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第9話 お礼の夕食


「とりあえず、こんな感じかな」


「おおっ、家が広くなった気がする」


 それから少しして、俺の部屋にあった段ボールは全てなくなっていた。


 段ボールの中にあった物は、それぞれ収納の中にしまわれて、段ボールが置かれていた部分の空間が空いていた。


「元々の広さに戻っただけでしょ」


 詞はそう言うと、ため息まじりに笑みを浮かべる。


 俺は詞がぐっと伸びをする仕草を見て、結構な重労働を手伝わせてしまっていたことを再確認する。


「詞。よければ晩飯を奢らせてくれないか? これだけ色々してもらって、何もお礼をしないわけにもいかないし」


「え? 本当? それならお願いしようかな」


 詞は部屋に掛かってる時計を見てから、そう言う。


 時刻は六時を回ったところなので、少し早い夕飯にはなるが問題はないだろう。


 俺はそう考えてから、ふむと考える。


「それなら、ファミレスでいいか? スーパーで弁当を買うって言うのもいいけど、それだと味気ないしな」


「うん。それじゃあ、それでお願いしようかな」


 詞はそう言うと、機嫌よさげに笑みを浮かべた。



「じゃあ、店が混む前に食べにいっちゃうか」


 俺は詞にそう言ってから、詞が頷いたのを確認してからリビングを出る。


「き、きーくん、きーくん……ちょっと待って」


そして、俺がそのまま家の扉に手をかけようとしたところで、不意に詞に服の裾を引かれる。


「どうしたんだ?」


 詞は俺の服をくいくいっと引きながら、キッチンをじっと見る。


 え、何か見えないものでも見えているのか?


「きーくん。これ、調味料の蓋開けてないよね?」


「え? ああ、空いてないな」


 なんだ、そんなことか。


 俺の家のキッチンには、未開封の調味料がいくつか並んでいる。


 実家を出るときに親に色々と持たされたのだが、男の一人暮らしには不要だったみたいだ。


 そもそも、料理ができない奴が調味料を持っていても仕方がないだろう。


「もしかして……引っ越してきてから、料理してないなんてこと、ないよね?」


「……詞。今の時代、お惣菜が結構充実だったりするんだぞ。それも、時間帯によっては弁当が半額で変えたりするんだ」


 俺が遠くを眺めながらそう言うと、詞はジトっとした目を俺に向ける。


「きーくん、それってちゃんとお野菜とか取れてるの?」


「取れてるぞ。……あれ? そういえば、昨日食べた弁当に野菜は言ってなかったな。あ、でも、この前ファミレスでポテト食べたか」


「ポテトは野菜に入りません」


 詞はそう言うと、真剣な顔で俺を見つめる。


「きーくんって、若くてもちゃんとお野菜取らないと栄養が偏って病気としちゃうんだよ?」


「病気って、そんな大げさな」


 俺が笑いながらそう言うと、詞はむっと膨れて俺を見る。


 あれ? 詞、結構本気で言っている感じか?


「ちなみにだけど、きーくんって料理できるの?」


「肉を焼くぐらいはできるぞ。確か、一昨日は半額の肉を焼いて食べたし!」


「その時にお野菜はとった?」


「……記憶にはないな」


 俺が詞の視線に耐えかねて視線を逸らすと、詞はじぃっと俺を見てからため息を漏らす。


「じゃあ、予定を変更しよ。ファミレスじゃなくて、私がきーくんのご飯を作ってあげるから」


「え? 詞って料理できるの?」


「お昼に食べたでしょ、私の料理」


 詞は当たり前みたいにそう言うと、こてんと可愛らしく首を傾げる。


 俺は詞に釣られるように首を傾げてから、今日のお昼を思い出す。


 今日のお昼と言えば、やけにうまい唐揚げと卵焼きを貰ったくらいだが……


「え、あれって、詞が作ってたのか?」


「そうだよ。まぁ、昨日の残り物だけどね」


 詞は当たり前みたいにそう言うと、玄関にあったローファーを履いてから振り向く。


「それじゃあ、とりあえず買い出しにいこうか。きーくん」


 詞のニコッとした笑みは、何でもないことを提案するかのような笑みだった。


 料理をこれから作ることを面倒に思っているようには見えなかったので、俺はその提案に素直に頷く。


……これじゃあ、男友達というよりも、通い妻なんじゃないか?


 俺は思わずそんなことを考えてしまって、慌てて頭を振るのだった。

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