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第4話 バレないはずがない嘘 友人:茜視点


「なんで詞自分のこと男の子だって言ってんの? 誰がどう見ても女の子だろ?」


「ふへ?」


 私がトイレに行って帰ってくると、突然三条くんからそんなことを言われた。


 私は突然の言葉を前に、思わず間抜けな声を漏らす。


 いやいや、さっそくバレてんじゃん!!


 私はそんなことを考えて、しばらく固まってから慌てたように三条くんから目を逸らす。


「な、なんのことかな? 詞は男の子なんだけどなぁ!」


「いやいや、さすがにそれは無理があるって」


 私は勢いに任せて誤魔化そうと試みたけど、三条くんは冷静にそう言ってから私をじっと見る。


 うわー、ここから誤魔化すのはどう考えても無理でしょ!


 でも、詞には協力してくれって言われてるんだよなぁ……どうしよう。


 私がうーっと唸っていると、三条くんはジトっとした目で私を見る。


「いくらスレンダーな体系といっても、今の詞を本気で男と間違えたりはしないだろ。その、体が男のそれとは違うわけだし」


「さ、さすが、エロ本を持ってる男子は違うね」


「え、エロ本? え、今なんて?」


 三条くん、唐変木みたいなキャラなのかと思っていたけど、見てる所はちゃんと見てる男の子だった。


 うん、詞の言った通りみたいだ。


 私がそんなふうに感心していると、三条くんは微かに眉を下げる。


「とにかく、あんな可愛い子が男なわけがないだろ?」


「……そういうの、本人に言ってあげれば全て解決するのになぁ」


 私はため息を漏らして、そんな言葉を呟く。


 これ以上、詞を男の子だと言い張るのは無理だよね? だって、三条くん疑ってるんじゃなくて、確信してるわけだし。


 私はそう考えてから、諦めるように言葉を漏らす。


「そうだよ。詞は女の子だよ。それも学校一モテると言っても過言ではないくらいにね」


「やっぱり、そうだよな? 学校一か……でも、それなら、なんで俺の前であんな嘘を吐いたんだ?」


 私は三条くんの言葉を聞いて、ふむと考える。


 ここで本当の理由を教えてあげてもいいけど、詞からは協力を頼まれている。


 そうなると、ここで全てを素直に話すわけにはいかないよね。


 私は長考の後、微かに口元を緩める。


「……うん、これでいこう」


 良い作戦を思いついた。


 詞を男の子だと思わせることはできないけど、男友達だと思わせることはできるかもしれない。


 私は人差し指をピシッと立てて、言葉を続ける。


「詞、三条くんには男友達として接して欲しいんじゃないかな?」


「男友達として?」


 三条くんのきょとんとしている顔を見ながら、私は腕を組む。


「詞ってモテすぎるからさ、本当の男友達っていないんだよ。基本的に詞に近づいてくる男の子は、詞に下心がある子が多いの」


 これは実際に本当のことだ。


 詞に告白をするために友達になろうとする男の子や、詞に振られて友達から始めようとする男の子は少なくはない。


 モテるがゆえに、詞には本当の男友達はいないと思う。


「詞は三条くんにはそうなって欲しくないんじゃないかな? あの子、三条くんのことを親友だと思ってるみたいだしね。男の子だと宣言すれば、三条くんとの関係が崩れる可能性はなくなるでしょ? 君と男友達みたいな関係を続けたいから、詞は自分のことを男の子だと言ったんだよ」


 私はシリアスな雰囲気を醸し出して、微かに口元を緩める。


 すると、三条くんは詞の席を見て少しだけ遠い目をする。


「そうだったのか。だから、あんなことを……」


 ……三条くん、ちょろいな。


 私はそんなことを考えながら、目をぱちぱちとさせて三条くんを見る。


 詞は男の子として自分を好きになってもらいたのではないわけだし、男友達として接してもらうくらいがちょうどいいでしょ。


 詞を男の子だと思わせるのは無理みたいだし、ここら辺がちょうど良い落としどころな気がする。


 うん、うん。アドリブにしてはよくやった! 結構な名演技だったよね、私!


 なんか適当なこと言ったら、それっぽくなったよ!


 私はそんなことを考えて、三条くんにバレないように小さくガッツポーズをする。


「あ、詞帰ってきたね」


 私が完璧なフォローを入れると、詞が微かに頬を赤くしたまま教室に帰ってきた。


 三条くんから事の顛末を聞いたけど、ただ間接キスをしそうになっただけにしては、顔を赤くさせ過ぎな気がする。


 ……そんな調子で、これから先一体どうやって三条くんを惚れさせようというのだろうか。


 私がそんなことを考えていると、三条くんがガタっと椅子から立ち上がる。


「詞。今日一緒に帰らないか? 昔みたいに、色々話もしたいし」


「え、い、一緒に?」


 詞は突然三条くんに誘われて、きょとんとしてから少し耳を赤くさせる。


 三条くんのまっすぐな言葉を聞いて、私は少し感心する。


 ……三条くん、私が言った適当なこと本気で信じちゃってるよ。


 私がそんなことを考えていると、詞は思い出しように余裕の表情を浮かべて口元を緩める。


「いいよ。帰ろ―よ」


 詞はまるで何でもないことかのようにそう言うと、妖艶な笑みを浮かべる。


「何も意識することなんてないよね? だって、私たち男友達なんだから」


「お、おうよ」


 三条くんは詞にそう言うと、照れたように詞からふいっと視線を逸らす。


 そんな三条くんの態度を前に、詞は嬉しそうに笑みを深めていた。


 ん? あれ? ちょっと待って。


 私は第三者として今の状況を見て、目をぱちぱちとする。


 多分、今後詞は三条くんに意識してもらおうと、積極的にアプローチをしていくと思う。


でも、詞がそんな大胆な行動を取れるのは、三条くんが自分のことを男の子だと勘違いしていると思っているから。


 でも、その勘違いは解決済みで、全て三条くんにバレている。


 ……つまり、詞は女の子だとバレているにも関わらず、積極的なアプローチを三条くんにし続けるってこと?


『男友達だから、意識しないよね?』みたいに余裕な態度を見せるけど、全て三条くんにバレているという状況。


 あれ? これ全然大丈夫じゃないのでは?


 ………………。


 よっし、何も気づかないことにしよう。


 私は少し考えてから、そんな結論を導き出す。


 うん。やっぱり、適当なことは言うもんじゃないよね!


 次から気をつけるよう! だから許してね、詞!


 私は本人に言ったら絶対に怒られると思ったので、しばらくの間は三条くんが詞を男の子だと思っている体でいることにしたのだった。



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