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第10話 買い出しと勘違いと


「きーくんって、何か食べたい料理とかある?」


「食べたい料理か……」


 俺たちは近くのスーパーに来て、カートを引きながらそんな会話をしていた。


 制服姿の女子と一緒にスーパーにいるという状況に少し照れながら、俺はふむと考える。


 女子の手料理を食べられるというのなら、ここは定番のオムライスか?


あの中央に♡が書いてある奴とか……いやいや、あれはメイド喫茶ならではのものか。


 それに、男友達の距離感でいたいはずの奴にそんなことを言われたら、このまま買い物を中断して詞に直帰されてしまうかもしれないな。


 俺は少し考えてから、ちらっと詞を見る。


「ちなみにだけど、詞のおすすめとかある?」


「おすすめかぁ……きーくんって、しばらくお野菜取ってないみたいだから、野菜を煮込む系とか?」


「煮込む系? あ、肉じゃがとかか?」


「肉じゃがもいいけど、あれってお野菜がニンジンと玉ねぎくらいなんだよね。あっ、白菜が安いね」


 詞はそう言うと、野菜売り場をじっと覗いていた。


 俺も詞に倣うように野菜売り場を見てはみるが、白菜が安いのかどうか分からずにいた。


「野菜の相場なんて知らんなぁ。詞って家でも結構料理するのか?」


「まぁ、料理をすること自体は好きだからね。普段はお母さんの代わりに料理してる感じかな」


 詞はそう言いながら野菜を見定めた後、こくんと頷いて白菜を一つ手に取る。


「特に食べたいものがないなら、トマト煮込みにしようか。それなら、お野菜も結構取れるしね」


「トマト煮込み?」


 俺が首を傾げると、詞は言葉を続ける。


「白菜とか玉ねぎ、シイタケとか鶏肉をトマト缶で煮込むの。どうかな?」


 俺は詞の言葉を聞いて、ほぅと言葉を漏らす。


 ……トマト煮込みって、ハンバーグ以外にもあるんだ。


 俺はそんなことを考えながら頷く。


「食べたことないし気になるな。それでお願いしてもいいか?」


「了解。それじゃあ、色々買わないとね」


 俺はカートを引いていく詞の後ろ姿を見ながら、今の俺たちがどう思われているのかなと不意に考える。


「……新婚さんみたいだな」


「っ!」


 俺がボソッとそう言うと、詞がカートをガンッと商品棚にぶつけた。


「つ、詞?」


 な、なんで急にハンドルを切ったみたいな感じになったんだ?


 俺がそう考えていると、詞は顔を赤らめながらこちらに振り向く。


 そして、余裕のありそうな表情を作ってから、口元を緩める。


「へ、へー、きーくんって私のことをお嫁さんだと思ってるのかなぁ? 私たち、男友達のはずなのになぁ」


 しかし、表情とは対照的にどこか上擦った声は、余裕の欠片もないようだった。


 俺はその言葉を聞いて、失言をしてしまったことに気づいた。


 そうだった、そうだった。


 詞とは男友達の距離感でいないとだったんだよな。今の発言はアウトだな。


というか、男友達の距離感とか関係なしに、今の発言は気持ち悪かったかもしれない。


 俺がなんとか誤魔化せないかと考えていると、俺の視線の先に若い大学生カップルがいるのを見つけた。


 これだ!


 俺はそう考えて大学生カップルを指さす。


「いやいや、あのカップルのことだよ。別に、俺たちのことを言っている訳じゃないって」


「え、あっ」


 詞は俺が指さした方を見てから、そんな言葉を漏らしてさらに顔を赤くさせる。


 それから、あわあわとしたから、むくれた様子で俺を見上げる。


「……ぐぬぬっ」


 な、なぜ不満げなんだ。


 俺は詞がむくれた理由を教えてもらうこともできず、しばらくの間耳の先を赤くしている詞と共に必要な食材を買うことになった。

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