ。
霞ノ宮家という代々伝わる剣士の家系がそれらを倒していた。
晴瑠は霞ノ宮家の末裔である少女で立派な剣士となる為、見習いとして日々訓練を積んでいた。のだが・・・
「とりゃぁああああ!!」
「甘い、下手くそ」
「くぉおっ!」
――ハルはポンコツだった。
教えているのは宵月、エルフで昔は有名な剣士だったが昔の戦いで左足を失ったため霞ノ宮家で代々師匠として見習いをしごいている。
「えー、ダメ?」
「隙がありすぎ。構え方がなってない。刀の動かし方が違う。力の入れ加減もダメ。」
ハルが期待を込め、めげずに何がダメなのか問い詰めたが半眼で一刀両断された。
「構えるときは脇を締めて体勢を低く。力は振りかぶるとこで入れて一度抜き、相手に触れてからもう一度入れる。刀を振る時は出来るだけ空気の抵抗がないように。減速するし、怪異用の真剣を使えば痛む。あれは特別な石で作るから、もっと鍛錬を積め。怪異は力技というよりスピードと技術だからな。スピードで負ければ即死だ。」
ーーーーーー
「ぐええ」
ユエは大の字に伸びているハルの腹を木刀で軽く(軽く???)押すように叩く。
同性のうえ年齢の割に(推定2000歳?)幼い容姿をしている為、ハルは近所の子供のような雰囲気で接しているがそれが気にくわないのか辺りが強いところがある。
「ハル、コース5行ってこい」
「えぇぇぇぇ~ん、無理!」
「無理じゃない。大人しくいってこい。」
コース5というのは山一往復で全五種類の内、最も難易度の高いコースだ。
前半は色んなアスレチックを含め、折り返しを超えて下りは鬼ごっこのようなもの。
普段は3か4を使うから5は結構久しぶりに行く。
「じゃ、いいか?」
「え?」
驚くハルをガン無視してユエはストップウォッチに目を移すとカウントダウンを始める。
「さん、に、いち、開始」
「のぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!!!」
(いいか?って・・・聞いてきたくせに返事聞かないじゃん!!!!!!!)そう思いながらも歯を食いしばって走り出す。
思いっきり地面を蹴って必死に走る横でユエは表情一つ変えずについてくる。
「スピードを落とせ。最初からそんなに力使うな。」
「へーい...」
困ったようにこちらを見て眉を顰めるユエの背中にユエ愛用の馬鹿でかい斧を発見する。
重くないのかなぁ。
ーーーーーー
そう思いながらしばらく走っていると物凄い水の音が聞こえ始めた。
もはやジェット機のようだ。
「今日も荒れてんなー」
濁流を前にユエが淡々と言う。
「ひえーっ」
ハルも口の中で呟く。
次の障害物は濁流を超えること。
結構な間隔で石が置いてあるがぐらつくので落ちる可能性大。怖い。
出来るだけ激流の勢いに飲まれないように、感じないように、出来るだけ一つの石に留まらないように。
その後ろをユエがもう余裕なのか片足を上げながらぴょんぴょんと付いてくる。
「ひっ!」
その時、飛び乗った石がぐらついて水の中に沈み込む。
「うわぁーっ!!」
「おい!」
あと数歩というところで足を踏み外して濁流にのまれる。
「ヤバいって!!!助けてーっ!」
「自力で出てこいーっ!」
ユエが急流の音に負けないように大声で言ってるのが聞こえる。
(自力で???嘘だろ・・・)
水に押されて体が沈んでいく。
川底の岩に頭をぶつけた。
息ができない。
意識が遠のく—————
ーーーーーー
「ぶふぇえっ」
「出てこいって言ったよね?死んでんじゃん。」
怒りを通り越して呆れたようなため息交じりの声が聞こえる。
意識が戻ってきたところでユエの口からハルが耳を疑うような爆弾発言が出る。
「よし、じゃあもう一回行ってきて」
「は?」
「投げてほしい?」
「ちょっとまってよ」
慌ててユエを止めると頭を整理する。
もういっかい?いってくる?逝く?
「あ、私死ぬ???」
「おいおいおい、いったん落ち着け」
(こっちのセリフなんですけど???)
ユエ曰くちゃんと水の中の対処法を学べという事らしい。安心。
一応腰に縄を巻き付けてなんかあったら引っ張ってもらう方針にした。非常に、安心。
「じゃあいくよ」
「近めに投げて」
「やだ」
ユエに放り投げられ宙を飛び、死にかけた場所に再突入した。
遠くに流されないように一度潜ると沈んでいた倒木や岩を掴みながら川岸まで行く。
そして、なんとか言われた通りに陸地に這いもどる。
「ぶへぇ」
「よくやった。上出来だ」
ユエは少し口角を上げて目を細めると、タオルを差し出しながら頭を撫でる。
「珍しくユエに褒められた!!!!」
ずいぶん優しいユエに興奮しながら驚く。
ユエは基本冷たいけどちゃんと褒めるときは褒める、良い師匠だ。
「そんな珍しいか?」
「勿論!」
「結構褒めるようにしてるはずだが・・・?」とぼやくユエを無視して次に進む。
ーーーーーー
「てゅおぉぉおおおおおおお!!!!!!!」
「てゅお???」
奇声を上げてバク転するハルとその奇声が不思議なのかきょとんとしながら疑問符をつけて復唱するユエ。
「ふぉあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「ふぉあーーーー」
奇声を上げて前転からの———
「スーパーハイパーミラクルジャーンプ!」
「すいいぱーみらじゃるくぱーぷーん」
よく分かんなかったのか言い間違いながら言う。
「スーパー・ハイパー・ミラクル・ジャンプ、ね!」
「すーぱーぱいぱーみくらる、じゃぷん!」
今私達がいるのはロープ道、ありとあらゆる方向にロープが伸びていてそこには体が麻痺する毒が塗りたくり染みこませてあるから触れたくない。(染み込ませて、というより滴らせて?)
怪異と対峙したら普通に死人が出るような毒を使うから可愛いもんだとユエは言っていたが、全然嫌だ。
そう思いながらぶつくさ二人で雄叫びを上げ、進んでいく。
順調だった、そう、順調だったのだ。
あの時、あの瞬間までは——————
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」」
可愛い女子(?)二人にあるまじき汚い悲鳴が森に響く。
「ぎゃぁぁぁぁああああああ!!!!無理無理無理無理無理無理無理無理ぃーーーっ!」
「おちっ!おちついてーっ!!!!ちょっ!回すなぁーっ!それっ!あぶっ!あぶないぃーっ!!!」
そう、原因はこいつ、——蜘蛛にある。
「「ゔわあーーーっ!!!くんなくんなくんなぁーっ!!」」
先ほどの汚い爆音は蜘蛛に怯えて馬鹿でかい斧ぶん回して突破しようとするユエと斧に頭と体に別れを告げることにならないか怖くて怖くて仕方ないハルの悲鳴だ。
「と、とりあえず斧しまおうか!?」
「無理無理無理!ここ出てからねーっ!」
ハルはユエの意外な弱点と綺麗に研がれた斧にビビり散らかすがそれよりユエの蜘蛛への恐怖の方が上回るそうだ。
「ふぎゃぁーーっ!」
「斧ぶん回すのやめてーっ!」
(一体全体何があったんだ!?まさか巨大蜘蛛型の怪異に左足取られたとか!?)
それならあの興奮も分かるわ、そう小さくつぶやくと斧に当たらない程度にユエについていく。
ーーーーーー
「うわぁ…やり過ぎたかも」
「やり過ぎどころじゃないよぉ」
ロープを、木を、そして地面を抉り、切り倒しながら直進して来た跡は相当なものだった。
(ユエは怒らせない方がいいタイプだなぁ)
悲しくなぎ倒されたあの木に残る跡は斧で作れるものなのか、困惑しながら肩をすくめる。
「まぁどうにかするよ・・・取り合えず先に行こうか」
「うん」
我ながらこれはヤバい、そう思ったのか怯え気味に目と口角をひくつかせながら苦笑いをするユエに先を促され、口をへの字にして進む。
ーーーーーー
「ねぇーっ!これホントに垂直ぅーっ?」
「そうだよー、ハル側から言うと丁度八十度ー」
(それって垂直じゃねぇ〜)
逆光に目を細めながら頂上に立つユエを見上げる。
五階建てはあるかな、ぽつりと呟くと岩に触れる。ヒヤリと冷たい。
小さな出っ張りに手を掛け、慎重に進む。
「まだぁ?」
「まだぁー」
遅いなぁ、と他人事に呟くユエ。
そんな中、必死に慎重に上り続け、ようやくハルは頂上が見えるくらいまでにたどり着いた。
「ゆーえ!」
「すぴー」
寝てるし、弟子が頑張ってる中これか?と呆れ気味に溜息をつくと上がろうと出っ張りに力を入れる。
その時、石のかけらが「ドンマイ☆」とでも言うかのようにぽろっと取れた。
「ふあああああ!?!?!?」
ハルの叫び声が森に響く。
重力に引っ張られる感覚が一瞬遅れてやってくる。
「おちるうううううう!!!」
視界がぐるりと回転し、背中から落ちる……かと思った瞬間。
「ったく、世話が焼けるなぁ」
「ぐぇぇっ」
例のユエのロープが、ぎりぎりのところでハルの腹に巻きついていた。
胃がハルの体重と重力に押され・・・
「おろろろろろろろろ」
「気持ち悪いなぁ、吐かないでよ」
ハルが宙ぶらりんの状態で胃の朝ごはんが全部出ていく。
ユエはそのままハルを上まで引っ張り上げる、ロープにぶら下げられたハルの全体重が胃を圧迫しながら。
「まったく……感謝してよねー」
「こうなってなくて感謝はしたよ!?でもさぁ、お腹はやめようよ。全部出たで…」
地面に落ちてバラバラに砕けていたあのかけらを指さし、私もあぁなってたかもと思うとぶるっと震えて考えるのを止めた。
ーーーーーー
「次は、木の枝か……」
目の前には、無数に絡み合う木の枝。
一本の太い枝を伝い、その先の鉄棒のようなに枝にぶら下がって進むコースになっている。
下を見れば、ドロッドロの泥沼。
「落ちたらアウトだな」
「いやぁ・・・」
せっかく髪の毛が乾いてきたハルにとって、泥まみれはさすがに勘弁だった。
「行くしかないか……!」
意を決して、枝を渡る
ぎしぎしと音を立てる木
ユエは軽々と渡っているが、ハルは慎重にぶら下がる。
(お?私これ才能ある??)
調子に乗り始めたハルはぽんぽんと進んでいく
あともう少し——そう思ったその瞬間
「ひゃぁっ!!?」
指先が滑る。
ハルの体が落下しかける。
「泥は嫌だぁぁあ!!!!」
ハルはとっさに足を伸ばし、ギリギリのところで木の幹にしがみつく
「ふ、ふぅぅぅぅ……」
肘が震える。汗が滴る。
しかし、なんとか渡り切ることに成功した。
「ハル、お前……どんだけ泥に入りたくないんだよ、執念すご」
「嬉しくないわぁ・・・」
ーーーーーー
「よし、折り返し地点だな」
ここまでくれば、あとは下り坂を駆け抜けるだけ。
……なのだが。
「じゃあ、わかってるよな?」
ユエが、例のバカでかい斧を肩に担いでニヤリと笑う。
「え……?」
「よーい、スタート」
「ちょっとまってええええ!!!!?」
ドゴォォォン!!!
いきなり振り下ろされる斧。
ハルは悲鳴を上げながら必死に避ける。
「ちょ、まってまってまって!!!」
「待ちませーん」
容赦ない追撃。
ハルは必死にダッシュしながら、命からがらの思いで回避。
「はぁ……はぁ……」
息を整えようとした、その時———
「……っ!?」
森の奥から、異質な気配が漂う。
「おい、待て……なんか変だ」
ユエが、ピタリと動きを止めた。
そのこめかみに汗がみえる。
その視線の先に、黒い影が揺れる。
「……え?」
ハルの背筋が凍る。
そこにいたのは、歪な形の怪異だった。
「……怪異……?」
こんな場所にいるはずがない。
結界が張ってあるはず、それがもし——
ユエの目が細められる。
結界を超えてくるほどの強者だとしたら?
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
(こいつら、弱い)
ユエは即座に察した。
ここにいる怪異は、明らかに訓練場の外にいるやつより格段に弱い。
あえて倒さず力を弱められたようだ。
そんな弱者が結界に入ってこられる理由。
(ってことは、誰かが意図的に入れたってことか)
そして、その犯人は———
遠くの木の茂みにぴょこっと顔を出した能天気そうな男女を見つける。
「サクラとトウキ、か……」
ハルの両親だ。
(アイツら、娘の成長が見たいって……マジでやることが無茶苦茶だな)
苦笑しながらも、ユエは決意する。
ここは、ハルを「その気」にさせるのが一番だ、と。
「ハル」
ユエは声を低くする。
「私は、あの怪異を抑える。ハル、お前は……逃げろ」
「え……?わ、私も戦う!!」
「お前はまだ未熟、叶う相手ではない」
ユエは、懐の中にある血のりの入った袋を服越しに触れ、あることを確認する。
これは、万が一の時(?)のために用意していたのだ。
ユエは怪異に飛びかかるふりをし、わざと攻撃を受ける。
胸に当たり、中で袋が破れて鮮血が飛び散る。
「ぐっ……!」
出来るだけ、強そうに、苦戦しているように。
「まだだ!」
「ユエ!!無理しないで!左足は義足なのよ!!ある時のように戦えないって言ったのはユエじゃない!!」
その声を無視すると、もう一度斧を振りかぶりギリギリで止める。
それを跳ね返そうとする怪異の力の波を数える。
1、2、3で耐えて。
「ぐぁああっ!!!!」
(4で飛ばされる)
ユエは地面に倒れ込む。
「ユエ!!!???」
ハルの顔が恐怖に染まる。
「いいから……逃げろ……!」
ハルの瞳が揺れる。
そして———
「……できない」
その瞬間、ハルの中で何かが弾けた。
「ユエを……おいて逃げられないに決まってるじゃない!!!」
大粒の涙をこぼしながら、ユエの目をキッと睨みつけると、怪異に向かいなおす。
腰の刀を抜き、怪異に向かって駆け出す。
ユエは、倒れながらもふと思った。
(……やっぱり何度も思ったけど、人間の成長は早いなぁ)
ーーーーーー
「ユエを……おいて逃げられないに決まってるじゃない!!!」
ハルの声が森に響いた。
ユエは倒れたまま、その姿をじっと見つめる。
(やっと、火がついたか)
怪異が、再び唸りを上げる。
ハルは折れた刀を構え直し、踏み込んだ。
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
振り下ろす——
が。
ガキィィィン!!
「力が足りないっ!」
ぎぎぎぎぎ、と刀にあるまじき音を立てて押される。
すーっと汗がたれる。わかってる。ユエに何度言われたことだろうか。
『刀の動きを間違えるな。角度の一度、ずれれば痛む、刃こぼれする。そして、その状態で押し続ければ———』
刀が、折れる。
「しまっ……!」
一瞬の焦り。
その隙を、怪異は見逃さない。
ドンッ!!!
怪異の腕がハルを弾き飛ばす。
「うぐっ……!!」
地面を転がるハル。
その手には、半分に折れた刀の残骸。
「くそっ……!」
立ち上がるが、もう武器がない。
(どうすれば……)
焦るハルの視界に、倒れるユエが映る。
「……!!」
ハルは、咄嗟に腰の苦無を抜き、怪異に向かって投げた。
シュッ!!
狙いは正確。
しかし、怪異は腕で払いのける。
(ダメか……!!)
その瞬間———
「ハル!!!」
ユエが叫んだ。
ドスッ!!
重みのある音。
ユエの斧が、ハルの目の前の地面に突き刺さっていた。
「それを使え……!!」
「……!!でも――」
ハルは少し眉毛を下げると斧を掴む。
腕にずしりと重さがのしかかる。
(重い……でも!)
怪異が襲いかかる。
ハルは全力で振り上げ——
「おおおおおおおお!!!!」
斧を振り下ろした。
ドガァァァァン!!!
刃は怪異の胸を貫き、その中心にある「魂」に達する。
バキィィィン!!
砕け散る「魂」。
怪異は断末魔の悲鳴を上げ、闇へと溶けていった。
ハルは、大きく息を吐く。
「……勝った……?」
膝をつくハル。
「……やったな」
ユエが、少し驚いたように微笑んだ。
「……うぅ……!!」
涙が滲む。
だが、怪異は小さな群れを成し、こちらに近づいてくる。
流石にこれ以上は戦えない。
「ユエ!!しっかり捕まって!!」
「え?」
ハルはユエを背負い、全力疾走でゴールへと向かった。
ーーーーーー
「……なんだったの……あれ?」
ゴールに着くと、ハルはへなへなと地面に座り込む。
「ちょぉーっと怪異を、ね♪」
「うんうん、いい戦いっぷりだったぞー!流石俺の娘だ!」
微笑む母・サクラと頷く父・トウキ。
「いや母さん!!ちょっとってレベルじゃないでしょ!?!?」
「えへへ~っ!」
嬉しそうに頬を染めるサクラを見てハルは溜息混じりに地面に突っ伏す。
「ま、結果的には良かったんじゃないか?」
ユエは笑う。
「ユエもグルだった!?」
「いや、途中で気づいただけ。まぁ、いい勉強にはなっただろ」
「もう、知らない……!!!」
ハルは拗ねたように顔を背けた。
そんな彼女を見て、ユエはふっと目を細める。
ーーーーーー
数年後、ハルは正式な剣士となっていた。
多くの怪異を討伐し、人々を救い、名を上げる存在へと成長していた。
そして今日は、久々にユエと会う日。
「いくぞ!!」
「えー、答えても聞かないんで、しょっ!」
鋭い斬撃。
ハルはそれを軽やかに受け流す。
しゅばっとユエより速く刀を振ると胸に向ける。
あっさりと決まってしまった。
それほどの実力差があったという事だ。
「私の、勝ち」
「ふふふっ、そうだな、負けた」
そういって笑うユエ。
しかし——
「っ……!!」
ユエの動きが止まる。
「……ユエ?」
次の瞬間———
「……はぁ……」
ユエは膝をついた。
「ユエ!!?」
駆け寄るハル。
ユエの呼吸が荒い。
「……あぁ、そろそろか」
ユエは空を見上げ、穏やかに笑った。
「どういうこと?」
「エルフの寿命は2000あたりだって言ったろ。私はもう、」
ハルの心臓が、ギュッと締めつけられる。
「……嘘でしょ」
「嘘じゃねぇよ」
ユエは苦笑しながら、ハルを見上げる。
「……最後に、頼みがある」
「なんでも、言って」
「……もう一度……あそこに、行こう」
――あそこ
ハルは涙を堪え、静かに頷いた。
ーーーーーー
ハルはユエを背負い、走る。
砂利を蹴って最初の上り坂を上がる。
すぐにずいぶん勢いを緩めた川へと向かう。
「ここに放り投げられたこともあったね」
「ふふっ、良い経験だったろ」
「そうだね」
ロープが絡まっている所はなくなっていた。
「結局壊しちゃったんだよね。ここ」
「もう蜘蛛はごめんだ」
「なんでそんなに蜘蛛が怖いの?」
「えっと、足をだな…」
「え?」
岩壁に出る、手がふさがっているので、跳んで上まで行く。
「前はこれ、ちょっとヤバいと思ってたけど、普通なんだね」
「あぁ」
後半に差し掛かる。
どこか懐かしい。
どこか切ない。
終わりたくないなぁ、ユエと一緒に居たいなぁ。
気づけば、ゴールが見えていた。
「ユエ……ゴールだよ」
ハルの背中で、ユエの体温が少し冷たいことに気が付く。
「……ユエ?」
呼びかけても、返事はない。
ユエは、穏やかな表情のまま、『眠って』いた。
ハルは、そっと目を閉じる。
「……今まで、ありがとう」
涙が、ひとつ眠るユエの頬に落ちた。




